表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/131

第110話 収穫

〈セラフ視点〉


 大きな収穫があった。


 宿屋で働く石像さんに精神強化を施し、神のような振る舞いをしてもらった。その振る舞いというのがよくわからないが、捕えた神聖国兵を騙すことができた。


 この石像さんは女神セイバーとジャンヌと最後の6蛮勇にしてハルモニア神聖国の信仰するソニアにも似ているように造られている為に、上手く騙すことができた。


 しかし、いくら似ているとは言え、石像だ。石像と自分の信仰する神様を見間違えるなんてあまり考えられないだろう。だから僕は神聖国兵に中枢神経系に存在する神経伝達物質であるドーパミンを付与魔法によって高めさせ、幻覚を引き起こしやすい状態にした。


 そこに石像さんと脳に直接語りかけるような思念伝達をアーミーアンツの女王様に使ってもらい、神聖国兵に情報を吐かせた。


 そう、神聖国兵と対話をしていたのはアーミーアンツの女王様だ。自分を神だと思いながら尋問して、と難しいことをお願いしてしまったが、上手くできていた。


 そしてリュカの土属性魔法によってアーミーアンツの巣を崩落させ、神聖国兵の気を失わせた。あとは神聖国軍に発見されるよう魔の森のどこかに安置すればいい。


 恐怖という風に吹き飛ばされることはなかったが、その熱い信仰心のせいで彼は自ら情報を吐いてくれた。僕は『北風と太陽』という寓話を思い出していた。


「さて、情報を整理しよう」


 僕とデイヴィッドさんとジャンヌはアーミーアンツの巣の中で会議を開く。リュカには村を守って貰うためにこの場から離れてもらった。


「ハルモニア神聖国が来た理由は、リディア・クレイルを捕縛する為だった。ハルモニアから来たと思われるこのゴーレムを造ったお姉さんはどうやら魔の森最深部まで入ったが警告、或いは威嚇をされて退散した。それがおそらくリディアからの宣戦布告として捉えられた」


 じきに情報を漏らした兵のことを神聖国軍は見付けるはずである。


「そうなればさっきの兵の言うことを気にして、南から北上してくるの帝国兵に警戒してくれる…かな?」


 デイヴィッドさんとジャンヌは僕の言葉に頷き、そうなったと仮定して僕は続けた。


「問題なのはリディアの動きがおかしいことだよね?」


 ジャンヌが言った。


「はい。仮にリディアが神聖国より派遣された者(ゴーレムの製作者)を追い返したのならば、我々に交渉を持ち掛けても良かった筈ですし、おとなしすぎます」


 僕はジャンヌの後を引き継ぐ。


「そうだよね?もしかしたら今何かの準備をしているのかもしれないけど、それにしても妙だよね……だからここは北に駐屯する神聖国兵と南に駐屯する帝国兵を争わせて、同士討ちを狙いつつ、合わせて最深部にいるリディアの動きを観察すべきだと思うんだ」


 デイヴィッドさんが言った。


「なんなら帝国兵を最深部に誘っても良いんじゃねぇか?」


 神聖国兵は追い返されたが帝国兵ならリディアは交渉の場を設けるかもしれない。


「確かに良い案だと思う……というか無理に誘わないで、神聖国と帝国を争わせるだけで良いかもしれない」


 どうしてだ?とデイヴィッドさんは訊ねたので僕は答えた。


「神聖国は今回の件で、最深部にいるリディアを警戒してなかなか最深部に入らないと思うんだよね。そこで南から帝国兵がやって来た場合、最深部に警戒こそするかもしれないけど兵を最深部へ向かわせることはしないと思う。帝国兵とリディアの2つを相手にしないといけないから。その状態で帝国と戦争をした場合、帝国兵ががら空きの最深部を突く可能性がある」


「なるほど、帝国兵自ら最深部に入って神聖国兵を打ち破ろうとするかもしれないってわけだな?」


 ジャンヌは言った。


「おそらくその場合、神聖国はリディアの攻撃を予測して東の守りを固めるので、帝国軍は神聖国軍を回り込むようにして、最深部を北上すると思われます」


 帝国軍が逆の西側から回り込む可能性もあるけれど、その場合は神聖国軍に見付かるリスクがある。また、帝国軍の様子からして、ごり押しの正面突破のみって可能性もある。


 ジャンヌは提案した。


「帝国兵も1人拐さらいましょうか?その方が戦況を動かしやすいかと……」


 ジャンヌさん。やっぱり発想が恐いですよ。


 しかし、僕もデイヴィッドさんもジャンヌの意見に反対する材料を持ち合わせていなかった為、ジャンヌは帝国兵を拐う準備に取り掛かる。


 そして直ぐにジャンヌは同じ要領で帝国兵の1人を誘拐し、アーミーアンツの巣で尋問を行った。帝国兵は、神聖国兵とは違いジャンヌの魔力に当てられると直ぐに作戦内容を吐いた。


 ジャンヌ曰く、帝国兵は力と恐怖で支配されているとのことだ。つまりは尋問で帝国の恐怖を上回る恐怖で塗り潰せば、その者を簡単に支配できるとジャンヌは語った。そして情報を漏らしたことを誰かに言えば死ぬ、と魔刻印を刻み、帰した。


 ──やっぱりジャンヌさんは恐い……


 帝国兵が漏らした情報によれば、やはり魔の森を神聖国が支配していると思っているとのことだった。


 派遣された帝国兵の数は7千──アルベールさんの言った通り──で、森の中の行軍にしては、早い速度で北上している。軍を率いているのは帝国四騎士の1人、ドウェイン・リグザードという者であり、フォレストベアーと力比べをしていた人物であることがわかった。


 ──神聖国兵にも誰が軍を率いているのか訊いておけば良かったな……


 いや、リディア・クレイルを捕縛するためならばリディアと同じハルモニア三大楽典の者が率いている可能性が高い。


 正直フォレストベアと力比べをし、拮抗する程の者ならば、リュカやジャンヌの敵ではないと思えた。しかし、あれが全力だった保証はなく、魔法を使われたら対人戦では何が起こるかわからない。だから相手がどのくらいの力量なのかをしっかりと調査する必要がある。


 ──明日、メイナーさんに帝国四騎士とハルモニア三大楽典について訊いてみてみようかな……


 この日、神聖国軍はオーガに襲われた周辺に拠点を造り、またその襲撃によって行方不明となった者の捜索をするためか、少しばかり南下した。


 また帝国軍はエンカウントしたモンスターによって多少の犠牲者を出しつつも目的である北上を続けていた。


 このままテコ入れせずとも、明日には帝国兵と神聖国兵がぶつかると予測された。


 僕らはアーミーアンツの巣から出て、宿屋へと戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