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第74話 営業許可

〈セラフ視点〉


 メイナーさん達との契約が決まった後、直ぐに食事処の営業が始まった。


 待ち構えていたかのように、続々とお客さんが入店してきた。メイナーさん達もこのままついでに夕食を取るかと思い、デイヴィッドさんがそう尋ねたが、自分達も食事処を経営している手前、混雑時の来店は迷惑となると言って遠慮し、断った。それと早速村長に武具店等の出店の許可をもらいに行くとのことだった。


 その際、メイナーさんは尋ねた。


「村長様がここを治めているのですか?」


 デイヴィッドさんは答える。


「実質村長が治めていると言っても良いんだが、実は領主様がまた別にいるんだ」


 そう、ここヌーナン村の領主様は現在村長の住んでいる邸宅にいたのだが、そこを譲って小都市バーミュラーに引っ越しているのだ。そして年に一度、この村に使いを寄越して税を持っていく。


「それならば今日、村長さんに営業の許可をとってから、明日領主様に挨拶をしにバーミュラーの街へ行かねばなりませんね」


 村長様と領主様に許可を取る、か。


「それ、僕も付いて行って良いですか?」


「それは、どちらに来るおつもりですか?」


 村長様と領主様、そのどちらに付いていきたいのか尋ねるメイナーさんに僕は答えた。


「両方!良いかな、デイヴィッドさん?」


 デイヴィッドさんは何か僕に考えがあるのだろうと、その意図を汲んでくれている。そう、帝国の者が僕らの気付かぬところで村長と接触していたかもしれない為、このケインズ商会の提案を却下する恐れがあるのだ。そうであるのか確認する為にも僕はメイナーさんに付いていく必要がある。それに、領主様の件も同様だ。


 僕と母さんのいるヌーナン村の領主様のところに父さんの派閥が何か、よろしくない働きかけをしているのではないかと思ってのことである。


 デイヴィッドさんは僕に言った。


「俺は良いと思うが、一応マリーさんにも許可を取っておいた方が良い」


「うん!」


 僕らの会話にメイナーさんが首を傾げる。


「マリーさん?」


「僕の母さんだよ!あそこで働いてる」


 僕はホールをしている母さんを指差した。メイナーさんとスミスさんが母さんに目を合わせた。


「あ、あれがセラフ君のお母様?」

「若すぎんだろ……」


 僕は母さんから取り敢えず、宿屋の営業を少し休んで村長のところにメイナーさん達と一緒に行く許可を取った。


 ──明日、バーミュラーへ行くことは今日の夜の家族会議で話そう……

  

 僕はメイナーさんとスミスさんを連れて村長の邸宅へ向かい、店を後にしようとすると、母さんが店先まで出てきて僕らに声をかけた。


「あの!」


 僕らは足を止めて母さんの方を振り向く。


 母さんはメイナーさん達に一礼をしてから言った。


「今後とも、どうか宜しくお願い致します」


 メイナーさんが応じる。


「こちらこそ、優秀なお子さんを持ってお母様もさぞ、ご安心でしょう?」


「え、えぇ、まぁ……」


 母さん!不安なのバレちゃうよ!!


