セリス、9歳の誕生日会。その2
公爵令嬢セリスが率いる大市場討伐隊がエクスバーグさん家に到着する。
何を隠そうこのエクスバーグさんは、どこにでも居る普通の家具職人さんである。
つまり此処は、ごく一般家庭である。
「クロエちゃんにエクスバーグさん、こんにちは。お邪魔しまーす」
スニーキングをしながらエクスバーグさん家の庭に侵入する討伐隊。
知らん人に見られると間違いなく通報されるだろう。
「はい、こんにちはセリスちゃん。毎年大変だねー」
「セリスちゃんだ!こんにちは」
「クロエちゃん。こんにちは」
娘のクロエと一緒に庭の木の剪定をしているエクスバーグさんが笑顔で応対する。
今日はお祭りの日なので家具工房はお休みである。
セリスと同い歳のクロエちゃんはセリスの友達で「王立学校編」にて改めて登場します。
「セリスちゃんが来ると今年の祭りの日が来たって実感が湧くねー。
ありゃ?今日はまた可愛いお嬢さんに乗ってるねー?」
「えへへへへ」
今日のセリスはフェナの肩に「騎乗」している。
「こんにちは、エクスバーグさん、クロエちゃん、私はフェナです。
凄く気になるのですがお嬢様とエクスバーグさんはどう言ったご関係で?」
9歳の公爵令嬢と30歳過ぎの既婚の家具職人・・・確かに接点が思い付かんね。
「セリスちゃんとは友達ですね」
「エクスバーグさんとは友達だよ」
「そっ・・・そうなんですね・・・」全く納得出来んフェナ。
「ところで何でしょうか?お嬢様が乗ると身体能力が上昇する気がするんですが?」
「ん?気のせい、気のせい」
気のせいでは無く、セリスの「お馬さん」は身体能力が上昇するのだ。
「お嬢様、ローズウッド製菓店の勝手口を開けてもらいましたよー」モグモグモグ
先行部隊が目標地点で工作を済ませて本隊に合流する。
その際にお店で買った「みたらし団子」を食いながら・・・
「クロエちゃんも団子どうぞ」
「わーい♪クロード君ありがとー♪」
「あっ!お前らズルいぞ」
「・・・私の分は買って来てくれなかったんですね?
クロード・・・後でお話しがあります」
めっちゃ不貞腐れたフェナ。
「そんなに?!」団子を笑う者は団子に泣くのだ。
「うむ、予定通りだね。ご苦労。そうだ!皆んなもローズウッドで食べたいお菓子を買って良いからね」
「おおー!」お祭りなので気前が良いセリス。
「お嬢様、それなら私は「きなこ餅」が食べたいです」
その品揃えからローズウッド製菓店は「和菓子屋さん」らしい・・・なぜ名前がローズウッド?
「え?時間無いから「食べながら移動になる」けど本当に「きなこ餅」で良いの?」
「?別に構いませんけど???」
フェナの提案でローズウッド製菓店で買った「きなこ餅」を食べながら戦場(大市場)へ踊り出した討伐隊。
パラパラパラパラパラパラ・・・・・・・
「・・・メッチャきなこが頭にかかるんですけど?」
「だから言ったじゃん?」
セリスが頭の上で「きなこ餅」を頬張るモンだから髪やら顔が粉塗れになったフェナ。
そのセリスとフェナの目の前では、それぞれがお目当ての調味料を買い漁っている料理人達。
「これは洗濯をするミミリーに怒られそうです・・・
でも無理に今日、調味料を買わなくてもよかったんじゃないですか?」
「・・・お誕生日会の料理で調味料のほとんど使い切ってるから厨房に残ってるのは「味噌」くらいしか無いよ?
