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宿屋無双~転生して付与魔法に目覚めた僕は神の御使いとして崇められてしまう~  作者: 中島健一


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第147話 村の中

〈タイロン視点〉


 恥をかかされた、そんな気分だった。だからフースバル様がまだダメだと言っても俺は言うことをきかなかっただろう。しかしフースバル様は命令してくれた。


『西の門を壊せ…抵抗する村人は切り伏せろ……』


 そんな意味のある戦旗が掲げられた。その後、フースバル様は自ら前線へと向かったのを遠巻きに確認する。フースバル様もきっとアーデンと戦っていた時に苛立ちを覚えていたのだろう。そしてこの村でその苛立ちを晴らそうとしている。


 俺は丸太で作った即席の破城搥を部下達に持ってこさせた。


「早くしろ~!フースバル様が出たからすぐ終わっちまうぞ~?」


 なんでも東側の魔の森からアーミーアンツの群が押し寄せているらしい。そして手練れが2人、アーミーアンツに紛れているとか。その手練れを相手にフースバル様が打って出たのだ。もしかしたらもう終わっているかもしれない。


 ていうかこんな騒ぎなのに、村の中は寝静まったかのように静かだ。中の村人達はアーミーアンツが守ってくれると思ったのか?ていうかアーミーアンツが村人を守るってなんだ?よくわからないことが立て続けに起きている。


 ──そんな時は……


 ドーン、と破城搥を力一杯皆で押し込もう!


「もう1発!!」


 ドーンと大きな音が鳴り響く。その音が俺の細胞を奮い立たせる。


 ──いくさだ!戦いだ!!!!!


 俺の闘志に火が着き、最も燃え上がったその時、バギバギッという音と共に門が破られた。


「行くぞぉぉぉぉぉ!!!!」


 俺は斧の先端を村の中に向けながら、いの一番に門をくぐり、中へと入った。


「うおぉぉぉぉぉ!王女は何処だぁぁぁ!!」


 俺は雄叫びを上げながら村を駆け抜けた。後ろを部下達がついてくる。入ってすぐ俺は気が付いた。この村は何かおかしい。建ち並ぶ家々には人の気配がなく、土の道には足跡一つついていない。開いたままの戸口から覗く室内は、ここには元々人が住んでいないとでも言うような気がした。


 村の西から東へ向かって駆け抜ける。俺の部下達も満遍なく村の中に散り、王女を捜索した。


「タイロン様!!」


 俺を呼ぶ声がする。


「なんだ!?王女がいたのか!?」


 俺は声のした方へと走った。部下が遠くから手を挙げている。この村の最も大きな建造物の中に誘導された。


 俺はその建物、宿屋とおもしき看板がついている木造の建物に入った。中には酒場のような空間が広がっており、そこに50人程の村人とおもわれる者達が両手両足を縛られ、身動きがとれない様子でいた。それだけではない。目を布で覆われ、口には別の布を噛まされて大きな声を上げられないようにされていた。


「なんだ…これは?」


 そんなことを俺が口ずさんでいると部下が拘束されていた1人の目隠しをとり、口に噛まされていた布を外した。


 するとソイツが言った。


「俺達はヴィスコンティ伯爵の私兵だ!ア、アンタらは?」


 俺が答える。ていうか俺が答えるようにと部下が促してきた。


「俺達はフースバル様の兵だ。ここにいる王女を捕らえに来たんだが…王女は……」


 すると外でまた部下が呼ぶ。


「タイロン様ぁ!!」


 俺はこの建物内から外へと出た。


「なんださっきから?少しは落ち着かせろ!」


 俺は声のする方へ向かった。すると広場に出た。そこに1人の少女がいた。少女はハルバートを背負っている。


「おっ!?第1村人発見!!」


 少女の近くには部下が数名倒れている。俺は少女に近付くと部下が言った。


「お気をつけくださいタイロン様!その娘、普通の村娘じゃありません!!」


「はぁ?確かにハルバート背負ってるけどよぉ、お前らどうしたんだ?」


 するとその渦中にある娘が歌うように言った。


「えっとぉ、皆様、千人が入られたようなので少しばかり足止めさせて頂きます♪︎」


「ん?」


 少女は背負っていたハルバートを手にし、それを掲げる。可愛らしく片足を上げてポーズをとり始めた。


「なんだなんだ?」


 俺はその少女に近付こうとしたが次の瞬間、少女の身体から身の毛もよだつような魔力が発せられた。鳥肌が立つと共に冷や汗をかいた。俺はその一瞬にしてかいた冷や汗を飛ばしながら斧を構える。


 ──ただの娘じゃねぇ!!

