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第33話 普段は生意気なのに

〈アビゲイル視点〉


 夜中に目が覚めた。最近、風邪を引いてから妙に身体が熱い。魔力の量が増えたからなのか、身体が成長しているのか、よくわからない。それにセラフのことを想うと、急にいても立っても居られなくなる。


 私は用を足しに行こうとお父さんとお母さんの寝ているところを跨いだ。この時気が付いた。リュカがいない。


 ──リュカもトイレかな?


 私はお父さんとお母さんを起こさないようにソッと部屋から出た。


 階段裏にある小さな部屋、そこを出て、宿屋の裏口から外の離れにあるトイレへと向かおうとしたその時、突然背後から声をかけられた。


「やぁ……」


 私は驚いて後ろを振り返った。寝巻き姿のセラフだった。寝ぼけ眼を擦りながら足をよろめかせ、転びそうになったのを私が抱き止めた。


「ちょっと!しっかり歩きなさ──」


 私は小声でセラフに注意している途中で、気が付いた。セラフは私の胸の中で寝ていた。実は前も同じようなことがあった。セラフは夜中1人でトイレに行って、部屋に戻ることができずに階段で眠っていたのだ。私の胸の中で静かに寝息を立てるセラフを見て、私の心臓がトクンと優しい鼓動を刻んだ。


 ──あぁ、なんて可愛いの!?普段は生意気で、私より年下なのに大人びてる癖に、夜中眠くなるとこんなにも愛らしく私の胸で眠ってしまうなんて……


 私はキュッと私にもたれ掛かって眠っているセラスを抱き締めた。


 しかしその時、何者かが吹き抜け部分から音もなく飛び降り、1階にいる私達に向かって近付いてきた。


 ──えッ!?


 よく見るとその者の手には短剣が握られており、それを振りかぶり始めた。あまりに早い動きによって私は恐怖を感じる暇さえなかった。


 そのせいか声が出せず、感情よりも先に身体が震え始めた。だけど私の胸の中で眠るセラフだけは何としても守りたかった。私はセラフを強く抱き締め、庇うような姿勢となった。


 鋭い短剣の切先が私を襲う。しかしその時、宿屋の正面玄関口からジャンヌが目にも止まらぬ早さで入ってきて、冒険者の男の顔面に膝蹴りを入れて、気絶させた。


 ジャンヌは跪き、私とセラフに言った。


「ご無事ですか!?」


「う、うん……」


「遅れてしまい、申し訳ありません……」


 その時、セラフが目を覚ました。


「ん…あれ?どうしたの?アビーもジャンヌも……」


「ご無事で何よりです!!」


 目覚めたばかりで何がなんだかよくわかっていないセラフにジャンヌさんが説明する。


 セラフは今まさに襲われそうになっていたことを理解すると私の胸の中から離れ、気を失っている男を見た。それから直ぐに私を見て言った。


「アビー!?大丈夫だった!?」


─────────────────────


─────────────────────


〈南の帝国兵、400人隊の隊長視点〉


 一向に狼煙(のろし)が上がらない。


 狼煙が上がり次第、行軍し、我々400人の帝国兵が村を包囲し、侵攻する。それが作戦であった。重要なのはと要注意人物である剛力のデイヴィッドと魔術師ローラの死、後から追加された農家と大工の男2人の死だ。それが終われば逃げ出す村人と隠れている村人を全員殺せば良い。


 狼煙が上がらなければこの作戦は失敗となり、俺達は帝国へ戻り、本隊と合流する。ヌーナン村での出来事がシュマール王国側に報告されているその日に、四騎士のトーマス・ウェイド様が引き連れた2万の軍勢が国境を越えて、王国を侵略する。


