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宿屋無双~転生して付与魔法に目覚めた僕は神の御使いとして崇められてしまう~  作者: 中島健一


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第146話 手練れ

〈ザクセン視点〉


 青色の胴体の蟻。その大群がこの地を埋め尽くす。冷ややかな金属を思わせるその胴体、触覚が空を刺し、蠢く無数の足が無造作に動くのを見て寒気が伴う。アーミーアンツの大群だ。ここへきて思いもよらぬ攻撃を俺達は受けていた。討伐難易度にしてD-。駆け出しの冒険者パーティーでも相手にできる。だがそれは1体ならばという条件付きだ。今回は数が多すぎる。凡そ3千はいるアーミーアンツに俺達の軍は押されていた。


 俺は魔力を使い、魔法体を複数用いてアーミーアンツを倒していった。1体につき、5体の人形で相手にする。何体かを仕留めたが、これでは効率が悪い。集団戦はどうも苦手だ。やはり俺の軍は押され始めている。そうかと思うと、俺の人形達1体につき複数のアーミーアンツが狙い始めた。


 ──妙だな……

 

 俺は人形を操ることを止め、アーミーアンツの餌食にさせる。どう戦えば良いかと考えているその間にヌーヴェルがこちらにやって来て、アーミーアンツの勢いを止めてくれた。おかげで俺の軍は持ちこたえることができ、しばらく戦場を観察する猶予ができた。しかしヌーヴェルの切り込み隊も押され始めている。3体のアーミーアンツが同時に切り込み隊の1人に狙いを定めて攻撃しているのがわかった。俺の人形が受けた攻撃だ。


 ──なるほど……


 俺は北側からと南側からフースバルの軍が援軍に来るのを見てから、ヌーヴェルに指示を出しに、奴に近付いた。


「このモンスターはお前を狙っている」


「え?そうなの?」


 俺は観察して得た情報を元にヌーヴェルに助言した。


「お前の切り込み隊も戦力の高い者程狙われているぞ。アーミーアンツを倒せば倒すほど奴等のフェロモンにかかり、脅威とみなされ、群となって襲ってくる」


「じゃあどうすりゃ良い?」


「距離を取りながら、遠距離で仕留める」


「俺の斬撃で?」


「そうだ」  


 そう言って、ヌーヴェルは俺に感謝をしながら襲い掛かってくるアーミーアンツの攻撃を跳躍して躱した後、そのままアーミーアンツの背を足場にしてヌーナン村の防壁の北東側へと向かっていった。


 ──ヌーヴェルがアーミーアンツを引き付け、こちら側の負担を軽くし、北側のフースバルの軍がやって来るのを待てば良い……


 こちらは全軍あわせて1万5千もいるのだ。たった3千のアーミーアンツならば問題はない。南側からもフースバルの軍が援軍としてやって来るのが見える。


 一先ず、東側の軍を崩壊させないという俺達の役目は達成できると思った。しかし気になることがある。


 それは、何故この時を見計らったかのようにしてアーミーアンツの群が襲いに来たか、だ。


 ──操られているのか?


 俺は突撃してくる1体のアーミーアンツの攻撃を後ろに飛んで躱した。そして跳躍中に魔力糸を複数その青色の胴体と幾つかの足に付着させ、身体を操ることに成功する。そしてそのまま他のアーミーアンツに攻撃させてみた。


 手足と最後は鋭い顎を使って、アーミーアンツの顔を挟み潰す。


 アーミーアンツは味方からの攻撃に虚をつかれ、難なく1体を倒すことに成功した。


 ──俺の操るアーミーアンツにはフェロモンがついた筈だ……


 そのフェロモンを嗅ぎとって他のアーミーアンツ達がこのアーミーアンツを襲うだろうと当たりをつけた。こうやって効率的にこのモンスターの群を減らそうと思ったが、俺の予測は外れる。


 アーミーアンツは味方を襲おうとはしなかった。


 ──何故だ?いや、このままもう1体操ってみるか……


 再びアーミーアンツを操ろうとしたが次の瞬間、俺の魔力糸が切断された。


「!?」


 ここは戦場である。味方の放った魔法が漂魔弾ひょうまだんにでもなったのかと思ったが、違った。


 魔法が放たれた方向を見ると、アーミーアンツ達の隙間に見覚えのある三角帽子を被った女がいた。おかしなことにアーミーアンツ達はその女を襲おうとはしていなかった。


 女は俺に向かって魔法を唱える。


「ウィンドウアロー」


 俺に向かって一直線、翡翠色に輝く風の矢が飛んできた。


 ──早い!?


