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宿屋無双~転生して付与魔法に目覚めた僕は神の御使いとして崇められてしまう~  作者: 中島健一


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第149話 村娘vs

〈ヒルダ視点〉


 ゼンウの後を追うようにして、ヌーナン村の木壁を、私を乗せたケルベロスが飛び越える。壁を飛び越えて驚いた。壁の向こう側は、こちら側よりも10m以上深く窪んでいたからだ。


 ──さっきの魔力と振動はこの土地を沈める為に起きた?


 このまま落ちてしまえば落下によるダメージを受ける。しかし私よりも先に入っていたゼンウが着地を決め、木壁の下に連なる崖を素手で割り、岩石を投げつけてきた。おかげで私を乗せたケルベロスはその岩石を足場にして村の家の屋根へと着地を決めることに成功する。


 空を見上げると、大きな井戸に落ちたような心地がした。村に入り込んだフースバルの兵達はまだ右往左往している。私は屋根の上よりヌーナン村の全容を確認した。村人達はいない。しかし1人の村娘が広場でフースバルの参謀であるタイロンという男と対峙していた。


 村娘はその身長やその容姿には似合わないハルバートを手に握り、その周辺には倒れているフースバルの兵が数人いる。


 ミルトン様曰く、ここは本命ではない。つまり相手は私達の戦力を分散させる為にわざとこの村を沈下させたと言っても良い。だからと言って無視することはできず、私とゼンウが対処することによって、本命を釣りだし、ミルトン様とホワイト、セレスが本命の対応をする。その本命がここに来るのかどうかは定かではない。ミルトン様が本命をここに合流させないよう、本命の動きを制限すると予測できた。


 私はゼンウに広場の方向を指差しながら誘導する。私とゼンウが広場に到着すると、フースバルの参謀タイロンが私達に気が付いた。


「おい!邪魔すんじゃねぇよ!?」


 タイロンの言葉にゼンウは言った。


「今の魔力に当てられて、1人で戦えると思っているのか?」


 私もそれに続く。


「まあ、アンタが先に戦ってくれるなら私らはそれを見て対策できるんだけど?1分も持たないでしょ?」


 タイロンのこめかみに青筋が立つのを確認した。わざとけしかけて村娘と戦わせる。このままタイロンが倒してしまっても良いし、村娘を消耗させてくれても良い。


「は!?てめぇ等がどういうつもりか知らねぇが、この娘は人間だ。お前らは上でアーミーアンツでも相手にしてる方がお似合いだぜ?」


 私はさらに焚き付けた。


「はぁ~、これだから素人は…まぁ良いわ。そんなに戦いたいならどうぞお先に」


 ゼンウも私の意を汲み取り一歩後退る。そんな私らを見てタイロンは満足気に斧を構えた。正直私達もこのタイロンも何が起きているのか全く飲み込めていない。この状況からして村娘が敵であることは間違いない。タイロンも斧を迷わず向けている。


 おそらくだが、さっきの魔法はこの村娘による仕業だ。確かにこの魔法には驚いた。しかしこの沈下によって魔力も殆ど使い果たしてしまった筈だ。ミルトン様曰く、この村娘は囮である。村娘に注意を向けて本命が襲ってくるはずだ。私は周囲を確認した。


 すると上空をミルトン様が横断していくのが見えた。本命が現れ、ソイツを潰しに行ったということだ。


 私はゼンウに視線を合わせて、思いを共有する。


 ミルトン様が出たのであればこの戦は終わったも同然。本命が村娘を助けには来ない。もしかしたらタイロンが倒してしまうかもしれない。そうであるならそれで良い。


 ──しかし王女は一体どこにいるのだろうか?


 タイロンは斧を構えて、ゆっくりと近付いた。タイロンの狙いは接近戦である。魔法詠唱者ならば近接での戦闘は苦手だ。手にしたハルバートは近接もできるというハッタリの可能性が高い。寧ろハルバートを媒介にして魔法を放った可能性もある。魔法詠唱者の杖のような役割をハルバートにさせたということだ。


 村娘との距離をジリジリとタイロンは詰めた。そして一定の距離に達したその時、タイロンは斧を振り下ろし、斬撃と風属性魔法による鋭利な風を合わせた魔法撃を放った。


「へぇ、ただの脳筋じゃないのね……」


 娘に向かって飛ぶ魔法撃。それと共にタイロンは駆け出した。


 タイロンの作戦はこうだ。


 魔法撃をわざと村娘の右半身に向けて放ったことにより、村娘は左に避ける。そこを突進したタイロンが捕らえるという戦法だろう。


 魔法詠唱者に対してお手本のような立ち回りに私もゼンウも感心する。これで本当に終わってしまう気がした。


 ──威力も高い……


 魔法撃はタイロンの狙った方向へと直進している。


 ──村娘は左に避け……ない!?いや、避けられないのか?


