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第68話 暗殺者の暗殺

〈アルベール視点〉


 セツナの方は上手くいっただろうか。対して俺も他者のことをこれ以上心配している暇などない。


 夜も深い、寂れた区域にて俺は佇む。輝く星々が辺りを照らしていた。

 

 ──この寂れた景色にも、良い女が横にいれば綺麗な思い出になるんだがな……


 俺は相対しているギョロリとした大きな目玉に、黒目の小さい三白眼の持ち主を見た。八重歯のやたら尖った男である。背には木の幹のような大きな剣を背負っていた。


「こんな野郎はお呼びじゃねぇんだけどな?」


「暗殺者ギルドのアルベールだな?」


 何故だかコイツの声と喋り方は癇に触る。


「人に名前を訊くんなら、まず自分から名乗るべきなんじゃないのか?」


「貴様、俺様を知らんのか?」


「六将軍のカイトスのところの斬り込み隊長だろ?名前はなんつったっけ?」


「ヌーヴェルだ!!」


「そうそう、ヌーヴェルだった!」


「呼び捨てにするな!」


 ヌーヴェルは唾を飛ばしながら俺を叱責する。コイツの主人、カイトス将軍は王弟派閥に属している。俺にこのヌーヴェルが来たってことは、セツナのところにはザクセンかミルドレッド辺りが向かってる?ザクセンならば風属性魔法の使い手であるセツナに分があるが……


 俺は一旦自分の心配だけをすることにした。


 コイツは元野盗の荒くれ者だ。それを元魔法盗賊のカイトス将軍が引き抜き、今ではそこの切り込み隊長を張っている実力者だ。


 そんなヌーヴェルが俺のことを尾行し、ここまで来たとなると、ヌーナン村の出来事を相当知りたいようだな。それとも何かことを成す為にヌーヴェルという強者を使った?つまり、こんなことに時間をかけずに、早々と俺を捕らえに来たと見えなくもない。 


 ──探るか……


 俺は言った。


「そんなヌーヴェル様ともあろうお方がどうして、こんな雑用じみたことをするんだ?俺を捕らえるだけなら他の奴等にやらせれば良かっただろ?」


「カイトス様の命令なんだから仕方ねぇだろ!?」


 なるほどね。


「お前さ、なんで俺のことを捕まえるのか、その理由を聞かされてねぇだろ?」


「あん?そんなこと知ってどうする?それで飯が食えるのか?女を抱けんのか?」


「知ってた方がより旨い飯が食えて、良い女を抱けるぞ?」


「なにッ!?そうなのか!?」


 おっ?いけるか?


「そうだ。だから俺を何故捕らえるのか、カイトス将軍に訊いてから来いよ?それまでここで待っててやるから」


 ヌーヴェルは本気で悩み始めた。すると、俺達の交渉を邪魔する女が現れる。


「ウチの切り込み隊長をあまり虐めないでもらいたい」 


 カイトス将軍の率いる魔法隊隊長ミルドレッドが姿を現した。水色髪を腰まで伸ばした魔法詠唱者。髪の色と同じくして水色の瞳が俺を見る。


 ジャンヌの姉さん曰く、俺のことを尾行している奴が2人いると言っていた。これで確定したのはセツナの元に行ったのはザクセンだ。


 また、これも確定した。


 ──俺を捕らえるのに、時を急いている……


 俺は言った。


「お前ら何焦ってんだ?」


「ん?」

「……」


 2人の反応は対照的だった。俺はミルドレッドに言った。


「近い内に、何かするつもりだろ?」


「……」


「…例えば、国王の暗殺とか?」


 俺の言葉を切っ掛けに、ミルドレッドは言った。


「ヌーヴェル!」


「おう!」


 ヌーヴェルは掛け声と共に、俺との距離を詰め、背負った馬鹿デカイ剣を振り下ろす。


 ──早い!!?


 受け止めるなんてもっての他だ。てか俺を捕らえるような攻撃ではない。完全に殺しに来ている。


 ──いや、だからミルドレッドが俺を回復させるために来たのか!?


 俺は後ろに飛び退き間一髪でそれを躱し、着地する。そんな俺を追うように振り下ろされたヌーヴェルの剣の風圧が襲ってきた。俺は立っていられなくなるほどの風を受け、両腕を顔の前でクロスさせながら風を受け止め、持ちこたえる。するとその隙にヌーヴェルは俺に向かって走り寄り、二撃目を放つ。


 今度は馬鹿デカイ剣を振り上げた。俺は学習し、剣を避ける為に後ろには飛び退かず、剣とその後に発生する風の軌道から逃れるように横に飛び退いた。


 大技をかませば、その後に隙も生じる。それにあんな大剣を振り払っているのだ。横に飛び退いた俺は大剣を振り上げたままのヌーヴェルの側面を攻撃しようと、腰に差した長剣を抜いて、斬り払う。


 しかし、ヌーヴェルは振り上げた大剣を一気に振り下ろし、俺の払った長剣に合わせてきやがった。


 ──なんで、そんなに早く動けんだよ!?


 流石はカイトス将軍の斬り込み隊長。しかしここまで大暴れしているのだ。幾ら寂れた区域と言っても、誰かが俺達の戦いに気付く可能性は十分にある。それにこの深夜の静けさがまた、俺達の戦闘音を遠くへと運んでいくことだろう。


 このまま時間を稼げば勝機はある。


 しかしさっきまで観戦していたミルドレッドが言った。


「ヌーヴェル、時間がないわ。私も協力する」


「え~」


 不平を漏らすヌーヴェルを他所に俺は少し焦っていた。


 ──ヌーヴェル1人でやっとなのに、その上ミルドレッドも加わんかよ!?


 俺はミルドレッドが回復魔法の使い手であることしか知らない。攻撃の魔法も持っているのか?それともセラフのように付与魔法を使ってヌーヴェルを強化するつもりか?


 ミルドレッドは魔法を唱えた。


 俺を囲うようにして大地に水色の魔法陣が描かれる。俺は身構えた。いつでも姉さんから刻まれた魔刻印を発動できるように。


 魔法陣が輝きを増し、ピークに達したその時、その広範囲の魔法陣から凡そ100人もの武装した兵が出現した。


「しょ、召喚魔法か!?」


「ご名答、私と契約した者達ならば私の喚びかけ1つでどこへでも召喚できる」


 100人の兵士が俺を隙間なく囲った。


「さぁ、その者を捕らえなさい?」


 ミルドレッドが命令すると100人が一斉に俺に襲い掛かってきた。


 俺は姉さんから授かった魔刻印を発動させる。


「ヴェントゥスインパクト!!」

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