第154話 吉報
〈セラフ視点〉
偽のヌーナン村と偽の魔の森を造り、僕らヌーナン村の村民達は、本物のヌーナン村に身を隠していた。
僕とデイヴィッドさんとメイナーさん、スミスさんにファーディナンドさん、マシュお姉ちゃん、ローラさんとアビゲイルと母さんと村長様が『黒い仔豚亭』の食事処に集まり、戦況を確認している。
戦況はアーミーアンツの女王の思念伝達で知らされる。アーミーアンツ達は、戦場の地下を移動しながら、地上に伝う振動や、前線で戦っている他のアーミーアンツ達から情報を集め、女王が僕に知らせてくれる。
リュカとマルクが将を討ち取り、ジャンヌが将の1人を捕縛したとのことだ。
この作戦を思い付いてから、僕らは寝る間も惜しんでニセのヌーナン村を造った。まずは壁と森を造った。壁は魔の森の木を切り出して造り、森は苗木に付与魔法をかけて成長させた。まさか昔リンゴの木に付与魔法をかけた実験がここで役に立つとは思わなかった。
ローラさんはニセのヌーナン村の中は造らなくても良いのではないかと提案したが、仮に空を飛べる者や壁を壊されたら一発でバレてしまうので家屋もちゃんと造った。ヌーナン村をなるべくそのまま再現して造り、まずまずのできだったと自分でも思う。そして僕らのいる真のヌーナン村にも樹木を生やし、森と一体化させた。まるでエルフが住み着いているような村となった。
これらの制作途中、メイナーさんやスミスさん、ファーディナンドさん、マシュお姉ちゃんは唖然とし、初めはこの作戦に批判的だったが、僕の付与魔法を見てからはあまり何も言わなくなった。
途中、焦ったのはバーミュラーからマシュお姉ちゃんを保護する旨を伝えに使者が来た時だ。以前、ヌーナン村から人払いをした際にも使者が来た。だから今回で2回目の訪問である。僕らが建設していたニセヌーナン村に2回目の訪問者が訪れてしまったのだ。村長様とデイヴィッドさんを直ぐにニセヌーナン村に送り、門前で断り、帰らせた。あの時、上空を覗かれたり、壁の内側をチラリと見られでもしたら、一発でバレてしまっただろう。また、いつもよりヌーナン村が近いと疑問を持たれないだろうか?と心配した。
『軍が退いていきます。我々の誘導で、兵士達は帝国とバーミュラー軍の戦場へと向かっております』
アーミーアンツの女王が言った。
僕は皆にそのことを知らせる。
「軍が退いていったって!」
それを聞いて皆が各々声をあげた。
「よしっ!」
「まさか、本当に……」
「1万5千の軍が……」
「凄いわ!」
「やりましたわね!」
「ふぅ……」
皆、一先ず安心していた。
アーミーアンツが1万体いたとしても、それでも兵の数は向こうの方が多かった。リュカにジャンヌにマルク、アルベールさんとセツナさんが如何に強くとも、向こうの将軍を倒すのは困難であると僕は思っていたのだ。
そんな吉報と今まで約700体のアーミーアンツが犠牲になったと報告を受けた。
「……」
僕はこれを皆にはしらせなかった。
メイナーさんが言った。
「王弟軍とこちらの被害はどうなったのです!?」
僕は答える。
「向こうが2千ちょっとでこっちは約700の被害がでました」
ファーディナンドさんが入ってくる。
「2千ちょっと?それでも王弟軍は残り1万3千の兵がいることになります。どうして退いていったのでしょうか?」
「その2千ちょっとの中に敵将が含まれていたからですね。あと──」
途中、リュカとジャンヌとマルクのひくほど大きな殺気がここまで届いてきた。僕は言う。
「その逃げていった兵達はそのまま帝国兵とバーミュラーの軍が戦っている戦場へと向かったとのことです」
メイナーさん達は煮え切らないような表情をするも、それ以上は何も聞いてこなかった。
まだ帝国との戦争を近くでやっているが、直近の危機を脱したことに安堵した僕らは、今までの緊張を解こうと一旦休憩する。其々が部屋に戻ったり、外へと出て、新鮮な空気を吸ったりしていた。
僕も外の空気を吸おうと『黒い仔豚亭』から出た。もう夕暮れ時だ。すると遠くから鳥の鳴き声が聞こえる。
「プーティーウィッ」
偽の森にもとうとう鳥が様子を見にやって来たのだ。警戒心が強いと言われている鳥は、なかなか新しい場所にやって来ることはないのだが、それだけこの森の完成度が高いということだろう。
僕は少し満足しながら、村を歩いた。
─────────────────────
─────────────────────
〈ミルトンのパーティーメンバー・セレス(元四執剣レシェフ)視点〉
森と一体化した村に辿り着いた。もう夕暮れ時であるというのに、村には松明1つ灯っていない。
煙を上げてしまえば、ここに村があることを悟られてしまうからだろう。
私は一際大きな施設──おそらく宿屋と思われる場所──の屋根に止まった。
この村をもう少しよく観察しようと思ったが、私の止まった屋根の下から声が聞こえる。
「まさか本当に退いていくとは……」
「ああ、とてもじゃないが信じられない」
商人のような格好をした丸メガネをかけた者と、長剣を携えた村人が話していた。しかし私は思った。
──この村人は戦士だ……
シュマール王国の戦士をお手本にしたような姿勢である。
商人は言った。
「しかしセラフ君やここの従業員の力は本物です」
戦士応える。
「私もそう思う。だが、1万5千の軍だぞ!?それをたったの半日で退かせてしまった!」
信じられないのは理解できる。だが、あの者達を目の当たりにした私が断言する。全てが真実だ。
商人は言った。
「殿下のご様子は?」
「問題ない。今も少し休むと自室にいる」
私は運がいい。今の会話でこの村人の格好をした戦士が王女マシュの護衛であることがわかった。
──ならばコイツに乗り移り、マシュの部屋を訪れ、マシュに乗り移る……
戦士は商人と別れ、村を散策し始めた。
周囲に誰もいないことを確認し、呑気に身体を伸ばす戦士に向かって私は魔法を放った。
魂が移行していくのがわかる。私は乗り移った者の両手を動かし、観察する。そして直ぐ様、先程まで私の依り代だった文鳥に魔法をかける。
「プーティーウィッ」
と鳥は声を漏らし、その場から動かなくなった。緊急脱出用の鳥にするため、その場から動かないよう魔法を放ったのだ。
手を握り、開く。感覚を自分のモノにしていく。
今まで鳥だったが、その前は女だった。
背丈や体重、筋肉量も違う。
直ぐに身体をならし、この乗り移った者の記憶を辿る。辿ると言っても、こちら側が問いかけ、その回答を元の魂である戦士が答える。私に支配された者は私の質問には必ず答える。
まず自分の名前を問うてみよう。
「ファーディナンド……」
私は口ずさみ、自分の声の低さに驚いた。
そして次にマシュ王女殿下の居場所を尋ねる。
「黒い仔豚亭の本館2階の一番奥の部屋……」
教えてくれてありがとう、ファーディナンド。




