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第114話 帝国vs神聖国

〈セラフ視点〉


「それ以上、報告しなくていい」


 ジャンヌがアーミーアンツの女王に制止をかける。


『も、申し訳ありません……』


 女王は謝罪をしたが、僕は訊かなければならないと思った。


「ううん。女王様は悪くないよ。報告してくれてありがとう。ジャンヌも僕のことを思って止めてくれて、ありがとう」


 僕は帝国兵の拷問の様子を女王様から聞いていた。そして思った。


 ──これほど酷い行いがなされるとは考えていなかった……


 こんな行いが許させるのか?ならば神とは一体何なのだろうか?


 しかし女王様曰く、捕らわれた神聖国兵は決して口を割らず、神を信じ続け、1人散々痛め付けられた後、見せしめに殺されたとのことだ。残る3人は引き続き今でも拷問が行われているそうである。 


 死後、神聖国兵達の願うような楽園に彼等は行けたのだろうか?そんな世界があることを僕は願わずにはいられなかった。


 ジャンヌが神聖国兵や帝国兵から情報を引き出したのだって、確かに恐怖を煽った結果であるが、直接的な攻撃をしたわけではない。精神的な攻撃の方が酷いという人もいるかもしれないが、それは帝国兵のしたことよりも本当に酷いと言えることなのだろうか?僕ははっきりと答えを出せずとも自分の中に浮かんだ別の回答を心の中で念じた。


 帝国兵は決して、ヌーナン村に近付けてはならない。


「セラフ様、大丈夫でしょうか?」


 ジャンヌが僕に訊いてきた。


「うん、帝国兵を村には近付けないから安心して!」


「いえ、そうではなく、セラフ様のお心が傷付いていないかを、お尋ねしました……」


「……」


 帝国兵の行った拷問の内容をアーミーアンツより聞いて、心がざわついていたのだ。それをジャンヌに指摘されてしまった。


「体調が優れないのであれば、この戦争は私だけで──」


「大丈夫!戦争なんだよ!?しかも神聖国兵が拷問されたのだって、ううん。この戦争が起きているのだって僕のせいなんだ。僕が神聖国と帝国を戦わせようって言ってしまったから……だからこの戦争を見て見ぬフリなんかできないよ!」


「…承知しました」


 そう了承すると、ジャンヌは気を取り直して神聖国兵達の様子についての報告をした。


「神聖国は我々が尋問をしたのをきっかけに、最深部へと進軍するのを中断し、最深部(そこ)から来るであろうリディアの攻撃に備えるよう防御を固め始めました。そして南下している兵の中で、戻ってこない小隊(帝国兵に拐われた4人の兵)があることを気にしている様子です。兵を小隊ではなく大隊に編成し直し、一直線に南下しておりましたが、その幅を広げ、中央軍、右軍、左軍と隊列を組んでおります。対して帝国はハルモニア神聖国兵を捕らえたのを機に、北上を続けております。このまま行けば夕暮れ前には帝国兵と神聖国兵がぶつかるかと思われます」


 両軍北方と南方に本陣を構え、中央軍、右軍、左軍と軍を展開するだろうと予測できた。


 戦争では単純な武力の押し合いもそうだが、戦略と情報が重要である。その内の1つである情報を僕らはアーミーアンツの思念伝達により得ている。戦況を──どちらの軍も魔の森最深部に入り込まなければ──完全に把握することができた。 


 僕は思った。


 ──帝国兵、神聖国兵を魔の森中間部に押しとどめ、できれば帝国兵を危機に陥れさせ、最深部に軍を展開してもらい、その際のリディア・クレイルの様子を観察したい……


 アーミーアンツの女王が言った。


『両中央軍が衝突しました』


 僕らの戦いも今、始まった。


─────────────────────

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〈ハルモニア神聖国三大楽典プリマ・カルダネラ視点〉


「帝国兵がこの魔の森にいるだと?」


 今日の昼前、暗部を派遣し行方不明者達を捜索させた。その前に誘拐されたエリア・スコウィッチの時とは違い、今回の誘拐には明らかな痕跡が残っていた。


 隠密が得意な暗部にかかれば誰がどのようにさらったのかがわかる。暗部は更に隠密行動をし、さらった者達を突き止めた。そう、これがモンスターではなく人為的な誘拐であることが確定したのだ。そして驚いたのは誘拐した者達の正体だ。


