表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/44

幽霊退治屋セリスのデビュータント。その2

「セリス嬢?そんなに嫌な顔をしないで下さいよ」


「いやですわ。そんな顔などしておりませんわ」


そこの2人!国王の演説も聞かずにヒソヒソ話しとは不敬である!


さて、王妃ファニーからセリスへのお願い事とは?


それは現在ピアツェンツア王国に滞在中のグリーンランド王国の第二王子のマウリス殿下(18才)とホールの中央でファーストダンスを踊って欲しいとの要望である。


ちなみにマリウス殿下は王妃ファニーと同じ東部地域特有の黒目碧眼のかなりのイケメンでピアツェンツア王国の令嬢達の間でも大人気の殿下である。


一応、王妃ファニーとは同じ曽祖父を持つ遠縁の親戚でもある。


余談になるが、この時のマリウス殿下は国王ヤニックの側妃として嫁いで来た妹のアストリッド姫の付き添いでの来国である。


アストリッド姫はセリスより1歳年上との触れ込みだったが実の所はセリスより2歳も年下で現在は13歳である。

嫁いで来たと言うよりは悪化しつつある地域紛争から身を守る為に「ピアツェンツア王国に避難」しに来たのだ。


ピアツェンツア王国としてもグリーンランド王国は東部方面の防衛面での超重要な同盟国なので全力で支援している。


しかし政略ダンスとは言えイケメンの王子様とのダンスとは遂にセリスも恋愛モードに突入か?!と、思ったが残念ながらマリウス殿下は既に売却済みである。


マウリス殿下には自国にて超美人で性格良し!の婚約者が居るのでセリスにはなびきません。

と言うか、マリウスの方が婚約者のチェルシー公爵令嬢にゾッコンでセリスも若干引く少し危ないレベルで固執している。

そんな訳でセリスとマリウス殿下は金儲けで繋がる「悪友」なのである。


マリウス殿下が8年前に始めてピアツェンツア王国に親善来国した際にカターニア公爵家が滞在中のお世話をした事でセリスとマリウス殿下の交流が始まった。


少し2人で話しをした所で「おっ?コイツ自分に似ている?」と、セリスとマリウス殿下はお互いに「お金大好き」な点でのみ意気投合してその後も様々な儲け手段を企んでいる。

10歳と7歳の子供が金儲けの話(若干、法律よりアウト気味)を真剣に話す・・・親からすれば涙目になる大惨事である。


そして国は違えど同じ公爵令嬢と言う事でチェルシー公爵令嬢とは幼少期からの顔見知りである。

どちらかと言うとチェルシー嬢との縁からマリウス殿下と知り合ったと言う方が正解である。


このチェルシー公爵令嬢はマリウス殿下と同い年。つまりセリスより3歳も年上なのだがセリスを「お姉様」と慕っており逆にマリウスがセリスにヤキモチを妬いている。

要するにマリウスにとってセリスは「恋敵」でもある。

「だから何で恋敵なのさ?!」

セリスの社交界での活動に関してはあまり話しには出ないが(書いててつまらん)セリスの社交能力は控えめ言っても高く、招待を受けたお茶会などにはきちんと参加している。

そして成人した今日からは夜会にも参加せんといかなくなるのだ。


「アストリッドの地位向上に協力してよ。友達なんだからさ」


「へーい」


要するに今回のマリウス殿下とのダンスは、ピアツェンツア王国の第一側妃となったアストリッド妃(実質的な第一側妃はエリザベス妃)の地位向上と両国の友好を確認する100%政治的な儀礼である。


カッコいい王子様と麗しい公爵令嬢とでデビュータントのファーストダンスを踊り両国の友好を国内外に向けにアピールするのだね。

マリウス殿下自身もデビュータントを迎える大国の公爵令嬢とのダンスは政治的に重要なのだ。


セリス的にはマリウス殿下とダンスするのは別に構わんのだが政治利用されるのも何だか癪なので、「でもさ?今更マリタンとダンスしてもね~」と、セリスの隣に並んで立っているマリウス殿下に小声で八つ当たりをする。