そうなると明日のメニューが「朝が味噌握り」「昼が味噌パスタ」「夜が豚の味噌焼きに豚汁」になるけど良いかい?」
「・・・単品なら良いですけど連続で来られると凄く微妙なラインナップですね」
「そうでしょう?」
別に悪くはないが飽きそうなメニューである。
余談だが某お店で「味噌パスタ」なるモノを食べた個人的な感想は、普通にパスタはパスタ、味噌は味噌汁で食べた方が良かったです。
味噌パスタは男にはヘルシー過ぎるかも知れませんね。
「お嬢様!醤油は魚醤と大豆のどっちにします?」
「両方いる!50リッターずつで!」
公爵家の一年分だから量が凄い!合計で100リッターの醤油って・・・
「セリスちゃん!「ウベパウダー」が入ってるけど要るかい!」
「いる!20kg下さい!」
ウベパウダーとは紫芋を乾燥させて作るピンク色の粉です。
見た目の良さと癖の無い味から料理にスィーツに美容にと何にでも使える魔法の片栗粉です。
セリスは幼少期からウベパウダーの見た目が好きで生涯に渡り好んで良く食べていた。
実はこのウベパウダーが10代セリスのお胸が急成長する大きくする理由になるのだがセリスはウベパウダーの真の効力(豊胸効果)を知らなかったのだ。
生まれつきの母譲りの体質とも重なってボウン!と、なったのだね。
「お嬢様!じゃあ俺らはスパイス屋に行きます!」
「了解!私達も後で行くわ!」セリスは残って精算と値引き交渉である。
大量まとめ買いなので交渉がやり易いのだ。
「分かってるって「4割引」でどうだい?」
手取り早く限度割引をしてくれる調味料屋のオッサン。
「叔父様大好きです!」話しが早いオッサンの頬にチュウをするセリス。
フェナに肩車して貰っているのは値引きしてくれた相手の頬にチュウがし易いからだ。
パツキン美幼女にチュウをされて嫌な気分になるオッサンはいない。
この次の買い物の為にも努力と工作を欠かさない幼児なのだ。
「なっ・・・なんて、あ・・・あざとい・・・何でお嬢様が毎回色々な品物を安く買って来るか・・・その理由が分かりました」
ちょっとオッサンが羨ましいフェナ。
「安くしてくれるなら頬にチュウくらい幾らでもする所存!」
「はははは!セリスちゃんらしいねぇ」顔が真っ赤なオッサン。
「奥さんにもチュウ」そして奥さんにもチュウをすると「きゃー♪」と喜ぶ奥さん。
セリスのチュウサービスは老若男女全般に大好評である。
これで来年に買う調味料も安くして貰えるだろう。
調味料店て代金を支払い公爵邸へ配送手続きをして次のスパイス屋に向かうセリス。
スドドド「ぐえええ?!いよいよ人混みが本格化して来ましたね!」早速人混みに飲まれる討伐隊。
「頑張ってフェナ!」
スパイス屋は大市場の本通りにあり当然ながら人混みも激しく身体の小さなセリスが1人で歩けば10分で討伐隊から逸れて迷子になりそうな人の多さである。
そんな人混みの中で「騎乗スキル」を駆使してフェナを器用に操りスパイス屋に誘導するセリス。
「お?おおおお?身体が身体が勝手に動きます?!?!」
「気のせい!気のせい!」
「お嬢様!フェナ!ちょっと待って下さい!早過ぎますよ!うおおお?!?!」
しかしドンドンとフェナが進むから討伐隊の隊列は乱れて執事のクロード君が人混みに飲まれてしまう。
「これは・・・クロード君の救出は無理!逸れた人はスパイス屋さんの前で集合!」
「あっ!私もダメ見たいです。わああああ?!」
更に人混みに押されてあっという間に執事隊と逸れてしまうセリス&フェナ。
「ぐえええ?!これはしんどい!特別手当てを所望します!」
「特別手当てOK!フェナ!ファイトー!フェナ!はいよー!」
今年のお祭りは例年以上の盛況ぶりなのだ。
「はいよー?!お嬢様ってやっぱり何か私にスキルを掛けてますよね?!」
セリスの号令で自分の意思とは関係無く身体が動き始めるフェナ。
「気のせい!きーのせいだってぇ!」
「ずぅえったいに嘘ーーー!ああ・・・止めて下さいー?!」
パッカラパッカラと飛び跳ねるフェナ。
「あー?逸れたけどお嬢様がどこに居るのか直ぐに分かるわー」
執事達には人の波の上にポン!と飛び出している金色が見えている。
言うまでもなくフェナの上に乗っているセリスのパツキンである。
「あれは?公爵家のお姫様って今年も来たんだねー」
「あのお姫様は本当にお祭り好きだよなー」
お馬さんに合わせて揺れるキラキラ光る金色を見つけて道行く人々がクスクスと笑う。
セリスのハニーブロンドは「王家の色」なのでめちゃくちゃ目立つのだ。
人混みに揺れるパツキンは最近の祭りの名物になりつつある。
「すっごく楽しくなって来た!はいよー!フェナー!」
「やーめーてー!!はいよーは、やーめーてー」パッカラパッカラパッカラ
散々セリスに弄ばれてスパイス屋さんに到着した頃にはボロボロになったフェナ。
「ごめん・・・やり過ぎたわ」
「特別報酬・・・期待してますからね?」
まぁ、金貰えるならフェナ的には別に良いらしい。
フェナで遊び過ぎて遅れたせいで先行していた料理人隊は次の缶詰屋さんに行ってしまっていた。
「て・・・店主さん・・・代金です・・・」
「あんた・・・大丈夫かい?」
ここに到着するまでに運が悪い事に偶然居合せたゴツい男達の胸筋に揉みくちゃにされてボロボロになっている執事のクロード君。
「男の胸筋って案外柔らかいんすね・・・」
「いきなり何の話し?!」
恋人がいきなりトチ狂った事を言い出してドン引きするフェナ。
「フェナの○っぱいも柔らかいよ?」R~15で○っぱい言うじゃねぇクソガキ!
