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第48話 告白

〈セラフの父・王弟エイブル視点〉


 バーミュラーの都市庁舎の一室にて、此度の作戦が概ね成功したことが報告された。勿論、私に報告をするこの衛兵は私の計画など知る由もない。


「わかった。下がれ」


「ハッ!」


 そう言って報告した者は私を崇めるような視線を残してこの部屋から去っていった。


「もうよいぞ」


 私は部屋の奥で、姿を隠していた者に声をかけた。その者は仕切られた寝室から姿を現す。


「これじゃ、まるで男女の逢瀬おうせじゃない?」


 豊満な胸が露になりそうな際どい服を着た賢者ウィンストン・ヴォネティカットが冗談を言う。


「お前のことを勘違いされない為には致し方のないことだ」


 見た目は完全に女だが、元は男だったとウィンストンは言う。嘘か真かわからぬが、ウィンストン曰く、神より力を与えてもらったとのことだ。


 この話を聞くたびに私は、この世界が2つの王国と1つの帝国、1つの神聖国に分かれる前の国境なき古代に、6人の英雄と6人の蛮勇が神に力を与えられ、人々を導いた、通称十二英傑の存在を想起せざるを得ないが、妖艶な目付きで俺を眺めるウィンストンを見ると、どうもそれが嘘なのではないかと思えてくる。


 しかしそんなこと、今は関係ない。


 ウィンストンが私に力を貸してくれる。その事実だけが私を突き動かす。今回の計画を立案してくれただけでなく援助もしてくれた。なんでも、このままではシュマール王国は滅亡するとのことだ。


 跡継ぎ問題。


 ただ長男だからと言って、父上より国王に任命された無能のインゴベルに娘はいるが、息子はいない。その娘マシュと婚姻を結ぼうと貴族達は躍起となっている。


 このままでは純粋な王家の血が途切れてしまう。それはやはり滅亡に繋がる。


 息子もできた私が早急に国王とならねばならない。


 これからの動きは、バーリントン辺境伯の領地を私の直轄地としつつ、バーミュラーの都市長のインゴベル派のロバート・ザッパを引きずりおろし、私の手の者を次期都市長とする。現国王の軟弱な外交では3国と接するシュマール王国は滅亡に向かうと民達に印象づけねばならない。


 暫くはこれらのことに力を入れるとして、残るは……


 ──ヌーナン村……


 我が汚点のいる村が帝国や暗殺者ギルドの魔の手から逃れ、何故だか無事だった。計画は概ね成功していたが、完璧ではない。それは私の落とし子がヌーナン村という田舎村に生存したままでいるということだ。


 ──まあ良い……やり方ならいくらでもある……


─────────────────────


─────────────────────


〈セラフ視点〉


「エイブル・ルタ・ルディーボ・シュマールはセラフの父親だからです」


 皆は驚いた。当然僕も驚いた。自分の父さんが国王陛下の弟であることを僕は初めて知った。


「え!!?」

「は!?」

「うそ……」

「そ、そうか!?」

「?」


 母さんは立ち上がり、頭を下げる。


「今まで黙っていて申し訳ありませんでした!」


 母さんの謝罪は虚しく宿屋に響いた。何故今までそれを秘密にしていたのかと糾弾されることを恐れたのか、母さんは矢継ぎ早に口にする。


「私は元々奴隷でした……」


 皆が固唾を飲んで見守る。母さんは頭を上げて、僕に視線を合わせてから続けて声を発した。


 僕の生まれと、この村に流れ着いた経緯を説明した。


「現シュマール王国国王であるインゴベル国王陛下、そして弟のエイブルに息子ができないことの焦りから、エイブルは奴隷であった私を犯しました。それできた子がセラフです……しかし、そのちょうど同時期にエイブルの正妻が妊娠していたことが発覚し、セラフが生まれる直前に男の子が誕生しました」


「それでセラフが邪魔になったと?」


「はい。それにセラフには四大属性魔法の才がないと教会より言い渡されました……私とセラフは領地から逃亡し、そして今に至ります。現シュマール王国国王陛下に男児はおらず、国王が崩御した際に、その後を継ぐのはエイブルかその息子であるハロルド、或いは……」


 デイヴィッドさんが言った。


「セラフか……?」


 デイヴィッドさんが後を引き継ぐ。


「正妻サラの妊娠とセラフの誕生が重なったわけか……しかしよく殺されなかったな……」


 ローラさんが今の発言にキッと糾弾の視線をデイヴィッドさんに送った。母さんは言う。


「エイブルは私とセラフに自由を与えると言っておりましたが、私達を暗殺しようとしていたのはわかっておりました。同じ奴隷仲間や給仕達がセラフと私をエイブルや暗殺者に悟られぬよう逃がしてくれたのです」