「文句言うんじゃありません。私だって早く国に帰ってリーシェとダンスしたい」

見事なくらいにマリウス殿下はセリスの事を「戦友」としか見ていないので麗しきセリスの純白のドレス姿を別に褒めたりもしない。


「へいへい。ご馳走様~。ところでリーシェちゃんは元気?」

リーシェとはチェルシーの愛称である。

ちなみにセリスは愛称も「セリス」である。たまに年寄りの親戚から「リズ」との愛称を付けられる時もあったが定着はしなかった。


「元気だよ。セリスお姉様に会いたい会いたいってシクシク泣いてた・・・」

チェルシー公爵令嬢もセリスの真なる男気に触れてしまいセリスに惚れた人物である。


「だからなして皆んな私に会えなくなると泣くん?!そして私は年下です!」


「セリス嬢はウチ(グリーンランド王国)でも令嬢達の人気の的だからね」

既にチェルシー公爵令嬢の友人達も宝塚令嬢セリスの漢の毒牙に掛かっていた様子だ。


こんな感じにお互いの裏の気心を知る仲なので恋愛になど発展しようがないのだ。

それが分かっているから王妃ファニーがセリスにダンスを頼んだのだね。


またまた余談になるがセリスはカッコ良い王子様やイケメン貴公子なんかを見ると友人の令嬢達と一緒にキャーキャー騒ぐ普通な女の子の一面もある。

別に男嫌いとか恋愛に消極的とか言う訳ではない。むしろカッコの良い男はウェルカムな令嬢なのだ。


単に今まではセリス親衛隊の女性陣のガードが鉄壁過ぎて男連中がセリスに接近出来なかっただけである。


え?!じゃあなしてこの前は見合いから全力で逃げてたん?と言われると基本的にセリスの頭の中は恋愛至上主義なので形式的なお見合いが根本的に嫌いなのです。

例えると運命的な出会いを果したイケメンと浜辺でキャッキャッウフフしたい女子なのです。


お見合いとかの形式を取らずに「たまたま偶然による紹介」と言う形でセリスにアピールすれば「あっ、どもども」とセリスも簡単に応じるはずなのだが、セリスに対するアピールの仕方を間違えているのだ。色々とめんどくせぇ女なのである。


それからもう一つの理由として貴族同士のお見合いと言う物は互いの家の政治的な損得感情が全面に出ているのが普通であり、その場の物凄い緊張感が胃がキューとなり吐きそうになるのだ。

男から逃げていると言うよりは政治的なプレッシャーから逃げてる訳だね。


そんな話しをしていると・・・


「それでは本日は大いに楽しんでくれ!」

大幅に省略していたが国王ヤニックからの祝辞とデビュータント舞踏会の開始の宣言を受けて会場の照明が暗くなる。


「もう終わり?!」完全に気が抜いてたセリスがピクン!と驚く。

音楽が始まると1番先にホール中央に行かないといけないので慌てて胸を張り姿勢を正す。


ちなみに国王ヤニックの人前での演説は他国の王と比べてもめっちゃ短いと言われている。

今回のデビュータントを迎える者達への祝辞も3分15秒しか行われておらず権威的な事を考えても最低でも5分は演説して貰いたかった儀礼担当の総務大臣も少々渋い顔だ。


無駄は極力省く!の精神は最前線の最前衛で戦っていた勇者の1人らしい。

同じ場所に長時間留まるのが少し苦手なセリス的には「ヤニック叔父様のお話は短くて好き!」なのだが今回はセリスの想像してたより遥かに話しが短過ぎたのである。


後に公式に判明するが国王ヤニックの祝辞が妙に短かったのは演説の10分前に西の大陸の沿岸に派遣していたピアツェンツア艦隊より『敵ゴルド主力艦隊との交戦を開始せり』との一報が入っていたからで、別に「あー、めんどくせぇ」とかのふざけた理由では無かった。


