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第37話 大切なモノ

〈シュマール王国軍騎兵隊隊長アクセル視点〉


 市長、ロバート・ザッパ様からの命令によって俺はヌーナン村へと2千の騎兵を率いて走った。


 まさか帝国が、多くの冒険者が滞在するヌーナン村に別動隊を送ってくるなんて思っていなかった。冒険者は国の(まつりごと)に関わらないのが基本であるし、戦争の際には捕虜として捕まることはあっても殺害されることはない。しかし捕虜として冒険者を長く拘束してしまうと冒険者ギルドから何らかの制裁を加えられる可能性がある。


 ──確かに帝国なら殺しかねない…か……?


 ヌーナン村を襲うのは、無駄に敵を作るような行為に等しい。帝国が他国の村を占領するとなると、我々はバロッサ王国で起きた惨たらしい虐殺について想起せざるを得ない。


 だから何としてもヌーナン村の村民を救わなくはならない。手綱を握る手に、つい力が入ってしまう。


 しかしその時、地震が発生した。


 俺含め、引き連れた騎兵達は足を止める。


 ──クソッ!こんな時に!?


 暫く揺れた地震に俺達は戸惑った。やがて地震が鎮まると再び俺達は駆ける。


 ヌーナン村が見えた。数年前に訓練用のモンスターを捕まえる為に訪れた時と違って周囲を防護壁で囲っている。


 ヌーナン村に到着した俺達は村民達が無事で安堵した。そんな俺達とは対照的に村民達は何事かと目を丸くしていた。確かに2千の騎兵隊がこちらに向かって来たのだから一大事なのは言うまでもない。それにあの地震だ。


 俺は騎兵隊に号令をかけるように大きな声でヌーナン村の住人達に現状を伝える。


「ヴィクトール帝国が国境を越えて小都市バーミュラーに向かって侵略を始めた!」


 住民の息を飲むような声が聞こえる。


 俺は続けて言った。


「帝国軍の数は凡そ2万!その内の数千は途中で進路を変えてこのヌーナン村に向かっている!!」


 村民達は声を上げて驚いた。


「なんだって!?」

「え!?」

「そ、そんな!?」

「い、一大事だ!」


「我らはバーミュラー都市長ロバート・ザッパ様の命により、其方達を避難させる為にやって来た!!今すぐ避難の準備を──」


 俺がそう言うと、奥から片足が義足の元Bランク冒険者であるデイヴィッド・リーンバーンがやって来た。


「アンタらだけでこっちに来る帝国兵達をやっつけらんねぇのか?」


 切迫する中、落ち着き、堂々と自分の意見を言うところを見ると、その武勇は本物であると認識せざるを得ない。


「そうしたいが、生憎向こうの戦力が数千としか聞かされていない。こちらは2千、もし帝国兵がそれ以上の戦力ともなると太刀打ちできん。そんな博打のような戦いはできないのだ」


「いや、見たところ敵は千だぞ?」


「なに!?」


「それにこの村は防壁に囲われてんだ。何とかして倒せねぇか?」


 慌てて逃げ出す準備をする村民と何事かとこの村に滞在していた冒険者が辺りを彩る。


「早く避難の準備だ!」

「どうしたどうした?」

「何があった?」

「金と食料を持てるだけ持ってけ!」

「帝国が攻めてきたってよ!?」

「何!?帝国がぁ!?」


 俺はこの場を部下に任せて剛力のデイヴィッドの言う帝国兵達を見に行くことにする。帝国兵の様子は村の南に行けば観察できるとのことだ。


 馬を走らせ、村を縦断すると防壁と一体化している門が見えた。門は開いており、そこから顔を覗かせて帝国兵の様子を見ている子供達の姿があった。


 まだ10歳くらいの少年と15歳くらいの少女2人だ。


 俺がその場へ向かうと子供達は、その場から離れ、入れ替わるように俺は帝国兵の様子を見る。


 凡そ千の帝国兵が、馬から降りて、地面に突っ伏している様子が窺えた。


「…何をしてるんだ……」


 俺がそう溢すと、先程の10歳くらいの少年が言った。


「さっき地震があったでしょ?何故だかわかんないんだけど、地震が起きてからあの人達、あそこから動こうとしないんだ……」


「動こうとしない……?」


 俺は考えた。剛力のデイヴィッドの言う通り、敵の数はおよそ千。防護壁を駆使しながらの籠城も可能だ。


「それにしてもあの帝国軍は一体何を……」


 またしても10歳くらいの少年が言った。


「…わからない……ただ何か大切なモノを探しているみたい……」  


 少年は何だか悲しそうだった。襲われるかもしれない恐怖と我々が来た安堵によって感情が絡み合っているのだろう。


 剛力のデイヴィッドがようやく追い付き、少年の肩に手を置きながら言った。


「この村は農業も盛んだ。旨い料理も提供できる。2千の軍で来たのなら、千の騎兵隊と千の歩兵に分かれてアイツらを討伐しないか?その間に馬を休めるのも手だぞ?」


 村民をバーミュラーへ避難させることは十分に可能だ。それよりも剛力のデイヴィッドの言う通り、あそこの帝国兵を撃滅させ、帝国軍全体の戦力を削るべきなのではないか?


「あれが帝国の罠である可能性はないか?」


「ないな。ずっと観察していたが、アレは不足の事態によるものだ」


「不足の事態?」


「地震のせいで馬が言うことをきかなくなった可能性が高いな。ここも揺れたが、震源はアイツらのいる南側の方だったんじゃねぇかな?」 


「なるほど……わかった」


 俺は引き連れた騎兵に作戦を命令し、避難を呼び掛けた村民や冒険者に理解を求めた。


 村民の何名かは不安な表情を募らせたが、冒険者達は俺達に檄を飛ばす。そして剛力のデイヴィッドが続いた。


「皆!大丈夫だ!王国の騎兵隊が殺られても──」


 剛力のデイヴィッドは背負っていたハンドアックスを握り、振り下ろす。ブン、と空気を切り裂き、風が舞う。


「俺がいるから安心しろ!!」


 それを見た冒険者はデイヴィッドを囃し立て、村民は不安を抱きながらも、勇気を貰ったような表情を浮かべていた。

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