スパイ活動開始
この国の正装はどうしてこんなにも窮屈なのかしら。
屋敷ではシュミーズドレスばかり着ていたので、コルセットの苦しさはひさしぶりだった。
馬車に揺られて向かう先は、グランビア王宮。
今日はお義母様とのお茶会の予定だ。
旦那様にお伺いをたてると必要ないと言われそうだったので、先に約束を取りつけて事後報告した。
何か言いたげなリアクションだったが、OKが出たので問題ないだろう。
「奥様、到着いたしました」
よし、いよいよスパイ活動の開始だ。
まずはお義母様に気に入られなければ。
◇◇◇◇◇
「可愛いわ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
すごい速度で気に入られた。
私の見た目がクリーンヒットしたようで何よりだわ。
「ウェディングドレスがとっても似合っていたから、白いドレスをプレゼントしたいと思っていたの。
リンちゃんは好きな色とかある?」
「ええと、赤色が好きです」
「良いわね!リンちゃんの黒髪には赤いリボンがきっと映えるわ!
あれを持ってきてちょうだい」
「かしこまりました」
お茶会のはずだったのだが、あれよあれよと言う間にお義母様の私室に招かれ、かれこれ1時間は着せ替え人形をしている。
お義母様のコミュニケーション能力は凄まじかった。
最初こそ形式的な挨拶から始まったものの、次の句は「リンちゃんと呼んでもいいかしら?」だった。
王族とは思えないフランクで大らかな女性である。
「疲れさせてしまったかしら?
ごめんなさいね、娘のドレス選びにずっと憧れていたものだから」
「いえ、この国のドレスがたくさん着られて嬉しいです」
お義母様であるエマ妃は先代国王の第2王妃で、子どもはアルフォンス殿下だけである。
先代国王には男児しか生まれなかったため、娘という存在が物珍しいのだろう。
私としては歓迎してもらえてありがたいわ。
「リンちゃんは優しいのね。
それに噂には聞いていたけれど、本当に綺麗だわ。」
絹糸のように艶のある黒髪に、赤子のようなきめ細やかな肌、桜が咲いたように色づく頬に、整った目鼻立ち。
この整いすぎた容姿が、私が「箱入り皇女」になった所以である。
整いすぎた容姿を持つ場合には、謙遜は逆効果となることを学んだのは数年前だ。
こういった場合は、はにかんだ笑顔で流すのが今のところの最善策。
「アルフォンスと一緒で、苦労することもあると思うけれど…、なにかあったら遠慮なく私を頼ってね」
「ありがとうございます、お義母様。
実は、ご相談したいことがあって…」