 アルベールさんが両手を後頭部に回しながら口にする。


「なるほどな。バーリントン辺境伯をハメて、自分の地位と名声を磐石なモノにするだけでなく、自分の落とし子をも暗殺するつもりだったってわけか」


 セツナさんが割って入った。


「ちょっとアンタ!少しは空気を読みな!?」


 セツナさんは横目で僕を気遣う。「ヤベッ」とアルベールさんは口ずさんだ。過去に僕を殺そうとした相手に気遣われるのがなんだかおかしかった。また、セツナさんとアルベールさんだけではなくデイヴィッドさんやローラさん、アビゲイル、ジャンヌとリュカも僕を心配そうに見つめていた。


 僕は言った。


「皆、気にしないで!ちょっと色々ありすぎて戸惑っているだけだから!!」


 母さんは僕に謝った。


「ごめんね…セラフ。今まで黙っていて……」


「母さんが謝ることないよ。それに僕は今とても幸せなんだ。皆が居てくれるから……」


 父親に殺されそうになった経験なんて、そうそうないと思う。いや、しかし前世の記憶で僕は精神的に何度も殺されそうになっていたことを思い出していた。


 母さんは続ける。


「私達のせいで皆様に危険が及んでしまい、本当に申し訳ありませんでした!今すぐにここから出て行き──」


 ローラさんが母さんを遮った。


「いや、あんた達のせいじゃないよ。言い方は悪いがあんた達はついでだったんだ。だから悪くない」


 ローラさんの言葉が嬉しかった。母さんは涙を流して感謝していた。


 デイヴィッドさんがこの場を仕切る。


「さて、そのセラフの暗殺が失敗した今、どのようにして王弟エイブルが動くのか俺達は考えなきゃなんねぇな……」


 ジャンヌが引き継ぐ。


「そこでアルベールとセツナがこの件で役に立つということを言おうとしていたのです」


 そうだった。色々と脱線していたが、アルベールさんとセツナさんが僕らに従うことのメリットについてジャンヌは説明しようとしていたのだ。


「今回のヌーナン村の襲撃と帝国の襲来は、王弟エイブルによる策謀だとわかりました。奴は自分の策略が概ね上手くいったことに満足するでしょうが、ヌーナン村の件はどこか引っ掛かりを覚えている筈で──」


 ジャンヌは途中で言葉を途切らせ、僕にむかって謝罪した。


「も、申し訳ありません!!」


「え、何が?」


「いくら今後の敵となる者でもセラフ様のお父上に対して敬称をつけず、奴などと言ってしまっ──」


「別に良いよ?生まれた時に僕のことをゴミとか言ってたし、母さんを苦しめた奴だから。僕は何とも思ってない。寧ろ、皆を危ない目に合わせた父さんを憎らしく思うよ」


 ジャンヌが僕を気遣うように、僕は今度は母さんに気遣うように視線を合わせた。母さんは僕の気遣いに頷き、僕はジャンヌに先を促す。ジャンヌは口を開いた。


「…エイブルはこの村で何が起きていたのか、きっと調べる筈です。まずはアルベールやセツナの行方を探すことでしょう。それにこの2人はバーリントン辺境伯と面識のある暗殺者です」


 デイヴィッドさんが納得しながら口にする。


「そうか、アルベール達が辺境伯の自殺に違和感を覚える可能性が少しでもある。それに最初の襲撃の実行者だもんな。何故襲撃が失敗したのか、その理由を知りたがる筈……」


 ジャンヌは「はい」と言いながら頷く。


「この2人を囮にして、接触してきた者を捕える」


 僕はこの作戦に口を出した。


「それってアルベールさんもセツナさんも結構危険じゃない?」


 アルベールさんとセツナさんは僕に視線を合わせる。アルベールさんが口を開いた。


「囮っていうから良くない印象を抱いたんだろ?結局よぉ、俺達はここをお咎め無しに出られても狙われる運命なんだぜ?そこを姉さんが賊を捕まえてくれるっつうなら俺達は安全を保証されたもんだ」


 ジャンヌの強さに対してえらく信頼があるようだ。


「俺達のことは信用できないなら、利害関係で考えてくれねぇか?一度失いかけた命だ。どうせなら自分の惚れ込んだ奴等の為に動きてぇ」


 普段おちゃらけた表情を浮かべることが多いアルベールさんが真剣な眼差しをデイヴィッドさんに向ける。


 しかし僕は言った。


「やっぱり危険だと思うな……」


「だからよぉ──」


「違うよ。僕が言いたいのは、敵を僕の父さんに絞りすぎてるところが危険だって言いたいんだよ」


「どういうことだ?」


「僕らは父さんだけじゃなくて帝国からも神聖国からも狙われてるってこと」

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