カターニア大城郭と王都防衛戦。その2
「閣下大変でございます!」
「何じゃ?騒々しいのう」
勝ち確と思い込み昨晩から大宴会を開催して良い気分でお気に入りの愛人とベッドで寝ていたイタロ・フォン・アスティ公爵は突然側近に起こされて不機嫌そうに部屋のドアを開けると・・・
「城?・・・でございます!王城の西側に城壁が出現しました!」
真っ青な顔をしながら王城の方向を指差す側近。
「・・・馬鹿なのか貴様?王城に城壁が有るのは当然であろう?ん?西だと?
何で西側の城壁の話をしておる?見える訳が無かろうて?」
余りにもおかしな事で騒ぐ側近に「貴様は何を言っておる?」状態のイタロ公爵。
アスティ公爵家は見た目でも権威を示す為に王都の東面城門から2km先に有る丘に豪華絢爛で雄大なお城を建造している。
なので王都東地区のアスティ城から正反対の西の城壁が見える訳がないのだ。
「とにかくご覧下さい!」
「あー・・・分かった分かった。面倒くさいのう・・・」
強欲で自分勝手を絵に描いた様な男ではあるが根は小心者なので相手に強く出られると部下の進言も意外に素直に聞く所がある。
側近に急かされて二日酔いでフラフラしながら渡り廊下の窓から王都を眺めると・・・
「何じゃ?今日はやけに日差しが明るいのう・・・ちと奇襲するには不安材料か?」
イタロの目にはやけにハッキリと光の中に浮かび上がる王城と王都が見える。
正確には日の光がカターニア大城郭のスチール製の城壁に反射して普段は影で見えない場所まで見えているのだ。
「閣下!王城の後ろを良くご覧下さい!」
「んー?」
イタロが目を凝らすと何やら王城の後ろに山が見えて上の方では得体の知れない物体がヌルヌルと動いている?
「なぁに?あれぇ?」
「公爵閣下、アレはおそらく「巨大な要塞砲」だと思われます!」
「ようさいほう??」
何を言われたのか理解出来なくて「望遠」のスキルを使い謎の物体を拡大視する。
良血な家系の産まれなので案外とイタロの個人技能の高く様々な希少スキルを使いこなす。
イタロの目には、でっけえ要塞砲が「さあ!やったんでー」と言わんばかりに砲塔をグルグルと旋回させ準備運動をしている。
旋回動力が砲塔内に内蔵されているので限界旋回範囲は無く、もうグルングルンと回っている。
「何じゃああ?!アレはぁああ?!」ようやく事態を把握したイタロ。
「ですから要塞・・・」
「そんなモン言われんでも分かっておるわ!何であんなモンが何の脈絡も無しに生えて来たか聞いとるんじゃ!」
イタロが叫んだ途端にカターニア大城郭について王家から正式な声明が全ての貴族家に対して発布される。
「報告します!エヴァリスト宰相からの公式発表ではアレの名称はカターニア大城郭との事!
