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第93話 悪魔の儀式

〈ジャンヌ視点〉


 もしやと思った。セラフ様の予感が当たった。


 コイツらはセラフ様を捜索している。


 私はそうとわかると、この食料庫──その割には食料は少ない倉庫──にいる凡そ300人の兵士達を着ている防具もろとも切り刻んだ。


 肉や骨や臓物を刻み、欠片にする。その欠片を刻み塵にする。その塵を刻み埃にする。血も同様にして刻み、雫にしてから、霧にして、蒸気にする。


 そして、それらを私の入ってきた入り口まで風で運び、天に昇らせた。 


 奥に地下へと続く階段があり、女達がそちらへ向かって逃げていくのを見たが、いち早くセラフ様の元へとお戻りすべきである。


 食料庫から離れようとしたその時、慌ただしい声が風に乗って遠くから聞こえてきた。私は直ぐにここから退散して、その様子を遠くから窺う。


 武装した兵士達が、この食料庫を囲うように陣形を整えているのが見えた。


「もう我慢の限界だ!」

「俺達の街を取り戻すぞ!」

「やはりザッパ様は偉大だ!」

「アクセル隊長!何やら食料庫から赤黒い煙のようなものが立っているとのことです」


「煙?何をしてるんだ奴らは?いいかお前ら!?中には容疑者として幽閉された女性達がいる。彼女達の安全が第1だ。陣形が整い次第、この食料庫から出てくる兵士と、ここへ帰ってくる兵士を順次捕縛するぞ!!」


 私の抱いていた違和感がようやく解消された。セラフ様やヌーナン村の村民達からは、ここのバーミュラーの兵は非常に礼儀正しく、気高い者達であると聞いていたのだ。私も『黒い仔豚亭』で非番のバーミュラーの衛兵を接客したことがあったが、先程私が殺った兵士達とは人当たりが全く違っていた。


 つまりは、ここの兵達とセラフ様の捜索隊とでは全く別の組織であることがわかった。


 ──それに、アクセルという名を聞いたことがある……


 確か、ヌーナン村を救いにやって来た騎兵隊の隊長だ。


 そのアクセル隊長が率いる部隊が、今まさにあの粗暴な兵士達を捕らえようとしている。


 ──バーミュラーの封鎖も直に解けるか…… 


 しかし考えなくてはならないことがあった。


 ──何故、セラフ様がバーミュラーにいるとわかったのだ?


 考えられるのはヌーナン村に王弟派閥の密偵がいるということだ。


 ──村長か?それともハルモニアから来たと思っていたあの女が、ここへ訪れた際に報せたのか?いずれにしろ、このことはセラフ様に報告しなければ……


 だが、私はセラフ様のあの悲しげな表情を思い出した。


 ──私がこのことをセラフ様に報告してしまったら、セラフ様はきっと自分のせいでメイナー氏を傷付けてしまったと自責の念を抱く筈だ……


 いずれ、封鎖状態も解かれる。であるならばこのことをセラフ様に報告しなくても良いのではないか?


─────────────────────

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〈アクセル視点〉

 

 既に部隊長であるコーディーを捕縛した。後は凡そ500の兵士達──最早兵士と呼べる存在でもない、ただの賊だ──を捕らえる。


 食料庫の出入り口は1つだ。ここから出ていく兵士、帰ってくる兵士を捕らえる。


 現在食料庫にいる兵士達の数が凡そ300人程度だと聞いている。既にここへ戻ってきた兵士を50名程捕らえている。 


 ──しかしおかしい……


 もう夕暮れ時だ。中にいる筈の300人の兵士が外へ出てくる気配が全くないのだ。我々の作戦を見破っているのか?それとも、幽閉した女性に手をだしているのではないか……?


 嫌な予感が私にのし掛かってくる。ここで出てくるのを待ち続けるよりも、突入すべきなんじゃないのか?しかしそうした場合、その女性達を人質にされる危険性がある。


 どちらの方がより安全であるかを考えていると、食料庫の扉が開かれた。


 ──ようやく……


 中から出てくる者を十分引き付けて、捕らえるよう命令してある。食料庫にいる他の仲間に悟られない為だ。緊張感を顕にした我々だが中から出てきた者に驚く。


 それは幽閉されている筈の女性だった。


 私の部下がそれに気付き、陣形を崩して、女性の元に駆けつけようとしていた。


 私は思った。


 ──罠か!?


 しかし、続々と女性達が食料庫から出て来る為に、我々は女性の保護に徹する。我々をフースバル将軍の兵士と勘違いして、保護を拒絶する者も中にはいた。


 私は食料庫から逃げ出す女性達の流れに逆らって、食料庫へと入った。


 中に兵士の姿はない。食べかけの肉や食材はそのままに兵士だけが姿を消している。一処には赤ワインが水溜まりのようにして溢れていた。


「いや、これは血か……?」


 おびただしい程の血が食料庫の一ヶ所に溜まっている。この異様な光景は、まるで悪魔を召喚する儀式のようにも見えた。

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