もっともこの海戦は数では劣っていたが装備、士気、練度に勝るピアツェンツア艦隊の圧勝劇で終わるんだけどね。

奇しくもセリスのデビュータントの日が世界の歴史が大きく動いた日でもあった訳だ。


音楽が流れていよいよ舞踏会会場では周囲から注目を一身に浴びつつセリス&マリウス組のファーストダンスが始まった。


「はあ・・・さすがはセリス様・・・ダンスがお上手ですわ」


「本当に妖精の様ですわ」


「・・・素敵」


セリスの見事なダンスに周囲で見学中の保護者の夫人達からも感嘆の声が上がる。

一応セリスは国内でも有数のダンスを腕前を誇る凄い令嬢なのだ。

ただセリスよりダンスの上手い連中がアホ見たいに凄まじくて全然目立たないんだけどね。


タターンっと、軽やかなステップを踏みつつ、「ねえねえ?そう言えばマリタン?グリーンランドでボタノ炭鉱の株買わない?」と小声で商談を切り出すセリス。


「一生で一回きりのダンス中なのにいきなり下世話な話しが始まったね」苦笑いのマリウス殿下。


チャーラララと美しいステップをブチかましながら証券取引の営業をブチ込むセリス。


「うふふふ・・・ここだけの話しでね?・・・・・・やるわよ?私達」


「えっ?!いや!何をする気?!・・・・・・・・ハッ?!まさか?!・・・詳しく!」

外面用の穏やかだったマリウス殿下の王子様スマイルが儲け話の匂いを感じて一気に為政者の顔になった?!小国とは言え彼も立派な王族なのだ。


ちなみに兄の王太子殿下とマリウス殿下はめっちゃ兄弟の仲が良いので継承者争いとかは起こっていない。

マリウスは主に外交担当(外貨獲得)の王子様なのだね。

遡るとグリーンランド王国はかつて武装商人達と呼ばれた者達が興した国である。

現在の王家も武装商人の末裔である。遺伝子的にも金の匂いに超絶敏感なのだ。


「あのね?ボタノ炭鉱のオーナーと私の仲間達と一緒にゴルド商人相手に売りを浴びせる予定なの」

ネクロマンサーの一件以来、ボタノ炭鉱のオーナーと他の株主達ともめっちゃ仲良くなったセリス。


「ほうほう?まあ・・・そのくらいの株価操作なら・・・ね」


「そんでさ?明日のボタノ炭鉱株の取引緊急停止下げ値を380円(相当)に設定しているからそのギリギリのラインでマリタンにも買いに走って欲しいのよ」


具体的な金額来たーーーー?!?!お前それ完全にインサイダーじゃえねえか!遂にやりやがったぞコイツ!


「でもそれだとセリスが法律的にヤバくね?」


完全に腹黒銭ゲバ王子の口調になるマリウス殿下。

アンタ達・・・とうとうその黒き正体見せたわね?


しかし確かにマリウスの指摘通り普通なら法律に抵触する事案である。

イノセントも「オメー?それやったら逮捕すんぞ」とセリスに忠告をしている。


「うふふふふ。調べたんだけどさ?法的なデットラインは安値で「350円(相当)ライン」なのよ。

つまり「380円(相当)」ならギリギリ違法にならない」

そう言いながらマリウス殿下の前で華麗にクルリンと回るインサイダーセリス。

コイツ・・・・・・・・法律の穴のギリギリを突く作戦だな?


「・・・・・・・・・・・・取り分は?」ニヤリと笑うマリウス。

そしてセリスの腰を掴み自分も一緒に回るマリウス殿下。


「儲けの25%」

マリウスの腕にその身を委ねてフワリと後ろに倒れ込むセリス。


「30%」

セリスを受け止めながら報酬を吊り上げるマリウス殿下。


「うーん、強欲ねぇ?仕方ないわねOK」

2人の煽情的な動きに小さく悲鳴が起こるダンス会場。


そして優しくセリスを抱き起こして最後のステップを踏むマリウス殿下。


「それじゃ契約成立だな」


「明日はよろしく~」


ワアアアアアアア・・・麗しい2人の優雅なダンスが終わり会場に歓声上がる。





・・・・・・・・・・・・・・・ダンスをしながら話していた内容は最低だが。



こうしてセリスのデビュータントは無事?に終わったのだった。






セリスのデビュータントから5日後・・・予想通りにボタノ炭鉱の株価について王家から呼び出しを食らうセリス。


「ふむ・・・資料を見る限りでも法律範囲内の株価の動きじゃが・・・」

財務省大臣から提出された資料を見て唸るエヴァリスト宰相閣下。


「しかし外国(グリーンランド王国)の参入も有りますしな・・・話しはそう簡単でもないかと」


外資系まで絡んだインサイダー取引疑惑なだけに会議室へと呼び出された外務省大臣だが、特に違法性が無く対処に苦しんでる様子だ。


「はははははは!実に絶妙なライン・・・いやはやセリス嬢もやりますなぁ」

財務省大臣は根っからセリス推しなのでギリギリのグレーゾーンを攻めて来た推しに実に楽しそうである。


「えへへへへへ~。いやですわ~。今回は運が良かっただけですよ~」


「2人共・・・笑い事ではない」

この銭ゲバな従姉妹姪をどうしたら良いのか分からずお疲れ気味な国王ヤニック。

海戦大勝利!からの「セリス嬢がインサイダー取引の疑いあり!」である。

思い切り上げてからの音速で落とされたのだ。


「まあ・・・違法性が無い民間取引なのじゃから国や王家が文句を言う謂れは無い・・・か。

じゃが「厳重注意」にはしておくぞ?今後は財務省の許可も無く安易な外資の流入は許さんぞ?」


お?どうやら今回は許された?


「大叔父様!好き!」

セリスもそう何度も上手く行くなんて思っていない。今回限りの一心入魂である。


「「「はあああああああ~」」」

ぶりっ子全開のセリスを見て大きくため息を吐く国王と宰相と外務大臣。

こうしてデビュータントを利用してまんまと6億円(相当)の大金をせしめてしまったセリスちゃんなのでした。








「デビュータントって最高ですわ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