それぞれの報酬。
イビルスピリットと呼ばれるかなりヤバい悪魔の撃破に成功したジャックは、「いやあ、結構ヤバい奴でマジで焦ったぜ」と汗を拭う。
アッサリと倒した様に見えてかなりギリギリの退治だったとの事。
あっという間に決着を付けたのは悪霊の除霊は短期集中決戦が基本だからだ。
時間を掛ければ掛けただけ悪霊に心の中に付け入る隙を与えてしまうからだね。
「凄かったです!ジャックさんが大きいのは体だけじゃないんですね!」
セリスが霊視さんαを通して見えたジャックの魔力はそりゃあバカでかかった。
「本当に失礼な嬢ちゃんだな!ガハハハハ」
《そりゃジャックの魔力は大きいよ。何せSランク冒険者だからね》
霊視さんβの弟子自慢が始まる。
「えっえSランクぅうう?!」これにはビックリセリス。
超大国ピアツェンツェア王国国内でもSランク冒険者は14名しか居ないと言われている。
世界を見渡しても100名もいないだろう
それもそのはずで冒険者の最高ランクがSランクなのだ。国によっては「勇者」と呼ばれている連中なのだ。
「まあ相手も間違いなくSランクだったからな。
それでも勝てたのはセリス嬢ちゃんのアドバイスがあったからだ。
何も知らんで突っ込んでいたら本気でヤバかったかもな。
だから今回の報酬の2割はセリス嬢ちゃんのモンだ」
ジャックも自分の力だけで勝てたとは全然思っていない。
今までは無宗教のジャックだったが大いなる存在の加護の力をハッキリと感じたのだ。
《しかしイビルスピリットが最後に残した言葉・・・アテネ・・・か。
俺も少しは神様ってヤツを信じても良いかもな・・・》
そんな事を考えてるジャックの前ではセリスが興奮してピョンピョンしている。
こうしている分には可愛い女の子なんだがな・・・
「ええ?!良いの?!本当に?!」
「ああ!良いぜ、その代わりまた霊視ってヤツを頼むぜ」
「喜んで!ジャックさん大好き!」
正体は全然分からないが助けてくれた「アテネ」と言う存在に少しお布施でもしようかとジャックは考えたのだ。
《うふふふ♪♪それならジャック君は、この世界で初めての私の信者ですね。
セリスにお金をくれた事だしお返しに私からも少しサービスしちゃおうかな?》
どこからかそんな呑気な声が聞こえた気がしたジャックだった。
霊視さんαからの報酬でジャックの右の拳には、あの時の謎の紋章が目には見えない位に小さく刻まれたのだった。
ジャックに付与されたのは神与スキル『アイギスの恩寵』
アイギスとは女神アテネが持つ聖なる盾の名称なのだが今回は紋章に姿を変えてジャックの拳に装置された。
どうやら変幻自在に形を変えれる様子だ。
エジオスの盾も同じ神器だと言われているがアテネクラスの神ともなると神器の複製を幾らでも作り出せるので同じ神器かどうかは不明。
《アイギスがどう変化するかはジャック君次第ですから、ちゃんと育てて下さいね~》
どうやらいきなり無制限で女神アテネの力が使える訳では無く所有者と共にレベル上げが必要なスキルの様子だ。
霊視さんαは軽い感じにホイっとアイギスをジャックにあげてしまったのだが、神器の管理責任が有る本体女神のアテネ様は大騒ぎである。
『ない?!アイギスの複製NO,6が宝物庫から行方不明ですよ!!
自立型分身体の皆さーん?アイギスを知りませんかぁー??
