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第77話 上下運動

〈セラフ視点〉


 本館と別館を繋ぐ通路、コの字型の縦のライン。その両側に部屋を造った。片側6部屋で合計12部屋。その2階も同じく12部屋、1階と2階合わせて24部屋を造った。


 僕とアビゲイルと母さんは1部屋、ジャンヌとリュカは一緒の部屋を使うこととなった。なので24部屋の内、4部屋を使用することとなる。


 デイヴィッドさんとローラさんは引き続き階段裏の小さい部屋を使用するとのことだ。この前みたいな襲撃がいつ来るかもわからない為、僕らは4部屋を使用するが、固まった方が良いとのことで、話がまとまり、2階の最も本館に近い201と202、207と208の部屋を使うこととなった。


 201にはアビゲイルを202が僕で、207が母さんで208がジャンヌとリュカの部屋だ。僕を1人で寝かすのは少し心配だとデイヴィッドさんとローラさんと母さんが言ったが、アビゲイルとジャンヌとリュカはそれについては何も言ってこなかった。


 僕は心配する大人達に向かって言った。


「大丈夫だって!僕も結構成長したんだから!」


 僕がいくらアピールしても難色を示す大人達だが、最終的には僕の意見を尊重してくれた。この日の会議を終え、僕らは自分の荷物等を新しい部屋へと移した。僕と母さんが使用していた部屋の清掃などは僕が明日から小都市バーミュラーへ出掛けてしまうので、母さんがしてくれるとのことだ。


 ありがとうございます。母上。


 2階へと上がると皆がそれぞれの部屋の前で手を振って、新しい自室へと入室する。僕は202号室に入った。


 何故202号室なのかと言うと、隣の201号室のアビゲイルを護衛しやすい位置だからだ。同じ理由で母さんを護衛しやすいようにリュカとジャンヌが207号室の隣の208号室に住む。201号室と207号室は一番端の部屋なので危険を及ぼそうとする宿泊客から離れることができる。


 僕は新しい部屋を眺めた。右側にベッドが2つに、左側には2脚の椅子とその間には丸テーブル。部屋の奥は窓が取り付けられていた。元々僕らの部屋としてではなく、客室として造られた部屋なので僕の202号室以外の部屋、201、207、208の部屋も同じ造りだ。


 僕はベッドにダイブする。


 ──1人部屋だ。


 今までずっと母さんと同じ部屋だったので、窮屈さを感じていたこともあったが、1人になったらなったで、この静けさが寂しかったりもする。


 僕はベッドに仰向けとなり、靴を脱いで、寝る支度を整える。


 ──明日からバーミュラーか……


 ぼんやりと明日のことを想像していると、ガチャリと扉が開き、リュカが部屋に入って来た。


「セラフ様ぁ~!!」


「リュ、リュカ!?部屋に入る時は──」


 僕は上半身を起こして、ノックをするようにとリュカに注意をしようとしたが、それを遮ってリュカが僕を抱き締めて、一緒にベッドに横になった。リュカが上で僕が下。


「一緒に寝ましょう!?」


 僕の下腹部にお尻をペタリとつけながらリュカが言った。


「い、いやリュカ?折角新しい部屋になったんだから──」


「嫌なんですか……?」


 リュカはわかりやすく俯いた。


 リュカさん、そんなに悲しい顔をしないでおくれよ。


「…いやじゃないけど……その──」


「じゃあ一緒に寝ましょう!?」


 再び僕に抱き付くリュカだがその時、またしてもガチャリと音をたてて、僕の部屋に入ってくる者が現れた。


「リュカ殿!?ズルいですよ!?1人で抜け駆けは!!」


 リュカは上半身を起こして、またも僕の下腹部に腰を下ろして、入ってきたジャンヌを見る。


「え~でもぉ、ジャンヌちゃんはセラフ様といつも一緒に寝てたでしょぉ?」

 

「一緒のお部屋では寝ておりましたが、一緒のベッドではまだ寝てません!」


 今後も寝る予定はないぞ!