 

 そして先程の門を破った破城搥よりも不吉な音と振動が聞こえ始める。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。


 すると四方を囲んでいる木製の防護壁が空高く伸び始めた。いや、この大地が沈んでいる。


「はぁぁ!!?」


 陽光が更に遠くなり、俺達に影がさす。


「これは、魔法…なのか?」


─────────────────────

─────────────────────


〈ザクセン視点〉


 ウェスタンは水属性魔法を駆使しながら、暗殺者の女の風属性魔法を打ち消し、握り締めた長剣で攻撃を繰り出していた。


 常に水を浮遊させて、いつでも防御や攻撃をできるように備えている。


 暗殺者の女がエアリアルという中級魔法を唱えた。女の掌から竜巻が発生し、ウェスタンを切り刻もうとする。しかしウェスタンも掌から水流で竜巻を作りそれにぶつけた。女の作った竜巻とは逆の回転を加えたものだった。その為、お互いの魔法は打ち消しあい、その副産物として突風と水飛沫が周囲に散らばる。その隙にウェスタンは女との距離を詰め、長剣を振り払う。


 女は後方へ飛び、アーミーアンツの背に乗ったが、そのアーミーアンツは先程のウェスタンの斬撃によって上下に切断され、崩れた。体勢を崩した女は地面に手をつきながら着地する。ウェスタンは斬撃に水属性魔法を伴わせ、威力を高めていたのだ。暗殺者の女の背後にアーミーアンツがいなければ、女はウェスタンと水平に距離を取ったことになり、上半身と下半身を別つように両断されていたことだろう。


 俺は思った。このウェスタンの実力は将軍や四騎士と同等である。相性が悪いからという理由で俺は女に敵わないと思ったが、この女の実力は相当なモノだ。しかしそんな女をものともしないウェスタンに俺は舌を巻いた。


「ウェスタン!俺もこの戦いに加わっても良いか……?」


 フースバルの兵は一対一を好む武人が多いと聞く。この問いにウェスタンが肯定しても否定しても俺はこの戦いに加わるつもりだ。仮に否定してもらえば俺は姿を眩まし、戦いにいそしむ女を暗殺しやすくなる。


 ウェスタンは言った。


「参戦してもらって構わない……」


 意外な返答であったが、これはこれで良い。先程、ヌーナン村にタイロンが門を破り侵入しているのがわかった。このアーミーアンツの襲撃により、ヌーナン村の中も何か普通でないことが起きていると思われた。だからこの女との戦闘を早々に終えたい。


 俺は相対する2人の視界から消えた。


 そして人形を高速で形作り、女の背後より襲わせる。


 女は背後を振り返って、掌をかざし、魔法を唱えた。俺の人形は切り刻まれたがこれで良い。女が後ろを振り向いたその隙に、ウェスタンが距離を詰めて、長剣を振り払った。女は先程のウェスタンの攻撃を思い出したか、後方へ飛ぶことはせずに、先程唱えた手とは反対の手で風属性魔法をウェスタンに向けて放つ。


 しかし片手の出力ではウェスタンの攻撃を受け止めきれない。女は後方へと吹っ飛ばれた。アーミーアンツの側面に激突し、ダメージを負う。ウェスタンに向けてかざした女の手は血まみれだ。俺はすかさず、追い討ちをかけようと待機させていた人形を女に向けて突進させ、握らせた長剣を突き立てる。


 ──とった!!


 俺はそう思ったが、俺の人形と突き立てた剣はバラバラに切り刻まれた。女は眼前に鋭利を帯びた風の壁を造っていたのだ。


「ちっ……」


 女は立ち上がる。


 ──だが、今のでかなり消耗した筈だ……


 しかし俺の思惑は外れる。女の腕は回復し血が止まっているのだ。


「なんだと……?」


 俺が驚いていると、背後から(ヌーナン村の壁の内側から)途轍もない魔力が発せられ、戦場が一瞬静寂に包まれた。そして大地を揺るがす地震が生じる。


 俺が狼狽える中、ウェスタンはそれには構わず、掌を空に向けて、女を仕留めようと水の飛沫を頭上にまいた。水飛沫は女の頭上で一瞬制止しすると輝き、鋭い剣に変形する。中空に無数の水剣が浮遊し、透明な刃達は光を屈折させる。ウェスタンはかざした手を振り下ろし、すべての水剣を女に向かって放った。


 ウェスタンは言った。


水刃嵐すいじんらん……」


 なるほど、風属性魔法の盾は消耗が激しく、一方向しか防がない。ウェスタンの判断に俺は賞賛した。


 無数の水剣は流れるように舞い、力強く空を斬り裂きながら女の元へと向かったが、一瞬にしてその全てが煙となって消失した。


「なに?」


 静かに流れる川のように冷静なウェスタンが思わず声を漏らした。


 そしてアーミーアンツの群を掻き分けて、1人のくすんだ金髪の男が現れた。


 ──また新手か?


 その男は言った。


「おぉ…同胞が殺られている……しかしどうかお許しを……これが初陣であることに私はどこか高揚しているのです……」


 ウェスタンはその男を見るや呟いた。


「…化け物か……?」

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