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第24話 これって食べれるの?

〈セラフ視点〉


 僕らは切り過ぎた木を使って、村を囲う木造の外壁を作っている最中だった。


 村全体をどのように囲うのか、軽く溝を掘ってイメージを固める。作るのは僕らの宿屋の増築を頼んだ大工のトウリョウさんであり、僕らは木材の運搬を手伝った。ジャンヌやリュカはトウリョウさんが弟子のシデさんと、木を2人がかりでギコギコ切っていたのを見て、自分達も切ってみたいと言い出した。


 それを聞いたトウリョウさん達は、苦笑いを浮かべながら「嬢ちゃん達には難しいぜ」と言い、更に僕が止めに入る。先ずは2人とも一般の女の子が有する力を学ぶべきだと伝え、アビゲイルの仕事を見て力の入れ具合を勉強するようにと告げた。


 また、宿屋の増築を後回しにしてまずはこの外壁を優先させたのは、木を切りすぎたせいでモンスターがこの村にやってくるかもしれないし、自分達の増築を優先すると村の人達に反感を持たれるかもしれないと思ったからだ。


 勿論村の人達は僕らが木を切ったと思ってはいない。僕らのついた嘘、マンティスというモンスターのせいでこうなってしまったと思っているわけだが、それでも自分達の増築を優先するほど僕らは自分勝手にはなれなかった。


 外壁製作の為の木材を運び終えた僕は宿屋の仕込みを手伝う。いつものエールの買い付け、リュカの代わりに新しくやって来た雌牛の搾乳、そしてアーミーアンツ達の栽培するキノコと食べることのできるモンスターの肉と素材をアーミーアンツ達から受け取る。今日はランドクラブという巨大な蟹のようなモンスターだった。


 朝と昼の営業は、主に宿泊したお客さんに飲み物と軽食のパンや卵、干し肉くらいしか出していないのでアビゲイルやローラさんと母さんとジャンヌの少人数で回しながら営業をしている。


 僕は自分の仕事を終えたその時、デイヴィッドさんとリュカが狩りから帰ってきた。オーク1体と2体のホーンラビットを狩ってきたようだ。


 僕もアーミーアンツ達から受け取ったランドクラブを見せ付け、2人は称賛する。


 僕はデイヴィッドさんの獲物の解体作業を手伝い、それが終わるともう15時になっていた。


 酒場は17時からの営業なので、僕らは一旦休憩する。


 僕は訊いた。


「ねぇデイヴィッドさん?」


「なんだ?」


「このランドクラブを使って今日は何を出すの?」


「え!?あれって素材でもらったんじゃないのか?」


「素材もそうだけど、食べないの?」


 見た目が蟹だから完全に食べ物として僕は見ていた。


「食べたことねぇぞ!?」


「そうなの!?」


「エビルセンチピードとかマンティスを食わないのと一緒だろ?アーミーアンツも食わないし……」


 確かに見た目は昆虫のようだが、僕は前世の記憶で蟹料理の美味しさを知っている。


「じゃあ今日から僕も厨房に入るんだから、ちょっと試しに作ってみても良い?」


 デイヴィッドさんは不安そうな顔をしたが、何かを決心して頷いた。


「わかった。やってみろ」


 包丁を握って、男性の二の腕のように太いランドクラブの5対10本の足を胴体から切り離し、殻を削いで綺麗な身を取り出した。


 それをお水に付与魔法をかけて冷水に変えて5分程浸ける。ちなみに付与魔法で水の温度をコントロールするのが難しかった。完全に凍らせてしまうミスを何回もしてしまった。


 冷水に浸けているあいだに、外にあるエール樽2つ分くらいある巨大な蟹の甲羅を解体して、蟹の味噌を両手で取り出し、白ワインで軽く洗いながらお皿に乗せた。本当なら蟹の甲羅に戻して蒸すのが一番なのだが、あまりに巨大すぎるためにそれを断念し、お皿の上にしたのだ。


 額にかいた汗を拭うと、デイヴィッドさんがグロいものを見ているような渋い顔をして尋ねてきた。


「これも、食うのか?」


「うん♪︎」


 僕はそう言って、蒸器に水を溜めて、蟹味噌の入ったお皿をいれて蒸した。


 5分後、冷水に浸けたカニの足の身は松の葉のように刺々しく咲き、それを僕が前世で食べたことのあるカニの大きさにカットして──それでもかなり大きいが──、醤油と白ワインと砂糖と酢を入れた合わせ調味料を一度沸騰させてできたポン酢もどきに浸して食す。


 濃厚でみずみずしく、噛む度に上品なカニの甘味を感じる。これはまさに松葉ガニの刺身である。


「うまぁ~……」 


 僕が噛み締めるようにして発した言葉に、今まで黙って見ていてくれたデイヴィッドさんとリュカがゴクリと喉を鳴らす。


「食べてみて?」


 僕は締まったカニの身をカットして、2人に手渡し、僕が食べたようにしてポン酢に浸けて食べさせた。


「これは!!?」

「ムム!?」


 2人は口に入れた瞬間、目を見開きお互いの顔を見つめた後、僕の方を向いて言った。


「旨い!!」

「美味しいですぅぅぅ!!」


 2人は目を輝かせて、僕に詰め寄る。


「コイツってこんなに旨かったんだな!!?」


 デイヴィッドさんの横でリュカがフン、フンと鼻をならしながら首を縦に振って同意している。


 そして僕は蒸し上がった蟹味噌を取り出して、2人に提供した。


「たぶん、これも美味しいと思うよ?」


 僕はスプーンを取り出して、蒸した蟹味噌をすくって食べた。


 クリーミーな味わいに複雑で濃厚な磯の香りを凝縮させたような味だった。


 僕は幸せが口からこぼれないように口元を手で覆いながら言った。


「旨いぃぃ~……」


 僕の表情を見てとったのか、2人はあまりよろしくない見た目の蟹味噌をスプーンで掬って食べた。


「旨い……初めて食べる味だが、確かに旨い!」

「セラフ様ぁ~、美味しいですぅぅぅ!」


 デイヴィッドさんは感動し、リュカは涙を流しながら僕にお礼を言った。


 彼等の声が厨房にはいない母さんやアビゲイル達にも届き、ランドクラブの試食会が開かれた。

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