幽霊退治屋セリスの受験。その2
過労でぶっ倒れたその後は王立学校は休学(卒業単位は取得済み)してミモザちゃんの家に行く以外は部屋に監禁され勉強しかしていなかったセリスは、いよいよアカデミーの入試試験に挑む。
2ヶ月以上も部屋に篭って勉強漬けの毎日だと気が滅入って鬱にでもなりそうなものだがセリスは案外気にならない。
本人は全力で否定しているが先天的にマッドサイエンティストの適正があるのだろう。
「お嬢様は動く時と動かない時の落差が激しいですねぇ」
「勉強は好きだからね」
「こうしていると麗しい公爵令嬢にしか見えないんですけどね」
「一応は本物の公爵令嬢なんだけどね~」
窓から吹き込む風に金髪を揺らして静かに勉強机に向かうセリスは深層の令嬢にしか見えない。見栄の良さだけは抜群だからね。
しかし残念ながら令嬢モードも長くは続かない。
「だがしか~し!これで試験の予習は完璧!今日は久しぶりに鶏小屋へ参ります!」
パタンと参考書を閉じて謹慎期間の終了を自分勝手に宣言するセリス。
「そう来ると思いましたよ。閣下の許可が出るまで行かせませんよ?」
セリスの腰から伸びているロープを握り直すミミリー。
両親を怒らせたセリスは文字通り縄で繋がれていたのだ。
「だってさ?ピッピちゃんから「オメーはウザいが来なきゃ来ないで寂しいから少しくらいツラ出せや」って念話が来るのよ?久しぶりにピッピちゃんのツンデレに癒されたい!」
「あの子たち念話を使えるんですか?!」
鶏のピッピちゃん達の正式な種族名は「スモールグリフォン」である。
身体こそ大型犬くらいの大きさだが立派なグリフォン種で知能も普通のグリフォンと変わらない。
スモールグリフォンはノーマルグリフォンよりも魔法に長けており難易度が高いとされる念話も使いこなすスーパー鶏さんなのだ。
というか小柄な体格でこの過酷な世界を生き抜いているのにはそれなりの理由がある。
ちなみにセリスは知らない事だがロードクラスのピッピちゃんは鶏としての矜持から人語は話さないが喋ろうと思えば人語を喋れたりします。
そして鶏語を完璧にマスターしているセリスも少し頭がおかしいですね。
なんでコケコッコーで会話が成立するのか謎です。
「・・・・・・・はあ・・・仕方ありませんね。今回だけですよ?」
ずっと友達に会えないのは可哀想なのと試験前の息抜きに鶏小屋へ行く許可を出してくれたミミリー様。
「ミミリー大好き!」
・・・・・・・・・・・・・・・
「ケー!コケコッコー!コッコー!(いやウッザ!やっぱりオメーはウザいわー!)」
「ピッピちゃん好き!大好きー!」
鶏小屋へ行って嫌がるピッピちゃんに抱き付き、ご要望通りにウザ絡みして試験勉強で削れた精神力を充填するセリスでした。
そしていよいよアカデミーの入試が始まる。
ピアツェンツア王国の大学は日本の大学と違って明確に入学する日と卒業する日が定まっていない。好きな日に入学(毎月の第三木曜日)して卒業資格さえ取得すれば好きな日に卒業出来るのだ。
その代わりに入試はメチャクチャ難しいし卒業するのには日本の大学院を卒業するレベルの学力が必要となる。
本当に勉強をする事のみを目的とした機関なのだね。このアカデミーに悠々自適なキャンパスライフなんて甘えたものは当然存在しません。
今回セリスと同じ日に入試を受けるのは32人。
最年少の飛び級令嬢セリス16歳から38歳の総務省事務次官(大臣、副大臣の次に偉い国家公務員の最高位役職)の子爵様までと幅広い。
38歳の子爵様は必要な学科の単位を仕事の合間を見ながら小分けで取得しているので今回で7回目の入試との事。
この辺の融通が効くのもアカデミーの良いところだね。
「へー?事務次官って呼ばれる人達ってオカルトじゃなくて本当に存在してたんですね~」
普通に生きてると事務次官と出会う機会なんて無いからね。人数だけは圧倒的に多い国家議員より遥かにレアな存在である。なんにしても失礼なヤツだよね。