執事隊が合流するまでに値引きと店主さんへのお礼のチュウは済ませている。
「さあ!皆んな次は缶詰屋さんよ!」
「ちょっと・・・休ませて下さい・・・俺死んじゃいそうです」
「お嬢様、私は「桃缶」が欲しいです」一番酷い見た目に反して割と余裕のフェナ。
「グエーゴホゴホ!・・・だ・・・大丈夫か・・・フェナ?」
半分死んでるクロード君。恋人の事を気遣っているがお前の方が大丈夫なのか?
「いやクロードの方が大丈夫なの?ここで休みますか?
私はこれも修行だと思えば・・・でもご褒美は期待してますからね?」
「OK~。クロード君は、ちょっと休んでから「干物屋さん」の方に先行しててね」
「ううう・・・すんません」満身創痍のクロード君は一時戦線離脱である。
「さあ!次は「缶詰屋さん」です!皆んな頑張って行きましょう!」
「セリスちゃんはいつでも元気だねぇ」
こうしてパツキン美幼女とお馬さん聖女が大市場を物理的に駆ける!
そして次のお店に到達する毎に1人1人と脱落して行く討伐隊の面々。
最後の乳製品屋さんに到達した時はセリスとフェナの2人しか残っていなかった・・・
「う・・・売れ切れてる・・・」
今年に限って乳製品屋さんは早い時間から大繁盛したのか商品棚には数える程度のチーズのホールしか残っていなかったのだ・・・・
全部買っても到底足りないのは明白だ。
ガックシ膝を付くフェナに項垂れるセリス・・・残念だったね。
「うふふふふ、ちゃんとセリスちゃんの分は残しておりますよ。
去年と同じ品物と数量でよろしいのですね?」
若い店員さんがジャーン!と、かけ布を取るとそこには大量の乳製品が?!
乳製品屋さんの看板娘さんがセリスの分のチーズにバターに脱脂粉乳やらを取り分けしてくれていたのだ!
「・・・!!!!!お姉様!大好きです!」
一瞬呆気に取られてハッ!と、我に帰り看板娘さんに飛び付いてチュッチュッチュッと頬にキスをするセリス。
「きゃーーーーー♪♪♪♪」セリスのチュウの嵐にすっげぇ嬉しそうな看板娘さん。
一度絶望した所を天にまで上げられたのだからセリスが喜ぶのは無理もない。
特に脱脂粉乳は第一次成長期の9歳児セリスにとって生命線と言って良い大切な食品である。
「こんなに繁盛しているのに、わざわざお嬢様の為に取り分けてくれたのですか?
しかも割安の取り引きなのに?」
フェナの言う通りに普通に売った方が儲かった事だろう。
「うふふふふ、商売をするのにお金は大切ですけど第一に大切なのは人付き合いなんですよ」
「お姉様!大大大大大大好きーーーー!!」
嬉しさの余りチュウの他に看板娘さんの頬にスリスリも始めるセリス。
「きゃーーーーーー♪♪♪♪セリスちゃんのお肌はスベスベですねぇ」
思いも寄らない大サービスに大喜びの看板娘さん。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・.
「ふう・・・今年もやり切りましたねお嬢様」
「そだねー」
「このまま寝てしまいそうです」
「そだねー」
「ダメですよお嬢様?これからお誕生日会なんですから」
「そだねー」
「お嬢様、キャビアも出ますからねぇ」
「奴は高いから要らん」キャビアに対して辛辣なセリス。
全ての買い物と配達の手配を終えた討伐隊は大市場から少し離れた公園の芝生に全員が大の字になって転がっていた。
彼らは勝った・・・戦いに勝ったのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・そして見事に寝過ごした。
「いやああああああ?!?!アレから3時間も経っているーーーー?!?!」
「どうして全員で寝ちゃうんですかぁ?!」
「フェナだって爆睡してたじゃねえか!」
「こりゃヤバいせ!お前ら走るぞ!」
「へい!料理長!」
一目散に公爵邸を目指して駆け出す料理人達に釣られてセリスもフェナも執事達も走り出した!
全員が焦っていたので大切な事を忘れてしまう。
フェナが言っていた「汚れた格好で公爵邸に帰るとミミリーに怒られる」との事を・・・
いつもなら途中の銭湯でひとっ風呂浴びてから帰ってたのに今回はダイレクトに公爵邸に帰って来てしまったのだ。
「あっ!お嬢様!もう!遅いですよ!早く早く準備・・・を?・・・」
予定時間を過ぎてもいつまでも帰って来ない主を心配して玄関先で待っていたミミリー。
そして全力疾走で帰って来た連中を見てメチャクチャ驚いた顔をして・・・見る見る内に般若の顔になりましたよ?!
「あ・・・」ここでフェナは自分達の過ちの全てを察した・・・
「侍女隊!集合ーーーーーーーーーー!!!」
ミミリーの怒号が公爵邸内に響き渡ったのだった・・・