そしてパツキン少女がボタノ炭鉱でネクロマンサーとガチ決戦をかます。その8
ボタノ炭鉱でネクロマンサーを極大魔法「アーク・トルネード・ブラスト・maximum」でぶちのめした英雄令嬢セリス。
それはそれは人々から称賛され気分が良いだろうと思っていたが・・・
「アホかああ!!なんでよおおお?!!うぇえええーーーんん!!」
セリスの鳴き声がカターニア公爵邸に響き渡っていた・・・
なぜセリスが泣いているかと言うとネクロマンサーを討伐した際にぶち抜いた炭鉱の天井の修理代の請求書が届いてネクロマンサー討伐報酬と天引きになったからだ
「それよりも!ネクロマンサースレイヤーって何なのよぉーーーー!!」
同時に請求書に書かれた『ネクロマンサースレイヤーのセリス様へ』との宛名を見たバーバラ夫人の悲鳴も同士に響き渡ったと言う。
何はともあれネクロマンサー討伐お疲れ様でした!
ネクロマンサーにトドメを刺したもののアーク・トルネード・ブラストで炭鉱の天井をぶち抜いた修理代のせいで報酬無しになった幽霊退治屋セリス・・・
でもそれはさすがに可哀想なので天井の修理費は国持ちになった。
「当たり前でしょ?!私、頑張ってただけなのに!」
今の今まで魂が抜けていたセリスだがイノセントの差し出した報酬の手形を見て安心したのか途端に涙目で猛抗議する。
無事に通常報酬6000万円(相当)+ネクロマンサー討伐のダメージ報酬7000万円(相当)・・・何と1億3千万円(相当)の手形を受け取ったが今だにセリスは激オコだ!
そりゃ少し前まで1億円が0円になってたんだから怒って泣くわな。
「まぁ、多分・・・国が修理費の補填をしなくても謎のエルフが報酬分も含めて全部補填してくれただろうぜ」超膨れっ面のセリスの頭をポンポンするイノセント。
あの後、セリスがやらかして霊視さんβは走った!《ごめーん!絶対に私が弁償するからー!》と言って・・・それから音沙汰が無い。
多分その後は財務省と外務省に駆け込んだのだろうと思われる。
そして財務官と外務官にめっちゃ小言を言われて返答が出来ないのであろう。
「どうやって霊視さんが補填するのよ?」
「さあ・・・あいつなら何とかすんじゃね?」
一応は莫大な個人資産を持つ霊視さんβではあるがラーデンブルグ公国からピアツェンツア王国に大金を送金する際は通貨の関係上で財務省と外務省の許可が必要になる。
「・・・霊視さんって本当に誰なのよ?」
「本当に分かんねえのか?なら本人から聞いてくれ。俺には何も答えらんねえ」
コイツここまであからさまなのにマジで分かんねえの?と思っているイノセントだが余計な事は言わない。
「もう・・・」
セリスもしつこく問い詰め無いのは霊視さんβの正体を知ると霊視さんβとの関係が変わる予感がして怖かったからだ。
そしてイノセントはニヤリと笑う。どうやらここからが本題らしい。
「それからな?これはボタノ炭鉱の所有者からセリスへ感謝のプレゼントだ」
そう言うとイノセントはボタノ炭鉱の有価証券を10万株も出して来た。
現在の時価相場でも5000万円(相当)!しかも炭鉱再開の目処も立っており今後値上がり必至の優良株だ!
それを事前に分かっててセリスをイジるのだからイノセントはイジメっ子である。
どうやらボタノ炭鉱からの天井の修理代請求は事務方の都合上で最初から弁償は全額チャラだったんだね。
「きゃあああああ?!?!」泣いた子がすぐに笑った!
現在休止状態でこの金額なのだから石炭採掘を再開すれば株価は10倍程度には復活するだろう。なんと!最低でも5億円(相当)の収益が見込まれる。
そして勿論だがセリス個人へのプレゼントでは無くカターニア公爵家へに対してのお礼になっている。
ボタノ炭鉱側も高位貴族に株券をばら撒く事で炭鉱復活を国内に広くアピール出来るのでwin-winなのだ。
「えっ?!マジ?!貰っても良いの?もう返さないよ!私のだよ!」
思わぬ有価証券ゲットに気分急上昇したセリス・・・本当に現金令嬢だね!
「よし!これで今ならこの株でインサイダー取引をして更に株価上昇を・・・」
「それをマジで実行したら牢にぶち込むぞ」と真顔のイノセントに言われて、「いやですわ、そんな悪行をわたくしがする訳ないでございましょう?おほほほ」と笑って誤魔化すセリスだった。
まぁ、結局は法律に抵触するギリギリのラインではやるんだけどね!