そしてあの城郭には550mm三連装砲が5門据え付けられているとの事です!」
「それって強いの?」
産まれつき生粋のお坊ちゃまなイタロ公爵は兵器には詳しくない。
「強いと言いますか・・・我が国の戦艦の主砲が360mmですので・・・」
「一発でもアレをここに食らったらヤバい?」
「ヤバいと言いますか・・・文字通り「全員が物理的に骨も残らない」です・・・
完全に弾き返す為には「大魔道士50名規模の集団防御魔法」が必要だと思われます」
余談になるが800年前の世界大戦時に霊視さんβの師匠であるハイエルフのルナは実際に魔族に占拠された550mmヴィアール要塞砲の15連装斉射を「まあ?おいたしてはいけませんよ~」とか言いながら「絶対魔法障壁」で楽々弾き返した事がある・・・
霊視さんβが幾ら頑張っても未だに全然ルナに勝てない訳だね。
つーか、この世界のハイエルフがマジでヤバい・・・
「ふざけるな!こんな話しは聞いていない!重大な契約違反だ!全員撤収!!!」
高い金を払って雇っていた傭兵達がアスティ城から一斉に逃げ出す。
勿論貰った前金は契約違反で没収である。
逃げた傭兵達はヴィアール辺境伯領で550mm砲の「とりあえずはお前ら全殺し」の破壊力を間近で見て知っているのだ。
長く傭兵稼業で生きて行くには引き時を誤ってはいけないのだ。
今なら別に王家に対して何もしていないからね。
「ああ??コラ待て!」
これから魔族達の攻撃が始まろうと言う時に一目散に逃げ出す傭兵達を見て慌てるイタロ。
正規のアスティ軍15000名は息子達に完全に抑えられて「西の大草原での演習」の名目でイタロから引き離されているので残っているのは各貴族の護衛と騎士達だけである。
割とイタロは一極集権体制の危険性を考えてアスティ公爵家の権力の分散をしているのだ。
そこまで解っていながら何で魔族の奸計に乗りこんな無謀な作戦を考えるのか・・・それは坊やだからだ。
と言うか昔からの取り巻き連中がヨイショばかりのアンポンタンの集まりなのだ。
ある意味で気の毒なヤツなのだね。
そんなアンポンタン共の中にもある程度は聡い者もいるのか傭兵達に紛れてコソコソとアスティ城から退避する者も見受けられる。
作戦開始まで後数刻と言う所で突如として現れたカターニア大城郭に唖然としているアスティ公爵の隙を見て傭兵達と利権目的で近づいていただけの連中は離脱。
しかし幾ら逃げてもカターニア大城郭からでも逃走劇はバッチリ見えている訳で今後彼らの出世は見込めないだろう。
石造りの堅牢なアスティ城ではあるが550mm要塞砲の前では紙屑同然だろう。
言うなれば動く事のない格好の射撃訓練の的・・・エヴァリスト宰相はマジでイタロ公爵を殺るつもりなのだ。
カターニア大城郭の浮上からその発表までの異常な速さからエヴァリスト宰相は加担した貴族家の事も・・・以下略。
そして準備運動も終わりヌルヌルと動いていた要塞砲全門も停止して照準をアスティ城へと向ける、完全にロックオン状態にして・・・以下略。
当然ながら副装備のガトリング砲も・・・以下略。
カターニア大城郭の戦闘準備完了である。
いよいよ自分の身に危険が迫っている事を察したイタロ公爵は・・・起きて15分後には華麗にバックれた。
アスティ城に残っていた派閥の貴族も囲っていた愛人達も見捨ての極音速でのバックれだったと言う。
慌てふためきながら半裸状態で馬車に飛び乗りアスティ城を放棄して自身の領地へと逃走するイタロ公爵を見て、
「おー?イタロ君が逃げて行くね?どうするねヤニック?背後から撃つかい?」
要塞砲の試射をしたくてたまらない様子のコーバ公爵。
「これから白兵戦闘が始まるから撃たない・・・」
展開が余りにもあんまり過ぎてイタロへの追撃する気も失せている国王ヤニック。
「戦わずに勝つ・・・これも戦の真髄だよ?」
「やっぱコーバちゃんは怖いわー。・・・でさ?あのお城の事だけどさ?コーバちゃんいる?」
アスティ城は妙にピンクティでケバケバしいので正直に言って要らない国王ヤニックはコーバ公爵にアスティ城を押し付け様と画策するも・・・
「あんなの管理するお金無いから私も要らない。ヤニックが責任持って使ってよ」
そこらかしこから酒と女の匂いがする子供の教育上良くない卑猥な城なんて絶対に要らないコーバ公爵。
こうしてタダで大きでエッチいお城をゲットしてしまった国王ヤニックだった。
ここでアレやコレをしていたと思うとなんか触るのも気持ち悪いので放置していたら5年後にヤニックの娘のシーナとセリスに不法占拠されて超時空機動要塞アスティ(大型スライダー有りの5階層のSF風迷路アトラクション遊園地)に大改装され王都の家族連れで賑わう人気のスポットとなる。
そんな大元がグダグダになっているとも知らずに魔族達による襲撃も始まる。
アスティ公爵一派により仕掛けられていた転移陣を使い大量の魔物の群れを送り込まれたピアツェンツア王国の王城は大混乱に・・・特にはなっていなかった・・・
「はああああああ!!!!!!」
「きゃあああああ?!?!ファニー様!お待ち下さいませぇえええ?!?!」
ズドン!シュバ!「ゲエエエエエ?!!!!」ズウウンン!!
