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第36話 騎兵隊

〈小都市バーミュラーの都市長ロバート・ザッパ視点〉


「きゅ、急報!!」


 陽が一番高い位置より、後は下るだけとなった時刻、私のいる執務室に急報が届いた。


「帝国が国境を越えて、ここバーミュラーに向かって侵攻しております!!」


 私は驚き、たまたま手にしていた書類をクシャッと力を入れて握ってしまった。しかし直ぐに冷静さを取り戻し、黙って急報を知らせる衛兵の言葉を待った。


「帝国軍の規模は凡そ2万!その内の数千の軍が北東へ進路を変え、ヌーナン村に向かっているとのことです!」


 私は頭を抱えた。眼帯に覆われた片眼の奥がズキリと痛む。


 ──バロッサの虐殺を繰り返すつもりか……


 私は直ぐに選択する。それはヌーナン村にいる村民の救出に兵を向かわせる選択だ。


「2千の騎兵隊を今すぐヌーナン村に向かわせろ!そして7千の歩兵と千の騎兵、3百の魔法歩兵隊をここバーミュラーを背にして前進させるのだ!!」


 援軍を頼むために王都へ連絡し、元々ここが領地であったバーリントン辺境伯にも同じ様に救援を要請した。


 ヌーナン村の村民や冒険者達を救出できたとして、我々が壁に囲われたここ小都市バーミュラーに籠城していたんじゃ、救出に向かった騎兵隊もヌーナン村の村民も守ることができない。


 その為に、歩兵をバーミュラーから出して帝国兵の足止めと、救出できた騎兵隊と村民を迎え入れる準備をさせる。


 騎兵隊達と合流後はゆっくりと後退させて壁の中に入れば、やって来たバーリントン辺境伯の援軍と共に帝国を撃退できる筈だ。


 ──しかしその場合、ヌーナン村より南を帝国の領土として奪われてしまう……だからやって来た援軍と共にヌーナン村を奪還、村の状況によっては再建をさせれば良い……


 ヌーナン村を見捨てれば、より安全にこの侵略を防ぐことができるが、以前帝国が行ったバロッサ王国の電撃侵攻の際に帝国四騎士の1人ドウェイン・リグザード率いる部隊が行った民間人の虐殺を受け、インゴベル国王陛下はバーリントン辺境伯から反対があったにしろ、ここバーミュラーの自治を譲ってもらい、共同防衛を敷いたのだ。


 勿論タダではなかった。その費用はインゴベル国王陛下の私財で賄われたと聞く。バーリントン辺境伯もそれを飲み、我々との連携によってより強固な防衛線を敷くことが可能となったのだ。


 ヌーナン村は冒険者で賑わう村である為、襲われる可能性は低いと思っていた。冒険者に手を出せば帝国国内のクエストを実行する冒険者の数が減り、治安も荒れ、経済にも影響を及ぼすと言われているからだ。しかし数千規模の騎兵隊を送っている辺り、帝国は本気でヌーナン村を落としに行っているのがわかる。


 ──どうか間に合ってくれ……


 私はヌーナン村の村民が虐殺されていないことをせつに願った。


─────────────────────


─────────────────────


〈帝国騎兵隊隊長視点〉


 2万の軍勢から離れ、俺の率いる帝国騎兵隊3千はヌーナン村という魔の森に近い村に向かって進軍した。


 なんでも昨夜400人隊がその村に送り込まれ、この作戦が上手くいっていれば村を占拠しているとのことだ。帝国の誇る四騎士の1人、トーマス・ウェイド様曰く、失敗している可能性も考慮しろとのことである。


 これはスピード勝負だ。 


 恐らくはバーミュラーの小都市長にして元シュマール六将軍の1人ロバート・ザッパが俺達の向かうヌーナン村に同じく騎兵隊を寄越しているに違いない。


 もしヌーナン村を我が帝国兵が占拠していた場合、ソイツらと協力してシュマールの王国騎兵を撃退すれば良いし、占拠に失敗していた場合は村民を殺しながら王国の騎兵隊を翻弄すれば良い。


 その間にバーミュラーに向かったトーマス・ウェイド様の軍とバーミュラーから派兵された軍が戦い、疲弊させたところを、王国を裏切ったバーリントン辺境伯の援軍がバーミュラーを侵略する。バーリントン辺境伯を援軍だと期待しているバーミュラー側はさぞや驚くことだろう。


 風を切り、絶え間のない馬の駆ける音が俺の鼓膜を刺激する。


 陽が沈みかかったその時、ヌーナン村とおぼしき村が見えてきた。


 ここからでもわかるが、ヌーナン村は防壁によって守られていた。


 ──ちっ、報告と違う……これはかなり面倒だぞ?


 俺は仲間の士気を上げる為に、檄を飛ばす。


「目標の村が見えた!!村にいる金や女は見つけた奴の早い者勝ちだ!!生かすも殺すも好きにしろ!!」


「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」


 俺の言葉に呼応した3千の騎兵達。俺は前に向き直り、防壁に囲われたヌーナン村を見た。


 防壁は木製。


 ──ならば火矢を放つか、火属性魔法を行使できる者を前線に送ろうか。


 おそらくだが昨日の400人隊はこの村の襲撃に失敗している可能性が高い。壁と一体化して見にくいが、門が見える。その門が開かれていないとなると、尚更失敗したと結論付ける他ない。


 ──ならばその400人隊は一体どこへ?


 疑問を抱いたその時、馬がいななき、前足を高く持ち上げながら立ち止まる。


「どうした!?」


 それは俺の跨がった馬だけでなく、俺の引き連れていた3千の騎兵隊が跨がった馬全てに当てはまる。


「何が起きた!?」

「どうなっている!?」

「急に止まったぞ!?」


 皆が混乱しているが、我々は何故馬が止まったのか馬よりも遅れて理解した。


「地震だ!?」

「すげぇ揺れだぞ!?」

「なんだなんだ!?」

「でけぇぞ!?」


 俺は言った。


「総員!馬から降りろ!!」


 俺は馬から飛び降りた。直ぐに立っていられない程の揺れが俺達を襲う。俺は地面に這いつくばった。何人かは馬から降りるのが遅れ、無様に落馬してしまった。


「ちっ!なんでこんな時に!?」


 ついていない。俺はそう思った。しかし次の瞬間。


「は!?」


 俺達帝国騎兵隊を飲み込むようにして大地が割れ、俺を含めた約2/3の騎兵が地獄の底へと落ちた。

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