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第130話 ギヴェオン

〈ランディル・エンバッハ視点〉


 インゴベルは王都へと帰還を果たした。王弟エイブルは既に王都の城から脱出をし、恐らくだが北西のロスベルグを囲う王弟軍《自軍》に合流しようとしているのだと思われる。


 インゴベルは王都へと帰還し、真っ先に王妃イナニスと王女マシュに会いに行ったが、王女の姿が見当たらないことに気が付き、狼狽え始める。


 しかし狼狽えている時間などない。直ぐに北西の王弟軍を迎え撃つ準備をしなければならないのだが、私からすればそんなことすらも後回しにしろと言いたかった。


 直ぐに城の地下にある封印の場所へと向かわせたかったが、インゴベルの気持ちをおもんぱかるべきだと思ったのだ。そうしなければ私の言うことをきかなくなる恐れがあった。だから先ずはインゴベルの好きにさせてやった。


 その分、考える時間が増える。


 あのソニアとの戦闘中に起きた魔力の爆発は悪魔が誕生したような感覚だった。しかしソニアとシオンの末裔の反応を見るに、奴等の預かり知らぬ出来事であることがわかった。あれが新たな悪魔なのか神なのかわからぬが、調査すべきだろう。


 ──次から次へと厄介なことが……


 それとソニアとシオンの末裔だが、もしかしたら王弟と合流しているかもしれない。この悪魔の封印された地を取り返そうと躍起になっているかもしれぬ。


 さて、もう深夜だ。


 インゴベルはアーデンを引き連れて──いやアーデンが無理矢理ついて来たように見えるな──やって来た。


「エンバッハ殿、此度の力添え、誠に感謝す──」


「感謝など要らぬ」


 私の言葉に隣にいるアーデンが青筋を立てたのがわかった。しかし私は続けて言った。


「早く、血の儀式を済ますぞ?」


「そのことなのですが、どうしてエンバッハ殿はカルネイア祭で行う儀式を重要視しているのですか?」


 説明する時間ももったいないくらいだが、ここからその地下空間までの道中になら説明しても構わないと思い、歩きながら説明した。


「カルネイア祭はただのみせかけだ」


「みせかけ?」


「貴殿は王位を受け継ぐ時、何も説明を受けていないのか?」


「いえ、王の血を聖杯におさめ、それを地下にそなえることくらいは先王のクラインを見ていて知っているのだが」


「何故、供えるのだ?」


「それは、豊穣を願って──」


「本気で言っているのか!?」


 私は歩みを止め、叱責した。


「あの儀式はギヴェオンのかけた血の封印の猶予を持たせるための儀式だぞ!?」


 私の言葉遣いにアーデンが苛立ちを交えながら返す。


「さっきから無礼な物言い、いい加減にせぬか!?」


 私は言った。


「それはこっちの台詞だ!少なくともイフライエムやその子らは全うしていたぞ!?」


 インゴベルは言う。


「先程から話が見えない。どうか無知な私にご教授頂けないだろうか?」


 私はフンと鼻を鳴らし、城の地下空間までの道のりを進む間、説明する。


「私は龍族の末裔だ」


「龍族?」


「ああ、既に数千年生きている」


 一笑に付しながらアーデンは言った


「信じられぬな」


 私はそれに返した。


「信じようが信じまいがどちらでも構わない。ただ、ギヴェオンの末裔がやるべきことの重要性を教えるだけだ」


 私は続けた。


「お前らの信仰する女神セイバーとは、我々龍族の者から言わせると悪魔に等しい」


 その言葉にアーデンがまたもや激昂しようとしたところ、インゴベルが諌めた。私は少し間を置いてから続ける。そしていちいち止められるのも面倒だから、これからその悪魔のことは神と言い表すことにした。


「お前らの神は、人間に力を与えられる恐ろしい存在だ。最初の契約者…お前らからすれば始まりの英傑に当たるシオンはその神より力を与えられ、我々龍族の柱とも言える風龍ヴェルティゴンを討伐した後、バラバラだった部族をまとめ上げる」


 我々はアーデンを先頭にして、地下へと続く階段を下りた。


「その後シオンは姿を消した。そして次に新たな英傑が誕生する。シオンの次の英傑ヨタム」


 我々は長い螺旋状の階段を下る。アーデンやインゴベルは12英傑の話なら知っていると言ったような反応だ。


「ヨタムと、シオンに従っていた者達による戦いは、シオンがいなければ言わずもがなヨタムに軍配が上がる。しばらくヨタムの時代が続いたが、ヨタムも死に、新たな英傑が神に力を与えられる。そうして貴殿の先祖であるギヴェオンがここ聖地を治め、国を興した」


 インゴベルは緊張した面持ちで相槌を打つ。


「ギヴェオンは火龍バアルを討伐したが、その際に自らの神に疑問を抱いたのだ。本当に自分達の神が正しいのかをな」


 インゴベルは口ずさむ。


「そんな話は聞いたことがない……」


 アーデンは言った。


「我等を惑わす嘘の可能性が高いですな」


 私は答える。


「火龍や風龍、他にも英傑達によって討伐された水龍に地龍は、それぞれこの世界の災害や天変地異を抑える役割を担っていたのだ。またそれぞれの龍がいた場所には私のような龍族が暮らしていたが、英傑達は我が一族達を皆殺しにした。ギヴェオンはその時、自らの信ずる神を疑った。現に火龍バアルを倒した後、火山の噴火や異常気象が観測され、農作物は不作となり飢えや病がシュマール人達に蔓延する。その時お前達の神は──」


 我々はようやく目的の地下空間へと辿り着いた。今まで滑らかな石で作られた階段だったが、ここからはゴツゴツとした岩肌を剥き出しにした空間が広がっている。聖地という名目であるため、整地すら禁止されているのだ。私はこの空間を見つめながら言い直した。


「お前達の神は、何もしなかった」


 私の声がこの空間に響き渡る。


 アーデンが言った。


「フッ…その四龍が英雄や蛮勇に討伐されたが、今こうして我々は災害や飢饉に見回れず過ごせているではないか?」


 私は今まで相手にしていなかったアーデンをキッと睨みつけた。


「それは全ての龍の長であるクリード様のおかげだ!風龍が倒れ、火龍が倒れ、残る龍達も倒れたが、クリード様が支えたのだ!!あのお方が自らの命を捧げて今も世界の崩壊を抑えている!!」


 流石に腹が立ったが、私はその怒りを抑えて続きを話す。


「ギヴェオン曰く、ここの神はクリード様の行動すら読んでいたと言う。これで自分の信仰を世界に知らしめ、力が得られると恍惚に語ったそうだ。そしてギヴェオンはここにいる神とのたまう存在を危険視して封印を施す」


「封印……」


「そうだ。全知全能だがなんだか知らぬが、お前達の神はギヴェオンの魔法を侮っていた」


「ギヴェオンの魔法……?」


 インゴベルの呟きに私は尋ねる。


「そんなことも知らぬのか?」


 アーデンは苛立ちをつのらせながら答えた。


「四大属性魔法の全てを使いこなすのだろう?そんなことシュマール人なら誰もが知っている」


「バカか。そんなことができる人間など存在しない」


 アーデンはまたしても青筋を立てる。


「文献に残っているぞ!それもかなり詳細にな!!」


「確かにギヴェオンは火を操り、風を操り、水と大地を操った。しかし四大属性魔法の全てが自由に使えた訳ではない」


 痺れを切らしたアーデンは私に怒鳴る。


「ならば英雄ギヴェオンが宿した魔法とはなんなのだ!?」


「付与の魔法だ」

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