 僕は言った。


「さ、さぁ早く村長様の所へ行きましょう!」


 僕らは村長の構える邸宅へと向かった。


「それにしてもセラフ君、綺麗なお母様ですね♪︎」


「そ、そうかな?怒ると物凄く恐いんだよ?」


「君のような聡い子がお母様を怒らせるとは想像もできませんね?」


「ん~、僕の付与魔法ってあるじゃないですか?あれを色々と試しているとそりゃ危険なことがたくさん起きてしまって……手が凍ったり、木を切り倒しちゃったり……」


「あぁ、なるほど……それは確かにお母様もご心配なさるでしょう……しかし!我々と一緒ならもう大丈夫です!これからたくさん親孝行していきましょう!」


「そう出来るように頑張ります!!」


 僕の父親についてはメイナーさんは訊いてこなかった。やはり、ケインズ商会と手を結べて良かったと僕は再認識する。


 そうこうしていると村長の家に着いた。


 僕は扉を叩いて、村長を呼び出す。


「村長様~!」


 ガチャリと扉が開き、中からは村長の息子さんが出てきた。


「やぁ、セラフ。何か用かい?」


 息子さんは僕に目を合わせたが、直ぐに背後にいるメイナーさんとスミスさんに視線を合わせて、口ずさむ。


「…こちらの方達は……」


 僕は答えた。


「彼等はお客さんで、ケインズ商会の──」


 ここまで言って、メイナーさんが僕の前へ出た。


「ケインズ商会のジョン・メイナーと申します。そしてこちらが共同経営者のアルカディア・スミスです」


 スミスさんは礼をした。綺麗な青髪が揺れる。その間にメイナーさんは大きな丸眼鏡を片手でかけ直した。


 村長の息子は商人として有名なメイナーさん達に臆する。


「ケ、ケインズ商会の方がどうしてこの村に……」


 メイナーさんがその経緯を説明しようと息を吸ったその瞬間、家の奥から村長のしわがれた声が聞こえた。


「どちら様じゃぁ!?」


 息子は慌てて背後を振り返り、説明する。すると奥にいる村長は顔も見せずに、入室の許可を出した。


 いつもなら村長自ら迎えに出てくるのだが、やはり僕らやこの村を売ろうとして、その延期された作戦がいつ実行されるのか、そしてその間に自分の罪が暴かれるのではないかとビクビクしているようだ。


 歳も歳だから、体調が優れないと言われればそれでおしまいだが、蟹の刺身を口にして以来、村長は僕の料理を食べているし、息子の不安に駆られた反応を見ている限り、村長だけでなく息子も相当消耗している。


 案内された居間にある背の低い長方形のテーブルに向かい合うようにして置いてある1人用の2つのソファ席にそれぞれメイナーさんとスミスさんが座り、対面に村長とその息子、僕はお誕生日席といえばわかるだろうか?そこに座る。


 村長の息子さんの奥さんがお茶を出してくれた。僕にはミルクを出してくれる。奥さんも目に隈ができている。ありがとうございます、と僕が返事をすると、村長が話を切り出した。


「して、何のようですかな?」


 メイナーさんは「はい」と返事をしてから話す。


「単刀直入に申し上げますと、このヌーナン村に我々ケインズ商会の武具店と鍛冶屋、道具屋の出店、それと『黒い仔豚亭』と共同でとあるソースを製造する施設建設の許可を頂きたく、こちらに訪問した次第でございます」


「なっ!?」

「え!?」


 村長と息子さんは驚いていた。確かに驚くには驚く。田舎村にはまたとない利益を上げるチャンスだ。しかし彼等の頭の中には、この村がより強固なものとなってしまう恐怖心のような焦りを抱いているに違いない。


 暫しの沈黙が続き、メイナーさんが流石にいぶかしげに2人を見つめ始めたその時、村長が訊ねる。


「ど、どうしてこの村に、そのようなことを?」


 メイナーさんは眼鏡のレンズの奥にある鋭い目付きを柔らかく歪ませて笑顔を作った。


「まずは、そうですね……ここは魔の森に近く、冒険者達が安心、安全でクエストが行えるようにお手伝いをしたいのです。冒険者達は武具の手入れや道具の仕入れを今までバーミュラーで行っていたと思われますが、クエスト中は何が起こるかわかりません。装備品やアイテムがなくなり、やむを得ず、クエストを断念してしまう冒険者達も少なくないと窺っております。そこで、こちらの村に我が商会の店を構えることができれば、ここへクエストにやって来る冒険者達のお手伝いができると思ったのです……そして、先の帝国の侵略にあたって防衛の為にも、この村をより強固にし、シュマール王国の防衛力強化にも当たりたいと存じます」


 メイナーさんは、僕らの意図にも同調してくれたことを村長達だけでなく、僕にも示してくれた。これを受けて村長の息子は言った。


「ケ、ケインズ商会はバロッサ王国発の商会とうかがっているのですが、それが何故他国であるシュマール王国の防衛力のご心配を?」


「…ご存知かと思われますがバロッサは帝国の侵略を受け、多大な被害を被りました」


 メイナーさんの言葉に村長と息子さんは頷く。僕はこのことが何のことなのかよくわかっていない。歴史上の帝国の侵略戦争についての話なのだろうとあたりをつける。


 メイナーさんは続けた。


「それからと言うもの、バロッサは経済発展を軸に再建しましたが、帝国の脅威は消えておりません。私個人の考えでは、帝国からの侵略をシュマール王国と共に防衛できればと存じます」


 この言葉を受けて村長の息子が再度訊ねる。


「わ、わかりました。それと何故この時期なのでしょうか?」


 時期?とメイナーさんは疑問を呈するが説明する。


「やはり、帝国の脅威と魔の森の活性化が危ぶまれていたことですね。たくさんの冒険者がこの村を訪れて調査や討伐がなされております。そして実際にここへ訪れて懸念点であった安全性も、村を囲うように高い防護壁が築かれていたことによって確保されたことも我々にとっては大きな利点でした」