神器を持ち出す時は必ず天界から許可を取って下さーい。』
《アイギスですか?さあ?私ではありません》
《私も知らないですねぇ》
《そもそも幻神の私達では鍵を開けられませんからねぇ》
銀河各地に派遣されてるアテネ型分身体達から次々に報告が入るも、
《知らないでーす》何も悪びれずに嘘を吐く霊視さんαでした。
女神アテネに作り出された当初の霊視さんαは自立型だが鑑定能力と簡単なアドバイスしか出来ないダウングレードタイプの分身体としてセリスの目に付与されたのだが・・・
女神アテネが霊視さんαの管理パスワードを設定し忘れたのだ。
《あら?あらあら?これはこれは》
自分で管理画面を開く事が出来た霊視さんαは、これ幸いと自分のカスタマイズをやってしまい、「女神アテネの力を80%も勝手に引き出す事が出来る分身体」になっているのだ。
勿論、女神アテネはその事を知らない(自分がミスってる事を分かっていない)のでアイギスを持ち出したのが分身体の中でもダウングレードタイプの霊視さんαだとは思っていない。
なかなか狡猾な霊視さんαなのだ。
霊視さんαは虎の威を借る狐ではなく、本体の威を借る分身体なのだ。
「酷え?!」とは思うが霊視さんαは女神アテネの性格そのまんまなので女神アテネも文句は言えないだろう。
霊視さんαの正体が判明した所で「じゃあ何で女神アテネがセリスの目に自分の分身体を付与したのか?」との疑問なのだが・・・
これ結構長い話しなので別枠を使って物語の後半に書きます。
一応「龍騎士イリス」のどっかにあらすじを書いたと思うので暇なら探して見て下さい。
何はともあれ神与スキルをゲットしてしまったジャックは超ラッキーだね!
「ジャックさん?どしたの?」
「・・・いや?何か拳が・・・何だ?」
右の拳が明らかに今まで以上の力を入れる事が出来るのだ・・・不思議そうに拳を眺めているジャック。
「まあ良いか。そんで報酬は明日あたりに公爵邸に届けてやるからな」
「やったーーーー!!!」
セリスには公爵令嬢のプライドなんて物は皆無なのだ。
平民に施しを受けても何も気にしない。長い物には巻かれろ。立ってる大人は親でも使え。それが彼女の信条なのだ。
それにSランク冒険者のジャックとお近づきになれるのはメリットの方がデカ過ぎる。
セリスにとっては大満足の見学になったのだった。
ちなみに、セリスは知らないがジャックは名門伯爵家の次男坊なので平民では無い。
そしてフェナはその事をセリスに伝える事を忘れている。
しかし・・・良い大人のジャックがいれば当然ながら悪い大人もいる。
このすぐ後にセリスが本当の意味で生涯に渡って「クソ親父」と呼ぶ事になる悪い大人との出会いが待っているのだ
《それよりも師匠よ?アテネって何者なんだ?》
異界の女神アテネの名前は魔法世界では全く知られていない。
と言うか魔法世界の主神である女神ハルモニアですら布教活動を全くしていないので一般的には知られていない。
布教をしない理由は女神ハルモニア曰く自分より龍種に人々の信仰を集めた方が何かとやり易いからだそうだ。
あくまでハルモニア(ハーモニー)の支持基盤は地球にあるのだね。
《アテネ様はセリスの目の中に住んでる何者かの名前よ》
今回の事でもアテネがかなり高位の神様なのは分かったが未だ正体不明なのだ。
女神ハルモニアの事は知っているが女神アテネは知らない霊視さんβ。
霊視さんβ自身がユグドラシルの元眷属で霊界への送り人でもあるので女神フレイヤと女神ヘルと冥王ハーデスの事は知っている。
えらい神様への知識が偏ってんなぁ・・・
《神様がセリス嬢ちゃんの目に住んでるってマジで?
