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宿屋無双~転生して付与魔法に目覚めた僕は神の御使いとして崇められてしまう~  作者: 中島健一


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第143話 聖なる獅子殺し

〈バーミュラー都市長ロバート・ザッパ視点〉


 今朝方とうとう、帝国軍が動き出し、前回の侵略のおよそ倍の、4万の兵でシュマール王国の国境警備施設を襲った。


 騎兵隊隊長のアクセルは、施設にいる兵の救出と足止めをする為に、8千の兵を連れて帝国との国境へと向かう。


 しかし我々の作戦は一時の時間稼ぎのようなものだった。施設を帝国へ譲り、油断した隙に爆破させる。


 我々の思惑通り、多くの帝国兵が犠牲となり、足止め及び、その施設で防衛を努めた兵達の救出に成功する。


 明日にでも帝国は瓦礫となった施設を越え、我々と戦うことになるだろう。しかしこの時間稼ぎによって我々の作戦が功を奏する。現在、夜と共にエイブル殿下の軍、凡そ1万5千の兵がここバーミュラーへと訪れた。


 明日、この軍がヌーナン村を襲っている側で、我々は帝国との戦いを開くつもりだ。それが我々のできる唯一の抵抗である。仮にヌーナン村が早々に王弟軍によって潰され、マシュ王女殿下が捕らえられようものならば、帝国軍をけしかけても構わないと考えている。


 ──その隙に、マシュ殿下を奪取する……


 そしてこの小都市バーミュラーの都市庁舎、私の執務室にて六将軍のフースバル将軍が重い甲冑を身につけたまま入室してきた。フースバルは漆黒の兜越しに私を睨み付け、私をどう倒そうかと一瞬思案した後、声を発した。


「ザッパ殿、エイブル陛下の軍の駐屯を許可して頂き、感謝する……」


 私が六将軍だった頃にフースバルが任命されたのだ。あの頃と全く変わっていない闘争心を今も剥き出しにしている。私は問う。


「カイトス将軍はいらっしゃらないのか?」


 いくら、私が元六将軍といえど、今は小都市の都市長だ。将軍の方が位が高い。ここは変に反感を持たれないよう敬語を使用した。


「カイトス・リンゼイはルミヴェイルにてエイブル陛下と共にインゴベル軍と戦うこととなっている…王女マシュを捕らえる作戦を速やかに完了するためにカイトスの主力も私の手に委ねられている……」


 これは計算外である。カイトスとは昨日の談話で、裏切りを示唆する発言があった。それを見越してかエイブル殿下はそうはさせまいとカイトスとその主力を分断してきたのだ。


 フースバルは続ける。


「…して帝国の侵略はどうするおつもりか……?」


 私は足止めに成功したことを告げてから答えた。


「明日、前回の侵略の際に撃退した地まで誘き寄せ、そこで戦闘を開始するつもりです」 


 フースバルは言った。


「明日の我々の作戦は、おそらく直ぐに終わる。そうなった場合、消化不良である我が軍が加勢することを許可してもらおう……」 


 願ってもない申し出だ。


「ええ、そのようにして頂けるのならばこちらも助かります。それと、フースバル殿の兵をお返ししようと思うのですが……」


 フースバルは暫く虚空を見つめ、わかったと言ってから執務室を後にした。フースバルの兵を罪人のように引っ捕らえていたのだ。このことを告げればひと悶着あると思っていたが、フースバルは戦い以外まるで興味がない様子だ。その人間性は変わらぬかと私は思い、明日の正念場に向けて、風に当たろうといつもの壁の上へと向かう。


 もしかしたらそこにマシュ王女殿下の護衛でありバルカ殿の教え子に会えたらと想いを馳せた。


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〈Aランク冒険者ミルトン・クロスビー視点〉


 以前宿泊したバーミュラーの都市庁舎、そこの食事処に俺達のパーティー『聖なる獅子殺し』は夕飯を食べていた。


 ライ麦のパンに、野菜のスープ、鶏胸肉の香草焼き、鹿肉のロースト、それらを香り豊かな赤ワインで流し込む。魔法詠唱者のホワイトはパンをちぎり、赤ワインに浸して頬張った。ホワイトの容姿は子供だが実年齢は40を越えている。そんなんだから酒を飲む際は、何かと面倒事が起きたものだが、ここでなら問題ない。そんなホワイトがワインでパンを流し込んでから言った。


