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第43話 執務室

〈ジャンヌ視点〉


 アルベール達の案内により執務室の前に到着した。ここには何故か護衛はいなかった。


 ──あの凶悪な魔力を発していた者が護衛なのか?


 扉の外から寝室を調べた時と同様に風属性魔法や魔力探知を使って中の様子を調べた。


 中から生命体ならば必ず宿している筈の魔力反応がない。魔力探知から逃れることは強者ならばできることだ。しかし心臓の鼓動や血管を巡る血の音等を隠蔽することはできない。中から人間の生命活動音はしなかった。代わりに執務室からはポタポタと液体が滴り落ちるような音が聞こえる。


「?」


 この音はなんだ?


 嫌な予感がした。上手く言葉にできないが、良くないことがこの扉の向こうで起きている気がする。私はアルベールとセツナに順番に視線を合わせて、勢いよく扉を蹴破り執務室の中へ入室した。


 執務室の中へ入ると、目の前の光景に私は舌打ちをアルベールとセツナは困惑した。


「ちっ……」

「は?」

「え?」


 大きな木製の作業机を前にして、バーリントン辺境伯とおもしき人物が椅子にもたれ掛かったまま口から血を流して、死んでいたのだ。


 ポタポタと液体が滴り落ちる音とは、口から流れた血が床に打ち付ける音だった。


「間違いない。これは辺境伯本人だ」


「じゃあ何で死んでいるの?」


 アルベールとセツナは私の訊きたいことをそれぞれ言葉にしてくれた。


 仲間割れか?それとも長男のグレッグとやらに殺られたのか?いずれにしろ我々の知らない陰謀が渦巻いているのがわかる。


 私はバーリントン辺境伯に近寄り、死体をよく観察した。


「死体はまだ温かく、死因はこの溢れたワインが原因だ。お店で出しているワインよりも年代は古いが違う香りが混ざっている」


 セツナは尋ねる。


「違う香り?」


「おそらく毒物だ」


 私とセツナのやり取りをアルベールが遮った。


「早くここからずらかった方が良さそうですよ?」


 セツナが答えた。


「そうね。私達が辺境伯を殺害したと疑われてしまうわ」


 我々は屋敷から離れた。


 そして私は結論付ける。バーリントン辺境伯を殺害したのはあの禍々しい魔力を発していた者の仕業だ。


 ──その者は、万が一が起きないよう暗殺が完遂するまで魔力探知を屋敷全体に張り巡らしていた。任務が終わると魔力を切って、屋敷から離れる……


 屋敷から距離をとった我々は、次の行動を考えた。


「姉さん、どうします?」


 私は答える。


「我々の目的に予期せぬ第3勢力が現れた…その第3勢力の目的がわからぬ内に、焦って自分達の目的を達成させようと動いても完璧な成功はおさめられない。幸い向こうは我々の存在をまだ知らないだろう……」


 セツナが同意した。


「確かにそうですね。下手に動くと私達のことをその勢力に知られる恐れが……」


 アルベールがセツナに尋ねる


「じゃあどうしたら?」


「ちょっとは自分で考えなさいよ!?」


 2人のやり取りを無視して私は言った。


「今から私1人でバーミュラーへと向かい、その勢力がどう動くか観察してみるとしよう」


「お、俺たちも──」

「行きます!」


「ダメだ。ここからバーミュラーへ、お前らを連れていくには、それ相応の魔力が消費される。最悪その勢力と戦闘になるかもしれん。だからなるべく魔力を温存したいのだ」


「し、しかし……」

「それでも……」


 反論しようとするアルベールとセツナに私は言った。


「お前らは十分に役に立った。セラフ様の命令がなければお前らを殺そうなどとはもう思わない。我々の情報を吐かなければお前らは自由に生きられる。だからここでお別れだ」


「待ってください!」

「お待ちください!」


 アルベールは言った。


「お、俺達もセラフや姉さん達の為に働きたい……」


「何故だ?」


「し、信じて貰えねぇかもしれねぇけど、俺はあの宿屋とあの村が好きなんだ……。あの宿屋に行けば俺は暗殺者ではなく、ただの冒険者、ただの人間になれたんだ。そりゃもう居心地がよくってよ……そ、それに新たな第3勢力が俺やセツナを殺しに近付いて来るかもしれねぇ!その時は俺達を囮に使って貰って構わない!!なぁ!?セツナもそれで良いだろ?」


 セツナは頷き、そしてゆっくりと自分の想いを言葉にした。


「…私達は許されないことをしました。その上、このような身勝手なことを言っているのは重々承知しております。姉さん達の強さを目の当たりにしたから、このような態度に変わっていることもわかっております。ですがアルベールの言っていることは真実であり、私も同じ想いなのです」


 私は彼等に答える。


「わかっている。アルベールは、黒い仔豚亭で3人の冒険者をけしかけたあの時、セラフ様に何か言おうとしていたな?セツナもそんなアルベールのことを止めようともしなかった」


「あ、あれは……」

「そ、それは……」


「セラフ様に警告しようとしていたんじゃないのか?」


 アルベールは当時のことを思い出そうとしていたが、その返事を待たずに私は続けて言った。


「先に言っておくが、私にお前らを受け入れるような権限はない。だから自分達の価値を示せ、そうすればセラフ様はきっと応えて下さる」


「はい!」

「はい!」


「ならば、お前らはこれからヌーナン村に戻り、バーリントン辺境伯に起こったことをセラフ様に伝えるのだ」 


「ハッ!」

「畏まりました!」


 私は風属性魔法を使ってその場に飛翔する。


「すげぇ……」

「そんなこともできるのですか?」


 アルベールとセツナが何かを言っていた気がするが、私は思考を巡らしていた。


 ──バーリントン辺境伯の兵とすれ違ってから、ずいぶんと経つ。急いで向かわねば……それに第3勢力は何を目論んでいる?


 私は小都市バーミュラーへ向けて、空を駆けた。

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