師匠にもアテネの正体分からないのか?》
《マジよ。本人?に聞いてもはぐらかされて教えてくれないんだモン》
《でもよ?こんな事が周囲にバレたらセリスの嬢ちゃんは「人買い共」に狙われるぜ?大丈夫かよ》
特殊能力を持ったパツキン青目の美幼女・・・確かに人買い共が涎を流して狙って来そうである。
この世界の人買い共(奴隷商)は、かなり厄介な連中で王族すら平気で狙って来るのだ。
魔族からの支援(もしくは魔族そのもの)を受けているので強力な戦闘力と魔導能力を誇り、時には龍種ですら拉致すると言うから恐ろしい。
霊視さんβの人生はこの連中との戦いでもあったのだ。
現在、この連中に狙われたせいでグリーンランド王国の姫君が難を逃れる為にピアツェンツア王国の第三側妃として避難しているのだ。
《全然大丈夫じゃないわね。だから「最強の護衛」を雇ったわ》
《あー、なるほどな》
霊視さんβとジャックが真面目な念話をしている先ではセリスとフェナがキャッキャッしている。
「セリス様!良かったですね!Sランク冒険者の報酬ともなればかなりの金額になりますよ!」
「えへへへ、幾らくらいかな?!
100万円(相当)くらいになっちゃったらどうしよう?!」
「ん?依頼金は5000万円(相当)の仕事だから嬢ちゃんの取り分は1000万円(相当)だぞ?」
「「えっ?」」ジャックの爆弾発言に固まるセリスとフェナ。
「だから1000万円(相当)だ」
「「いっせんまんえん(そうとう)ーー??!!!」」
☆魔法世界の解説者シリーズでは計算が大変なので通貨単位をダイレクトに円換算しております。
ファンタジー要素が薄れる?いちいち電卓で計算すんの面倒臭いのです。
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「うわー?マジで1000万円(相当)だった・・・凄ーい」
ジャックから受け取った金貨を見て唖然としているセリス。
金貨約500枚は8歳児には持てる重量じゃないので床に金貨を出して「おはじき」の様に金貨を数えてるセリス・・・お前それ全部数えるの?
と思ったら単に一回金貨を触りたかっただけだったらしく直ぐに袋に入れ直してフェナに「セリス専用金庫」まで運んで貰った。
家の金庫にしまうと両親にどこかに寄付されてしまうからだ。
「セリス嬢ちゃんじゃ重くて持てねぇだろうから直接持って来たぜ」
冒険者ギルドへ出勤途中のジャックが「あっ、このカレー昨日作った余り物だけど」的な感覚で大量の金貨が入った袋を持ってやって来たのだ。
「凄いですね!これならお札も貼り放題ですよ」
「やめんかい!あの日、牛肉が鶏肉に変わった恨みは生涯忘れんぞ!」
妹ちゃんの除霊の時、フェナの無駄遣いで予定していた夕食の牛肉のステーキが鶏肉の唐揚げに変わってしまったのだ!・・・まぁ、セリスは鶏肉の唐揚げも好きなんだけどね。
「そもそもあの変なお札って何か効果あるの?」
《そうね。めちゃくちゃ効果が有るわね。フェナは「元聖女」だからねー。
前にフェナが貼っていたのは「対魔結界」のお札ね》
霊視さんαがフェナが貼る謎のお札の説明をしてくれる。
「・・・・・・おい・・・今なんて言った?」
《元聖女》
「フェナ?!あんた聖女だったの?!
じゃあ何でカターニア公爵家で働いてんの?!!
