表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/105

第7話 言い訳

〈セラフ視点〉


 色々と状況が掴めてきた。


 リュカには僕の着ていた服とホブゴブリンが腰に巻いていた毛皮を着用させて、身体を検査した。下心はないと言っておく。


 このまま何もしなければリュカの魔力が尽きて死んでしまうのだが、それは僕ら人間と同じだ。魔力を供給するために、食べ物を食べて、吸収し、排出する。


 心配なのは僕の付与魔法の効果が切れた際、リュカの身体が崩壊してしまうのではないかと思われたが、リュカの身体を触ってわかった。もう既に付与魔法の効果が切れていた。


 ──つまり後は普通に生活すれば良いだけなのだが、それがどうしてこのような姿に?

 ──精神強化をさせたせいで生物として進化を遂げたのか?

 ──そしたらなぜ人間のような姿に進化する?


 リュカは人間の姿を確認するかのように腰を回して自分のお尻を見たり、腕をブラブラさせながら遊んでいる。


 僕は色々と考えていたが、とあることを思い出す。


「っ!?今、何時!?」


 リュカは「ホエッ?」と言って何のことだかわかっていない様子だ。僕は感覚強化を使って空気の流れと陽の傾き加減を知覚しようとしたが、まだ身体のふらつきを覚えるため、中断し、ルーベンスさんの羊を連れてこの魔の森から出ることを選択した。


 帰り道にモンスターは出現せず、深い魔の森から出ると日が暮れ始めているのが確認できた。


「まずいっ!!営業の時間だ!!」


 僕は急いで宿屋に向かった。


 ──いや、待て!?リュカについてはどう説明すれば良い?


 僕は考えたが、良いアイディアが思い浮かばない。結局何の案もないまま宿屋『黒い仔豚亭』に到着してしまった。


 ──…一旦リュカを僕と母さんが寝泊まりしている部屋へ案内しよう……


 2階の一番端の1室だ。既に営業時間となっている為、部屋には誰もいないことはわかっている。僕は身体強化を使って2階の窓まで飛び、窓枠にへばり着く。


 窓を開けて、部屋へ入るとリュカを呼んだ。


「ここまで来れる?」 


 リュカは嬉しそうに頷いて、跳躍し、部屋にいる僕に抱きついてきた。


「営業が終わったら、戻ってくるからそれまでここで待っててね」


「は~い♪︎」


 僕はリュカを部屋へ置いて、再び2階から飛び降りて外へ出た。


 羊を連れて、営業中の宿屋兼酒場の『黒い仔豚亭』の前を通り過ぎ、ルーベンスさん宅の門戸を叩いた。


「まだ飲みに行ってないよね……?」


 僕が祈るようにして扉を叩くと中からルーベンスさんが出てきた。そして僕の引いている羊を見て、ルーベンスさんは歓喜した。


「おおおおおおおぉ!!!セラフ!!見付けてくれたのかぁぁ!?」


 僕はコクりと頷いた。


 ルーベンスさんは跪きながら羊の身体をあれこれと触って、怪我などしていないか確かめた。


 僕は言う。


「あのー……」


「セラフ!本当にありがとう!!これはまさしくいなくなった俺の羊だ!!」


 僕を抱き締めるルーベンスさんに言った。僕は先程遮られた言葉を述べる。


「あのー…実はですね…もううちのお店が営業中でして……店の手伝いホッポリ出したことで母さんやアビゲイルやローラさんやデイヴィッドさんがきっと怒っていると思うんですよ……」


 ルーベンスさんは僕の言いたいことを理解してくれたのか協力すると言ってくれた。


 僕はルーベンスさんと救出した羊と一緒に、『黒い仔豚亭』の扉を叩く。


 いつも見慣れた扉の筈なのだが、なんだか緊張してしまう。


 ゆっくりとルーベンスさんが扉を開けると、ローラさんが出迎えた。


 いらっしゃいませ、と言いかけたローラさんはルーベンスさんを見て言った。


「あれルーベンスさん?いつもより早いですね」


 ルーベンスさんは言った。


「セラフのお陰で、ホラ、羊が戻って来たんですよ」 


「あら、良かったですねぇ……え?セラフのお陰って?」


 ルーベンスさんの後ろに隠れていた僕が顔を覗かせる。


「た、ただいま……」


「セラフ!?」


 ローラさんの叫ぶような声によって、宿屋から母さんが飛び出して来た。


 母さんは僕を強く抱き締めて、叱責する。


「こんな時間までどこ行ってたの!!?」


 ルーベンスさんが遮った。


「あんまり叱らねぇでやってください。俺がいけねぇんです。セラフに羊を探してくれって頼んじまったから……」


 僕は謝った。


「ご、ごめんなさい……」


「いけません!あとでお仕置きです!」


 ルーベンスさんが言った。


「そ、それはちょっと……」


「言い付けを守らなかったから当然です!」


 僕は母さんに腕を引かれて、宿屋に入っていった。僕は母さんに連れていかれながら後ろを振り返ってルーベンスさんに助けを乞うようにして見つめる。しかしルーベンスさんは両手を合わせて祈るようにして僕の後ろ姿を見送った。


 ──そ、そんなぁ~……


 そして『黒い仔豚亭』の扉が閉まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