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第124話 スタンピード

〈ハルモニア三大楽典プリマ・カルダネラ視点〉


 帝国兵とモンスターとの、入り乱れての乱戦中だ。始めこそ前方を帝国兵、後方をモンスターといった挟撃の形を取られたが、次第に帝国兵とモンスター、神聖国兵と三者が混ざりあっての大混戦へともつれ込んでいた。


 そして私は、戦闘をしていたドウェイン・リグザードを見失い、暫くモンスター達を相手どっていると、そのリグザードを発見した。


 奴も私と目が合い、お互いニヤリと笑いかけながら、旧知の友に駆け寄るように、走った。お互いが武器を振り上げ、一気に振り下ろす。今までずっと戦闘中だったせいか、リグザードのハルバートが重い。もしかしたら一度本陣へと戻り、回復薬でも飲んだのかもしれない。


 私は来た道を逆走するように、弾き飛ばされた。大地を滑るようにして足をつけ、土をえぐり、弾き飛ばされた威力を押し殺す。ようやく止まることに成功すると、その背後から巨大な蜘蛛型のモンスター、ネルスキュリアが襲い掛かってきた。私はリグザードから視線を外して、後ろを向き、ネルスキュリアの鋭く尖った足の攻撃を姿勢を低くして躱す。そのまま前転をしてネルスキュリアのふところ──その巨大で気色の悪い斑模様の胴体を右半身と左半身とにわかれるようぶった斬った。


 一撃で葬りさるには火属性魔法を使わなければならない。今までの戦闘、そしてこれからの戦闘を考えるとなるべく魔力を節約したいが、魔法を唱える選択を取った。何故なら前からリグザードが突進して来ているからだ。ネルスキュリアを相手取り、背後をリグザードに襲われてはたまらない。


 ネルスキュリアを一撃で滅却すると、リグザードに向き直る。奴は手に握るハルバートの間合いよりも遠い位置で、それを振り下ろそうとし始めるのが見えた。


 ──斬撃か!?それとも何か魔法を飛ばすつもりか!?


 しかし、ハルバートを振り下ろす途中で、リグザードの側面を、硬質な表皮を持つ巨大な亀のようなモンスター、ブラスト・トータスが襲い掛かる。


 リグザードは急遽、私に向かって振り下ろそうとしたハルバートをそのブラスト・トータスに向けて、振り下ろした。


 ハルバートに触れずに、ブラスト・トータスは裂傷を負い、その場で倒れる。


 ──やはり、斬撃か……


 私は、ブラスト・トータスに対応を迫られたリグザードに向かって走り、炎を纏った長剣を叩き付けた。リグザードは瞬時に私の攻撃に反応し、ハルバートを力一杯ぶつけてくる。


 ガチンと密度の高い金属同士がぶつかり合う音が魔の森に響き、火の粉が舞った。そこから衝撃波が生じ、私とリグザードを襲う。


 お互い、その衝撃波に飛ばされ後退すると、私の側に暗部のアンネリーゼがいた。アンネリーゼは囁く。


「プリマ様、そろそろここから退きましょう……」


 ほぼ無意識で私は言った。


「邪魔すんな!今新しいステップを思い付きそうなんだよ!?」


「……」


 私はリグザードの元へと独特なステップで向かい、奴の前まで行くと、長剣を横に振り払い、炎を纏った斬撃を飛ばす。


「うおっ!?」


 リグザードは驚きの声を漏らすと、その斬撃をハルバートで何とか受け流す。しかし、私は横に振り払った動きを利用して、そのままリグザードに背中を向けるようにクルリと半回転し、身体を弓なりに反らして長剣を背面に向かって振り下ろした。


 リグザードはその攻撃に対応できなかったが、偶然にもハルバートと私の長剣がぶつかる。


 私は正面を向き直ると、リグザードの持つハルバートは真っ二つに斬られていた。リグザードは武器を失くし、観念したのか私に止めを刺されるのを待っている。


 私は言った。


「…楽しかったぞ、ドウェイン・リグザード」


 リグザードは息を弾ませながらニヤリと笑った。しかし次の瞬間、魔の森を揺るがすような衝撃と爆発音が轟いた。


 私はリグザードから目を反らして、その爆発音のした方を見た。しかし先程のリグザードの笑みはこれを待っていたものではないかと、思い、リグザードに視線を戻す。


 リグザードも魔の森の最深部方面へ視線を向けていた。暫しの沈黙が続く。何故沈黙が続いたのか、それはこの乱戦中の要因の1つであるモンスター達がどこかへと去っていったからだ。


 不気味な嵐の前の静けさにも似た空気がここを満たす。


 すると、先程と同じ最深部方面から轟音と巨大な火柱が天に登っていく光景を目の当たりにする。


「な、なんだ!?あれは……」


 そして、鳥や虫、ネズミ等の小動物が私達の足元を最深部から魔の森の入り口、東から西に向かって駆け回る。


「ちっ!?」

「なんだちくしょう!?」


 モンスターのスタンピードの如く、早く安全な魔の森の入り口付近まで行きたいのか脇目もふらず駆け回る。何匹かが私の足を這いずり回りながらよじ登る。私はその気色悪さに全身に鳥肌が立った。だから全身を火属性魔法で覆い、ネズミや虫を葬った。


「何が、起きている?」


 異常なことが起きているのは理解できる。神聖国兵も帝国兵もお互いの陣営に戻りつつあった。すると先程のような地震がこの戦場を襲った。下から突き上げてくるようなその揺れは次第に大きくなる。


 ──いや、これは地震ではない……


 足音だ。モンスターによる行進、正真正銘のスタンピードである。


 それも低ランク帯ではなく高ランク帯、魔の森最深部よりやってくるモンスターによるスタンピードだ。


 ──なるほど…クレイルの仕業か?