「そうなんですよ。本当に実在してたんですよね~。
それにしても飛び級とは、お嬢様は頭が良いね。ウチの子にならない?」
「えへへへへへ~」
子爵様は顔が良くて頭が良くて若くて偉い人の割には随分と気さくな人でした。
そしてやっぱり超エリートには超美人な奥様がいるとの事。
ちなみに高級官僚の事務次官が高位貴族のセリスの顔を知らない訳もなくウザ絡みして来たセリスを上手い事さばいています。
さて、初日は面接と基礎語学力のテストです。
試験官が複数人の受験者に様々な内容の質問をして、その受け答えで採点する方式のテストだ。要するにリスティングのテストだね。
このテストの怖い所は質問内容が試験官によって左右される所である。
理系の試験官と文系の試験官で質問内容が変わるので少しの油断も出来ないのだ。
試験は試験なので事前に質問内容とかは知らされていないが大体は今回の受験に関する内容が多いとの事だ。
次の日から始まる本試験の問題のヒントなども結構出るので皆んな真剣そのものである。
リスティングで受験者を真剣にさせるなかなか巧妙な試験構成内容である。
そして今回、セリスが居るグループの試験官は理系の試験官だった。
「最初の質問です。太陽の中心で電子と結び付いていないものは何だと思いますか?」
この質問に理系学科選考の受験者は「キター!明日出る試験問題だー!」と思って文系学科選考の受験者は「そんなモン知らねー!」と思った。
しかしこの場合は正解が分からなくても別に問題は無いのだ。
自分が分からない事をどう相手に上手く伝えるのか?をテストされているのだから。
なので当然ながら試験官は正解を知らない文系学科選考の受験者に解答を求めて来る。
「それではセリスさん」歴史学学科選考のセリスが当たりを引いた。
「そうですわね。ヘリウム原子核と・・・わたくしにはもう一つが分かりませんわ」
もう一つの回答が水素原子核だと知っているセリスなのだが次の受験者の為に敢えて「もう一つの答えは知らない」とハッキリと試験官に伝えるセリス。
すると試験官は満足そうに頷き次の受験者に、「ではトーマスさん、もう一つが何か分かりますか?」と質問を次の人に続けていくのだ。
要するにこの試験内容には語学力の他にチームで研究する為のコミュニティー能力も試されているのだ。
そしてこんな感じに45分間の質疑応答が間髪切れずに続いて行くのだ。
試験が終わる頃にはグッタリしている受験者達・・・何がどう正解だったのか全然分からなかったからだ。
今までの学校の試験の様に「丸暗記すれば良い」などの手法が一切通用しないのがアカデミーの試験なのだ。
《怖?!アカデミーの試験って怖?!》セリスを通して死屍累々になっている受験者達を見て慄く霊視さんβ。
「ね?アカデミーの試験にはカンニングペーパーなんて通用しないのよ?」
《こんな試験のやり方もあるんだね・・・》
正解な答えよりも答えにたどり着く過程の方を重視している試験内容なんだよね。
試験内容を聞いた霊視さんβから「なら霊視を使ってカンニングを手伝おうか?」との打診を「多分無駄になると思うからペーパーテストだけでいいわ」と返したセリス。
何で霊視さんβがセリスに「カンニングを手伝おうか?」とか、とんでもない不正の提案をしたかについてはアカデミーの試験では試験場に参考書やノートなどの持ち込みが許可されていて「試験中に見たければ幾らでもカンニングしてどうぞ」状態だからだ。
しかも霊視さんβとの念話の様に試験中の外部との通話(他の受験者に迷惑がかからない範囲で)までもが許可されている。
「予想していた試験と全然違う。これ・・・明日からの試験・・・どうなるのかしら?」
今までの様に解答用紙に答えを書き込むだけの従来の試験とは全く違うと悟り天を仰ぐ20代女性の受験者。
「まあ、気楽に行くしかないですねぇ。でもどこかでペーパーテストも有るはずですよ?100点満点で合格になるとは思いますけど」
そう言って笑いながら女性受験者の肩をさするセリス。
