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宿屋無双~転生して付与魔法に目覚めた僕は神の御使いとして崇められてしまう~  作者: 中島健一


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第92話 どうしようもない殺意

〈ジャンヌ視点〉


 セラフ様の作った醤油を、メイナー氏のレストランの床にぶちまけたと思われる兵士を殺した。


 そのような行いをした愚か者は万死に値する。


 ──セラフ様のあの悲しげな表情……


 思い出すだけでも、胸が締め付けられる想いがした。


 粛清を下したが、情報収集も怠ってはならない。


 尋問したが、アイツらは本当に何も知らされていないのがわかった。地面に激突する瞬間に吐いた情報──有力貴族──もアイツらの間で噂されていることに過ぎないのだろうと私は考えた。


 となれば、向かうは都市庁舎の食料庫だ。そこにいるというアイツらの部隊長に尋問を試みる。私はそこを目指し、向かった。食料庫と言われても具体的に何処にあるのかわからないが、都市庁舎へ行けばなんとかなるだろう。


 私はその道すがら思った。


 ──この騒ぎ……もしかしたら私のせいかもしれない……


 というのも、Aランク冒険者がこの小都市をケルベロスを使って捜索している際、私は失態を犯していた。セラフ様がケルベロスと戯れている時に、私は今まで感じたことのない嫉妬心に駆られたのだ。


 リュカ殿やオーマ殿の頭をセラフ様が撫でる様を見ても羨ましいとしか思わず、殺気を飛ばしたこと等ない。しかしケルベロスが頭を撫でられているのを見て、どうしようもない殺意が芽生えてしまったのだ。


 その殺意を恐らくだが、あのAランク冒険者にだけ看破されてしまった。


 ──あの大きな剣を背負った男……


 また、仮にさっきの奴等がセラフ様を捜索しているとなると、どうしてアイツ等はケルベロスと戯れるセラフ様を捕らえなかったのだろうか?いや、それも私が殺気を飛ばしたせいでケルベロスが言うことをきかずに悟られなかった可能性もある。アイツらはセラフ様の顔ではなく臭いしか知らないのではないか?ケルベロスの嗅覚を利用して捜索しているのがその証拠だ。


 セラフ様の匂いに改めて気付いた奴等がセラフ様を追ってメイナー氏のレストランに向かったとも考えられる。


 そしてそんなセラフ様は現在、メイナー氏のレストランの清掃を手伝っている。一度あのレストランを襲ったのであれば、暫くは安全だろうが、速やかに任務を遂行するにこしたことはない。


 私は急いで食料庫を目指した。


─────────────────────

─────────────────────

 

〈フースバル将軍から派兵された兵士ラック視点〉


 宿屋狩りは順調だった。徐々に捜索すべき区域が狭まり、残すところ後僅かだ。


 しかし俺達は空腹状態となった。仕事を一生懸命していると、つい飯を食うのを忘れちまう。


 俺達は都市庁舎の食料庫、つまりは俺達の拠点に戻り、飯を食う。


「おい、交代だ!」


 酒と食い物と汗の臭いが充満している。そして下にいる女達がまるで給仕のようにして俺達の仲間に飯や酒を運んでいた。


 ──なんと、楽園か?ここは……


「手ぇ出してねぇだろうな!?」


 俺と一緒に仕事をしていた仲間が食料庫にいる仲間に尋ねた。


「出してねぇよ!おかげで生殺しよぉ……」


 そう言って、女を女神像のようにして眺め始める仲間達。俺は言った。


「コーディー部隊長はどうした?こんなの見られたらタダじゃすまねぇぞ?」


「大丈夫だ。今ヴィスコンティ伯爵閣下と会議してる」


 俺は提案した。


「そうか、じゃあいっそのこと手ぇ出しても良いんじゃねぇか?」


 バレてもしらばっくれれば良い。証拠なんてない。それに俺は運が良いから絶対に大丈夫だ。


 俺の提案で、この食料庫の空気がこの夕暮れ時のように徐々に変化していくのがわかる。そして今まで給仕をしていた女達の表情が陰る。


 ──あぁ、良い!!その顔!!俺好みだ!!


 しかし次の瞬間、食料庫の扉が開いた。ここにいる全員が一斉に入り口を見た。


 傾き始めた陽の光が鋭角に差す。俺はそのまばゆい光に顔をしかめ、入り口を開けた者を見た。1人の線の細い人影しか判別ができなかった。


 目も慣れ、ここにやって来た訪問者の正体が判明した。


 絶世の美女である。


 長身で、凛々しい女、公爵家の令嬢と言われても疑うことはない。俺達凡そ250人は暫くその入り口に立った美女を見ることしかできなかった。


 しかしその隙に、女達は幽閉されている地下へと逃げ出した。


 それでも構わない。この新しくやってきた女の苦痛に歪んだ顔が見られればそれで良い。


 ──あぁ、俺はなんて運が良いんだ……


 女は言った。


「部隊長はいるか?」


 その声も凛々しい。すると、仲間の1人が美女の前に躍り出て言った。


「部隊長に取り次いでほしかったら、ちょっと俺達と付き合ってくれねぇか?」

 