そのボタノ炭鉱だが、現在は色々と現場検証が行われている。
なぜネクロマンサーがボタノ炭鉱に住み着いたのか?とかの経緯が調べられている。
そしてその結果、ほぼ間違いなく魔族の手引きがあった痕跡があった。
ネクロマンサーの寝床だったと思われる場所に魔族が作ったのと思われる加工魔石が大量に発見されたのと、ゾンビが残した数少ない遺留品が西の大陸のゴルド王国の奴隷の物と判明したのだ。
ネクロマンサーがゴルド王国に雇われる時の条件でゴルド王国に奴隷を要求したのだろう。
その奴隷達をゾンビ化させて転移魔法で送り付けて来たと思われる。
「この辺りは情報部の予想通りだな」
「酷い・・・」
こんな非道を行う魔族とゴルド王国とは絶対に友好な関係構築など無理だと悟るセリス。
実際にゴルド王国連合対ヴィグル帝国連合との全面戦争が目前に迫る。
そして現在は中立のピアツェンツア王国だが、いずれはヴィグル帝国連合に組する可能性が高い。
それを見越してか今回のネクロマンサー騒動もヴィグル帝国と友好関係にある中央大陸の大国ピアツェンツェア王国に対する撹乱作戦の可能性が高いとの事。
「なぁに、俺が直接ゴルドに乗り込んでぶっ潰して来てやるよ」
そう言ってまたセリスの頭をポンポンするイノセント。
その大戦争前に国内の懸案事項だったボタノ炭鉱を片付けてしまおうと今回のネクロマンサー討伐作戦が行われたのだ。
「イノセントさんも戦争に参戦するの?」
高位貴族のカターニア公爵家にも「対ゴルド王国戦の準備をせよ!」の密命が王家から下っているのでゴルド王国との開戦が近い事をセリスも知っている。
「・・・」セリスが不安そうにイノセントの腕を取ると、「心配すんな。妻帯者のジャックは国に残留するからセリスの事を守ってくれるぜ?」と笑うイノセント。
「そう言う事を言ってる訳じゃないんですけど?・・・・・死なないでね?」
「あん時も大丈夫だったんだから大丈夫じゃね?
・・・・・・いや?あん時っていつの話しだ?????」
自分で言っておきながら首を傾げるイノセント。
この日からイノセントは戦争準備に入ってしまいそのまま西の大陸へ先行出撃するので暫くの間2人が会う事は無くなる。
それから半年が経過してセリスの15歳の誕生日が近くなった頃・・・
この頃はゴルド王国とヴィグル帝国は本格的に激突してゴルド王国が優勢のまま戦争は推移している。
そしてピアツェンツア王国とゴルド王国の和平交渉も決裂してヴィグル帝国、ピアツェンツア王国連合軍対ゴルド王国の戦争となる。
そして中央大陸の東方の諸国の中でゴルド王国寄りの国とピアツェンツア寄りの国とで小規模な衝突が頻発している。
北の大陸から西の大陸、そして中央大陸東部とまでかなり広い地域にまで戦火が拡大しているが南の大陸と東の大陸に住む亜人達が不介入を宣言しているので世界大戦とは言えない。
あくまで人間の勢力地域での紛争との扱いだ。
魔物達の国がどう動くのかは分からないが多分大丈夫じゃね?との事らしい。
しかしピアツェンツア王国内は前回のアスティ公爵家の内乱の時の様な混乱は無く戒厳令や外出禁止令なども出ていないし大規模な徴兵も行われていない。
そしてイノセントが出征してから1ヶ月経過して・・・
「イノセントからの報告だとピアツェンツアから派遣された部隊はゴルド王国軍とは直接やり合って無いらしいぜ?