つまりペーパーテストは「いかなる手段(カンニングをしようが外部の誰かに答えを聞こうがよし)を駆使してでも」満点を取る必要があるのだ。
「そ・・・それはそれでプレッシャーが凄い・・・」
逆説的に考えて分からないからと捨てても良い問題が一問も無いとも言える。
自分では分からなくても参考書で調べたり答えを知る誰かに質問したりするなり必ず正解を導かなくてはならないからだ。
試験中に参考書等の持ち込みや外部への連絡を許しているのは「許可をしないと落ちる人間が続出するから」である。
分からない事を聞く力や忘れた事を調べる力を見る試験でもある。
何ならうるさくさえしなければ隣の受験者に答えを聞くのもアリなのだ。
なので試験場の外で金をかけて知識人を集めて念話等で問題を伝えて代わりに問題をやらせるのもOKである。
しかしそれをやると入学してから本人が苦労するだけなのでそれを実行する人間はほとんどいない。
アカデミーの卒業など経歴の観点から言うと何の価値も無いのだ。
アカデミーで何の勉強をしたのか?が就活の時に重要視される。
《何でそんな試験のやり方をするの?普通の試験ってその人本来の学力を見るんじゃないの?》
霊視さんβも不思議そうだ。確かに個人の学力を探るにしては矛盾している試験方法だからね。
「受験者の全員の学力が合格レベルに有るのが当然なのが前提らしいよ?わざわざ高いお金を払って受験するのですからね」
アカデミーに入るつもりなんだから必要な学力なんて持っているのが当然だろ?とのコンセプトらしい。
ちなみに最初から受かるつもりも無い、いわゆる記念受験とかを防止する為に高額な入試料金10万円(相当)を前払いでアカデミーに払う必要があります。
そんで合格すれば本来の料金1万5千円(相当)を差し引いた差額分の8万5千円(相当)が帰って来る仕組みです。
《・・・ある意味で怖い試験だね?》
死ぬのも生きるのも全てはお前次第だよ?と言わんばかりなのだ。
入試の段階から既に研究者としての資質を問われているのだ。
「なんでも異世界の大学の試験内容を参考にしているらしいですよ?
地球でこの入試方法に1番近いのは高卒の資格が有ってTOEICが550あって入学金を払えば誰でも入学OKのアメリカのペンシルバニア大学かな?
その代わり卒業する為には血反吐を吐き散らかさないとダメらしいですけどね」
《いや、ペンシルバニア大学って・・・こんな入試方法をこの世界に持ち込んだ発案者なんて「ラザフォード」しかいないじゃん・・・》
霊視さんβが言うところのラザフォードとは魔法世界に住んでる「黒龍王」の事である。
前世ではペンシルバニア大学卒業の女性ロックミュージシャンだったりします。
「え?なに?らざ?」
《いんや?何でもない。こっちの知り合いの話しよ》
このお話しにはラザフォードさんの登場予定はありません。
「ふーん?じゃあペーパーテストの時は協力よろしくねー」
《はー・・・全問正解が絶対条件とかカンニングを公認されていても地味に難関だよね・・・どんなヤバい問題が来る事やら》
人間用の歴史の教科書を本棚から取り出す霊視さんβ。
「最初からカンニングを前提とした難易度なんだろうね。
もう全ての発想が完全にマッドサイエンティストだよね~」
まあアカデミーそのものがマッドサイエンティストの巣窟だからね。
・・・・・・・・・・・・・・・
「いや何これ?むっず!」
《やっぱ1問目からとんでもない問題が来たかー。マニアックな所を攻めて来るねー》
セリスが選考した世界史のペーパーテストだが、人間の歴史を自分の目で直近で見てきた霊視さんβでも「すげえマニアック」との事。
地球に例えると「ヒトラーはパウル・フォン・ヒンデンブルク大統領の死去に伴い、首相と大統領の職務を兼任し、「総統兼宰相」となりました。この時のナチ党副総統の名前は?」とかの問題がわんさか出て来るのだ。
「次の問題ヤバい!これヤバい!ヤバいよ霊視さん!
