表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウォッチアウト  作者: ヒルマ・デネタ
第一章 時計の町
6/27

1-6


 俯いていたエナガは、チャボに真っ当な提案をした。

「その、け、警察にいくのが、いちばんいいんじゃないかな?危ないし、この人たちが怪我をしたら、その……」

 声はしぼんでいき、エナガはまた俯いた。

「駄目だ」

 きっぱりとチャボはきつくいった。

「こんな話、警察が信じるか。信じてくれるかもしれんが、世界機構の耳にまで届いたら、いらぬ噂をたてられ生きにくくなる」

「ご、ごめんなさい。いらないこといって」

 エナガは泣きそうな声で謝った。チャボはエナガのトラウマに触れてしまったことを察して、慌てた。

「違うんだ、エナガ。怒ったわけじゃない。お前が間違ったことをいったわけじゃない。これは秘密だったんだ。わたしとシジューの。そしてお前との。誰にも見つかってはいけない秘密だったのだ」

 チャボはアトリとヒクイに部外者のような眼差しをやった。そしてその自らの愚かさにまぶたを閉じた。

「仕方ない」

 チャボは自分を納得させるようにこぼし、まぶたを開けた。そして、からだを起こした。

「こんな弱いからだでは、娘を守ってやれない。大事なんだ。ベッドの上からすまない。娘を守ってください。お願いします」

 エナガはふたりに頭をさげるチャボを心配そうに見つめた。すると、エナガの顔の横からアトリの腕が伸びた。エナガとチャボはアトリを見上げた。

「まあ、俺のせいでもあるからな。最善は尽くす」

 アトリは手のひらを広げる。チャボは右手を出し、ふたりは握手をした。ヒクイはそれをほほえましく眺め、話を進めた。

「俺は金が貰えるならなんでもしますよ。それで、操縦室の場所がわからないにしても、壊すってどうやって?ダイナマイト?」

「そんなものでは壊れない。その銃で壊すんだ。シジューに頼まれ、手元に置いておいた」

 チャボは白い銃を手にした。

「弾は三発ある」

 チャボは手のひらに弾を出して三人に見せた。エナガはガラスみたいだと思った。

「透明な銃弾なんか、玩具みたいだな。これで人殺せるのか?」

「殺せる」

 アトリの正直な感想にチャボはと即答した。

「しかし、これは人を殺すためのもではない。ピンパーネル君は知っているだろうが、ジソウはてのひら程の大きさの丸くて平たいかたちをしている。透明で、中には黄色い液体が入っている。あの黄色い液体は特殊なマイナスエネルギーでダイヤモンドも溶かす。まわりの透明の物質はそれを保護して、この銃弾と同じ特殊な物質でできている」

「特殊、特殊ばっかりだな」

 アトリは苦笑する。

「そうとしか説明できないのだ。なんせ、過去の未来人がつくったものだからな。操縦室も同じ物質でできていて、その壁の向こうには、ワームホール内での強力な重力から守るため、液状のマイナスエネルギーが詰まっている。操縦室の壁もまた、ジソウと同じ材質だ。この銃弾で撃ち抜けば、中から液体が溶けだし、操縦室は破壊される。これはそんな緊急事態のためにつくられた銃だ。最悪、操縦室が見つからんでも、ジソウだけでも壊してくれ。それでも、タイムトラベルを阻止できる」

「いや、ジソウは取り返しますよ」

 アトリは最低条件をはねつけた。

「展示物を取り戻さないと、クビの取り消しの意味ないだろう」

 チャボは面喰らい、笑った。

「律儀な人だね」

「見かけによらずでしょう?」

 ヒクイが茶々をいれる。アトリがむっとする。

「お前は、本当によけいなことをいう」

「ついね。でも、その特殊な液体で操縦室を壊したとして、地下にあるなら陥没しないんですかね?」

「それはやってみないとわからない。周りの人間を巻き込まないように最善を尽くして欲しい」

 チャボは白い銃に銃弾を込め直すと、アトリに差し出した。アトリはそのどこか神々しく美しい銃をしばし眺めると、受け取り、背中にさした。双子が二階にどたばたと上がってき、客室にやってきた。

「警察きたよ」

 ビタキがひそひそ声でアトリたちに嬉しそうに教えにきた。

「不機嫌な警察がきたよ」

 ルリも嬉しそうにはしゃいだ。アトリとヒクイは客間を出る。

「お姉ちゃんも行こう」

「わたしも?」

「仲間はずれはダメだから」

 ルリがエナガの腕を引っ張り、部屋を連れ出された。アトリとヒクイは踊り場から聞き耳を立てている。エナガも踊り場にそっと座ると耳を澄ました。

「アトリ・ピンパーネルとヒクイ・ジュニパーがここにいますよね?」

 眉間に皺を寄せたニオ・ハニーサックルがイエにぶっきらぼうに尋ねる。元上司の奥さんに不愛想にしているつもりはニオにはなかった。ニオは上機嫌でも不機嫌に勘違いをされる。本人はそのことを諦めている。

「ニオ、あなた巡査部長になったんだってね。おめでとう。死んだ旦那も天国から喜んでるわよ」

 イエがニオの二の腕をさする。ニオの眉間から皺は消えない。

「ありがとうございます。アトリとヒックいますよね?」

 ニオは流されずに質問を繰り返した。イエは手を止めて離れると、腕を組んだ。

「なぜ、そう思うんだい?」

「すぐには答えられませんね」

 踊り場のアトリが舌打ちをした。

「あいつがああいうときは、意地が悪いときと嫌味をいうときだ」

「そうか?照れ隠しにもいうけどな」

「らちがあきそうにないから、俺行くわ」

「え、おい」

 ヒクイが止めるより先に、アトリは動いた。階段からおりてくる音が聞こえ、イエが驚く。アトリは、ニオの前までいく。

「アトリ、なんで出てきたの」

 イエがとがめる。

「さっさと終わらせた方がいいだろう。俺が話すよ」

 イエはため息を吐くと横によけた。アトリはニオの正面にきた。ニオはこげ茶の髪をツーブロックに分けて、撫でつけている。グレーブラウンのスーツに身を包み、ジャケットは着ておらず、ベストだけだった。それでもネクタイはきちんとつけ、袖もおらずにボタンをきっちり留め、四角いホワイトグレーのカフスボタンを付けている。足元を見れば、光沢が出るまで磨かれた靴。服装に関しては、アトリとニオはまさに正反対な性分であった。

「それで?なんだよ」

「なんだよ?」

 三白眼の釣り目でじろりとニオはアトリをにらんだ。

「車を爆発させて、サンシ橋を破壊した。それに、ど派手なカーチェイスをしたそうだな。バイクに乗っていたふたりが負傷した」

「死ななかったのか」

 アトリは内心ほっとした。

「死んではないが、両方とも骨折した。しかもあれはバンの仲間だ。不良というのはお礼参りやらなんやら、報復には律儀だからな」

「バン?」

 アトリには聞き覚えのない名前だった。

「バン……」

 踊り場でエナガが聞こえた名を呟いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