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宿屋無双~転生して付与魔法に目覚めた僕は神の御使いとして崇められてしまう~  作者: 中島健一


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第153話 乗り移る

〈ヌーヴェルの部下切り込み隊のガストン視点〉


 戦場は狂喜の場だ。


 血の匂いなのか武具の鉄の匂いなのかわからないがそれらの匂いが鼻を刺す。戦場は吠える剣戟と断末魔の叫びで沸騰していた。俺の心臓は狂ったように脈打ち、恐怖と狂気が混濁する。目の前で仲間がアーミーアンツに噛み砕かれ、血飛沫が俺の顔を濡らす。なのに、俺の唇は勝手に笑みを刻む。敵であるアーミーアンツを刈る瞬間、獣じみた歓喜が全身を駆け巡る。盾を構え、剣を振り上げるたび、生きている実感と死の影が交錯する。背後で炎が唸り、空は赤黒く染まる。もう一歩踏み出すか、一旦退くか。理性は軋み、ただ本能が俺を突き動かす。


 次の敵が迫る。動くな、死ね、甦れ!!


 そんな狂った戦場に、信じられない死の気配がした。死の気配なんて戦場では常に感じるものだ。しかし、その気配を今までにない程強く感じた。敵のアーミーアンツ以外の全ての人間が動きを止めた。


 その気配に飲まれ、アーミーアンツの餌食になる者。自然と涙を流す者。ひざまずき生を諦める者。様々だった。


 死の影が動きだし、俺の目の前を横切った。俺は死を悟ったがまだ生きていた。しかし次の瞬間、その死が向かった方向で巨大な炎の剣撃が発せられるのを見た。


 その剣撃で俺は焼かれ、死ぬ。そう思ったが、その剣撃が音もなく消えた。


「…ぇ……?」


 声もまともに出ない。そして味方の軍が一斉にモンスターのスタンピードの如く北から南へ逃げ出した。なりふり構わず逃走するその姿を見て、自分も逃げなくてはならない、そう感じた。


 人は想いを共有する獣だ。皆がそうするなら自分もそうする。たまに、何故逃げ出すのか、その原因を探りたいと思う奴もいるだろう。しかし集団での戦いの場ではその思考が個人を殺す。それに皆、何が原因かは知っている。さっきの死の影が原因だ。


 俺も走って逃げ出した。


 どこへ?取りあえず皆の逃げる方向に、だ。


 皆ヌーナン村、壁の南側方面へと逃げ出していく。俺もそうした。俺のいる東側の壁を右に見ながら、角を曲がった。しかしそこに広がる光景は、南側と西側の連中が更に南側──帝国との国境に向かって逃げようとしているのが見えた。


 そうか。今バーミュラーの兵と帝国軍が戦争している戦場へ行けば、この死の影をなすりつけることができる。


 俺も南側に向かって走った。


 暫く走った後に、背後に視線を送るとアーミーアンツの大軍が俺達敗走兵を追っていた。


 北側と西側にいた奴らは俺達とは違った意図で南側に逃げ出していたのがわかった。


 俺は走った。走って走って走った。


 自分の体力なんかも忘れるくらいなりふり構わず走った。そして帝国軍とバーミュラー軍を発見した。


「ハハハハハハ!!人間だ!!人間と殺れる!!」


 アーミーアンツ達と殺し合いなんて今後まっぴらゴメンだ。ましてやあの死の気配を感じる経験はもう2度としたくない。


 俺達は先程いた死の戦場から、ただの戦場へと雪崩れ込み、安堵と平和を求めて帝国兵を襲った。


─────────────────────

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〈ミルトンのパーティーメンバー・セレス視点〉


 文鳥に乗り移った私は、ホワイトの肩から離れ、魔の森に向かって逃げた。


 あんな化け物達が、今まで何の野心もなく、ただの田舎村に身を潜めていたことに驚愕する。


 ミルトンは十分に強い。その強さはソニアやカディル、エレツにも一矢報える程の強さだ。


 そんなミルトンがソニア達に四執剣の座から無理矢理下ろされた私に目を付けた。勿論ミルトンは私のことを元四執剣であると認識なんかしていない。


 3年前、神より力を取り上げられ、始まりの英傑シオンの末裔に渡された。


 私はあの日殺された。しかしかろうじて私は魔法で処刑の場に飛んでいたハエに乗り移ることができた。そしてそのまま死を隠蔽し、ハエの次は人に乗り移っては、今まで生き永らえてきた。魔力の回復をしながら、そして様々な人に乗り移り、人生を謳歌した。


 この時初めて、神から解放されたと感じた。神に見放された私は絶望していたが、新たな人生を旅して新しい境地に達する。


 しかし怨みの感情だけが残り続け、私を支配した。


 そんな折に、ミルトンに目をつけられた。四執剣を倒し、その座に付きたいという魂胆が透けて見えていた。セレスという娘に乗り移っていた私が自分の正体を明かすことなどしない。だからミルトンが私を仲間にする目的を明かすこともなかった。ミルトンは私をただの駒としてしか見ていなかっただろう。だから私もその駒を演じてみせた。ミルトンは私のこの乗り移りの魔法を四執剣のガーランド──カディル──に唱えさせ、乗り移らせることが狙いだった筈だ。


 私もその作戦に乗る。知らないふりをして。そして復讐を遂げるつもりだったが、まさかその最終目標の途中、このようなことになるなんて思いもよらなかった。


 ──アイツらはなんだ!?四執剣以上の化け物達だぞ?


 だから私は逃げた。自分の身体──セレス──に向かって逃げたのではない。私はセレスを捨てる決断を下した。


 この魔法を使って他人に乗り移り、別の人生をもう一度歩もう。そして次の人生はもう決めている。


 ──王女マシュの人生だ。


 単純に王女という人生を送ってみたいからという願望があったということもあるが、あの化け物達はおそらく、王女マシュと何らかの繋がりを持っている筈だ。何故ならあの化け物達が王女マシュを守るために行動しているからだ。


 ──それに、女の身体は実に良い……


 私はホワイトの肩に乗りながら空中を浮遊し、戦場を見渡した際、魔の森の様子を上空から見た。その時違和感を抱いたのだ。


 巧みに擬装されていたが、本当のヌーナン村はもっと奥にある。あの村も壁も、その近くにある魔の森も全て新しく作った擬装に過ぎない。


 私は真のヌーナン村に向けて、翼をはためかせた。

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