第156話 謎
〈セラフ視点〉
「大丈夫ですか?」
ベッドの上で横になるファーディナンドさんが目を覚ましたので尋ねてみた。
「はい…少し目眩がしますが、問題ありません……」
マシュお姉ちゃんやメイナーさん、デイヴィッドさん皆が部屋で見守り、ファーディナンドさんの無事を確認して安堵した。念のため、僕が身体強化と精神強化をかけて、休息して貰うことにした。もう夜だ。明日の朝まで寝ていてもらおう。しかしファーディナンドさんは言った。
「も、申し訳ありません…私が油断していたばかりに……」
「いえ、ファーディナンドさんのせいじゃないですよ!それに皆何事もなかったみたいですし!」
僕はそう言いながらも内心ドキドキしていた。なんと人に乗り移れる魔法を唱えられる者が敵におり、ファーディナンドさんにその魔法をかけ、マシュお姉ちゃんの元へ訪れていたのだから。
幸い──いや何故だかわからないが──何事もなく終わった。マシュお姉ちゃんも何ともないらしい。
うっすらとファーディナンドさんから人魂のようなモノが出てくるのが見え、そして何故だか燃え尽きてしまった。僕はそう説明し、皆の意見を募った。
メイナーさんは言った。
「本当に殿下は何もされていないのでしょうか?」
マシュお姉ちゃんは答えた。
「ええ…食べ物を部屋の丸テーブルに置いて、私に視線を合わせたら何故だか、倒れてしまったわ?それで私が心配して覗き込むと、怯えるようにして部屋の外へ──」
「そんで、俺とぶつかったってわけか……」
デイヴィッドさんが話を引き継いだ。僕もそれに乗っかる。
「それで僕を前にして、燃え尽きちゃった……」
ジャンヌが言った。
「おそらくセラフ様に乗り移ろうとしたのですね」
マルクが後に続く。
「しかし偉大なるセラフ様のお力を前にして、燃え尽きた…その者は実に幸せだったのではないでしょうか?」
僕は尋ねた。
「え、なんで?すんごい熱そうにしながら消えていったんだよ?」
「彷徨える魂が浄化されたのです。それは至上の喜び。その喜びを抱き締めながらその者は天に昇っていった…実に理想的な最後です!」
「ん~まだどこかに潜んでるかもしれないから、念のため警戒しとこうか?」
リュカが返事をした。
「は~い!」
僕は言った。
「それよりも皆、お疲れ様!皆がいなかったら作戦は成功しなかったよ!」
僕の言葉に、デイヴィッドさん達も続く。リュカ、ジャンヌ、マルク、アルベールさんとセツナさんは照れた表情を見せる。
ジャンヌが言った。
「捕らえた者はどうなさいますか?」
そうだ。ジャンヌはAランク冒険者を捕らえていたのだ。まさかこの戦いに冒険者が参入してくるなんて僕達は考えもしなかった。
その冒険者は一旦外で、拘束しているとのことだ。これから村長様の地下室の牢屋にいれて、幾つか質問に答えてもらう。でも僕は地下牢にはあんまり、行きたくなかった。
そこには領主様と父さんの使いであるヴァングという人がいる。他のヴィスコンティ伯爵の騎兵達は、戦場に置いていった。リュカが偽のヌーナン村を元に高さに戻して、他の兵達と一緒に帝国とバーミュラーの戦場へと逃げていったとのことだ。
ジャンヌが前にバーリントン辺境伯邸で感じた魔力を発する者が参戦しに来るかと思い、兵力を分散させつつ、アーミーアンツ達を投入し、次にアルベールさんとセツナさんで様子を見ながら、強者を誘き寄せていた。リュカの派手な魔法も使ったのだがしかし、実際に釣れたのは、フースバル将軍とAランク冒険者とその仲間達だけだった。
「ん~、尋問は明日からでも良いかな?そのAランク冒険者は大人しくしてる感じなの?」
「ええ、とっても」
デイヴィッドさんが口ずさむ。
「ミルトンか……」
デイヴィッドさんは知り合いのようで、昔同じクエストをこなしたこともあるそうだ。ローラさんはそんなデイヴィッドさんを見て心配そうにしていた。
僕はメイナーさんに尋ねる。
「今回、お姉ちゃんを捕らえる作戦が失敗して、父さんやインゴベル陛下、各国の動きはどうなると思いますか?」
メイナーさんは顎に手をあてながら考えた。
「そうですね──」
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〈帝国四騎士フィリル・グレイス視点〉
天幕に入り、私は頭を抱えた。
バーミュラーの軍との戦争で我が軍は、当たり障りない攻防を繰り返し、数の利を生かしつつ、バーミュラーの兵達を押し込んでいた。いつでも本隊を突撃させ、王女を捕縛するための突破をできるよう準備を整える為の戦闘をしていたのだ。
しかし戦場に動きがあった。
夕暮れ時、ヌーナン村方面より、1万を越える兵が戦場に現れたのだ。だが、これも想定内の動きではある。
王弟エイブルは我々よりも早くヌーナン村にいる王女と落とし子の対処をするため、そしてその後の我々への防御を固めるためにも大量の兵を投入すると予想されたからだ。
また、バーミュラーの兵達はインゴベル派閥であり、互いに反目すると予測でき、連携はしないとも思われた。だから、ヌーナン村方面の防御を別動隊で固めていたのだ。
しかし、ヌーナン村方面からやって来た兵達の強さは予想外だった。その勢いを止めきれず、将である私自身もその対処へと向かわざるを得なかった。援軍でやって来たシュマール王国兵達は魔法や矢にまるで怯まず、戦場で生を実感し、死に安堵していくようにも感じ取れた。決死隊であり狂戦士であった。
4万いた帝国兵が、今日の戦闘で2万にまで減ってしまった。向こうも1万以上の兵を失ったが、我々の目的である王女マシュと落とし子の確保はできなかった。
──エイブルの軍が目的を達したか……
最早それを邪魔だてできる兵もいない。またもやこのバーミュラー付近での作戦が失敗に終わったと思ったその時、帝都より伝令が届いた。
私は封書を開いて中身を確認する。
『目的たる人物を確保するに至らずとも、現在の戦を毅然と維持せよ』
私はこの命令に違和感を抱きながらも先を読んだ。既に戦いは次の段階へと移行していた。
それが──




