第109話 神との対話
〈セラフ視点〉
ジャンヌの提案により、神聖国兵の1人を拉致し、尋問しようということになった。
僕とデイヴィッドさんは現在尋問場所となっているアーミーアンツの巣の中で、ジャンヌと神聖国兵のやり取りを隠れながら見ていた。
デイヴィッドさんを連れてきたのは、僕だけでは判断できないようなこともデイヴィッドさんならば、今までの経験に基づいて判断できると思ったからだ。
ジャンヌのあの凶悪な魔力──勿論全力ではない──に当てられながらも、神聖国兵は精神強化を使い、自我を保っていた。
ジャンヌが戻ってくると僕に謝罪する。
「申し訳ございません。あれ以上魔力を解放すると自我を崩壊させてしまう恐れがあったので止めておきました……」
「問題ないよ。あの人の精神強化がどのくらい持続するのかもわかんないからね。精神強化が切れた瞬間、ショック死してしまう可能性も全然あったよ……」
「しかし、どうすればあの男は口を割るのでしょうか?」
デイヴィッドさんは言った。
「拷問か……」
僕はなるべくならその手は使いたくなかった。持久戦には持ち込みたくない。その間に神聖国や帝国がぶつかり合い、僕らがそこに介入しようとするのを神聖国兵やリディアの兵が待ち構えている可能性もあるからだ。
また、僕らには宿屋の営業がある。この魔の森2ヵ国同時侵攻によって、宿屋の営業になかなか手が回らないのは避けたかった。何故ならヌーナン村に神聖国や帝国の密偵がいるかもしれないからだ。いつもと違う動きをすると僕らが魔の森の状況を知っていると悟られる恐れがある。
──今だって、ファーディナンドさんやマーシャお姉ちゃん、それとあの石像さんをフル稼働させて……
その時僕は思い出した。神聖国兵の言っていたことを。
『神ソニアに命を、私たらしめるこの精神を捧げたのだ!!』
僕は提案する。
「あの人が神に命を捧げたのなら、神に尋問させてみようよ!」
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〈ハルモニア神聖国兵エリア・スコウィッチ視点〉
私は恐怖に打ち勝った。このことが嬉しかった。神ソニアは見ていらっしゃる。どんな時も。私は悪魔の囁きに今後とも対抗することを誓い、この出来事が私の信仰心をより強くしたと実感した。
目を閉じれば、今も主が、美しくも清らかな眼差しで私を見つめてくださる。目隠しをされているのは初めこそ不安だったが、今では主をより近くに感じることができる。
こんな境地に至ったのは初めてだった。
心の中にいる筈のソニアが、目を開けても目の前におられるのではないかと思えるほどだ。
私はそっと目を開けてみた。
するとソニアが目の前にいた。
神々しいとは正にこのこと。まるで大理石のように白く輝いている。聖書ではソニアが火炙りにされた後に、灰より復活を果たしたと記されている。その復活後は女神セイバーと一体化したソニアによる奇跡の数々が書き記されていた。最新の聖書の研究では、女神セイバーと一体化したソニアはその風貌が変化し、セイバーに近いご尊顔となったのではないかと言われている。というのもソニアの信徒達は、この神と一体化したソニアを初めて見た時、誰だかわからなかったような反応を示している。聖書にハッキリとそのように書かれている訳ではないが、たじろぎ、人ならざる者を見たと書かれているのだ。
私もこの新説には納得している。
そう。今、正に私の目の前にいるお方こそが、神ソニア様なのだ。そのご尊顔は女神セイバー様にもソニア様にも見える。
「お、おぉ…ようやくお会いすることが叶いました……」
私が感動のあまりそう溢すと、ソニアが語りかけた。
『そなたは何故、ここにいるのですか?』
美しく歌うような声が頭に直接語りかけられた。気づけば私は涙を流していた。
私は答える。
「主にお会いするためでございます」
『私に会うために、魔の森を侵略するのですか?』
「し、侵略などしていません!」
いや、これはソニアにお会いする為に魔の森にやって来たという意味になっているのではないか?
私は言った。
「今回の侵攻は、主を裏切った者を捕らえる為の行いでございます!!」
『…わ、私を裏切った?』
「そうなのです!ハルモニア神聖国の誇る三大楽典が1人、リディア・クレイル様が主を裏切り、神聖国に、いえ、神に仇をなす可能性があるとのことで我等が討って出たのでございます!!」
神は暫し間を置いてから言った。
『…ならば気を付けよ、そなた達を狙っている者が南より現れる』
神がお告げなさっている最中に、この部屋が揺れ動いた。この揺れに私は動じず、神の言葉に耳を傾けた。
『それはとても邪悪な存在で私に仇なそうとする者達です』
神が私にそう預言すると、この部屋が徐々に狭まっていった。この時初めて気が付いたが、この部屋は床も壁も天井すら土でできており、その土が私を飲み込み、ソニアすらも覆うようにして隠してしまった。
「お、お待ちくださ──」
ソニアと私は土に飲み込まれた。私は気を失った。