乗馬服姿の王妃ファニーが飛び上がって愛用の槍(正確にはツヴァイヘンダータイプの両手剣)でのスパイラルチャージが炎鳥にクリティカルヒットして串刺しにされた炎鳥は地面に落下する。
炎鳥は「火の鳥」や「フェニックス」の様に身体に炎を纏っている訳ではなく単に炎を吐く鳥類全てを指す造語なので魔王級のピンから火の玉を吐くだけのキリまで強さには幅がある。
どうやら今回は「キリ」の方の炎鳥だった様子だ。
ちなみに魔法世界の「フェニックス」は岩琰龍ヘスティア先生の事を指して「ポイニクス」と呼ばれて亜人種族の「ガルーダ族」や炎鳥とは区分されている。
フェニックスは女神ヘスティアの使い魔とされているが実の所は女神フレイヤの化身で滅多に魔法世界でも現れない聖鳥である。
(フェニックスの魔法世界への降臨は過去に4回しかない)
地龍の教師の岩琰龍のヘスティア先生とフェニックスは全く別の存在なのだが姿が似ているのでフェニックスと混合されていつの間にか岩琰龍ヘスティア型ポイニクスは女神ヘスティアの使い魔とされてしまったのだった。
ヘスティア先生は教師の仕事の合間によく地龍王の山で散歩していて人間達にもよく目撃されているので変な誤解に拍車が掛かっている。
実際にヘスティア先生はヘスティア先生で「オグドアド神」と呼ばれる女神ヘスティアを超える超絶凄え女神様なのだが「真なる天然」でもあるので女神ヘスティアの使い魔扱いされても別に気にもしていない。
『先生がヘスティアちゃんのフェニックスと呼ばれていてビックリです!
フェニックスってカッコ良いですよね!』
・・・との談話を発表しているだが自身がフェニックスと呼ばれているのを否定しているのか肯定しているのか・・・「真なる天然」の真意は常人には理解出来ないのである。
何より聖鳥フェニックスの大元の女神フレイヤが女神ハルモニアに世界の管理を丸投げして殆ど魔法世界に降臨しないのが悪い。
かなり端折った説明で不十分だが魔法世界は様々な神様が好き勝手に跋扈している混沌とした世界だと思ってくれて良い。
炎鳥について更なる余談になるが修行時代に「炎鳥王」に勝負を挑んで霊視さんβは炎鳥王にコテンパンにされた事がある。
その後、霊視さんβのお礼回りにと炎鳥王に勝負を挑んだグリフォンの魔王もお約束通りにコテンパンにのされた。
こんな感じに炎鳥の「最高峰のピン」は、世界上位レベルでめちゃくちゃ強いのだ。
ちなみに炎鳥王の好物は「イチゴパフェ」である・・・・・まあ要するに炎鳥王の正体は「鳥型の火の大精霊様」なんだね。
勝負に負けた罰ゲームで霊視さんβとグリフォンの魔王は高級スィーツ店で炎鳥王に有り金の全てをイチゴパフェで食い倒されて再度泣かされた。
修行時代の霊視さんβは負ける時の方が多かったのだ・・・いや最近も結構負けてんなアイツ。
裏設定はこれくらいにしてノーマル炎鳥をサクサクと倒す王妃ファニー。
「ふわー???」王妃ファニーの強さに唖然としている王宮メイドさん。
「え?誰か何か言いましたか?」
王宮メイド達の変な悲鳴を聞きキョトンとしている王妃ファニー。
彼女とて東の辺境、「修羅が集う国」と呼ばれるヴィアール辺境伯家の出身だ。
若い頃は「戦乙女の英雄」との異名で呼ばれた槍使いで地元ヴィアール辺境伯領では魔物達とそれはもうバッチバチに戦いまくっていて対魔物戦ではメチャクチャ強いのだ。
昔取った杵柄で涼しい顔をして危なげなく炎鳥や紫虫を槍でドンドン始末して行く。
「あ・・・いいえ??・・・ファニー様はお強いのですね?」
「いいえ?わたくしより強い方などその辺を探せばいくらでもいますわよ?