そのまま教会に居れば給料なんてウチの10倍以上は貰えていたんじゃないの?!」
「えええええ??急にどうしたんですかセリス様?」
セリスと霊視αの会話が聞こえていないフェナにはセリスがブツブツと何か言い出したと思ったらいきなり自分に捲し立てて来た様にしか見えていない。
ちなみにフェナの現在のカターニア公爵家の給料は月給20万円(相当)残業代有り、他手当有り、だ。
一応は本給は固定給で宿泊費と食費は無料なのだが他の家門の護衛騎士から見てもめっちゃ給料が安いと言える。
「えーと?そうですね・・・長くなるので聖女の話しは後でしますよ。
それよりも何してるのジャック兄ちゃん?」
フェナの視線の先にはセリスの足元に金貨を一枚置いてセリスを一心不乱に拝んでいるジャックの姿があった・・・正確にはセリスの目を拝んでいる。
「ん?参拝だから気にすんな」
「参拝????そ・・・そう?なのね・・・・
いや!!皆んなして何か・・・何かおかしくないですか?!」
セリスとジャックの奇行に恐れ慄くフェナ。
確かにどちらも異常な行動にしか見えんね。
ジャックは『アイギスの恩寵』の効果なのか霊視さんαの気配を感じられる様になっており、セリスの目に住んでる霊視さんαを参拝しているだけである。
・・・いや!幼児を拝むとか、事情を知らん者から見たらマジで不審者だね!
余談だが真面目な性格のジャックのセリス御神体への朝の参拝は続き、毎朝セリスには金貨1枚上納される様になった・・・やったね!セリス御神体の不労所得だね。
参拝が始まって一カ月後・・・
「その格好は何だセリス?」
「・・・え?変かな?御神体ならこれっきゃない!って思ったんだけど・・・」
御神体サービスで、なんちゃって巫女さんの格好をしているセリス。
仕事に関して真面目なセリスは日当金貨1枚分の仕事はしっかりこなすつもりなのだ。
パツキン幼女の巫女さんスタイルはロリコンな人達にとっては脳天爆発の凶器になるのだが、ロリコン属性は無く3歳娘と2歳の娘が居るお父さんのジャックにはパツキンロリ巫女を見ても変な格好をした子供に見えなかった・・・
「」
「いや・・・だから別にセリスを拝んでいる訳じゃなくてな?」
一応セリスには、ちゃんと霊視さんαを拝んでいる事の説明はしているのだ。
「だからね?綺麗な女の人の像を作って霊視さんの御神体にしようとしたんだけどね?
霊視さんに「絶対に嫌!セリスから出ない!」って言われちゃったのね」
カターニア公爵邸の勝手口には、その時にセリスが彫った木製の等身大女性像の彫刻が置かれている・・・
ドレス姿のとても優雅な女性である。
「しっかし無駄にクオリティ高えよな?俺は芸術には疎いがコイツは凄えって事は分かるぜ」
「そうですね、私もセリスお嬢様の隠されていた才能にはビックリです」
とある理由からセリスの彫刻を彫る技能はヤバいレベルで高い。
この像は母親のバーバラ夫人をモデルにして彫ったのだが・・・普通に学校の校門とかに置かれていても不思議じゃない素晴らしい出来なのだ。
「これ・・・商売になりませんか?」
「そうだな・・・これだけの腕前なら自画像が好きな貴族なら大金叩いて欲しがる奴も多いぜ」
「商売?うーん?・・・何故か分からないけど、この技術だけは商売とかに使っちゃダメだって感じるのね?
私も売れば儲かりそうだな~って思うんだけど・・・何でじゃろ?」
《セリスが木の扱いが上手いのは、ある意味で当然の事なのね》
「そうなの?!なして?!」
霊視さんαが出て来たので早速今日の参拝をするジャック。今日も無事に金貨ゲットだね!
《セリスにとって適切な時期が来たら自然と理由は分かりますよ》
「??????時期?大事な事は、はぐらかすんだから・・・」肝心な所では口が堅い霊視さんαなのだ。
ジャックから「アテネ」の名を聞かされてもピンと来なかったセリス。
実はセリスとアテネは前世の前世の前世の時代の時からの知り合いなのだが記憶が封印されているのでアテネの名前が分からないのだ。
「良く分からないけど本日の御神体のお仕事完了!」
パツキンロリ巫女の姿で金貨を掲げるセリス。
こうして幽霊退治屋とは違う場所で金貨を稼ぎまくるのだ。
そう言えば書き忘れていましたがセリスはコスプレが大好きです。