 ここへ来て、ようやくリディア・クレイルが動き出したのだ。


「臨むところだ!!」


 私は長剣を魔の森最深部よりやって来るであろうモンスターに向けて構えた。


 姿を現したのは最深部への入り口付近を棲息地としている討伐難易度B+のミノタウロスの群れだった。そしてその後ろには人間を一飲みできる程の巨大な狼のようなモンスター、討伐難易度A-のガルムハウンドであった。私はその姿を見て、震えが止まらない。何故なら頭蓋骨を剥き出しにし、肥大化したピンク色の筋肉がその肉体を突き破り肉眼で確認できるのだ。見ただけでおぞましい姿をしている。


 しかしその前にミノタウロスが岩を削って出来た棍棒を私に向かって振り下ろしてきた。


 ──はやいっ……


 私はギリギリでそれを躱す。そのミノタウロスは私の後ろに回り込んだ。私はこう思った。


 ──今の一撃をよけれたのはまぐれだ……次食らったら……


 私は直ぐ様後ろを振り向き、背後へと移動したミノタウロスを見やった。しかしそのミノタウロスはそのまま魔の森の中間部に向かって走っていった。


 そうこうしていると先程のミノタウロスの後方を走っていた別のミノタウロスが私に攻撃を仕掛けてくる。


 私は自軍の拠点に戻る選択を取ろうとしたが、最深部から波のように押し寄せる凶悪なモンスター達が拠点を破壊していると予測し、兵達に命令した。


「総員!オリンポス山脈麓の本陣まで退却しろ!!」


 ドウェイン・リグザードのことも忘れて、私達は退却した。


─────────────────────

─────────────────────


〈帝国四騎士ドウェイン・リグザード視点〉


 死を覚悟した。


 そもそもが格上の存在であった。


 きたねぇ罠にかかるよりも、強者に殺されたい。そう思った。しかし、魔の森に巨大な火柱が昇ると、モンスターのスタンピードが起こった。


 強者であったハルモニア三大楽典のプリマ・カルダネラは目の前からいなくなり、俺に向かって討伐難易度B+のミノタウロスの群が走ってくる。俺はその場から直ぐに後退し、拠点まで戻った。


 途中、またしてもスタンピードに巻き込まれそうになったが、プリマ・カルダネラに折られたハルバートをぶん投げて何とか、いやかなり無様に生き延びた。


 部下である帝国兵達ともはぐれてしまった。俺はそれでも拠点へ戻れば、何とか助かるかもしれないと思った。それも、帝国情報局のマルティネス・ベルガーがいれば何とかこの危機も切り抜けられるかもしれない。


 俺はアイツのことが嫌いだった。しかしそれは単なる嫉妬だったのかもしれない。アイツには何か底知れぬ強さがあると俺は感じていたんだ。だからアイツと合流すればまだ、何とかなるんじゃないか、そう思った。


 ──もう少しで、拠点につく!!


 木を伐採し、開けた空間に拠点を設けたのだ。森の切れ間が見え始めた。


 ──よし!ここを抜ければ……


 森を抜け、開けた拠点に着いた、筈だった。


 俺は思わず声を漏らす。


「拠点が…ない……」


 その声はこの開けた何もない空間に虚しく響く。陽も沈み始めていたのが、この開けた土地でようやくわかった。


「何故だ!?何故何もねぇ!?ベルガーはどうした!?部下達は……!?」


 するとこの開けた土地に1人の男が現れた。


「おや?モンスターかと思いましたが、人間でしたか?」


 くすんだ金髪の冒険者のような格好をした男だが、ここにいると言うことは帝国兵で間違いない。


 俺は言った。


「ベルガーはどうした?それとどうして拠点がねぇんだ!?」


 拠点の心配よりもベルガーの安否の確認を先に訊いてしまったのは、自分でも情けなく思う。


 すると寒気が俺を襲った。


「ベルガー……」


 俺は後ろを振り返った。何故なら俺の背後でその声が聞こえたからだ。しかし振り返る動作ができない。  


 ──なんだ!?魔法か!?


「ッ!?」


 声もでなかった。気付くと俺は背後から頭を鷲掴みにされ、片手で持ち上げられている。


 ──馬鹿な!?俺を片手で持ち上げて……


 しかし俺はいつの間にか首だけの存在となっていることに気が付いた。


 ──はっ!?


 次第に意識が途切れ始める。金髪の男の声が不鮮明に聞こえる。


「マルティネス・ベルガーなら私が殺しました。セラフ様に仇なす者は私が許しません」


 そう言って金髪の男は俺の頭を握りつぶした。

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