・・・それにしても魔物の数だけは多いですけどレベルは全体的に低いですわね。
その辺の森から適当に集めた感じですわ・・・ね!」
ヒュン!スパーーーン!!王妃ファニーは槍を軽く一振りして後から来た炎鳥をまた撫で斬りにして地面に叩き落とした。
「そうですねー、敵はどこまで本気なのでしょうか?「アイス・ジャベリン!!」」
ズガガガガガガ!!!ガン!ガン!ガン!「グゲエエエエ!!!」ヒューン・・・ドサドサドサ
王妃ファニーの後ろで支援攻撃をしている女官らしき女性も涼しい顔して「氷槍」を連射して上空を旋回している炎鳥を次々に狙い撃ちにして行く。
「フローラ!敵の狙いが判明するまではとにかく今は防衛一辺倒です!防御結界より前に出てはいけませんわ!」
「はーい」
この様な感じで後宮の正面入り口では王妃ファニーと魔導兵団長のフローラが陣取り迫り来る魔物を迎え撃っているのだ。
今の所は2人で魔物を余裕を持って捌いている。
本当ならここで先程トンズラかました傭兵達が乱入してファニーを拉致する作戦だったのだ。
魔族と組んで傭兵達を雇い後宮に攻め入り王妃ファニーを抑えつつ最終的には王権を簒奪するつもりだったのだ。
「強っ?!ファニー様が強っ?!フローラ様も強っ?!?!」
初めて見るマジモンの実力者と物理的な強い魔物との本格的な戦闘に大興奮のセリス。
後宮の玄関から割と近い場所にあるセリスの部屋からも王妃ファニーの大立ち回りが見えていて気分はプロレス観戦である。
「凄いですね~王妃様って「勇者クラス」だったんですね~」
厳密に言うと王妃ファニーは、かなり良い線までは行ったが勇者の壁を越えられなかった・・・勇者の最終試練前にシーナとラーナを身籠ったからね。
「よおし!私も!」ヒューン!スッコーン!「痛ったあ?!」
「お嬢様!使えもしない「三節棍」なんて持ち出さないで下さい!
・・・・って言うか何でそんな特殊なモノを持ってるんですか?」
「ずびばぜん・・・3歳の頃に市場のジャンク屋で見つけました。
何で買ってしまったのか自分でも良く分かりません」
おそらく旅館の売店にある木刀のノリだったのだろう。
「その時一緒に買った虹色に光るフラフープも有るよ?」
変な骨董品の収集癖が有るセリス。
そう言えば子供の頃に人気あったよねソレ。
「・・・・・・・腰のお肉がヤバいので後で貸して下さい」
太り気味のデバフが有るフェナは腰をグルングルンさせる運動がしたいのだ。
女は20歳を超えると太り易くなるから毎日適度に運動しなさい!とのミミリーの言う事を聞かんで部屋でゴロゴロするから悪い。
そして不器用、魔法才能無し、戦闘力皆無の役立たずのパツキン主人公はこの後の戦闘でも終始自分の部屋でワーワーキャーキャー騒いでいるだけです。
「もしかして私の出番も無し?!たまには私の騎士としての力も見せたい!」
外出禁止令嬢セリスのせいで冒険者ギルドからの依頼された「霊園の見回り」の仕事の代役をやらせられ最近フェナには「墓守」なんて不名誉なあだ名が付けられている。
「おい・・・護衛騎士が戦闘中に主人の元を離れてどうする?
怖いので一緒に居て下さい。お願いします」
度胸は座っているセリスだが、やっぱり戦場は怖いので令嬢らしくプルプル震えてフェナの腕を掴んで離さないセリスでしたとさ。