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第100話 宿屋案内

〈セラフ視点〉


 食事を終え、メイナーさんとスミスさん、マーシャお姉ちゃんとファーディナンドさん、鍛冶屋のニクロフスさんと大工職人の皆さんを案内した。


 まずそれぞれの荷物を持って本館と別館を繋ぐ通路兼宿泊施設の部屋を紹介する。職人さん達は5人いて、鍛冶屋のニクロフスさんと合わせると6人だ。


 その6人を2人部屋の101、102、103号室に案内する。


 ファーディナンドさんとマーシャお姉ちゃんは僕の隣の部屋で良いかと思い、尋ねてみた。


「お姉ちゃん達は僕の隣の部屋を使うと良いよ。209かな?」


 するとファーディナンドさんは言った。


「それはダメです!」


「えっ、どうして?」


 ファーディナンドさんは臆するように言った。


「そ、それは…男女が同じ部屋なのは良くない、というか……」


 僕は考えた。


「ん~」


 確かに僕とアビゲイルが同じ部屋で暮らすってなったら、アビゲイルは嫌がりそうだな。


 ──それが兄妹となるともっと嫌かも……


 あまり宿泊部屋を使ってしまっては本末転倒だ。折角従業員が増えたのに、泊まる部屋が少なくなってしまうからだ。しかし、先程案内した1階の職人さん達はこれから鍛冶屋を建築する。そこにニクロフスさんが住めるように建築するのだ。そしてそれはその後造る武具店、道具屋にも当てはまる。ということは長い間、宿泊部屋に泊まるわけではないということだ。


「わかりました!お姉ちゃんは僕の隣の部屋で、ファーディナンドさんはその向かい側の部屋で良いですか?」


「はい!」


 2人はどこか安堵したような表情だった。特にファーディナンドさんは深く胸を撫で下ろしていた。


─────────────────────

─────────────────────

 

〈アビゲイル視点〉


 セラフのいない数日は『黒い仔豚亭』だけでなくヌーナン村全体に影がさしたように思えた。


 勿論それには王弟の反乱の影響もある。この反乱に乗じてまた帝国が攻めてくるかもしれない。ヌーナン村は再び緊張状態に陥っていた。


 しかしセラフがやっと帰ってきた。 


 リュカやジャンヌがセラフにべったりしていて、正直羨ましく思ってしまった。


 ──それにあの抱っこしてと言わんばかりの仕草……


 私はセラフのあの可愛い仕草を思い出して、掃いている箒をギュッと握り締めた。


 ──セラフが寝惚けてる時に、抱っこしてあげるからって言えばさせてくれるのかな?


 そんなことを考えているとセラフの声が、ここ本館と別館を繋ぐ通路兼宿泊施設に響いた。


「着替えもったぁ?」


「持ちましたわ!」


 セラフとマーシャの声が聞こえる。


 ──マーシャ……


 私と同じくらいの歳の可愛い女の子。突如として現れた女の子に私は何故だか不安な気持ちになってしまった。


「それでは大浴場より上がられましたら、セラフ君に館内を案内してもらいます。私はそれまでこのヌーナン村を見て回ります」


 まるでお城の衛兵のようにマーシャの兄、ファーディナンドさんが言った。


 セラフは言う。


「何だか騎士様みたいなお兄さんだね?」


「そ、そうかしら?」


「でもまぁ、僕もジャンヌやリュカに様づけで呼ばれちゃってるからなぁ……」


「そう!それは何でなんですの?」


「え、えっとぉ……リュカもジャンヌも僕の母さんのお姉さんの娘さんなんだけど、2人とも僕がこの宿屋の副店長だからってことで、ちゃんと敬わないといけないってきかないんだ」


「わ、私もそうした方が宜しいのかしら?」


「いや!良いよ!!セラフって呼んで?」


「わかったわ!宜しくねセラフ?」


「うん!」


 私の不安な気持ちは的中する。


 ──何だか2人の仲がとても良い……


 私は掃除を少しサボって2人の後をつけた。2人は大浴場へ向かう。男湯と女湯に別れた通路まで来た。セラフはマーシャに説明する。


「この赤い布がかかっているのが女湯で、紺色の布がかかっているのが男湯だよ?」


「じゃあ私はこっちね?」


 2人は女湯の方に進んでいった。セラフは言う。


「お姉ちゃん?先に入って誰か女性のお客さんがいないか見てくれない?他のお客さんがいたら男の僕は入れないから……」


「わかったわ!」


 マーシャは赤い布を潜って女湯に入った。


「誰もいないわよ?」 


 セラフは念のためか、掛かっている赤い布を潜って直ぐの下足場に靴がないかを確認して女湯に入って行った。


 私はその入り口まで近付いて、2人の会話を盗み聞きする。


「ここで靴を脱いでぇ……」


 脱いだ靴を揃える音が聞こえる。続いて棚に置いてある籠に触れる音が聞こえた。


「ここに脱いだ服を入れる。あと、持ってきた着替えもここに入れて?」


「はい」


「で、服を脱いだら…ここが入り口……」


 引戸を開ける音がする。大浴場を脱衣所から見せているようだ。


 するとマーシャが感嘆の声をあげる。


「わぁ……素晴らしいですわ!」


 大浴場の熱気が私のいるところまで届いてきたと同時に、自分が盗み聞きをしていることに何だか罪悪感みたいなモノを抱き始めてしまった。


 ──セラフは、一生懸命マーシャさんに説明している……


 これから一緒に働く同年代の女の子なのだ。この宿屋の店主の娘である私が、対抗心など燃やす必要などない。


 ──マーシャさんもメイナーさんのお友達の妹ということもあって、とても礼儀正しくて良い子そう……


 脱衣所から声が聞こえた。


「じゃあ私はこれからお洋服を脱ぐから、セラフ?」


 まずい。セラフが女湯から出てきてしまう。


 ──そうなれば私と蜂合わせて、盗み聞きをしているのがバレちゃう!


 私は急いでその場を後にして、自分の仕事に戻ろうとしたが、マーシャの次の言葉に私はその場で凍り付いてしまった。


「お洋服を脱がしてちょうだい?」


「えっ」

「は?」


 困惑するセラフの声に対して、まるでセラフが服を脱がせるのが当然かのような声色でマーシャは言った。


「凄い汗をかいていて、早くお風呂に入りたいわ」


「えっ、でも僕が脱がすのは……」


「何も問題ないわ!ホラ、早く」


「わ、わかっ──」


 セラフが了承しかけたので私は女湯に入りながら言った。


「ダメぇぇぇぇぇ!!!!」

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