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第9話 お仕置き

〈セラフ視点〉


「おやすみ、セラフ」


「おやすみアビー」


 僕はアビゲイルと別れて、母さんと手を繋ぎながら2階へと上がった。


 お仕置きの時間である。


 僕は母さんに手を引かれて、間借りさせて貰ってる部屋の前まで、ノープランで来てしまった。別にお仕置きは問題ないのだが──いや、やっぱり嫌だ──、それよりもリュカについてどう説明すべきか。僕はとうとうその答えを出せずにいた。


 自室を前にして僕が二の足を踏んでいるのがわかったのか、母さんは僕のことを見て言った。


「あの時は、お仕置きするって言ったけれど、お母さんもうセラフのこと許しているの」


「え?」


 僕がそう言うと母さんは答えた。


「アビーの為にリュカを探していたんでしょ?」


 皿洗いの時の僕達の会話を母さんは聞いていたのだ。


「うん……」


 僕はそう返事をした。


「だから安心して?今日は早く寝ましょう?」


 僕が罪悪感を抱いている隙に母さんが扉を開けてしまった。


「待っ──」


 僕は必死に止めようとすると、中から人の姿をしたリュカが飛び出してきて、僕を抱き締める。


「セラフ様~!!」


 これはほぼ突進攻撃だ。僕は突然の出来事により2階の柵に頭を打ち、リュカの豊満な胸に圧迫されながら、母さんの方を見た。母さんはにこやかに笑いかけながら言った。


「これは、どういうことかしら?」


 恐いです母上。


─────────────────────


─────────────────────


〈セラフ視点〉


 パン、パン、と露になった僕のお尻に母さんの平手打ちが炸裂する。


「リュカを探しに!行ってたと思ったら!こんな娘さんを!連れ込んで!どういう!つもり!?」


 !の箇所は叩かれたところを意味していた。僕は「違うんです!」と言って母さんの膝の上でじたばたしていた。


「何が違うの!?」


 僕は何をどう説明すれば良いか答えあぐねているとリュカがあたふたした声で言った。


「あ、あのマリー様!?」


 母さんはリュカを見た。


「どうして私の名前を?」 


「私がリュカなんです」


 母さんは驚きの声を上げていた。


「え!?」


 リュカはもう一度言った。


「リュカは私なんです。セラフ様が私を助けてくれたんです」


「どういうこと?」


 母さんの膝の上でうつ伏せにさせられている僕は言った。こうなりゃやけだ。


「だ、だからリュカが瀕死になっていたところを僕が付与魔法を使って助けたんだ!」


「それがどうして人間になるの!?」


 ──ですよねぇ…僕も知りたい……


 しかしそうこうしている内に母さんと僕の声を聞き付けたのかアビゲイルとローラさん、それにデイヴィッドさんまでもがこの部屋に入ってきた。


 お仕置きされている最中の情けない姿を晒した僕はなんとも言えない屈辱感を植え付けられる。


 新たにやって来た3人は僕と母さんとリュカを見て、何が起きているのか理解が追い付いていない。しかしアビゲイルだけがリュカを見て、言った。


「リュカ…リュカなの?」


 するとリュカは言った。


「アビゲイル様!!」


 リュカはアビゲイルの元へ走った。2人は涙を流しながら、抱き合う。


 それを見ていたローラさんが僕らに説明を求めてきたので、母さんが言った。


「セラフが、瀕死のリュカを付与魔法で治療したら、治って人間の姿になったって……そんなこと可能なんですか!?」


 ローラさんも元冒険者である、そのローラさんが長い赤毛をはためかせる程の速度で夫のデイヴィッドさんの方を見て意見を求める。デイヴィッドさんが言った。


「いや、そんな現象は聞いたことがねぇ……しかし、ほ、本当にリュカなのか?」


 デイヴィッドさんは、抱き合っているアビゲイル越しのリュカに尋ねる。リュカは言った。


「デイヴィッド様!いつも干し草を与えてくださってありがとうございます。ローラ様も、アビゲイル様と一緒に小屋のお掃除をしてくださってとても嬉しかったです!それにマリー様に身体をブラッシングして頂く時間がとても好きでした!皆様、リュカのお世話を懇切丁寧にして頂けてリュカはとても幸せでした!」


 デイヴィッド夫妻と母さんは自分達がしていたリュカの世話の内容を言い当てられて、驚いていた。


 母さんはまだ信じきれず、リュカに尋ねた。


「そ、それならどうしていなくなったりしたの?」


 リュカは答えた。


「それがモンスターに拐われてしまいまして……そんな時、魔の森までやって来て、助けてくれたのがセラフ様でございます!」


 リュカはえへんと胸を張って答えた。


「ま、まぁそれほどでも……」


 僕の誤解が溶け始めたがしかし、母さんが呟く。


「魔の森?」


 ヤバい、僕はそう思った。しかしもう遅かった。


「セラフ?貴方、魔の森まで1人で行ったの?」


「…ご、ごめんなさ──」


 パン、とまたお尻を叩かれた。


「1人で魔の森まで!行ってはいけないって!あれほど!言ったでしょ!!」


 僕がお尻を叩かれている間にリュカとデイヴィッド家族は部屋から退散して行く。


「あぁ!!待ってぇ~!!ご、ごめんなさい!許してくださいぃ~!!」 


─────────────────────


─────────────────────


 魔の森のとある大地に突き刺さる巨大な岩の麓にはエビルセンチピードと4体のホブゴブリンの死体が放置されていた。そこに降り立つは背中に蝙蝠の羽を生やした獅子、マンティコアの姿であった。討伐難易度はS+ランクである。


 マンティコアはホブゴブリンやエビルセンチピードの死体に群がろうとしていた木っ端なモンスターを、その強力な魔力によって追い払う。


 そしてなぜそのモンスター達が、ホブゴブリン達の死体を食していなかったのかその理由を理解した。


 それはこの場にひときわ異彩を放っていた人間の腕のせいであった。マンティコアは、その腕をちょんと触り、自分に対して害をもたらさないかどうかを確認した。


 これは只の人間の腕である。そう思ったマンティコアはそれにかじりつき、口に咥え、飲み込んだ。

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