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第31話 討伐

〈村の南に位置する帝国兵視点〉


 暗殺者ギルドのアルベールは界隈でも有名なヤツだ。俺もかつて帝国兵ではなく冒険者ギルドに所属していた頃、暗殺を生業としている闇のギルドの噂くらいは聞いたことがあった。


 そのアルベールが1枚噛み、シュマール王国の領土を侵略する。その為に俺達の後ろには400人の兵が国境を越えて待機している。しかし気になるのは俺達や後ろの400人の帝国兵が国境をすんなり越え、シュマール王国領土に入れたのは何故なのか、ということだ。


 俺はただの兵士だ。詳しいことは聞かされていない。しかし何らかの陰謀が渦巻き、帝国側に傾いているのがわかる。


 南の400の兵が大挙を成してあの村を襲っても良いのだが、慎重なアルベールが調査を重ねて出した結論は、一先ず村の南に20人と東に30人の俺達帝国兵を置いておくだけで良いとのことだ。400人もの兵が一斉に動いては村人に気づかれてしまう恐れがあったからだ。


 夜襲はそこを攻め落とすことを簡単にするが、闇に紛れて逃げ出し、生き延びる村人が出てくる可能性があった。この作戦は村人の生き残りを許さない。1人でも逃がせば作戦失敗だ。その為俺達は無理に攻めずに、村を囲い、村人の戦意を喪失させ、逃げ出す者を仕留める役割を担っている。


 特に村の東に位置している魔の森に逃げ込まれては追うのも困難だ。だから東には南より多くの帝国兵を派兵している。


 この村には剛力のデイヴィッドと何人かの手練れがいることが明らかになっていた。その手練れを夜襲で確実に殺害してから他の村人を殺す。


 その殆どはアルベール達が北からと西からで行う。


 俺達は逃げる村人を仕留め、狼煙が上がり次第、俺達南に位置した帝国兵のさらに南にいる400もの帝国兵が村を囲い、追い討ちをかける。


 俺達はその400人隊を離れて村の南側に20、東側に30と配置についたのだが、ここで思わぬモンスターと出くわす。


「ヴィ、ヴィルカシス!?」


 討伐難易度Eランクのモンスターであるヴィルカシスだが、コイツは異様に大きい。元冒険者の俺は何回もヴィルカシスを狩っていたが、このヴィルカシスはかつてない恐怖を俺に抱かせる。


 灰色の毛並みを逆立たせ、俺達を威嚇する唸り声は腹の底まで響いた。


「でかいぞ!?」

「なんでこんなところに!?」


 ヴィルカシスは2本の後ろ足を曲げて、前足を伸ばす。いつでも俺達に飛び掛かかれる準備をしている。


「まずい!!?」


 俺は大声で言った。


「今すぐ援軍を!?東に行った兵を呼び戻せ!!」


 俺は村の東へ位置取る為に別れた兵達の方を見た。暗くて遠くまで見えなかった。夜襲に気付かれないよう松明等で明かりを灯さないようにしていたのが仇となった。


 ──間に合わない?


 俺がそう思った次の瞬間、仲間の兵達の息を飲む声が聞こえた。


 俺は前を向き直り、恐怖の対象であるヴィルカシスを見ようとしたが、そのヴィルカシスは俺の眼前に迫って来ており、大口を開けて俺の頭部を飲み込むようにして噛み砕いた。


 仲間の兵士達の叫び声がヴィルカシスの口内で聞こえた。


─────────────────────


─────────────────────


〈村の東に位置する帝国兵視点〉


 叫び声が聞こえる。俺達はもう侵略を始めたのかと思い、その足を急がせた。この作戦は村人の全滅を達成して初めて成功と言える。


 しかし叫び声の聞こえた方角は、俺達が先程別れた、南側の20人の兵達から聞こえてくる気がする。


 俺は確認をする為に他の兵士に尋ねた。


「おい、向こうで叫び声が聞こえなかったか?」


 怪訝そうに頷く仲間の兵士達。


「何か問題でも発生したのか?」


「いやわからねぇ」


「どうします?」


 誰かが言った。


「南側で例えばモンスターが現れたとしても、その背後には400の兵がいるんだ。彼らが何とかしてくれるだろう。俺達は自分の任務をまっとうした方が良いんじゃないか?」


 確かにそうだ、と皆が頷いた。


「俺達の任務は村を囲うこと、そして村から逃げ出す村人を仕留めることだ。そろそろ西か北で作戦が実行される筈だ。今の内に隊列を整えておくぞ?」


 俺達は一致団結して、横一列となろうとした。しかし人数が少ないことに気が付く。


「ん?なんか少なくないか?」

「何が?」

「人数が」

「確かに」

「おい、どこ行った?便所か?」


 俺達は辺りを見回す。すると闇の中を青い大きな塊が浮遊していることに気が付いた。


「なんだあれ?」


 その塊は1つだけではなく、3つ4つとたくさんあり、俺達を囲み始めた。


 まだ灯りをつけるのは早い。まずは北や西から攻め込む奴等が狼煙である火が点ってから、こちらも火を灯す手筈となっている。しかし俺達はこの不思議な青い塊を確認せざるを得なかった。 


 俺は火属性魔法の刻印が印された魔道具に魔力を通して火を起こす。周囲が明るくなり、その青い塊の正体がわかった。


 アーミーアンツの群れである。そして今まさに仲間の兵士をその鋭い顎で胴から真っ二つにされているところだった。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

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