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第89話 略奪行為

〈ケインズ商会代表ジョン・メイナー視点〉


 昨夜、旧友のファーディナンドとスミス、そこに私をいれた3人でこのレストランの2階にある執務室にて、今後の動きについて、話し合った。


 Aランク冒険者のミルトンとそのパーティーがバーミュラーより出ていった、その代わりに、宿屋にて衛兵達が無理矢理な捜査を行っているとの報告を聞いた。


 殿下とファーディナンドを宿屋からここへ移して正解だと悟ったと同時に、ここの都市長は何を考えているのかと疑いたくなった。


 ファーディナンド曰く、王弟派閥のヴィスコンティ伯爵による指示なのではないかとのことだった。それにしても看過はできない。男女の2人組を捕らえているとのことだが、衛兵達は具体的に誰を捕らえるのかわかっていないようだった。しかしそのせいで多くの人達が被害を受けている。


 この場に心優しいマシュ王女殿下がいなくて良かったと思った。たくさんの人が被害を受けていると聞けば、自らを差し出す覚悟を持たれたお方であるとファーディナンドから聞いている。流石はインゴベル陛下の娘であると思った。


 そして現在、早朝に起きた私とスミス、マシュ王女殿下とファーディナンドは執務室へと集まり、今後の動きについて昨夜話し合ったことを殿下に告げる。


 私は言った。


「ここを出て、我々の目的地であるヌーナン村に殿下とファーディナンドも連れて行こうかと考えております」


「ヌーナン村……?」


 殿下は口ずさむと、私は詳しく説明した。


「ファーディナンドとも昨夜話し合ったのですが、インゴベル国王陛下のいるロスベルグへ向かうよりも、帝国との国境付近にあるヌーナン村の方が安全ではないかと思った次第でございます」


「それはどうしてか尋ねても良い?」


「はい。Aランク冒険者のミルトンがここから立ち去ったのには、何か狙いがあるとしか思えません。一番考えられるのは、我々がこれを好機と先走り、バーミュラーを突破した際に待ち伏せをしている、といった狙いが考えられます」


「なるほど……」


「ことをいてインゴベル国王陛下のいるロスベルグへ向かうよりも、逆に最も向かわなそうな場所、それが帝国との国境に程近いヌーナン村、ということです」


「そこは危険ではないの?」


「確かに全くの0というわけではありません。しかし他の小都市や街には王弟派閥が潜んでいる可能性があります。それよりかは王弟派閥や逆に国王陛下派閥すらいない田舎村のヌーナン村の方が安全だと思うのです。また仮に、帝国が攻め込んできても容易に攻め落とされないよう、私がヌーナン村の強度を高めます。元々そのつもりで我々はヌーナン村へ行こうと思っていましたからね。それに最悪攻め落とされそうになった場合、近くにある魔の森に身を隠すこともできます」


「魔の森……それで、ここを出る目処は立っているの?」


「それは──」


 私が作戦を説明しようとしたその時、ここ『レ・バリック』の門戸を乱暴に叩く音が聞こえてきた。


 私達は、直ぐ様沈黙し、音のする1階に耳を澄ます。


 ──まさか……もうここがバレたのか?


 すると1階から店長であるウルスラさんの悲鳴が聞こえた。


「きゃっ!!!」


 私とスミスは、直ぐに1階へ向かおうと執務室の扉に手を掛けた。後ろを振り向き、2人に視線を向けると、マシュ殿下は緊張しながらも頷き、ファーディナンドは腰に差した長剣を確かめるように手で触りながら、私に目を合わせた。私は2人はここでじっとしていてほしいと目で伝え、スミスと共に1階へと下りる。


 1階にはたくさんの甲冑を着た兵士達が押し寄せていた。そして壁にもたれ掛かりながら尻餅をついている先程悲鳴をあげたと思われるウルスラさんの元へ近寄った。


 彼女は突き飛ばされただけのようであり、怪我はない。


 しかし私は甲冑を着た兵士達に向かって言った。


「何なのですか貴方達は!?」


 すると近くにいた兜を被り、口髭を生やした兵士が言った。


「ここの食料をいただきに来た」


「は?」


「バーミュラー封鎖に伴って食料が足りないんだ。だから協力しろ」


 マシュ殿下の捜索ではないことがわかったが、私は言った。


「ま、待ってください!協力は致します!ですからこんな略奪のような真似はしないで頂きたい!!」


「略奪だと?」


 口髭を生やした兵士は言った。


「お前らこそ民から金品を略奪して、ここまでのぜいらしてきたのではないのか!?」


「な、何を言っている……?」


「バロッサ人がシュマール人の金を巻き上げてんだろうが!?」


 ダメだ。話にならない。 


 しかし私との問答中に次々と食料庫から外へとたくさんの食料品が運ばれていた。


「やめてくれ!!」


 そう叫んだのは、シェフだった。シェフは肉の塊を抱えている兵士の腰に抱きつきながら懇願していた。そんなシェフを兵士は足蹴にして引き剥がす。


 シェフは床に尻餅をついた。そしてそんなシェフに向かって他の兵士達が詰めよった。


「お前、料理人だろ?その手が大事なんだろ?だったらちゃんと守った方が良いぞ?」


 そういってその兵士は足を高く持ち上げ、尻餅をつき、床についたシェフの手目掛けてその足を踏みつけた。


「やめなさい!!」


 私がそう叫ぶと、私の護衛でもあるスミスが踏み潰そうとしていた兵士の足を背中で受け止め、シェフの手を庇った。


 スミスなら兵士の足を蹴りあげることもできたが、ここで攻撃の意思を見せてしまうと面倒なことになる。


 シェフの手を踏みつけようとしていた兵士は「ちっ」と舌を鳴らして、食料庫へと向かった。


 まだまだ安堵できないが、一先ず胸を撫で下ろした。しかしそれも束の間、口髭を生やした兵士の後ろでセラフ君の醤油の瓶を持った兵士達が通っていくのが見えた。


 それを見た私は咄嗟に声を漏らしてしまった。


「そ、それは……」


 その言葉に反応した口髭を生やした兵士は後ろを振り向き、醤油の入った瓶に焦点を合わせる。そして醤油の入った瓶を持った兵士達を呼び止め、その瓶をひったくり、私に見せつけながら言った。


「これは大事なものなのか?」


「……」


 無言の私に兵士は嫌らしい笑顔を向けて、言った。


「上等なワインか?どれ試してみるか?」


 そう言って、蓋を開けてラッパを吹くようにして飲み始めた。しかしそれは醤油だ。兵士は直ぐに吐き出し、怒りを顕にする。


「ブフッ!!マッズ!!なんだこれは!?」


 そう言いながら、瓶を床に叩き割った。破片と醤油が絨毯に飛び散る。


「ハハハハハハ!!」

「ブハハハハハ!!」

「ガッハハハハ!!」


 下品な笑いがこのレストラン内に響き渡った。口髭を生やした兵士は怒りに身を任せるようにして醤油の入った他の瓶を持つ兵士からそれらをまたもや引ったくって「こんなモノ!!」と言いながら一瓶一瓶床に叩きつけて回った。


「貴様!俺を騙したな!?」


 そう言って私の腹部に蹴りを入れ、ようやく去っていった。


 怒りに身体を支配されているせいかその兵士の蹴りは全く痛くなかった。おそらくこの怒りが鎮まった頃に痛むのだろう。


 そして、兵士達と入れ替わるようにしてセラフ君とジャンヌ殿がやって来た。


 ──良かった……彼らを巻き込まなくて……

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