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第78話 内戦

〈マシュ王女の護衛ファーディナンド視点〉


 同期達と別れ、暫し馬を走らせると前方にあかりが灯っているのが見えた。


 ──追い付いたか!?


 しかし近付くに連れて、声がかすかに聞こえてくる。


 ──あれは…戦闘している!? 


 どうやらロスベルグへ向かう道中を待ち伏せされていたようだ。


 ──やはりあの情報は陛下達を捕らえる作戦の一環だったのか?ならばあそこへ加勢しに行くべきか!?

 

 しかし私の脳裏に過ったのは同期達の顔だった。


 ──私は約束したのだ…殿下を守ると……


 私は馬を止めた。


 ──あの戦場を迂回してロスベルグへ……

 ──いや、ダメだ。仮にあの戦場以外に兵を散らされていたら、私1人では殿下をお守りできない……そこを突破できる馬車でもない……


 荷台で眠っているマシュ殿下を見た。私は決断を下す。北西を目指していたが南西へと方向を変える。


 南西の森を抜け、元六将軍のロバート・ザッパ様のいる小都市バーミュラーへと向かおう。あそこは現在王弟派閥が幅を利かせているが、ザッパ様ならば必ずや力になって頂ける筈だ。


 ──それにあそこには……


─────────────────────

─────────────────────

 

〈シュマール王国国王インゴベル視点〉


 馬車を走らせ、目的地であるロスベルグまで後半分かという時に馬車が止まった。何と目の前に六将軍カイトスの兵が待ち伏せしていたとのことだ。


 カイトス軍の切り込み隊長でヌーヴェルという悪童が我らを阻んでいる。そして我が護衛は同じく六将軍のバルカの右腕であるサミュエルだ。


 ヌーヴェルとサミュエルはお互い馬上より剣を交え、実力は拮抗しているとの話を護衛達がしていたのを聞く。本当に剣を交えているのかと疑いたくなるような音が馬車の外から聞こえていた。


 我が護衛達とカイトスの兵達ではその数が違う。こちらの方が少数であることから劣性であると言える。


 この状況下で我が伴侶であるイナニスが背後から合流してしまった。護衛の数は増えたが、それでもカイトスの兵達よりも少ない。


 ──このままマシュを乗せた馬車まで合流してしまったら…… 


 護衛の数はエイブルに悟られぬように少数にしていた。マシュの護衛が来ても皆捕まるだけである。しかしカイトスの軍は多勢にして、ここまで誰にも悟られずに、待ち伏せできたかと言えばそうではなかろう。きっとアーデンが異変に気が付き、この地へ援軍が送られてくるだろうと思ったその時、


「ちっ!?取り囲まれた!!」


 外より不穏な声を聞き取った。


 私は馬車の窓より外の様子を窺った。サミュエルより決して覗いてはならないと念を押されたが、私はそれを破った。


 窓を開けると、ここは戦場のど真ん中だった。剣と剣がぶつかり合う音、血飛沫の舞う音に叫び声、大地を踏みしめる音等全てが鮮明に聞こえる。


 この馬車を中心に我が少数の軍は取り囲まれている。


 ──イナニスは?マシュは無事なのだろうか?


 包囲網の南東側に穴を空けんと、イナニスの護衛達が奮闘している。


 しかしその時、イナニスの護衛達の更なる背後から灯りが見える。


 ──マシュか!?


 だが、その灯りを照らしていたのは六将軍フースバルであるとの報告を受けた。


 ──終わった……

 ──ならばマシュはどこへ?

 ──フースバルに捕らえられたか!?

 ──どうかマシュだけは無事でいてほしい……

 ──おぉ、どうか女神セイバー、我が祖先にして太祖のギヴェオンよ!!我らを助けたまえ!!


 祈りの言葉を捧げ、宝剣であるエフライエムを手にして私は戦場に出た。


「陛下!?」

「なりません!」

「どうか馬車にお戻りください!」


 私は言った。


「私はギヴェオンの血を引き継ぎし者だ!そんな者が黙って馬車の中で隠れ、みすみす忠臣であるそなた達を死なせるなど決してあってはならない!!シュマールの我が子らよ、必ずやギヴェオンの加護がそなた達を祝福する!!共に戦うぞ!!」


「お、おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 初めこそ私の参戦で戸惑っていた護衛兵達だが、私の檄によって士気を高めた。


 するとここで新たな報告が入った。


「援軍です!北西よりアーデン様が援軍として参戦してきました!!」


 ──神よ……感謝申し上げまする…… 


 フースバルよりもアーデンの方が早くこの戦場に到着した。私を取り囲むカイトスの兵を蹂躙する。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

「いけぇぇぇぇぇ!!」

「陛下をお守りしろぉぉ!!」


 カイトスの兵はみるみる内に南東へ押しやられる。私の護衛についた兵とアーデンの兵がカイトスの兵を挟み撃ちにしたつもりだったが、カイトスの兵もまた、南東へと寄って、イナニスの兵とこれからやって来るフースバルの率いる兵とで挟撃を試みようとしていた。そしてカイトス軍の切り込み隊長ヌーヴェルによって、イナニスの護衛達が蹴散らされていく。


「ちっ!お前ら覚えとけよ!?俺とサミュエルとの一騎討ちを邪魔しやがって!?」


 これは援軍にやってきたアーデンの兵に言っているのか、それとも一騎討ちどころではないとサミュエルとの一騎討ちを止めに入った味方であるカイトスの兵に向かって言ったのか定かではない。しかしヌーヴェルが一騎討ちから離れ、南東へ向かった為にイナニスのいる方角に暗雲が立ち込めた。


 そして南東での戦闘音がしなくなった。


 嫌な予感がした。


 あれだけ激しい戦闘があったのに、今では南東の静寂がこの戦地全体に広がる。何故ならば、我が伴侶であるイナニスがフースバルの手によって捕らえられていたからだ。


 私は宝剣をしまい、星降る夜の大地に立つ。遅れてこの場にやってきたアーデンは跪き「遅れてしまい申し訳ありませぬ」と私に言った。私はアーデンを労い、漆黒の鎧に身を包んだフースバルとその横にいるカイトスの右腕であるヌーヴェルを見た。そしてその隣にいる松明の灯りによって照らされたイナニスと視線を合わせてから私は述べた。


「マシュはどうした?」


 フースバルは低くよく響く声で言った。


「存じませぬ。もしかしますとカイトスの兵が捕らえているやもしれません……」


 フースバルの隣にいるカイトス軍の切り込み隊長ヌーヴェルは肩をすくませた。


「イナニスを離すのだ」


「それはできませぬ」


 私はフースバルから視線をそらさず、近くにいるアーデンに小声で尋ねる。

 

「イナニスを無事に保護し、フースバルを破ることは可能か?」


 王である私に可能かどうか問われれば、無理であるにも拘わらず「可能だ」と言う者はたくさんいる。しかし私の父クラインの頃から使えているアーデンは何事も正直にモノを言う。


「カイトスの兵により此方も疲弊しております。ただしフースバルもまたここまで陛下を追うに当たって連戦であったと思われますが、イナニス王妃殿下の無事は確約できませぬ」


「わかった……」


 私はフースバルに言った。


「フースバルよ、私を捕らえるまで、イナニス及びマシュの命は保証するのだ」 


「…エイブル殿下は元よりそのおつもりでございまする……」


 私はイナニスに言った。


「イナニスよ。必ずやお前もマシュも私が救ってみせる」


 イナニスは強い眼差しで、頷き、フースバルに連れていかれる。私も背を向け、アーデン達と共にロスベルグへと向かった。


 内戦の始まりである。

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