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第17話 アーミーアンツ

〈セラフ視点〉


 風を感じた。それから口に何かを差し込まれる感触がする。僕が今最も欲するモノ、魔力回復のポーションだ。それを吸った僕は、目を開ける。


 走る大きなヴィルカシスに股がりながらポーションを僕に与えるデイヴィッドさんが見えた。その前にはリュカが先頭を走っている。僕は誰かに抱きかかえられていた。


「お目覚めですか?」


 前髪で片眼の隠れた綺麗なお姉さんだった。


 お姉さんは僕にニコリと笑いかけ、目の前に横たわる大木を飛び越えた。お姉さんはデイヴィッドさんの着ていた服を着ている。下半身は何も身につけていなかった。


 僕は訊く。


「貴方は……?」


 お姉さんは走りながら返事をした。


「先程助けて頂いたグリフォンでございます」


 そんな気はしていた。だから僕は謝った。


「ごめんなさい……」


「どうして謝るのですか!?」


 グリフォンのお姉さんは走るのをやめて立ち止まる。デイヴィッドさんが後ろを振り返りながら言った。


「何してんだ!?早く来ないとアーミーアンツの群れが来ちまうぞ!!」


 デイヴィッドさんの言葉を聞きながら僕はグリフォンのお姉さんに言った。


「僕が貴方を変えてしまった……」


 リュカの時もそうだが、僕は牛として、グリフォンとして生を受けた生物を人間に変えてしまったのだ。


「そんなっ!?私はとても幸せなのです。セラフ様にこのような姿に変えて頂けて……」


 するとデイヴィッドさんが言った。 


「来たぞ!!?」 


 軽自動車くらいの大きさのアリの大群が迫り来る。グリフォンのお姉さんは再び走り始めた。


 僕を抱えながら、森を駆け抜ける。


 僕はデイヴィッドさんにアーミーアンツ達はどうして、僕らを襲ってくるのかを尋ねた。


 デイヴィッドさんは説明してくれた。


 なんでも、アーミーアンツの女王アリは配下の働きアリ達のことを支配下においている為、末端のアリが殺られれば誰に殺られたのかわかるそうだ。


 僕は続けて尋ねた。


「なんでわかるの?」


「アリのケツからフェロモンが出てるみてぇでよぉ、そのフェロモンの臭いを魔力を使って感知してるみてぇなんだわ」


「フェロモン……」


 つまりリュカがアーミーアンツの頭をぶっ叩いた時、グリフォンのお姉さんが風属性魔法を使ってアーミーアンツを両断した時、そのフェロモンが僕らに付着してしまったようだ。


「さっきアーミーアンツ達が見えたけど、どのくらいの数が追ってきてるの?」


「8千らしい」


「えっ!!?」


 僕は全身に寒気を覚える。


「そのグリフォンの姉ちゃんが魔力探知を使って把握してくれたんだ!だから今、俺達は森の奥へ逃げてる!!」


 なるほど、村の方へと逃げるとその8千のアーミーアンツの大群が村を襲う危険性があるからか。


 ──どうすれば……


 僕は先程のデイヴィッドさんの言葉を思い出す。 


『フェロモンの臭いを魔力を使って感知してるみてぇなんだわ』


 僕はグリフォンのお姉さんに両腕で抱えられている状態でお姉さんの首筋に鼻を近付けて匂いを嗅いだ。


「ちょっ!!?セラフ様!?」


「ごめんね。少し確認したいことがあって……」


「は、はい……」


 アリのフェロモンの種類には性誘引フェロモン、階級分化制御フェロモン、警報フェロモン、道しるべフェロモン等と様々あり、それを使い分けて集団行動を実施している。


 これは僕の前世で得た知識だ。このアリの知識がこの世界のアリ、しかも1匹が軽自動車並みに大きいアリと共通するのかはわからない。


 魔力を使ってこのフェロモンを認識しているのならば、これは嗅覚に感覚強化の付与魔法をかけて得た力のようなものだと僕は認識している。 


 僕はヴィルカシスに股がるデイヴィッドさんに尋ねる。


「さっき、僕らが追われる前の話で、働きアリを支配している女王アリを先に叩くって言ってたけど、女王アリの命令で働きアリ達は僕らのことを襲ってるってこと?」


 デイヴィッドさんは僕の質問の意図を探ってから答えた。


「…俺も詳しくは知らないんだが、女王アリは働きアリの発する魔力を知覚してるみてぇだぞ!?俺達のことを脅威だと思って襲ってきてんだ」


「でも8千もいる働きアリと繋がってるって、それって物凄い魔力量がなきゃできない芸当だよね?」


 つまり女王アリから発された魔力が8千に枝分かれし、1匹1匹に紐付いているということだ。今、僕が知覚している最も僕らに近いアリとも感覚を共有していることになる。女王アリとの距離が離れれば離れる程、魔力を保つのは困難になる。魔力の総量が多くなければできない芸当だ。


 この僕の推論が外れていることをデイヴィッドさんが指摘する。


「いや、それがよ、働きアリ達の魔力を経由してるみてぇなんだよ!」


 なるほど、アリの行列を作るように働きアリ達の魔力を繋いで、女王アリは戦況を把握しているようだ。そして働きアリを自分の手足のようにして使う。


「なるほど」


 これで突破口が開けた。


「皆、止まって!」


 僕の号令でみんなが止まる。ヴィルカシスに股がるデイヴィッドさんだけがこの号令に不満を持っていた。


 グリフォンのお姉さんに下ろしてもらうよう頼んで、僕は久し振りに地に足をつく。まだふらつくがお姉さんが支えてくれた。


 僕は狼のモンスター、ヴィルカシスにデイヴィッドさんを守るよう命じ、それからリュカとお姉さんに2匹のアリをよこして後は僕をアリ達から守ってくれと頼んだ。勿論殺さないようにと念を押す。


「わかりましたぁ~♪︎」

「承知致しました」

 

 アリ達の行軍の音が次第に大きくなり、木々が薙ぎ倒されるような音も聞こえてくる。そして土埃も空を覆うように舞っていた。


「来たぞ!?どうすんだ!?」


 デイヴィッドさんはそう言うと、隣にいるヴィルカシスは「ワン」と鳴き、戦闘態勢に入る。


「リュカ!お姉さん!頼んだよ!?」


「はいッ!」

「御意!」


 リュカとお姉さんはそう言ってアーミーアンツの群れに向かっていった。

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