エルフの女王イリスとトラスト城塞都市で会談したタシア共和国のトンプソンさんって誰なのさ?!こんなの公式な記録に残ってたっけ?参考書にも載ってないんですけど?!」
《ちょっと待って!今、思い出す!思い出すから!・・・いや!トンプソンってマジで誰なのさ?!》
本人が覚えてないのにセリスに分かる訳がないよね・・・
セリスと霊視さんβは参考書を片手になんとか難問を乗り越えるのだった。
《あー・・・思い出したよ・・・外務大臣のトンプソンね・・・あー、はいはい。
確かに外遊先で会談してたわー》
城の保管庫に埋蔵されてた過去の外交資料をひっくり返してようやくトンプソンさんの事を思い出した霊視さんβなのでした。
あっ、ちなみにナチ党副総統の名前は「ルドルフ・ヘス」です。
思いの外、霊視さんβがアテにならず極限に追い込まれたセリスの「思考加速」もフル回転する。
「ああああああSAN値とMPが削られるーーーー」
《私のSAN値も削られるーーーー。そして私のお部屋がドンドン散らかるーーーー。
てか「イリス」を集中砲火するとか何の嫌がせさ!》
「エルフの女王イリス様が重要な政局に関わっている事が多いからじゃない?」
《そうだけどさ?!そうじゃないのよ!》
なんか知らないがテストの問題が「エルフの女王イリス」関連に妙に偏っているのだ。
他人の事は覚えているが自分の事を覚えていないのは結構あるあるである。
その度に当時の資料を自分の部屋にぶち撒くハメとなり霊視さんβの部屋は資料まみれになっている。
それにしても「思考加速」ってなんか反則臭いがこれも個人の能力だとアカデミーでは認められている。
アカデミーは優秀な研究員さえゲット出来れば細かい事は気にしないのだ。
《お願い・・・早く・・・早く終わって・・・》
部屋を資料まみれにして霊視さんβの侍女さん達が凄い目で霊視さんβを見ているのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「終わった・・・・」
《頑張った・・・私、頑張ったよ・・・》
《なに終わった感じを醸し出しているんですか?さあイリス様も一緒にお部屋の片付け頑張りましょうね。先ずは散らかした資料を項目年代毎に分けて下さい》
《ひい・・・》
こうして霊視さんβとの通信は途絶えた・・・.
霊視さんβのSAN値に大きなキズ跡を残してセリスのアカデミーの入試は終わったのだった。
そして結論から言うと今回入試に挑んだ受験生の合格者数は29名。ほぼ全員が合格出来たのだが(別に満点でなくても良かったらしい)入試内容にビビって入学願書を提出したのはセリスを含めて6人しか居なかったとの事だ。
《アンタの所の大学ってマッドサイエンティストの集まりなの?》
「マッドサイエンティストのイリス師匠がそれを言いますか?
そして苦情を入れる先を間違えてます。文部科学省に多大な迷惑をかけた俺がテスト内容に関与出来る訳ないでしょう?イリス師匠も知ってるでしょうに」
王立学校連続留年事件により文部科学省から蛇蝎の如く嫌われているヤニック国王なのです。
と言うより呆れられているの方が正解かな?
《そうだけどさ!そうじゃないのよ!》
エルフ女王に関するマニアックな問題の数々に精神をゴリゴリに削られた霊視さんβがヤニック国王に苦情(八つ当たり)を入れる。
やれやれマッドサイエンティスト、エルフ代表が何を言ってるんだか・・・
こうして無事にアカデミーに進学する事が出来たセリスだが珍しい事に国や冒険者ギルドから緊急依頼が来るとかの妨害は無かったのだ。
セリスは比較的快適な受験生生活を堪能出来たのだ。
これは霊視さんβがヤニック国王に「セリスが国やギルドの都合で受験に失敗なんかしたら極大魔法を王城のヤニックちゃんの部屋に直接撃ち込むからね?」と脅したからだ。
「なんで俺の部屋に?!セリス嬢の受験に俺は関係ねーじゃん?!」
エルフの女王からの本気の脅しに恐れ慄き、割とガチ目に国としてもセリスへ受験勉強の支援が入ったのは言うまでもない。
ちなみに奨励金は・・・「奨励金なんて申請されたら凄く恥ずかしい・・・お願いだから申請を出すのはやめて下さいね」と父に懇願された。
そりゃ奨励金を出す立場だもんねカターニア公爵家は・・・それを長女が貰うとか恥ずかしいったらありゃしない。
何はともあれ受験お疲れ様でした。




