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第61話 調査

〈ハルモニア三大楽典ミカエラ・ブオナローテ視点〉


 一夜を魔の森で過ごし、微かに漏れ出る木漏れ光によって目を覚ました。私の造った外で見張りをしているゴーレムはまだ問題なく動いている。


 ──リディアからは何も接触がなかったということか……


 私は土属性魔法で作成した家から出て、昨日自分で造った3体のゴーレムの気に入らない所を直し、魔力を込め直す。


 ──一夜あけると、粗が目立って見えるものだ……


 狼型のゴーレムに股がり、魔の森最深部の入り口まで走った。昨日と同様、3体のゴーレムが私を最深部まで護衛と索敵をする。


 そしてとうとう、最深部の入り口が見えた。ここから明らかに大地と植物の質が違うのが窺えた。


 ──この最深部をリディアが縄張りにしている可能性は考えにくいが……


 ここから討伐難易度B+ランク、Aランクのモンスターがゴロゴロ出てくる。ここをリディアが縄張りにしているのなら、無闇に私に手を出して来ないのも納得はいく。何故なら、私1人でこの最深部を調査することはほぼほぼ不可能であるからだ。流石の私でも討伐難易度Aランクのモンスターを1人で倒すのは骨が折れる。だから、もしここを縄張りとしているのならば、初めから私に接触せずここで隠れてやり過ごすのがリディアにとっては最も都合が良いだろう。

 

 ──だが、私も手ぶらで帰るわけにはいかない……


 私は自身を中間部にとどめながら、3体のゴーレムを同時に最深部へと送った。ゴーレムの感覚を私は大地を通して共有できる。魔の森最深部の入り口を縄張りにしているモンスターで有名なのが討伐難易度B+のミノタウロスだ。私のゴーレムが3体束になればおそらく1体は倒せるだろうが、逃げに特化すればミノタウロス達ならば追い付くことはできない。


 しかし勢い良く最深部へと入った3体のゴーレムの内、1体のゴーレムが突如として破壊された。


「はっ!?」


 残る2体のゴーレムは立ち止まり、戦闘に備える。その時私の頭の中は思考で渦巻いた。


 ──あのゴーレムを一撃で!?

 ──流石のミノタウロスでも一撃で倒せるはずがない!

 ──それとも待ち伏せされたか!?

 ──昨日わざと目立つように振る舞ったのが仇となった?

 ──リディアによって弱点であるコアを狙われたか!?


 ゴーレムを倒した者が私を狙っている。


 そう思うと中間部であるこの場に緊張感が漂った。


 すると残る2体のゴーレムの内、1体がまたしても突如として砕け、地に還った。


「なっ!?」


 何が起きたのかわからない。


 ──もしかしたら精神支配!?


 私にそう思わせる精神支配をリディアが私にしているのではないのか。私は辺りを見回し、自分が精神支配にかかってるかどうかを確かめる為にも、内側から魔力をたぎらせる。


 しかし次の瞬間、最深部にいる最後のゴーレムが破壊された。恐怖に駆り立てられた私は急いでこの場から逃げ出した。その時、目眩ましとして土埃を魔法であげさせ、狼型のゴーレムに股がりながら72体の狼型のゴーレムとそれに股がる人形を造り上げ、私の股がるゴーレムと同じく方々へ全力疾走させた。土埃の舞う中、狼型のゴーレムに股がる本物の私を見分けるのは至難の業である。


 すると目眩ましに出した粗悪なゴーレム達が一瞬にしていなくなった。その方角は南側だった。


 ──南側に逃げなくて良かった……


 私は更なる狼型のゴーレムを造り、自分はゴーレムから降りて走って逃げ出す。逃走の先は魔の森の出口である西だ。


 目眩ましのゴーレムが1体、そしてまた1体と消えていく度に私の心臓は跳ね上がり、生きた心地がしない。


 それでも私は髪を振り乱しながら全速力で逃げ出す他なかった。


─────────────────────

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〈セラフ視点〉


 何が起きているのかわからなかった。昨夜の家族会議から一夜明け、僕とリュカとジャンヌは早朝、お姉さんのいる魔の森まで出掛け、監視していたのだが、お姉さんの意匠をこらしたゴーレムが魔の森最深部へと入った瞬間、破壊されたのだ。


