第38話 殺人と戦争
〈セラフ視点〉
僕の号令によってリュカが土属性魔法を行使した。そのせいで帝国兵達は死に、リュカに殺人の汚名を着させてしまった。
僕は悲しかった。
人を間接的とは言っても、殺し、家族同然のリュカに手を下させてしまった。
『目標の村が見えた!!村にいる女や金は見つけた奴の早い者勝ちだ!!生かすも殺すも好きにしろ!!』
帝国兵のこの言葉が聞こえた瞬間、僕はリュカに命令した。僕の大好きな家族やこの村の住人達を傷付けるような発言を僕は許せなかった。
命令し、帝国兵が奈落の底へ落ちた時は一瞬スカッとしたものだった。しかし後に不快が襲い、悲しみで満たされた。
後のことはあまり覚えていない。デイヴィッドさんが王国の騎兵隊の隊長さんと色々と話してくれていた気がする。
デイヴィッドさんが僕の肩に手を置いてくれた。その手は暖かく、僕の凍った心をじわりと溶かしてくれた気がした。ずっとこうしていてほしいとさえ思った。
残る帝国兵を王国騎兵隊が相手取る。南の門よりまず千の歩兵を、指揮系統を失い、立ち往生している帝国兵達に向かって前進させた。
僕はその様子を防壁の隙間から覗き見る。
帝国兵は歩兵の数を見て、戦うかどうか迷っているようだった。
そして意を決した帝国兵達は、馬に跨がり、走らせ、南の門より出撃した王国の歩兵隊に突撃した。それを見てとった騎兵隊隊長さん──名前を言っていたけれど忘れてしまった──は歩兵と帝国騎兵があいまみえようとするまで十分に帝国騎兵を引き付け、そして絶妙のタイミングで村の防壁の中に隠していた残る千の騎兵を走らせた。
歩兵隊に向かって前進した帝国騎兵達は、現れたもう千の騎兵隊を見て、直ぐに戦力差を思い知った。踵を返す帝国兵達。しかしそれを実行したのは帝国騎兵の前衛達であり、後衛は何が起きていたのかよくわからず味方同士でぶつかり合っていた。撤退か突撃か隊の方針は別れ、混乱している。また一時は王国歩兵隊を倒そうと前進したのが仇となり、接近しすぎた歩兵隊に背を討たれた。そこに王国騎兵隊が加わり、帝国兵凡そ1000の内800もの兵が一挙に打ち倒された。
残る200は敗走し、おそらくだが小都市バーミュラーと戦をしようとしている軍に向かって退散していった。
王国の騎兵隊と歩兵隊はヌーナン村に帰還し、村民やたまたまヌーナン村に宿泊していた冒険者達によって迎えられた。
村がお祭りのような騒ぎとなる。
「よくやった!!」
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ありがとう!!」
「ダーハッハッハ!!」
「流石シュマール王国の騎兵隊様達だぁ!!」
冒険者達の奏でる指笛も甲高く聞こえる。この状況に僕は何だかおいてけぼりにされているような感覚に陥っていた。
デイヴィッドさんやローラさん、母さんはまだ油断を許さないような心持ちだろう。
何故なら、バーリントン辺境伯によってバーミュラーが落とされてしまう可能性があるからだ。
後はジャンヌとアルベールさん達に任せるしかない。
僕は空っぽの気持ちで、夕焼けに染まる空を見上げた。
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〈帝国四騎士トーマス・ウェイド視点〉
広大な草原によって、空がより近くに存在しているように見えた。荒野と違い、程よく湿り気を帯びたこの地の正面に見えるは、小都市バーミュラーからやって来た兵士達。その数凡そ1万。
──籠城ではなく、白兵戦を選んだか……
──おそらくはヌーナン村の村民の救出と援軍が来るまでの時間稼ぎ、そして対外兵器の使用を意図した作戦か……
投石機が遠目からでも確認できた。元六将軍ロバート・ザッパとの戦争だ。ワクワクして仕方がない。かつて四騎士の1人、私の前任者からの進行を幾度なく阻んだと聞く。
できれば、バーリントン卿との作戦など抜きにして、ただただ戦ってみたいと思った。だが今回は作戦をキチンと遂行しよう。
横に広がった両軍の陣形、我が帝国兵の両翼に騎兵隊を配置し中央に歩兵隊を置く。厄介な投石機を牽制する為に先ずは両翼の騎兵隊を前進させ、王国軍の相対する両翼と戦闘を開始させる。そのどちらかに私も参戦すれば王国の中央歩兵隊が動かざるを得ない。それを合図に我が軍の中央の歩兵隊を前進させれば有利に戦況を動かすことができるだろう。
しかしこの我が軍の陣形を見て、王国軍の魔法隊が両翼に、或いは片翼に集中していた場合厄介である。私のいる方に居れば問題ないが、そうでない場合、突撃した騎兵隊は一溜りもない。
──だがそれで良い……
もうじき夜になる。王国はバーリントン卿の援軍が来るのを待っている。それはこちらも同じだ。そう悟られないよう、目の前の戦は勝ちすぎても駄目であるし、負けすぎても違和感を抱かれる恐れがあるのだ。
だから私は敢えて魔法隊が現れた際の作戦を部下には話さずにしておき、前述した作戦でいく旨を全軍に伝えた。