 避けるのは不可能。


 ──ならば魔力体を盾にする!?


 魔力体で作られた人形を、俺を守るように出現させた。強度を最大の5体分にして風の矢を防がせる。


 しかし、矢は俺の最硬度の人形を貫通する。


「なにっ!?」


 そのまま矢が俺の身体を貫こうとすると、今度は俺の側面から別の魔法が水飛沫をあげながら放たれた。その魔法は女の唱えた魔法とぶつかり合うと甲高い音を立てて打ち消しあった。


「!?」


 俺は新たな魔法詠唱者の方を見た。そこにはフースバルの参謀であるウェスタンが黒衣をはためかせながら女に視線を向けていた。


 ウェスタンは女に視線を合わせながら言った。


「助太刀致します……」


 俺は鼻を鳴らし、了承してから言った。


「この女は、暗殺者だ…何故ここにいてアーミーアンツの女王を気取っているのかわからない……」


「見知った顔でしたか……」


「この女と俺は相性が悪い。フースバル将軍に、この情報を伝えようと思うのだが、この場を任せても良いか?」


「その心配はいりますまい…既に我が主は動き始めましたゆえ……」


 ウェスタンの言葉と同時に北東方面、ヌーヴェルが向かった辺りで歓声が聞こえた。


─────────────────────

─────────────────────


〈ヌーヴェル視点〉


 俺の剣戟についてきている。


 ──いや、それ以上か!?

 

 俺は大剣を振り下ろすと、アルベールは軽やかに半身となって躱した。次の瞬間、奴の持つ俺より小さな長剣が閃き、鋭い痛みが腕に走る。見ると、浅い切り傷できており、そこから血が滲んでいた。


「ちっ、速えな!」


 俺は歯を食いしばり、大剣を構え直す。


 アルベールの長剣が再び閃き、俺の脇腹をかすめる。


「は!?」


 今度は声が出た。焼けるような痛みに顔を歪めつつ、大剣を横に薙ぐが、奴はひらりと跳んでかわす。なんて身軽さだ。


「舐めるなよ!」


 俺はえ、力を込めて大剣を振り下ろした。地面が割れるほどの斬撃がアルベールを襲うが、奴は宙で身を捻り、着地と同時に突進してきた。長剣が俺の胸を狙う。咄嗟に大剣の柄で受け止め、火花が散る。


「ハッ、いい動きだ!」


 俺は笑い、力任せに押し返す。だが、アルベールの目は冷静で、隙を窺っているのが分かる。傷の痛みが俺を焦らせる一方、奴の刃が再び迫ってきた。


 ──この前やりあった時とはまるで別人!?


 俺は全身を切り付けられ、致命傷を避けることしかできない。


 ──このまま受けに回っても、消耗させられるだけだ!?


 アルベールの長剣の切先が俺の胸に向かって飛んでくる。俺は利き腕とは反対の片腕を差し出し、長剣が突き刺さることを容認する。そしてアルベールを捕まえることに成功した。


「捕まえた♪︎」 


「お前ッ!?イカれてんのか!?」


 アルベールに止めを刺そうと、反対の手に握った大剣をアルベールに突き刺そうとした。しかしアルベールは長剣から手を離し、後方へと飛ぶ。俺は突き刺さった長剣を引き抜いた。抜いた拍子に血が飛び出て、激痛が俺を襲うが、俺はなんだか笑けてきた。


「ハハハハハハハハハ!!?」


 俺と距離をとり、武器を失くしたアルベールに追い討ちをかけようとするが、膝ががくりと落ちる。大地に膝をついた。


 ──血を流しすぎたか?