 ──ヴィクトール帝国……


 拐った者達も我々同様、冒険者のような格好をしていたと言うが、帝国製の武具を身に付けいてるのがわかった。これがリディアとシュマール人が組んで、敢えて帝国製の武器を使い、我らを撹乱する罠か、とも思ったが、特徴的な体型と顔を持つ帝国四騎士のドウェイン・リグザードを発見したとのことだ。


 奴が兵を率いて魔の森の南部いる。何故魔の森に帝国兵がいるのか、その数や全体の規模等を把握するには至らなかったが、それなりの数を魔の森に潜ませていることがわかった。


 まず思ったのは、最深部にいるリディアが帝国と手を結び、魔の森一帯を支配しようとしている可能性についてだ。 

 

 それについては私の直属部隊、暗部の部隊長アンネリーゼによって否定された。アンネリーゼは垂れ下がる銀髪を耳にかけながら私に言った。


「エリア・スコウィッチという神聖魔法兵を拐ったのがリディア様の従者であると仮定した場合、今回拐った帝国軍とまるで連携が取れておりません」


「リディアの従者はエリア・スコウィッチから情報を聞き出せず、痺れをきらした帝国軍が新たな神聖国兵を拐った可能性もあるだろ?」


「ならばそのエリア・スコウィッチを生きて我々に返す必要はなく、エリアを帝国兵に引き渡せば良いのではないですか?」


「そのつもりだったが、女神によってエリアは助けられ、預言を授かった……?」


「その預言が本物ならば、南だけでなく東にも注意しろと言及されるのではありませんか?」


「ならば何故帝国が魔の森にいる!?」


「それは帝国兵に直接訊いてみましょう」


 私達は最深部へ向かう作戦を取り止め、防御を固めさせ、南下する兵達を中央軍、右軍、左軍にわけて進行させた。アンネリーゼによると帝国も中央軍、右軍、左軍に分けて北上しているとのことだ。私達と違うのは中央軍が前に出過ぎている、ということだ。


 すると私達の中央軍が帝国と衝突することになった。


 私は命令を飛ばし、急いで拠点を出て、南の魔の森の中にある新しく造った拠点へと走った。


「最深部付近にいる左軍は斜陣となり、最深部から来るかもしれないリディアの兵、もしくはモンスターに注意しろ!」


 帝国軍はこちらの中央軍の先頭部隊と相対すると直ぐに攻撃を仕掛けてきたとのことだ。武力に相当な自信があるのか、帝国中央軍は神聖国中央軍に何の策略も無しにぶつかってきているらしい。


 拠点の南、魔の森に造ったもう1つの拠点に着くなり私の元に続々と帝国軍の情報が入ってきた。もう夕暮れ間近だった。


「帝国中央軍およそ3千!」

「帝国左軍は1500程度!」

「帝国右軍も1500程度!」

「帝国右軍、及び魔の森最深部に動きはありません!」

「こちらの右軍はいつでも動けます!」

「こちらの中央軍が押し込まれております!」

「帝国中央軍に、四騎士ドウェイン・リグザードと思われる者がいるとのことです!!」


 私は、最後の情報を聞いて立ち上がった。


「まずいな……こっちは全軍で5千、中央軍には千人しかいない。対して帝国中央軍は3千。そこにリグザードがいるとなると面倒だな……」


 するとアンネリーゼが言った。


「私が行って、足止めします」


 私はアンネリーゼに忠告した。


「気を付けろよ?リグザードは残忍で名高いかならな」


「心得ております。私が行く理由は単なる足止めです」


 幸い、エリア・スコウィッチの預言のお陰で、こちらの防衛の基盤はしっかりしており、伝達が円滑に行き渡る。魔の森を把握しているということだ。


 私は作戦を言い渡す。


「中央軍は時間を掛けさせ、退却を演出しろ!右軍は私が合流するまでその場で待機だ!頃合いを見て前進させる!!」」


 アンネリーゼは了承の返事をしてから中央軍に合流するために、風属性魔法を駆使して魔の森を疾走した。これがアンネリーゼの速度の秘訣だ。


 私は中央軍ではなく攻撃の主軸にすると決めた右軍に向かった。

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― 新着の感想 ―
ついに始まりましたね。 セラフさんも本格的動き出しそうで、目が離せません! そして、とどまるところを知らないリグザードさんの風評(笑)
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