第145話 アーミーアンツの大群
〈ヌーナン村東方面に配置されたヌーヴェル視点〉
カイトス様から離れて、フースバルの軍に加わった。フースバルはヌーナン村の西方面に陣を築き、西・北・南と自分の見える範囲を自軍で固め、東側(魔の森方面)を俺達カイトス様の軍に押し付けた。俺の隣にはザクセンがおり、それぞれ東側を半分ずつ分けるようにして隊列を組んでいる。
そもそも王女様を捕らえるなんて作戦にこんな軍は必要ないだろうと思っていたが、なんとここは帝国との国境が近い。その帝国は昨日国境を越えようとしてきたというのだ。
ここに潜む王女様を捕らえるのはついでで、俺達はこの後、帝国と戦う。
俺はワクワクしながら、早くこの作戦が終わるのを待っていた。フースバルの部下であるタイロンが大きな声でヌーナン村の人間に呼び掛けている。
しかしそれがあまりに、たどたどしくて、俺達切り込み隊の隊員達は笑った。俺も笑ったけれど、文章を読めない俺ではそもそもタイロンのようなことができない。文字の読めるタイロンは凄いと思った。ここまでの行軍中、何回か手合わせしたが俺と同等の強さであり、その上文字が読める。俺の中でタイロンの評価が上がる。
ドーンという大きな音がタイロンの声がしているところから聞こえた。
「フースバル様ぁ!?これ、もうやっちゃっていいっすよねぇ!?」
タイロンはそう言ってから少しすると、北側の兵と南側の兵が唸り声をあげた。
俺は辺りをキョロキョロと窺う。
「え?これやっちゃう感じ?」
切り込み隊、つまりは俺の部下のガストンが言った。
「たぶんそうすっかね?」
すると俺達の背後から地鳴りがし、それに伴って足元から突き上げてくるような振動が俺達を襲う。
「なんか来るぞ!?なんか来るぞ!?」
俺はワクワクしながら背後を見た。隊列を組んでいる部下達も、首を回して後ろを見ている。俺はその部下達の隙間から森の暗い闇の奥に青みがかった何かを発見した。
俺は首だけではなく、もう身体全身を森に向けている。ヌーナン村にはもう興味がなくなっていた。そしてその青みがかった何かは次第に色が濃くなり、姿を見せる。
巨大な蟻だ。しかも大量の。
「総員!背後の蟻を討てぇ!!」
俺達は反転して、蟻の群を迎え撃った。雄叫びと鞘から長剣を引き抜く音が聞こえる。
「クソッ!」
俺が一番後ろにいるせいで、戦闘になかなか参加できない。硬質なモノどうしがぶつかり合う音と肉を裂く音、悲鳴がこだました。
「よく見えねぇ!!」
切り込み隊は蟻に攻撃を加え、対応しているが、隣のザクセンの隊が押されているように見えた。
俺はそれを本能的に悟り、指示を出す。
「お前ら!このまま蟻を押さえてろ!俺はザクセンの隊を助けにいく!!」
「了解!」
「あいあい!」
「わかったぜ隊長!」
ザクセンは本来、隠密に隊を動かし、敵の兵の虚をつくのが上手い。この手の正面衝突は得意じゃないのを知っている。
俺は持ち場から離れ、兵達の間を縫ってザクセン隊のところまでやって来た。前線は、押し込まれている。俺は背負った大剣を抜き、挟み込もうとする蟻の硬質な牙を叩っ切った。
痛みに仰け反る蟻。その隙に露となった腹部に大剣をぶっ刺し、引き抜く。息する暇もなく次の蟻へと狙いを定めた。駆ける足を加速させ、ザクセン隊の前線に襲いかかる蟻の腹部と頭部の繋ぎ目をわかつように大剣を振り下ろした。
「ッしゃあおらー!!」