 村長の息子が言った。


「し、しかしそれだけでは……」


「それと、このセラフ君のいる『黒い仔豚亭』で振る舞われる料理のファンになってしまいましてね」


 メイナーさんは後頭部をかきながら親しみやすさを醸し出す。


「それに主人のデイヴィッド・リーンバーンさんも元冒険者であり、現役の冒険者に宿と食事を提供し、冒険者達の力になれるよう貢献しております。また帝国が攻めてきた際にはこの村やたまたま居合わせた冒険者達の心の支えとなったことも聞き及んでおります。その姿勢に私は大変共感してしまったのです。村長様も召し上がりましたか?あそこのお料理を」


 村長は答える。


「……そ、そうじゃな、セラフのところの料理は本当に美味じゃったなぁ!お前も今度食べてみるとよいぞ!?」


 村長の息子は戸惑いながらも返事をする。


「ですので、冒険者達の為の……ヌーナン村の、ひいてはシュマール王国の為にもお店をいくつか出店し、セラフ君の宿屋のお手伝いもできたらと思い、それらの許可を頂きたいのですが?」


 ここまで言われて断ることなどできない。


「お、おぉ!勿論構いませんよ!?」


 あくまでも武器や防具の出店を印象付けさせ、本当の目的である醤油製造を表立たせていないのは、流石だと思った。武器や防具の売り上げよりも醤油の売り上げの方が圧倒的に高い筈である。醤油の利益をケインズ商会のレストランが担い、その利益を武器や防具店を経営する経費にすれば税金から逃れることもできる。


「何か書面で頂けると、こちらも行動がしやすいのですが、許可証などの発行をお願いできますか?」


「そ、そうじゃな!」


 村長は書斎から紙を取りに行くよう息子に言った。息子は本当に良いのかと言ったような顔つきで、しぶしぶ書斎に足を運ぶ。僕は出されたミルクを飲みながら息子の様子をずっと窺っていた。


 営業許可証と建築許可証を発行してもらい、メイナーさんは武具店、鍛冶屋、道具屋の3店舗と醤油製造の改修工事分として金貨15枚を村長に先渡しした。


「こ、こんなに頂いて良いのですか?」


「えぇ、今後とも宜しくお願いします」


 僕らは村長の家から出た。村長親子は終始そわそわしており、メイナーさんはそれについて言及する。


「…やはり、先の帝国の侵略戦争が大きな心労を与えているのですね……しかし、自分のおさめる村が発展することに恐怖を抱いているような印象も……」


 概ね当たっている。自分が捨てた村、本来だったら滅んでいた村、いつあの作戦が実行されるのかわからない緊張感と、その罪が明るみにでるのではないかという恐怖心が彼等を襲っている。


 僕からしたら村長達が村の発展を恐れて行動を起こすかもしれないし、このまま罪の意識と緊張に押し潰され、僕らの言うことを聞いてくれることになったって良い。寧ろ村長達は帝国とシュマール王国の敵になりかねない。僕らの立場にたって協力するのが最も益のあることなのではないか?


「さて、後はここの領主様に会うだけですね」


 万が一、ここの領主様──確か名前はケネス・オルマー様──に父さんの息がかかっていて、ケインズ商会の出店が断られた場合、村長に証言してもらい帝国兵達による侵略が行われていたことを明かしても良いかもしれない。またジャンヌが僕らの村を襲った暗殺者や国王派閥の有力貴族を暗殺した者達を捕らえて、国王派閥につきだしても良い。勿論、誰に明かし、誰につきだすかは慎重になる必要がある。


 今のところ有力なのは、小都市バーミュラーの都市長であるロバート・ザッパ様だ。


 小都市バーミュラーの都市長ロバート・ザッパは元六将軍という肩書きを持ち、インゴベル国王陛下の派閥に属しているというがしかし、アルベールさん達曰く、先の帝国の侵略戦争によって、父さんの派閥がバーミュラーで幅を利かせ、次期都市長は王弟派閥の誰かになるだろうとのことだ。つまりロバート・ザッパは落ち目である為、あまり期待ができないという。


 僕はメイナーさん達に訊いた。


「今日はこれからどうするおつもりですか?」 


「そうですねぇ、今日は具体的に村のどこへ何を建てるのかを考えてみようかと思います。その後、閉店間際ではありますが、セラフ君のところで夕食を頂ければと思います」

 

 僕は「わかりました」と返事をして営業中の宿屋へと戻る。

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