「じゃあジャンヌちゃんも一緒に寝よぉ?」


 ジャンヌは「はい」と言って、僕とリュカが折り重なっているベッドに入った。僕の首の下に腕を回しながら、腕枕をして、ジャンヌは僕を横から包む。


「ちょっと!ジャン──」


 僕がジャンヌにツッコミをいれようとすると、僕に覆い被さるようにリュカが抱き付いてきた。


「おやすみなさ~い」


 どんな寝かただよ!!


 僕は2人から逃れようと踠くが、リュカさんとジャンヌさんのホールドによって怪しい上下運動しかできなかった。


 その時、またしてもガチャリと音が聞こえ、扉が開いた。3人目の来訪者はゆっくりと扉を開けながら声を出す。


「…あ、あのさ、セラフ……い、一緒に……こ、子供の時みたいに一緒に寝な──」


 アビゲイルが恥ずかしそうにしながら言葉を発している。その恥ずかしさからか僕の部屋で一体今、何が起きているのか見ていないのだ。


 そして台詞の結びの部分でとうとう部屋の、僕とジャンヌとリュカの絡み付くようなベッド上のバトルを目撃する。


 僕は直ぐに誤解を解こうとした。


「ち、違うんだアビー!!」


「セ、セラフの変態!!」


─────────────────────

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〈マシュ王女の護衛ファーディナンド視点〉


 数日前、それと今朝方、王弟派閥の情報が届いた。これは信憑性のある情報ではない。しかし昨今の状勢と暗殺事情などを鑑みると、無視することはできなかったと陛下は仰っていた。


 元々計画されていた王都脱出計画を前倒しして実行に移すこととなった。我が主であり師でもあるバルカ様とその兵、つまりは我が同胞達は王都に残り、王都から脱出したインゴベル国王陛下、イナニス王妃殿下と、このマシュ王女殿下を守る為に、王都とその周辺に潜伏していたのだ。


 マシュ王女殿下は今、私の馭する商人の所有するような馬車の中で眠っている。眠り薬を殿下の日課であるミルクに混入させ、ここまで運んできたのだ。本来なら陛下や王妃殿下と同じく王族の馬車に乗せるべきであったが、その馬車には横になれるような空間はない。仕方なくこの馬車に乗せ、荷台に毛布を敷いてそこにマシュ王女殿下を寝かせた。しかし、この馬車は幾らか敵の目を欺くのではないかと密かに期待している。


 今夜王弟が、反乱を実行する等と、まだ若い殿下に知らせてしまえば、どこかよそよそしい態度になってしまい、王弟側に我らがその情報を得ているのではないかと悟られてしまう為に、このような不本意な方法で脱出させてしまっている。


 私は周囲を見渡した。私の同期達が同じく護衛の為に並走している様子が窺えた。その更に後ろからはまだ誰も追ってきていない。


「どうしたファーディナンド?」


 同期のテオが声を掛けてきた。不安を口にしても良いものかと私は一瞬黙る。するとそれを悟ったのかテオは続けて口を開いた。


「大丈夫だ。同志もバルカ様も敵を撃退している筈だ!それに、もし敵が現れれば──」


 テオはそう言って周囲に視線を一通り向けてから言った。


「俺達がなんとかする!だからお前は殿下を守ることだけを考えろ!なぁ、お前ら!?」


「任せとけ!」

「俺達がお前を守ってやんよ!」

「心配すんな!」


 切迫した状況なのに、テオ達は普段の会話と変わらないような口調だった。そのお陰で私は幾分か緊張がとけた気がした。そしてテオ達と共に過ごした日々を思い出し、心強く思った。


 我々は少し先にいるインゴベル陛下の乗っている馬車とイナニス王妃殿下の乗っている馬車の後を追うようにして目的地へと走らせていた。陛下や殿下が揃う時を待ってしまえば、王弟の手の者によって一網打尽にされる恐れがあったからだ。


