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第60話 監視結果

〈セラフ視点〉


 今日は本来ならば、ハルモニア三大楽典であるリディア・クレイルの動向を探るために、魔の森最深部へと調査しに向かうつもりだった。全くと言って良いほど動きがなかった為、僕らからアクションを起こそうとしたのだ。


 しかし青みがかった黒髪の冒険者のお姉さんが土属性魔法で作ったゴーレムを駆使して魔の森を駆け巡っているとの報告がアーミーアンツよりなされた。魔の森の入り口付近から中間部にかけて駆け回っているとのことだ。報告では、数回お姉さんとエンカウントしたらしいが、戦闘にはならなかったようだ。アーミーアンツを相手取る面倒臭さを知っているのだろうと思ったが、他のモンスターとエンカウントをしても戦闘にはならなかったとのことだ。


 お姉さんの狙いが何なのかわからなかった僕らは魔の森の最深部へ行くのを中止した。これが魔の森の活性化が危ぶまれている時であれば、その調査にしに来た腕利きの冒険者であると理解できるのだが、調査結果がもう出ている今、お姉さんの目的は別にあるのだろうと思わざるを得ない。


 宿屋の営業も終わり、お客さんが部屋に戻った頃、お姉さんの監視をしていたジャンヌが帰ってきた。僕は家族達を呼んで、家族会議を開く。


 いつものカウンター席にリュカとジャンヌとローラさんと母さんが座り、厨房に椅子を持ち込んで、そこに僕とデイヴィッドさんとアビゲイルがそれぞれ座った。


 ジャンヌが報告する。


「あの女冒険者は、ハルモニア神聖国の者ではないでしょうか?」


 何の脈絡もなくそう言うジャンヌの言葉に僕は妙に納得した。他の皆は何故ジャンヌがその結論に至ったのか気になっているようだ。そんな僕らにジャンヌは続ける。


「アーミーアンツだけでなく他のモンスターとも接触した際も、戦闘を避けておりましたし、土属性魔法を駆使して魔の森中間部の約5分の2

程の領域を徘徊しておりました。これはハルモニア神聖国のリディア・クレイルが神聖国の思惑通りに働いているかどうかの調査をしているからなのではないのかと」


 それは少し楽観的な考えかもしれないと僕は思い、声を発した。


「ん~じゃあ、リディアが神聖国に嘘の報告をしてるってことなのかな?」


「おそらく……もうしくは、報告それ自体がなされていないかと思います。リディアによって精神支配されたモンスター達はアーミーアンツによって悉く無力化されておりますので、神聖国の期待に添う行動がなされていないと存じます」


 僕は結論部分を言葉にしてジャンヌの考えていることに理解を示しながら、皆にもわかってもらえるように説明する。


「つまり、上手くいっていないから神聖国に嘘の報告、ないしは報告そのものをしないで、リディアは行方を眩ませてるってことだよね?」


 ジャンヌは「はい」と返事をして、頷いた。デイヴィッドさんが言った。


「あの冒険者の格好をしている女は魔の森がリディアの報告通りなのか調査をしているってことか……それにしては、結構大胆に動いてねぇか?魔の森中間部の5分の2をたったの1日で徘徊してるって結構目立つと思うし、かなりの使い手だ」


 ジャンヌは返答する。


「あの女冒険者はリディアの接触を待っている、という可能性もあります」


 僕は唸るようにして言った。


「ん~確かに……」 


「それに昨日、帝国兵と思われる者達が、そそくさと帰って行ったのも、カウンター席に座っていたあの女がハルモニア神聖国の者であると悟ったからだと思うのです」


「それは僕もそう思う。だけどあのお姉さんの狙いがいまいちわからない。今は何してるの?」


「土属性魔法を駆使して、簡易的な部屋を作り、見張りのゴーレムを配置して就寝しております。おそらく明日は、魔の森の最深部を調査するかと思われます。狩りや採集をしている様子もなく、所持している食糧からして明日の夜にでもこの宿屋に戻るものと予測できます。そのために、魔の森で一夜を過ごしているのだと思います」


 するとローラさんが言った。


「もう随分前のことだけど、ハルモニア神聖国に土属性魔法を得意とする神童と呼ばれていた者がいた気がする……」


 ローラさんは冒険者時代、魔法詠唱者であった。そのローラさんからの情報で、あの冒険者のお姉さんがハルモニア神聖国の者である可能性がたいぶ高まった。


 僕は母さんとデイヴィッドさんに向けて言った。 


「明日、僕も営業を休んでジャンヌとリュカでそのお姉さんの監視をしてみようかと思うんだけど、良い?」


 僕は母さん達の反応を待たずに続けた。


「元々今日、魔の森最深部の調査をするつもりだったし、明日あのお姉さんが最深部に入るなら、今日よりも安全に最深部を調査できると思うんだよね」


 今日の調査の許可を得るために元々僕は母さんとローラさんとアビゲイルの説得をしていた。


 最深部は危険だが、リュカとジャンヌがいれば安心できるし、最深部にいると思われるリディア・クレイルが精神支配をしてきた場合、精神強化が使える僕がいないと太刀打ちができない可能性がある。その為、僕も一緒にジャンヌ達に付いていかなければならない旨を説明していたのだ。


「あのお姉さんがリディアや最深部のモンスターの標的になるなら、僕らは比較的楽に調査できる筈だよ?」


 アビゲイルが言った。


「で、でもそのお姉さんとリディアの2人が共謀してセラフ達を襲ってきたらどうするの?」


「その可能性は確かに捨てきれないけど、そうはならない可能性の方が高いから行きたいんだ。それにこれは昨日も言ったけど僕らの安全を確保するための行動でもある。危ないと思ったら直ぐに引き返すから、お願い!!」


 母さん達は「うん」や「わかった」とは言わずに頷くだけで僕の明日の行動に許可を出した。

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