貴方の事です
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
口調の柔らかい方程危険。というのは百も承知。
でも、いつの間にか籠絡されてると思います。
麻薬と似てるんですよ。駄目だと感じても手が伸びる。
なーんで口調優しいかなぁ!!
最近聞いた話だと、最初から高圧的な人と言うのはそこまででは無いらしい。本当に怖い人というのは、物腰が柔らかいのだそうだ。そうして戻れなくなったところで絡め取られる。骨の髄までしゃぶられる。裏社会の人間も悪徳宗教も、言われてみればそうである。
「何でも『お偉らい方ほど頭を垂れる』という言葉があるそうで。それは恐らく的を得ていて、本当は謙虚で口調が柔らかい方程、気を付けなければならないと思うのですよ」
その代名詞と申し上げても差し支えない方と相対し、私は譫言の様に呟いた。貴方の事ですよ。
其れを言われた方は、切れ長な目を細め、口角をにいっと上げて、静かに微笑んだ。
「今知ったの? 賢い君らしくもない」
そう仰って、目の前のかき氷にスプーンを差し入れる。軽く崩してから、私の口元まで差し出される。『お食べ』という仕草をされ、私は黙って口を開く。
「行きはよいよい、帰りは怖い。なんて言葉がある様に、入口は広く入りやすい。でも利用出来る人間をそう易々と返してくれる程、相手は甘くないんだよ。頭冷えた?」
小さく頷くと、今度は『自分の』と仰る様に口の中に氷を納められる。ただの食事風景であっても、油断出来ない。接する時間が長ければ長い程、逃れられない。まるで蟻地獄の様に。
べろっとした先を出して、私の反応を伺う。
「きっちり抹茶色です。……そろそろ返して戴きたく」
「あともう少しね。食べ終わるまで待っていてね。勝手に外に出る様な行儀の悪い真似、君はしないでしょう? というか出来ないか」
口調は甘く、柔らかい。でも絶対に拒否権は与えない。という圧を感じる。相手が柔らかいからこそ、此方も強く出れない。本当に恐ろしい。
この方が嫌い。という訳では無いのである。寧ろ死ぬ程好みである。柔らかい物言いも、性格も。でもだからこそ、容易く魅了され、決して離れられないのを感じる。出来れば逃げたい。私が私であるうちに。
「……私、美人が苦手なのです。性格も口調も柔らかい方が苦手なのです。隙を突かれて拐かされそうだから。焦っても、逃がしては下さらないから」
もう一度、申し上げましょう。貴方の事ですよ。
「そう。では、もっと言葉使いに気をつけ無くてはいけないね。はい」
また一掬いして私の元に差し出した。また……食べたらきっと次が欲しくなる。それでも……。
口を開く。ほろ苦い抹茶の味がした。
「ふふふ。苦手に思ってもちゃんと付き合える、良い子だね」
気が付いたら最後。きっと沼に嵌る。暴れるだけ無駄。引きずり込まれて、離してはくれない。
彼の言葉を見ていくと、相手を褒めることが多い。
褒めた上で圧掛ける。油断してるところに刃物突き付けてるんです。
これね、私が好きな手法なんです。
何なら後書きにも所々に忍ばせようと思うくらいには。
※悪用厳禁ですよ。
良い気分の相手は靡きやすい。
油断してるから寝首掻き切り易い。
それでも良いと思えるんですよ。
掻き斬られても、良いと思えてしまうんですよ。
これこそ本当の魅了。だからおっかない。
彼に着いてきてしまったのは、お喋りが過ぎるのは、駄目だと分かっていても、ドツボにハマってるから。
駄目だと分かった上でも、泥沼にハマる。だから怖いんですよ。口調の柔らかい人って。
美人も口調も柔い人も好きですよ。
でも逃げたくなります。
お酒と一緒。気分は良くなるけど、付き合いが長い程、きっと駄目になる。でも求める。
だったら最初から知らなければ良い。
そんな彼女の話。