そもそも地上戦力はフィジーに待機してて西の大陸に上陸すらしていない。
今は制海権の確保と戦艦から敵の沿岸部要塞への長距離砲撃に力を集中している」
世界第3位と言われるゴルド王国海軍も強力なはずだが妙に動きが鈍いらしい。
ちなみに第1位はラーデンブルグ公国で第2位はピアツェンツア王国でヴィグル帝国は第4位である。
ただこれは総排水量での順位で実際の戦闘力は不明な点が多い。まあ参考程度だね。
地球でも中国やロシア辺りの東側国家は権威を示す為に排水量を水増しして発表しており、アメリカを始めとした日本やフランス、イタリア辺りの西側国家は反戦運動対策として排水量を過小に発表している。
具体例だと「護衛艦かが」の「基準排水量は19500トン」と国内外に正式に発表しているが、通常時の重装備を外しての数値での「安全満載排水量は26000トン」で「戦闘時の安全では無い限界満載排水量は30000トン」は超えると見られ、より正確な数値は「軍事機密」扱いになっており、建前上ではアメリカも含めて「誰にも分からない」のだ(「かが」の空母適正試験を行っているアメリカは多分知ってる)
まぁ、装備的に見ておそらく「28000トン級の軽空母」と見られている。
日本の場合は特に色々と建前の数値を誤魔化すのが大変である。
「これは俺の勝手な予想だがゴルド王国沿岸部の領主達はこちらへの寝返りを画策してると思う」
ジャックの話しだと、どの大陸でも沿岸部に近い領主ほど日見より主義者が多く戦況が優勢な陣営に付く事が多いらしい。
これは軽薄だからとかでは無く「内陸部とは違い逃げ場が少ない沿岸部なのでそうしないと生きて行けないから」との事。
要するにピアツェンツア海軍は長距離砲撃をして「お前達はゴルド連合軍とヴィグル連合軍のどちらに付くの?」と、脅して回っている段階なのだね。
そしてある程度の安全地帯を確保してから本格的な上陸作戦の開始である。
「そうなの?じゃあ勝てる?」
冒険者ギルドでジャックからイノセントや出征している親戚達の近況を聞きホッとするセリス。
ほとんど話しには出て来ないがカターニア公爵家の直系家門は84家にも及びセリスの親戚は多い。
今回もまたカターニア公爵家家門からは叔父のトリスタン伯爵やセリスの再従兄弟達が出征している。
余談になるがジャックの生家はヴィアール辺境伯系譜で現王妃筋の家門でカターニア公爵家門とは歴史的に見るとメチャクチャ仲が悪い。長年に渡る天敵と言い間柄である。
当然ながらセリス的には、そんなモン知ったこっちゃないのでジャックとも王妃ファニーとも貴族社会の中で仲良く付き合っている。
王妃ファニーとカターニア公爵家長女セリスの付き合いの余波で両家門全体でも歴史上での和解が進んでいるのだ。
更に余談を挟むとセリスの母バーバラの実家、ヴィアール王家(ヴィグル侯爵家)とヴィアール辺境伯家は全く違う系譜になり仲はハッキリ言って悪い。
一応、形としてはヴィアール侯爵家の臣下としてヴィアール辺境伯家が有るのだが現状ヴィグル地方を支配しているのはヴィグル辺境伯家である。
そりゃ立場逆転してりゃ仲も悪くなるよね。
話しを戻しまして。
「このまま行けばほっといてもゴルド王国は自滅しそうだな。
何せ現国王がヤバい。自分の身内以外の連合軍の味方にも残虐の限りをつくしているらしい。ありゃあ誰も付いていかねぇよ」
「あれ?でもヴィグル帝国が押し込まれているって?」
巷ではゴルド王国が優勢との噂が優勢をしめている。
「あー・・・それは戦略的な撤退ってヤツだな。
そんな理由から戦争が始まる前からゴルド王国の中で内乱が続発してるから無理に迎撃しないで戦い易い本拠地周辺までゴルド連合軍をおびき寄せているんだ。
なのでイノセント達は、その内乱の情報収集と調略工作がメインの仕事になっている。
まあ、あそこは昔から20以上の派閥が有って群雄割拠状態だもんで年がら年中内乱をやってる国だから不思議でも無いんだが今回に関しては異様な状態だな。
味方のはずの500人の連合軍の兵士をゴルド王国軍1万で虐殺したって言うんだから正気じゃねえ。
しかも処刑の理由が「酔った勢いでゴルド国王を卑下する発言をしたから」ってんだから恐ろしい話しだ」
「そんな状態なのに他所に喧嘩売ってるの?!」
「正確に言うと「最早他所に喧嘩を売らない事には求心力が得られない」ってヤツだな。
奴隷制度で経済を回している国の悲しい現実ってヤツだな。
戦争を名目にして常に奴隷を集めないと経済を維持出来ないんだよ」
