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第21話 増築計画

〈セラフ視点〉


 僕は早朝、昨日の残り物を皿に盛り付けてリュカが人間化する前にいた牛小屋へ向かった。そこにいるのはヴィルカシスのオーマだ。そのオーマに僕は朝食を与える。


 嬉しそうに食べるオーマの頭を撫でて、そのもふもふの感触を僕は一通り堪能する。


 さて、そろそろデイヴィッドさんが出てくる頃だ。


 オーマの朝食の準備をする前に、僕はデイヴィッドさんの寝ている1階の階段裏の部屋へ入り、ジャンヌの寝泊まりできる部屋について相談したのだ。


 デイヴィッドさんは、寝ぼけ眼で「俺も考えてたんだけどよ──」と前置きを言ってから、取り敢えず準備をするから先にオーマの朝食を与えてくれと頼まれていたのだ。


 朝食を出し終えた僕にデイヴィッドさんが宿屋の出入り口に立って言った。


「おう、セラフ!これから外に出るから着替えてこい!」


 僕は急いで着替え終え、宿屋の正面玄関へ向かった。そしてデイヴィッドさんはいつもの格好にハンドアックスを手にして言った。


「では、本日のクエストを言い渡す!」


 僕はしかと聞いた。


 そのミッションとは宿屋の増築だ。


 元々儲かっていたこともあり、デイヴィッドさんは増築することを計画していたそうだ。そこにリュカとジャンヌという新しい仲間も増え、この増築計画を早く実施する運びとなったのだ。


「木を切りに行くぞ!!」


 許可の下りている木を僕らは切りに行く。意気揚々と出掛けた僕らだが、増築に伴って僕らのやることと言えば木材と石材の確保くらいであとは村の大工のトウリョウさんに丸投げである。


 建築のことはよくわからないが、トウリョウさんやデイヴィッドさんの言うには半分木造で半分が石造りのハーフティンバー様式での増築を行うとのことだ。


 僕らの宿屋『黒い仔豚亭』は長方形を成しており、その長方形の長い辺の少し右側に入り口がある。その扉を潜ると、酒場の客席と2階の吹き抜け部分と高い天井が見える。客席の奥にはカウンター席とその更に奥には厨房が見える。カウンター席と厨房の真上は2階の宿部屋になっている為、吹き抜け部分と比べると天井が低くい。


 また客席の左側も2階が宿部屋となっているため、天井が低く、それを支える柱なんかも立っており、酔っ払ったお客さん達はそれにぶつかったりもしていた。また扉をくぐって右奥に階段があり、宿泊するお客さんはその階段を利用する。僕や母さんも寝るときはその階段を利用している。


 今回増築するのは宿屋の右側部分だ。先に増築部分を造ってから右側の壁を壊して繋げる。そうすることによって、普段の営業を休まなくてすむようになるのだ。


 僕とデイヴィッドさんが木を伐りに出掛けようとすると、リュカとジャンヌがやって来た。


「私達も手伝います!」

「私達にも何かお手伝いをさせてください」


 2人にもついてきて貰って、僕らは切っても良いと許可が下りている魔の森の入り口へと向かった。


「ジャンヌ、昨日の営業はどうだった?」


「はい!新しく覚えることもたくさんありましたが、それよりもたくさんのお客様とお話しするのがとても新鮮で楽しかったです!」


「そうか、それは良かった!でもたまに嫌なお客さん…例えば冒険者とかで横柄な人とかたまにいるんだけど、その時はどんなに腹が立っても絶対に手は出さないようにね」


「承知致しました!」


 僕はリュカにも言った。


「リュカもね!」


「は~い!」


「2人とも凄く可愛いし、美人なんだから嫌なお客さんに言い寄られないか僕は凄く心配だよ……」


 僕の言葉に2人は反応を示す。


「でへへ~、リュカは可愛いのかぁ~、でへへ~」

「あぁ、セラフ様…なんて慈悲深い……」


 リュカはふやけた顔をしながらスキップし、ジャンヌは両手の指を組んで祈るようにして歩いた。


 ──うん。本当に心配だ……


 僕は2人に言いたいことがあったのを思い出す。


「そういえばさ、2人とも僕の従姉妹ってことになってるじゃん?」  


 リュカが母さんのお姉さんの子供という設定であるし、ジャンヌはそのリュカのお姉ちゃんなら、そうなる。


「セ、セラフ様の従姉妹…あぁ、なんておこがましいことでしょうか……いや、セラフ様を弟のように扱っても良いということなら…或いは……」


 ジャンヌは何故だか湿り気を帯び始めた口元を拭う。僕は口を開く。


「そうそれ、2人とも僕の従姉妹なら僕のことをセラフ様って様をつけるのはやめた方が良いんじゃないかな?」


 様付けは毎回呼ばれる度にむず痒い想いをする。母さんも自分のことを美人だと言われるとこんな風に感じていたのかもしれない。


 僕の問い掛けに2人は其々口にした。


「そんなことできないです!!」

「それはなりません!!」


 2人は僕に詰め寄る。


「え……どうして?」


「セラフ様は私達にとっては神様のような方なのです!!」

「セラフ様は私達の神様であります!!」


 2人の厚い信仰心は揺るがないのだと僕はこの時思った。するとこの会話を聞いていたデイヴィッドさんが言った。


「じゃあよぉ、セラフも厨房に入るか?」


 接客ではなく、厨房に入って料理を作る人になるということだ。そうすればリュカやジャンヌ達からの様付けもお客さんには聞こえづらくなる。


「え!?良いの!?」


「勿論だ!この前も料理教えてほしいなんて言ってたからな」


 そうである。僕はデイヴィッドさんから料理を教わりたかったのだ。付与魔法によって力を与えられる僕は、この魔法を使わずに料理でお客さんに笑顔や幸せをもたらすデイヴィッドさんに憧れを抱いていたのだ。


 それにこの前も魔の森では先頭を切って、僕らを鼓舞する姿も目にしている。僕はデイヴィッドさんのことがもっと好きになった。


「やった~!!」


 と僕が喜んでいると、ジャンヌとリュカが呟いた。


「セラフ様とお別れですか……」

「セラフ様ともう少し接客というものをやっていたかったです……」


 2人にもそう言ってもらえてなんだか僕は嬉しく思った。2人に感謝を告げると、魔の森の入り口、伐採許可のおりている所へ僕らは到着した。

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