 僕は感覚強化で、ジャンヌは風属性魔法を使って空気の乱れを感じ、リュカは土属性魔法で大地に伝わる振動でそれを感じる。


 もう1体、そしてまた最後の1体も破壊された。


 僕らは、直ぐに中間部と最深部の狭間から離れ、南側へ向かった。お姉さんと同じ方角へ逃げ出せば、蜂合う可能性があったし、お姉さんのゴーレムを壊した誰かが僕らを間違って襲うかもしれないからだ。


 しかしその時、お姉さんが土属性魔法を駆使してヴィルカシス型のゴーレムが大量に魔の森に放たれ、方々へと散るのがわかった。


 ─マズイ……


 僕らはそう悟る。


「ジャンヌ!?リュカ!?」


 僕が彼女達に指示を出そうとしたが、彼女達は既に魔法を放っている最中だった。空間を切り裂く風と棘のように鋭く隆起する大地の攻撃によって、僕らのいる方角に向かってくるお姉さんのヴィルカシス型のゴーレムを破壊する。もし破壊しなければ僕らの存在にお姉さんが気付いてしまう可能性があったからだ。勿論僕らは本物のお姉さんの位置や逃走ルートを把握している。不幸中の幸いなのは、リュカ達がゴーレムを破壊したのを、最深部にいる何者かにその罪を着せることができたことだ。


 僕らの方へと向かってくるゴーレムは何とか全て破壊できた。


 ──最深部にいるゴーレムを破壊した者は何者なのか……


 普通に考えればハルモニア三大楽典のリディア・クレイルである。しかし、そこそこ強そうなゴーレムを一撃で倒すとなると最深部にいる討伐難易度B+ランク以上の凶悪なモンスターである可能性もある。


 ──リディアがそのモンスターの精神支配に成功したのか?

 ──じゃあ何故、リディアは仲間であるお姉さんのゴーレムを破壊する?

 ─そもそもリディアじゃないし、お姉さんはハルモニア神聖国の者ではない?


 様々な思考が浮かんでは消えていった。ジャンヌも顎に手を当てて考え込んでいるように見える。


 ──リュカは……


 僕はリュカに視線を合わせると、リュカは言った。


「リュカねぇ、思うんです!」


 珍しくリュカさんが意見を言う。


「さっきの森の奥でゴーレム?さんを倒した人はきっとそのゴーレムさんとお友達になりたかったんじゃないのかなって!」


 なんて能天気なことを。


「リュカとジャンヌちゃんみたいにまだ力の加減が上手くできなくて、ゴーレムさん達を壊しちゃった?ていう風に感じましたぁ」


 リュカさんワールド全開である。しかし僕はリュカの意見を全面的に否定することができない。否定できる程の情報がないからだ。


「そ、そうだと良いね!」


 僕はリュカの頭を撫でて、意見してくれたことを感謝した。


 僕らは魔の森中間部からアーミーアンツの背にのって宿屋へと帰宅する。


 その途中、ジャンヌが言った。


「あれがリディアであってもなくても、利用できることには変わりがないと思います」


「確かにそうだけど、どっちにしても危険だよね?アーミーアンツに最深部の入り口周辺の警戒をしてもらおうかな」


 すると僕の乗っていたアーミーアンツを介して女王から了承の返事があった。


『承知いたしました』


 この日、僕らは宿屋へと戻り、いつも通り営業を始めた。ハルモニア神聖国から来たと思われるお姉さんは、部屋に籠り、この日はその部屋から出てくることはなかった。

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