ザクセン隊に感謝されたが、今度は俺が今の蟻を仕留めたように俺の側面から蟻が突進してくる。俺はその蟻を大剣を盾のようにして構え、押さえ込んだ。
近くで見ると、巨大な蟻の顔がとても恐ろしく見えた。俺は大剣で蟻の頭突きを抑え込みつつ、その恐い顔面に蹴りを入れた。後方に吹っ飛ばすことができたが、次々と巨大な蟻が津波のようにやって来る。正面の1体と左右の2体、3方向から俺を襲ってこようとしてきた。
俺は大剣を振り回し、風圧で蟻を3体吹っ飛ばした。吹っ飛ばしたは良いが、今度は5体が押し寄せる。
──コイツら……
すると俺の隊も徐々に押し込まれ始めているのが見えた。
俺はもう一度、大剣を振り回すが、風圧が足りず5体の内3体しか吹き飛ばせない。残る2体が俺に向かって押し寄せる。いや、そのさらに奥からもう5体が俺に向かって迫って来る。俺は縦に大剣を振り下ろし、1体を両断した。その脇にいたもう1体を、振り下ろしたことで地面に刺さった大剣を軸にして蹴り飛ばす。そして向かってくる5体に俺は突撃した。
まず1体を串刺しにした。そして剣を回転させながら引き抜き、斬撃を四方へと飛ばす。残る3体は倒せたが、もう1体が顔を半分にしながらも襲いかかってきている。その更に奥からまたもや大量の蟻が押し寄せてくるのが見える。
「はぁ、はぁ…こりゃ楽しいが、きりがねぇな……」
俺は大剣を振り払い、残った1体を倒そうとしたがしかし、別の者に倒された。
息切れする俺の背後に声が掛けられた。
「このモンスターはお前を狙っている」
ザクセンだ。どうやら先程俺が仕留め損ねた1体を倒したのはザクセンのようである。
「え?そうなの?」
「お前の切り込み隊も戦力の高い者程狙われているぞ。アーミーアンツを倒せば倒すほど奴等のフェロモンにかかり、脅威とみなされ、群となって襲ってくる」
「じゃあどうすりゃ良い?」
「距離を取りながら、遠距離で仕留める」
「俺の斬撃で?」
「そうだ」
俺はザクセンに感謝を告げ、この場を離れ、ヌーナン村を囲う壁の東側と北側の交わるところへと蟻の背を足場にして移動した。その間に北側からフースバルの軍が援軍として東側へとやって来るのがわかった。おそらく南側からも同様に援軍がやって来ているだろう。
俺は着地し、距離を取るが、そうはさせまいと蟻が俺の方へ向かって大量にやって来る。しかし俺の方が足が早いため、一定の距離が生まれた。そしてザクセンに言われた通り、大剣を振り回し、斬撃を飛ばす。
一撃で数体仕留められるように、俺の苦手な計算をしながら飛ばした。
──2体、4体…あれで5体か?
何体かを仕留め「これで10体目だ」と思い大剣を振り下ろそうとしたが、次の瞬間、俺の側面から腹部に向けて蹴りが炸裂した。
「うぶっ!?」
吹っ飛ばされ、大地を滑りながら受け身を取る。腹に鈍い痛みが伴った。
「ぐっ…誰だ!?」
そこには見覚えのある暗殺者がいた。
「お前は、アルベール……?」
「よう、久しぶりだなカイトス将軍の斬り込み隊長、名前は…なんだっけ?」
「ヌーヴェルだ!!」
「そうそれ」
何故暗殺者のアルベールがここにいるんだ?
「俺がここにいるってことは、どういうことかわかるか?」
「……」
「お前バカだからわかんねぇか?」
「バカって言うな!」
「でも早いとこ俺がいることを報告した方が良いんじゃねぇか?それともここであの時の続きをやろうか?」
色んなことが頭に過ったがすぐに屑かごに入れた。
「やる一択だろ!」
俺は大剣をアルベールに向ける。蟻は何故だか襲ってこなくなった。




