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第45話 全員殺せ

〈帝国四騎士トーマス・ウェイド視点〉


 朝方より、何やらバーミュラー方面が騒がしかった。


 ──始まったか……


 そう思い、野営テントより外へと出た。すると夜襲を警戒していた兵より報告があった。


「バーミュラーの西方面より、王国の援軍が現れたとのことですが──」


 ──バーリントン辺境伯のことか……


「その援軍に向かってバーミュラーにいる兵達が矢を放ったとのことです!」


「なにぃっ!?」


「そしてその矢を放たれた援軍は西門から南門方面へと向かい、我らの前で野営をしていた王国兵に攻撃を仕掛けております!!」


 私以外の帝国兵達は、バーリントン辺境伯の裏切りを知らない。だから王国軍の混乱を今が好機として捉えている。


 しかし、計画であるバーミュラーを内側から侵略することが、どういう訳か叶わなくなった今、元々の目的を達することなど不可能に思えた。


 ──ヌーナン村での不可解な出来事……

 ──王国左翼にいた兜を被ったあの魔法兵……

 ──そしてバーリントン辺境伯の裏切りが露呈し、攻撃を受けたバーリントンの兵が我が帝国軍と挟み撃ちを仕掛けようとしている……


 何やら思いがけないことがたくさん起きていた。これは戦争での不規則な出来事とはまた少し違う。我々の作戦を知る何者かによって阻まれている感覚がしてならない。


 このまま攻め入ってもバーミュラーの外で野営をしているあの軍は倒せても、バーミュラーを取ることなどできない。それに退却する際に王国兵に背を討たれる危険性もある。


「退却するぞ」


「え?」


「全軍退却だ!!」


─────────────────────


─────────────────────


〈小都市バーミュラー都市長ロバート・ザッパ視点〉


 外に陣取り、野営をしていた歩兵隊にバーリントン辺境伯の軍が襲い掛かろうとしている。そして王弟エイブル殿下の兵がバーミュラーの西門と南門から、バーリントン辺境伯の軍に襲い掛かる為に出撃した。


「更にそこを帝国に攻め込まれたら戦場は混沌と化しますな……」


「いや、それない」


 エイブル殿下がそう言うと、伝令係が報せてきた。


「帝国軍が全軍、退却しているとのことです!」


 勝ち戦に興奮気味の伝令係に私は問い質してしまった。


「何故退いていく!?」


 嬉しいことなのだが、それに私は納得できていなかった。伝令係は呆気に取られているように見えた。


「わからぬのも無理はない」


 エイブル殿下はバーリントン辺境伯と帝国が何故手を結んだのか、その経緯を説明してくれた。


「そもそもバーリントンが王国を裏切ったのは、自分達の領地を取り戻すことにあったのだ。そして帝国はそんなバーリントンに協力し、バーミュラーの奪還を手伝った。ここを帝国領として認めることを条件にな」


「何故そのようなことをバーリントン卿はよしとしたのですか?」


「どこの領地となろうとも関係はない。そこが自分の領地であることが重要なのだ。奴等にとってここは聖地と同じ」


「そ、そうでありますか……」


「だからこのバーミュラーが落ちることはないと悟った帝国軍は早々に退却したというわけだ。敵ながら良き判断だと思うぞ?」


 私は今一度、バーミュラーを囲う高い壁の上より戦場の方角を眺める。すると、新たな伝令係の報告が届いた。


「野営をしていた歩兵隊にバーリントン辺境伯の兵が攻撃を仕掛け、統率がバラバラとなっておりましたが、エイブル殿下の兵がその戦場に到着し、バーリントン辺境伯の兵を駆逐しております!」


 私の周りにいた衛兵や先にやってきた伝令係が安堵と称賛の混ざった声を漏らす。


「バーリントン卿の軍の大将、長男であるグレッグは何としても捕らえ──」


 捕らえろ。そう言おうとしたが、エイブル殿下にそれを遮られた。


「捕らえるに固執しなくてもよい。現場の判断に任せる」


「し、しかし此度の謀反に対する処罰をインゴベル陛下の名の下に確実に実行しなければ──」


 その時、大将のグレッグが戦死し、バーリントン卿の兵は投降したとの報告がなされた。


「そうであるか……投降した兵を捕らえ──」


 またしてもエイブル殿下に遮られる。


「全員殺せ」


 私はその言葉に驚愕した。


「なッ!?」


 伝令係や衛兵達も困惑している。


「はい?」

「え……」


 私は反論する。


「な、何もそこまですることは──」


「当然ある。これは国家反逆罪だ」


「し、しかしそのような証拠を立証する為にも生かしておいた方が……」


「生かした後、裁くのには時間がかかる。その間の食料や看守、罪の刑量を定めるための高官達の費用を、今まさに侵略され、殺されそうになった相手にかける必要などない。お前達の家族もこのバーミュラーにいるのだろう?」


 エイブル殿下はそう言って、衛兵や伝令係を見やり、続ける。


「私がこなければ、お前らやその家族も奴等の手によって殺されていたのかもしれぬのだぞ?にも拘わらず、お前達は奴等に恩情を与え、自分達の給金の一部を差し出し、生き永らえさせるつもりか?」


 この場にいる私以外の者達は、皆エイブル殿下の言う言葉に納得し始めた。そしてエイブル殿下は私を見て口を開く。


「心配は無用だ。此度の謀反における証拠の書簡も持っている。それに今頃、我が軍がバーリントンの屋敷へと赴き、奴を捕縛していることだ。本人に訊くのが最も効率的でよい」


 すると我々の元へ新たな報告がなされた。


「バーリントン辺境伯が服毒自殺をはかり、死亡したとのことです!!」


「なんだって!?」


 このバーリントン辺境伯の裏切りと帝国軍の侵略は、最も釈然としない形で幕を閉じた。

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