 村娘は避ける素振りなど見せない。それどころかハルバートを持っていない方の手で魔法撃にビンタをして、弾き飛ばした。弾き返された魔法撃は崖となった壁に激突して、岩を砕く。


「は!!?」

「ん!?」

「え?」


 タイロンは勿論、私もゼンウもこれには驚いた。既に魔法撃と共に駆け出しているタイロンは村娘の予想外の行動に突進速度を緩めることができない。体当たりをする形となった。


 ──いや、これで良い……


 タイロンの行動に私は、そう評したが、村娘は手にしたハルバートをゆっくりと振り払う。いや、村娘の攻撃があまりにも速すぎてゆっくりと振り払うように見えたと言った方が正確だ。


 突進したタイロンは村娘の高速攻撃によって、首を跳ねられた。そのことに気付かないタイロンの首なし巨体は尚も前進し、村娘を通り過ぎても2歩3歩と首のない状態で駆け抜け、膝から崩れ落ちた。


 村娘は何事もなかったかのような元気な声を飛ばす。


「アーミーアンツちゃん達がやられているので、こちらも同じだけやってしまおうと思います!」


 その言葉を聞いて私とゼンウは──お互いの顔をみることなく──逃げ出した。ゼンウは跳躍して、この死地に入った時と同じようにして崖と壁を飛び越えようとする。私は空高く上空に待機させていた緊急脱出用のストライドバードを私の元へと降下させる。


 しかし村娘は跳躍したゼンウを上回る跳躍を見せ、上昇している最中のゼンウに追い付き、空中でハルバートを振り払う。


「逃がしません♪︎」 


 ゼンウは腰に差していた短剣を、振り払われるハルバートになんとか合わせた。空中で閃光が散る。勝ったのはゼンウの短剣であった。村娘のハルバートは壊れ、破片が粉々となって煌めきながら落ちていく。しかしゼンウも村娘の攻撃によって跳躍力を落とされ、地上には辿り着けず、共に降下していく。


 ゼンウは言った。


「ここは私が押さえる!おそらくこの娘が本命だ!!早くミルトン様の元へ向かってしらせろ!!」


 私はそれに返事をして、私を救出しようとするストライドバードに向かって手を伸ばした。怪鳥は翼をはためかせ降下する。私はその場で飛んでストライドバードの、馬をも持ち運べる足を掴み、上昇する。


 ──よし、これで……


 しかし、ゼンウの切迫した声が聞こえた。


「来てるぞ!?」


「え?」


 私はゼンウの方を見た。彼は未だ絶賛降下中である。


 ──村娘は?


 ストライドバードによって持ち上げられ、上昇していく最中、私はゼンウと共に落下していた筈の村娘を探した。そして違和感を抱く。ゼンウの落下する付近に岩でできた、直径の小さな柱のようなものが空に向かって伸びていたからだ。


「あれは…なに……?」


 そう呟くとゼンウは叫ぶ。


「上だ!!」


 驚愕した。村娘が何故だか私を持ち上げるストライドバードに向かって斜め上空から突進してきているのだ。


 瞬間、私は理解した。


 ──土属性魔法で足場を作った!?


 岩でできた細いあの柱は足場に使用するためだ。しかしこんな考察、今はどうでも良い。


 この村娘は空中で拳を振りかぶり、ストライドバードに向かって振り下ろした。ストライドバードの密集した羽をかき分け、本体にめり込むのがわかる。まるで巨大な鉄球をぶつけられたような威力を私は間接的に感じた。衝撃によりストライドバードの足から手が離れ、落下する。ストライドバードは殴られ、物凄い勢いで突き刺さるようにして壁にめり込んだ。 


 村娘は再び落下する。今度は私に狙いを定めるのがわかった。


 私は落下しながら指笛を吹いて、ケルベロスを落下する村娘に向かってけしかける。


 村娘目掛けて飛びかかるケルベロスだが、村娘は身体を器用に捻り、ケルベロスの3つある顔の1つを蹴り飛ばす。


 その隙にゼンウが私を抱き止めた。


「ありがとう」


「感謝をするならば、ここを無事に出られてからだな……」


 村娘は何事もないように着地した。


 この時、私は再び違和感を抱いた。それは村娘を見た時から感じていたことだ。この違和感は、何故だかこの村娘を攻略するために重要な違和感であると私は半ば確信していた。


 ゆっくりと近付いてくる村娘を見て、その違和感の正体に気が付いた。


 この娘はテイムの対象である。

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この娘はテイムの対象である。 うわー バレた
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