「凄いね、たかが王女を拐う…じゃなくて保護するだけでこんなにも兵を寄越すなんて。それに僕達まで呼んじゃってさ?これってギルド法に抵触しちゃうんじゃないの?」


 その疑問に絹のドレスに身を包み、優雅な微笑みを浮かべたセレスが俺を見ながら言った。


「ミルトン様がギルマスより受注をされたのだから何の問題もないはずよ?ね、ミルトン様?」


 甘えた撫でるような声を俺に向ける。俺は言った。


「ああ、そうだ。だが俺達の目的はあくまでも魔の森の調査だ。そこまでの道のりを護衛として王弟軍についているだけだ」


 ホワイトが言った。


「何とも贅沢な護衛だよねぇ~。っていうか、1万5千もいるんだよ?モンスターに襲われても何とかできるでしょ?」


 テイマーのヒルダが文句をつける。


「アンタって黙ってクエストをこなせないの?」


「は?クエストに疑問の余地があるだけじゃん?それを指摘して何が悪いの?」


「ミルトン様が受けた仕事なんだ。私らはそれに黙って従えば良いんだよ」


「うわー、それって思考停止じゃん。そんなんだからこの前みたいにケルベロスが言うこと聞かなくなって、不足の事態に対処できなかったんだよ」


「は?なんだとちびすけ!!」


「人の容姿をいじる時は頭使うんだね。偉いね」


「殺す!」


 ヒルダは立ち上がろうとしたその時、全身毛で覆われたゼンウがいさめた。


「2人とも騒ぐな。折角のご馳走が不味くなる」


 ゼンウは帝国の更に南に住むと言われる獣人である。ゼンウは静かに温かいハーブティーを啜った。


 俺は言う。


「ホワイトのいう通り、今回の依頼はかなり特殊だ。ギルマスのガーランド曰く、ヌーナン村を王弟軍が襲った際に、何かが起こると言っていた」


 先程まで言い合っていたホワイトとヒルダが俺を見て同時に尋ねる。


「何かってなに?」

「何が起こるのですか?」


「具体的には知らないが、おそらくランディル・エンバッハが何かをしてくる」


 ホワイトは言った。


「ランディル・エンバッハって放蕩ほうとうの魔導師の?」


「そうだ」


 今度はヒルダが尋ねる。


「そんな人がどうして?」


 俺はこの前のバーミュラーで感じた殺気やウィンストンに教えてもらったランディルの情報をパーティーに共有していない。勿論ウィンストンのことについてもだ。そしてこの依頼を無事達成できたら、俺の最後の目標である四執剣の座につけることも言っていない。それどころか、コイツらは四執剣のことすら知らない。


 俺はパーティーメンバーに言った。


「そのランディル・エンバッハが魔の森でモンスターを大量に操っている可能性がある」


 全員が驚きの表情を見せる。ホワイトがまたもや疑問を呈した。


「え?なんで?」


 俺は答える。


「この間、ここバーミュラーでヒルダのケルベロスがいうことを聞かなくなったろ?」


 王女マシュの捜索任務に参加したホワイトとヒルダが頷く。


「実はあの時、俺は異様な殺気を感知していた。その殺気にケルベロスは反応していたんだと俺は考えている」


 ホワイトが後を付け足す。


「だから、王女捜索のクエストを破棄したのね?そのランディルって奴がヒルダのケルベロスを操ったってこと?」


 ヒルダは反論した。


「いや、テイムした私のモンスターに更なるテイムをかけて上書きすることはできない筈です!」


 ヒルダの最後の部分は俺に訴えかけるようだった。


「ランディルがヒルダのケルベロスをテイムしていたかどうかはわからないが、混乱させるような魔法を秘密裏にかけていた可能性ならある。精神支配の類いだな」


 ヒルダは口ずさみつつ、俺に尋ねた。


「精神…支配……ミルトン様はもしや、そのランディルを仲間にしようとなさっているのですか?」


「そんなことはないから安心しろ。あの時は何故放蕩(ほうとう)の魔導師がそんなことをするのかわからなかったが、王弟が反乱を起こし、世界を巻き込む大戦が勃発していることから、ランディルはそれを鎮めたいのではないかと俺は思っている」


 ゼンウが言う。


「成る程、前回も今回も王女絡みだ。だからギルドマスターは今回もランディル・エンバッハが邪魔をしてくると考えているということか。しかしここでまた疑問が浮上する。ギルドマスターはどうしてそんなにランディル・エンバッハを目の敵にしているか、だ」


 するとその問いにはホワイトが答えた。


「そんなの簡単じゃん?早く戦争を終わらせて、冒険者がクエストをしやすいような世界になってほしいからでしょ?そうしないとギルマスも商売あがったりじゃん?」


「本当にそれだけの為なのか……?」


 俺は締めくくった。


「明日、王弟軍が主導する。俺達はそれを見物し、モンスターの動きがあり次第討伐する」


「質問、質問!」


 ホワイトが手を上げながら言った。


「そのランディル・エンバッハが出てきたらどうする?」


「俺がやる」


 俺達の会話を聞きながら、セレスは葡萄の実を人差し指と親指で挟み、皮をずらようにして実を押し出しながら食べていた。

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