第6話 柔らかい何か
〈セラフ視点〉
目が覚めた。まるで転生をした時のように自分の今の状況がわからなかった。温かくて柔らかい何かに包まれている。それに甘い匂いがする。
下半身を地面に横たわらせ、上半身はその何かに寄りかかっているようだ。僕は眠気を感じながら寝返りを打つように僕を背後から優しく包む何かを抱き締めながら再び眠りにつこうとしたその時、意識が鮮明となって思い出した。
「リュカは!?」
フワフワとした柔らかい何かが僕の両頬を挟んでいる。僕はそれを両手で掴みながら起き上がろうとした。しかし僕が掴んだナニカはとても柔らかく、掴もうとしても実体があるようでないようなそんな感触がした。そのせいで僕は膝立ちとならざるを得なかった。
そして僕が寄りかかっていたナニカの正体がわかった。
そのナニカは両目をぱっちりと開けた可愛らしい16歳くらいの茶髪の少女だった。その少女は僕が起き上がるとその大きな目を輝かせて僕を抱き締める。
僕は理解した。さっき僕の両頬を挟み、僕が掴んでいたモノの正体を。
──ぉ、お、おっぱい……
現在も抱き締められながら僕は少女の持つ巨大な乳房の谷間に挟まれる。今まで経験したことがない出来事に戸惑う僕だが、いつまでも熱に浮かされてはいけない。
──リュカはどうしたんだ!?てかこの人は誰なんだ!?冒険者?もしかしたら僕を助けてくれた人なのかもしれない。
いつまでも僕を離してくれない少女の肩を掴んで僕をホールドしてくる少女の胸が触ふれない位置まで顔を上げた。この時、僕は自分の腕が治っていることに気が付いた。
身長が僕よりも大きく、スタイルもとてもよかった。幼い顔立ちに大きな胸が不釣り合いに写る。
──ていうか、裸だ……
僕は少女の肩に手を起きながら周囲を見渡した。リュカの姿はないが、ルーベンスさんの羊がいる。どうやらホブゴブリンの手下のゴブリン達は羊を置いて逃げて行ったようだ。
それから僕は尋ねる。
「あの、この近くに茶色い毛の雌牛がいませんでしたか?」
少女は不思議そうに首を傾げる。そして声を発した。
「私ですよ?」
綺麗なソプラノの声だったが、今度はその返答に僕が首を傾げる。
「私?」
少女とは以前に何処かで会ったのだろうか。確かにどこかで見たことがある気がする。僕は思考を巡らせた。
──宿屋のお客さんかな?
少女はその大きな胸の上に細いスラッと伸びた手を置いて答える。
「はい、私です」
「な、何が、ですか?」
「私がその雌牛です。リュカです」
「……」
「……」
僕は混乱した。
「ど、どういこ──」
僕が混乱していると、僕の背後からモンスターの気配がした。
巨大なムカデのようなモンスターが木と木の間を泳ぐようにして現れた。
──コ、コイツはエビルセンチピード!?
デイヴィッドさんが森で出会ったら真っ先に逃げろと教えてくれた討伐難易度C+のモンスターだ。万全な僕でも勝てるのかどうかわからない。
──クソッ……魔力の回復がまだ追い付いていない……
エビルセンチピードは大蛇のように長いその身体を波打たせながら威嚇をしている。赤黒い表皮は重騎士の装甲のように硬く、並みの攻撃では傷一つつけることができないとデイヴィッドさんに教わっていた。しかしデイヴィッドさんの言っていた特徴と少し違う部分があった。それはその長い胴体に黒い縞模様が浮き上がっているところだ。
僕は一歩後ずさると、背後にいるリュカと名乗る少女が口を開いた。
「敵だぁ」
そのあっけらかんとした声に反応した僕は後ろを振り返る。しかしそこに少女の姿はなかった。どこに消えたのか不思議に思うとエビルセンチピードのいる方向から雷が落ちたかのような大きな音と震動がした。
僕は再びエビルセンチピードの方を向き直すと、そこにエビルセンチピードの頭部に拳を振り下ろし終えた少女と、その打撃によって頭部が潰れ、ピクピクと大量に付いている足を動かしながら生命がフェードアウトしていく様子のエビルセンチピードの姿があった。
「終わったー」
またもあっけらかんとした声を出す少女に僕は何だかリュカののんびりとした姿が頭に浮かんだ。
「ほ、本当にリュカなのか?」
「そうですよー。セラフ様♪︎」
セラフ様。聞き慣れない言葉に僕は戸惑う。
「せらふ?さま?」
「そうですよー。私を助けてくれただけでなく力も授けて頂きました」
僕は彼女の言うことを信じ始めた。そして安心と戸惑いのせいか足をふらつかせる。
するとリュカが駆け寄り、僕を支えてくれた。
「だ、大丈夫ですか!?」
僕を抱きかかえ、リュカの持つ巨大な胸が頬に当たる。僕は恥ずかしがりながら今の僕に起きたことを説明する。
「だ、大丈夫……ちょっとまだ魔力が戻ってないだけ……」
「じゃあまた飲んでください!」
また、飲む?僕は不思議に思った。するとリュカは僕の頬に当たっていた大きな胸をずらして、胸についている突起を僕の口元に向けた。
「ちょい!!!ちょいちょいちょい!!!」
僕はリュカから離れた。リュカは心配しながら口を開く。
「さっきみたいに飲んでください!!セラフ様!!」
「さっき……みたいに?」
僕は思い出した。気を失う寸前に誰かに支えられ、口に何かを咥えさせられ、そこから流し込まれる甘い牛乳のような味のした液体を飲んだことを。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉい!!!!」