「ハハハハハハ!!」

「そうだそうだ!!」

「付き合ってくれぇ!!」

「ワハハハハハハ!!」


 俺達は大笑いした。


 すると女は言った。


「わかった」


 その言葉に俺達は色めき立つ。


「おほっ♪︎」

「マジかぁ!?」

「この仕事やってきて良かったぁ」

「ヒュー♪︎」


 そして美女の前にいち早く躍り出た仲間が手を差しのべる。


 しかしその仲間は困惑の声を漏らした。


「お、おぉ~!!?」


 その仲間は空中を浮遊し始め、この食料庫の高い天井付近まで浮いた。


「ん?」

「なんだなんだ?」

「なんの余興だ?」

「風属性魔法か?」

「おもしれぇな!!そんなこともできんのか?」


 それぞれこれから何が起きるのか期待感を募らせる。女は言った。


「お前が部隊長では、ないことがわかった……」


 浮かされた仲間が天井付近より声を発した。


「なんだ?俺を浮かせて何してくれるんだ?」


 余裕を見せようとしてはいるが、不安そうにしているのがわかる。あの高さまで上げられてしまえばそうなるのも理解できる。


「今まで何回か尋問してきたが、お前らは血が出た方が言うことを聞いてくれる」


「は?」


 誰もが困惑した中、空中を浮かされた仲間の右足、左足、右腕、左腕が順番に切断された。


 四肢が切断される度に叫び声を上げ、そこから血が滝のように流れ、床に血溜まりを作った。


 女は冷静な口調で言った。


「その分、だいぶ痕跡を残してしまうのが難点だな……」

 

 女はそう言うと俺達に魔力を飛ばす。いや、これは殺気か?流石の俺達も、皆その場からピクリとも動けず、そして声すらも出せずにいた。ただ1人を除いて。


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 四肢を切断された仲間だけが、空中で叫び声を上げている。女は言った。


「黙れ……」


 女はそう言うと、浮遊させた仲間をとうとう細切れに刻んでしまった。


 そして再度問うた。


「部隊長はいるか?」


 俺の勘が言っていた。この女がいたからAランク冒険者のミルトンはここから去ったのだ。だが俺は運の良い男だ。だから一世一代の賭けにでる。


「俺が部隊長だ」


 仲間達は固唾を飲んで見守った。俺は女の前に立つ。女の美しい顔を見据えた。こんな状況でも、俺はこの女に惚れそうになっていた。


 女は尋ねる。


「お前達は誰を探している?」

 

 意外な問いかけであった。てっきりこの命令を下したのは部隊長である俺か、と問われると思っていたからだ。その時はヴィスコンティ伯爵か都市長のザッパの名前を出そうと思っていたが、予想が外れた。


 俺は答えた。


「…と、とある有力貴族を捕らえようと……」


「具体的に誰なのかを言え」


 んなもん知らねぇよ。そう言いたかったが、部隊長を名乗った手前、答えなくてはならない。何故なら部隊長がこの極秘任務の内容を知っているからだ。考えろ!この返答次第で俺の生き死にが決まる。


 ──そもそもこの作戦はどこかおかしい

 ──イナニス王妃やマシュ王女を捕らえたのにそれ以上の有力貴族など捕らえて何になると言うのだ?

 ──それ以上の有力者等インゴベル国王しかいない。

 ──インゴベル王は北西のロスベルグにいるし……

 ──だとすれば王弟側の裏切り者か?

 ──しかし、そんな奴をAランク冒険者を雇って探す必要なんて今はない……


 俺は考えた。


 考えて、考えて、考え抜いた先に光明を見出だす。


 ──も、もしかして!?


「答えられないようじゃ──」


 いつまでも黙っている俺に痺れを切らした女が何かを言おうとしたが、俺はそれを遮って言った。


「…お、王弟の隠し子を捜索している!!」


 食料庫に沈黙が広がった。女は黙り、仲間達は俺の大嘘がもたらす行く末を見守っていた。


 女の反応が薄いため俺は焦りながら言った。


「わ、わかるか?王弟ってのは新しく国王となったエイブル陛下のことだ。そ、その隠し子がこの小都市にいるらしいんだ!それが知れ渡ればエイブル陛下の弱みになる!そ、それにつけ込んで糾弾したり、反乱を企む者がその隠し子を担ぎ上げるかもしれねぇ!今後エイブル陛下の障害にな──」


 女は言う。


「わかった……」   


 女はこの食料庫を満たす程の禍々しい殺気?それとも魔力?を消した。俺達は安堵する。そうだ。この危機を脱したのだ。なんてったって俺は運が良い男だから。そして女は続けて言った。


「ならば、死ね」


「は?」


 疑問を呈した次の瞬間、床が抜け落ちたかのように俺は落下した。しかし直ぐに床に激突する。そして腰まわりに激しい痛みを感じた。俺は悟った。


 胴体を切断され──。


 そう思考したのも束の間、今度は視界に亀裂のようなモノが走り、目に激痛がもたらされた。しかしこの痛覚も、この思考も一瞬にして消し飛ぶ。


 俺はこの世から消えてなくなる感覚を覚えながら死んでいった。

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