 アルベールは目を光らせる。奴は駆け出し、懐から短剣を取り出し、俺の顔面に向かって迫ってきた。しかし、俺の背後から地面に斜めに突き刺すように槍が突かれた。アルベールは急停止して、再び後方へと飛び去る。槍は大地に突き刺さり、そこを中心として円形に大地を穿った。俺はそれに巻き込まれまいとアルベール同様、力を振り絞って後方へと飛んだ。


 するとこの槍の攻撃をした者が誰だか判明する。カイトス様と同じ位の将軍、フースバルだ。


 漆黒の鎧を着て黒馬に股がるその様は、戦場の死神と呼ばれるに相応しい。俺は暫しフースバルの姿に見とれていると、フースバルは馬上より俺に向かって振り返る。


「なかなかの武勇であった…これを飲んで後方へと下がれ……」


 ほうられた回復薬を大剣を握っていない方の手で受け取ろうとするが、激痛が走った。


 その腕を犠牲にしていたのを忘れていたのだ。地面に落ちた回復薬を拾い、飲もうとするが、俺は言った。


「アンタはいらないのか?」


「必要ない……」


 フースバルの言葉を聞いて俺は回復薬を飲み。フースバルはアルベールと相対する。その際、周囲にいたフースバルの軍が歓声を上げていたのに気が付いた。フースバルと共にこの激戦区へとやって来たのだろう。


 痛みは消えたが、暫くまともに大剣を振るえない。切り込み隊の元に戻ることに決めたがしかし、この一戦を俺は観戦したいと強く思った。俺が手も足も出なかったアルベールに対してフースバルはどうやって戦うのだろうか?


 ──てか、どんくらい強いんだ?


 そんなことを考えていると、フースバルは馬から降り、俺が片腕を犠牲にしてようやく奪えたアルベールの長剣を拾い上げ、何を思ったかそれをアルベールに投げ渡しやがった。


「はッ!?俺が折角武器をとったのに!?何してんだぁぁ!?」


 フースバルは俺に構わず、アルベールに言った。


「本気で来い。お前の武威を私に示せ。いや示さねばならぬ……」


 アルベールは長剣を下から上へ眺め、刃溢れがないか確認しながら言った。


「…アンタ、本当に将軍かぁ?周りを見てみろよ?主力を足止めされて、そっちの軍はそれどころではないみてぇだぞ?」


 俺はアルベールの言う通り辺りを見回した。確かに東側が押し込められている。


「問題ない…今正にヌーナン村にも突入する作戦が開始されている……」


「あぁ、そうかい」


 アルベールは焦ったか、先程俺と戦っていた時と同じくらいの速度で馬から降りたフースバルに斬りかかった。


 フースバルの眼前で止まり、その移動速度よりも更に速い剣筋でフースバルに襲い掛かる。


「はえぇ……」


 しかしフースバルは片手でアルベールよりも速い速度で槍を振り払い、アルベールの剣を弾き返した。


「なに!?」


 アルベールとほぼ同時に俺も声を上げた。


「うおっ!?」


 仰け反るアルベールの胸に、低く構えたフースバルは槍を突く。勝負あった。そう思ったが、アルベールは身を捻って、フースバルの槍から逃れた。しかし、胸が抉られるようにして切り裂かれ、血を流し、膝をつく。


「ぐはっ……」


 フースバルは一言告げてから止めを刺そうとした。


「見事だ」


 俺の獲物だったが今回は完全に俺の敗けである。だから横取りされても文句は言えない。フースバルは膝をつくアルベールの顔面に槍を放とうとしたが、しかしアルベールは今までと同じ様な速度でそれを躱して後方へと下がった。


「む?」

「は?」


 俺と同様、フースバルは困惑の声をあげる。フースバルは俺の心情を代弁した。


「何故動ける?」


 距離を取ったアルベールの全身を眺めた。俺とフースバルは更に驚く。アルベールの身体から血が止まっており、傷も塞がっているように見えたからだ。 


 アルベールは言った。


「マジですげぇな、これ……」 


 何について言ったのかわからない。フースバルは言った。


「回復魔法か?それとも不死身か?ちょうど良い…不死者を殺してみたいと思っていたところだ……」


 俺とアルベールはフースバルの言葉に対して同じことを言った。


「イカれてんな!?」

「イカれてるな!?」


 そしてこの時、西側よりヌーナン村の門が破られる音が聞こえた。

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