「そんな国がよく滅びないわね?」
「残念だが「奴隷制度ってのはメチャクチャ儲かる」んだよ。
何をするにしても人件費がただの様な物だからな。
お手軽簡単に儲かるモンだから奴隷取引の元締めのゴルド王国に従う国や勢力が後を絶たない。
だから師匠が最近になってまた龍騎士を使い怪しい勢力を片っ端から潰して回っているんだが今の所はイタチごっこになっているな」
戦争には不介入を宣言しているラーデンブルグ公国だが国内の治安維持の名目でゴルド王国に迎合している組織を潰して回っている最中なのだ。
やっぱり強力な飛行戦力を持っているのはアドバンテージになるね。
「そうなんだ・・・ところで「師匠さん」って人の話しをよく聞くけど誰なん?」
「エルフの女王のイリス・ラーデンブルグだ」
!!!!コイツばっくり言っちゃたーーー?!・・・と思ったらジャックはイリスがセリスに正体を隠している事なんて知らんかったね。
「へー?そりゃまた凄い人のお弟子さんなんだねー」
しかしセリスも世界的に有名な人物であるイリスの事はあんまり気にしなかった・・・イリスは雲の上の人物で自分には関係ないと思ったのだね。
「でもそんな裏の話しを私に聞かせて良かったの?」
色々と聞いちゃなんねぇ事を聞いてしまって不安になるセリス。
「次期公爵になる人物なんだから大丈夫じゃね?」
「私!公爵になんかなりませんからね?!?!?!あー、忙しい忙しい」
話しが変な方向に向かい慌てて掃き掃除を始める。
「・・・・・・・・あんまし汚れて無くね?」
「いいの!月契約なんだから!」
こんな感じにジャックとの話を終えてセリスはもう一つの目的である掃除のアルバイトを始めた。
しかしジャックの指摘通り主が不在で殆ど汚れていなかったので手持ち無沙汰になり時間を持て余すセリス。
「ううー???」
主の居なくなった冒険者ギルドのイノセントの執務室を無駄に掃除しながらウロウロする。
イノセントに会えなくなった事で魂の奥底から湧き上がる不思議な感情に困惑しているのだ。
「ううー???」
自分がイノセントの事が好きなのは間違いないと思うんだが恋とか単純な言葉で言い表す事が出来ない何かを感じている。
もっとこう・・・長い時間を共に過ごした者が居なくなる寂しさと言うか何と言うか・・・しかも前世の中で似たような事があった気がするのだ。
「うーーん???まっ!分からない事を考えていても仕方ないよね!」
超アッサリと気分を変えてしまう事が出来るセリスは10分で考えるのを止めた。
そして・・・久しぶりに学校へ行くと・・・生徒達がセリスを見てざわつき始める。
「まあ!セリス様よ!ネクロマンサースレイヤーの」
「ネクロマンサースレイヤー?あの方が「暴風の女神」ですの?」
「おおー!ネクロマンサースレイヤーだ」
「ほう?アレが「黄金のネクロマンサースレイヤー」か・・・」
「アレが金髪ゴリラ・・・だと?」
「何で皆んな知ってんの?!色々と変な呼び方は止めて貰えますぅ?!
つーか、最後のゴリラ呼ばわりした奴!ちょっとツラ貸せ!この野郎!」
学校に戻った瞬間から貴族の子息達から邪悪なネクロマンサーを倒した英雄として令嬢にあるまじき畏怖の称号で称えられた金髪ゴリラは頭を抱えた。
今回の討伐は正規の貴族軍人も多く参加しており金髪ゴリラの勇姿を目撃した者達が家に帰って家族に話したのだろう。
そしてゴリラ呼ばわりした生徒は裏でキッチリ〆た。
母バーバラにも詳細な情報が漏れるのも時間の問題であろう。
そもそも今回の討伐は「お城でラーナ様とお勉強会なんですぅ」とか言って母バーバラには大嘘をついての参加だったのだ。
そして自分が第一戦功者になるとは思ってなかった・・・後に王城に呼ばれて国王ヤニックから「剣付き」戦功十字勲章と「デイム(女性への名誉騎士爵)」の称号が授与されて気絶しそうになったセリス。
「旦那様?セリス?お話しがございます」
「ひいいいいいいい?!?!」
「うむ・・・・・」
勲章授与式が終わり公爵邸に帰った途端に父のコーバ公爵と娘の金髪ゴリラは床に正座させられて母バーバラから説教を食らいましたとさ。
その授与式の日にボタノ炭鉱へ天井の修繕費と採掘再開遅延の慰謝料がラーデンブルク公国からピアツェンツェア王国を通して密かに支払われていた事をセリスは知らない。
エルフの女王イリス様は財務官と外交官にメタクソに怒られながらも弁償を頑張りました。
こうして何やかんやあったセリスの14歳は過ぎて行くのであった。