 別にこのヌーナン村襲撃が失敗しても構わない。より確実に小都市バーミュラーを落とすことができればという理由で行われた作戦だった。


「これは失敗だな。いくら元Bランク冒険者とは言えあの夫婦の強さを舐めちゃいけなかったな」


 俺がそう呟くと、隣にいる部下が言った。


「しかし村から灯りすらともっていないのは不自然じゃないですか?」


「確かに、戦闘に苦戦しているのなら近隣住民がそれに気付いて然るべきだ……もう少し待ってみるか……」


 撤退するとなると先に村付近に忍ばせた帝国兵、南側と東側合わせて50名程を回収しなければならない。


 何をもたついているのだと苛立つ俺達の元に、野を駆ける1体のモンスターが正面から現れた。


 あまり大きな音を立てたくないが、こっちは400人の武装した兵がいるのだから負ける訳がない。


 遠くから、しかも暗闇のせいでよく見えないが討伐難易度Eランクモンスターのヴィルカシスであることがわかった。


「ヴィルカシスだ。隊列を組め!」


 なんでこんなところに?そう思ったが、盾を持つ兵を前列へ、そしてその背後に長槍を持った兵を並ばせた。


「ん?大きくないか?」

「デカイな!?」

「なんでここにいる?」

「え?」


 確かに思ったよりも大型のヴィルカシスであった。俺は士気を保たせるために言った。


「問題ない!こっちには400の兵がいるんだ。多少大きくたって問題ない!盾を構えろ!」


 次第に全容が見えてきた。そのおかげでヴィルカシスの背に誰かが乗っていることに気が付く。


「女の子?」

「なんだ?」

「可愛い」

「誰だ?」


 ヴィルカシスは盾に突進せず止まり、その背に乗っているハルバートを背負った女の子が口を開く。


「皆さん!帝国の兵士さん達ですね?」


 俺達はこの異様な状況を飲み込めず、押し黙る。女の子は続けた。


「全員、ここで死んで貰おうと思います♪︎」


 女の子の歌うような声色と可愛らしい見た目からは想像もできない言葉が吐かれ、俺達は戸惑った。中には笑みを溢す者もいた。


 その笑い声は俺に冷静さを取り戻させ、号令する余暇を与えた。


「取り囲──」


 俺の号令を待たずに女の子は言った。


「行くよオーマちゃん!」


 あお~ん、とヴィルカシスが高らかに返事をすると、そのヴィルカシスは正面にいる盾の兵目掛けて突進してきた。


「バカめ!衝撃に備えろ、来るぞ!!」


 ヴィルカシスの動きを盾で止めて、槍で仕止める。そんなことを考えていた俺だが、盾を持った兵はヴィルカシスの勢いを止めることが出来ず、突破されてしまった。 


「なっ!!?」


 ヴィルカシスは400人いる集団の中を駆け回る。遠目から槍でヴィルカシスを削るように傷付ければ良いのだが、それをよしとさせない者が、ヴィルカシスの背に乗った女の子であった。重たそうなハルバートを軽々しく操り、槍を無力化させ、兵を倒していく。


「うわぁぁぁぁぁ!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

「あぁぁぁぁぁぁ!!!」


 断末魔が闇に溶け込み、それが恐怖となって俺達の内側を支配し始めた。だがまだまだ人数はいる。俺は指示を出した。


「慌てるな!数の利を生かす!もう一度隊列を組み直すぞ!!」


 今、ヴィルカシスと戦っている兵には申し訳ないが、俺達はその間に体勢を立て直す。


 しかしこの時、地震が起きた。


「なんだ!?」


 すると俺の目の前の大地が突如として沈下し始め、俺以外の兵達はその大きな穴の中へと閉じ込められる。閉じ込められた兵達は何が起きたのかわかっていなかった。この時初めて握っていた魔道具の『ライト』を使って辺りを照らす(夜襲であるため狼煙が上がるまでその魔道具は使っていなかった)。


 照らされ、明るくなった穴の中を俺は訳もわからず見下ろしていた。


「よし♪︎」


 俺の隣にいつの間にか移動していた女の子は大地に開いた穴を覗き込んで、上手くいったと言いたげに声を漏らしていた。


「皆さんに逃げられては困るのです!」


 そう言って女の子は持っているハルバートをトンと軽く地面に叩きつけると大穴の底から大地でできた鋭いトゲが無数に現れ、穴の中にいる兵達を串刺しにする。


「は?」


 信じられない光景を目の当たりにした俺に女の子は言った。


「貴方はこの隊の隊長さんですか?」


 俺は咄嗟に嘘をついた。


「い、いや違う……」


「そっかぁ♪︎まぁジャンヌちゃんから全員殺害するように言われているし、隊長さんじゃなければ良いっか?」


 俺は慌てて訂正しようとしたが、声が出なかった。俺の首は既にはねられており、自分の残された身体を見つめながら俺の頭は、死んだ兵達同様、穴の底へと落ちていった。

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