 目的地は王都より北西に位置した都市ロスベルグ。そこを起点に王都より北西にある小都市郡から兵を集め、インゴベル陛下と六将軍のアーデン様を筆頭に王都奪還を目論む。


 私とマシュ王女殿下は、今そこに向けて馬車を走らせているのだが、後ろより松明の灯りが見えたとの報告が届く。


 テオが言う。


「ちっ!もう追い付いて来やがったか!?」


 私も後ろを見た。マシュ殿下の眠る荷台でよく見えない。テオの言うには松明の光がどんどんと大きく、こちらに近づいて来ているらしい。


「はやい!?」

「はえぇな!?」


 こちらは馬車を引いているのだ。追い付かれるのも時間の問題である。


 そしてだんだんと後ろを追ってくる者が何者なのかわかってきたようだ。この夜の闇に溶け込むような漆黒の鎧を着込んだ者。松明の光によってその鎧が黒光りしているとのことだ。


「フースバル様か!?」


 テオは言った。


「なに!?」

「マジか!?」

「ヒュ~♪︎」


 六将軍の1人にして、王弟派閥に属する敵の大将の1人だ。


 ──どうする!?戦うか?


 私は辺りを見渡した。


 皆と目が合う。皆、何かを悟った表情をしていた。


「じゃあなファーディナンド」

「殿下を頼んだぜ?」

「お別れだ」

「今まで楽しかったよ」


 最後にテオが口を開く。


「後は頼んだ!」


 同志達の覚悟を目の当たりにした私は、殿下の護衛であるにも拘わらず、口ずさんでいた。


「俺も、戦う……」


 すると皆が笑った。


「お前って意外と寂しがり屋だよな?」

「気持ちだけ受け取っておくよ」

「あんがとよ!」


 テオが言った。


「それをしちゃいけねぇって、お前が一番わかってる筈だ!なんてったって規律に一番厳しいのはお前だからな!」


「そうそう!」

「俺らが訓練サボってる時に、お前が一番怒ってたの今でも覚えてるわ!」

「そんで罰則くらったら、同期の私が止められなかったからって言って、一緒に罰則を受けてくれたよな?」


 テオが締め括る。

 

「そんなお前だから、バルカ様はマシュ王女殿下の護衛を頼んだんだ。だからよぉ──」


 テオ達は一斉に馬を止めた。私はテオ達がどんどんと遠ざかっていくのを見つめる。


「あばよ!ファーディナンド!!」

「元気でな!」

「頑張れよ!!」


 私は叫んだ。


「皆ぁ!死ぬな!!生きて帰ってこい!!私はいつまでも待っているからな!!」


 私の声は闇夜に飲まれた。私は前を向き、殿下の眠る荷台に視線を一度向けてから、再び前へと向き直った。熱い涙が頬を伝う。その涙を拭うことはせずに、私は馬車を走らせた。


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〈セラフの母マリー視点〉


 1人で眠るのはいつぶりだろうか。


 セラフが生まれる前だから10年以上も前のことだ。


 奴隷としての毎日が思い出された。


 ヌーナン村に来てからとても幸せな日々を送ってきた。それが1人になると、何だかとても不安になる。今までが幸せだったせいで、これからどうなってしまうのかという恐怖が私に襲いかかる。明日朝起きれば、私の幸せが全て消えて失くなり、奴隷の生活に戻っているかもしれない。


 私は部屋を出てセラフにどうしても会いたい衝動にかられる。


 207号室の部屋を出て202号室の部屋へ向かおうとすると、隣のリュカとジャンヌが寝泊まりしている208号室で物音が聞こえた。


 すると中からジャンヌが出てきた。


「マリー様?お手洗いですか?」


 私は返答に困った。セラフに会いたいだなんて流石に子煩悩が過ぎる。


「え、えぇ、まあそんなところ」


 私はジャンヌに尋ねた。


「ジャンヌはどうしたの?」


 ジャンヌは言った。


「実は……」


 そう言って、208号室の扉を開けて、中を見せてくれた。


 中にはセラフとリュカとアビーがいて、既に3人仲良く同じベッドの中で寝ていた。


「リュカ殿が寝ながら毛布を独り占めしてしまうので、セラフ様のお部屋よりもう1枚毛布を取りに行くところでして……」


 私は、眠っている3人の姿を見て、微笑みジャンヌと別れた。  


 何だか、よく眠れそうだった。

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― 新着の感想 ―
アビーさんは出遅れた! と思っていた時期がありました。 そして、リュカさんは、毛布2枚とも独り占めする未来が見える(笑)
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