激突!イビルスピリット戦!
倉庫の中に慎重に入るとジャックは霊視さんαが見ている同じ場所を警戒している。
霊視さんβからの霊体感知魔法の補助でしっかりと悪霊を感知出来てる様子だ。
加えてセリスからの忠告のおかげで全く油断もしていない。
「お手並み拝見ね!」
威勢の良い事を言った途端にフェナの後ろに隠れるセリスは息を飲み込んだ。
そしてフェナは妙に落ち着いているし怯えてもいない?
「ふっ!!!」
ジャックはノーリアクションのまま悪霊目掛けて一直線に走り出した!
{ギッ?!?!}
人間は自分を見れば必ず怯えるモノだと思い込んでいた表層の悪霊はジャックの急な接近に驚き対処が遅れる。
「うわっ?!早い!」
「うおおおおお!!!」なんとジャックはそのままの勢いで悪霊に殴り掛かった!
「えええ?!魔法はぁ?!?!」
そう叫んだセリスと同時にジャックの拳が悪霊の顔面にクリーンヒットする!
バシィイイイイインンンン!!!!!!
幽体を殴ったとは思えない衝撃音が倉庫内に響く!
{ヴァアアアア?!?!ア・・・アアーーーー・・・・・・}
ジャックの一撃で表層の悪霊は気色悪い声を上げながら霧散した。
「えええ?!幽霊って殴れるのぉおお?!」
「あっ!それは違いますよセリス様。
今のジャック兄ちゃんの拳撃は「魔闘法での炎拳」と言われる高度な強化魔法ですよ。
ヒットした瞬間に拳に火の魔力を集中して爆発させるんです」
言うなれば刺突型の対戦車兵器である。
「おおお???おお!!凄えぜ!クマさん!」
初めて見る超近距離高等魔法に興奮するセリス。
「・・・くれぐれも真似をしちゃダメですよセリス様?」
「心配すんな!真似しようとしても私には絶対に真似出来ん!」
プロレス観戦している子供の様に興奮して口が悪くなっているセリス・・・
いや?8歳の子供だし元々口悪かったわコイツ。
「さて・・・ふううう・・・・
おらあ!!!!もう1匹の奴!とっとと出て来いやあ!」
ジャックが何も無い空間を睨んで叫ぶ!
《悪魔族が出て来るわよ!フェナ!プネウマ!対魔結界!瘴気が来る!》
「ええ?!・・・はい!『プネウマ!!』」
セリスの声を真似た霊視さんαの叫びに反応したフェナがプネウマ(神が送り出す聖なる力)を発動させる!
尚、直接フェナの頭の中に言葉を響かせているのでセリスには聞こえていない。
フオオオオンンンンン・・・・ヒュウウウウウンンン
「ふえ?!ふええええええ????なんですかぁーーー?!?!」
「何だこれーーーー?!」
術者のフェナでも予想も出来なかった複雑な紋章の様な魔法陣が3つ浮かび上がり、それが1つに纏まり聖力の盾を形成する。
その盾の効果で倉庫内に充満していた瘴気を一瞬の内に消し去ってしまった。
《何だこれーーー?!》見た事もない術式に度肝を抜かれる霊視さんβ。
「師匠の仕業じゃねえのかよ?!」
《違うわい!こんな術式、私は知らん!てかこれ術式なの???うわ?!》
盾の中から視認するのも困難な程のスピードで剣線が弧を描いて空間を引き裂いたのだ。
《じゃあ後は頑張ってね~ジャック君~。かなり削っておいたよ~》
霊視さんαの呑気な声が聞こえたかと思うと消し去ったはずの瘴気がまた倉庫に満ちる・・・
そして・・・ゴゴゴゴゴゴ・・・・ゴゴゴゴゴゴ・・・・倉庫内の空気が振動する。
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
そして地獄の底から響く様な不気味な声を上げながら柱の影から血塗れの悪霊が姿を現した!
{イイイタタタイイイ・・・・オオオノノノレレエエ・・・カカカミミミメメメメ
ナナナナ・・・・ゼゼゼセゼ・・・アアアアアテテテテテテネネネネガガガガ・・・}
何を言っているのか聞き取れないが、どうやら悪霊は先程の盾が放った聖力でズタボロに引き裂かれて血塗れになった様子だ。
《それにさっき「アダマス」が見えた気が・・・》
アダマス・・・天界の武器の一つでアラクネーさんが魔王バルドルをボコった時に使用した細身の神剣である。
霊視さんβは、この時の戦いを観戦していたので知っている。
「うわあ!怖っ!マジモンじゃん!」
この血塗れの悪霊の登場にはさすがにビビったセリス。
前世で漁師だったセリスは夜の海の上では何回も幽霊を目撃していたので幽霊とかにはかなりの耐性がある。
しかしここまでのマジモンにはお目にかかった事はなかったのだ。
セリスは単に悪霊の血塗れのスプラッタ姿にビビっただけで幽霊そのものが怖いか?怖くないか?で言えば別に全然怖くはない。
セリスが前世での八千代さんだった頃に・・・
{くや・・・し・・・い・・・呪・・・う}
「うわああああ?!八千代親方!幽霊っす!女の幽霊が親方の真横に?!」
八千代は横目でチラッと幽霊を確認すると・・・
「あー!はいはい!幽霊ね!怖いね!凄いね!きゃああああ!はい!これで良い?!」
面倒くせえ!とばかりに幽霊を無視して正面の物理的な危機に集中する八千代。
{うら・・・めし・・・やあ・・・・???}
あれ?あれれ?と言った様子の女幽霊。
「親方!距離500m!高さ6m!」
「速度そのまま!突っ込むわよ!皆んな掴まって!」
ドオオオオオン!!ザザザアアーーーーーン!!
「うおおお?凄え!さすが最新鋭!びくともしねえ!」
「あったり前でしょう?!全財産叩いて買ったんだからね!」
{あ・・・あの?・・・うら・・・}ガン無視される女幽霊。
横からだとほとんど八千代に無視されたので正面に回り「あのー?すみませーん?」って感じにおずおずと八千代を覗き込む女幽霊だが?
「おらあ!!前が見えんわぁ!状況を考えろアホンダラ幽霊!
この馬鹿者がぁ!私と一緒に死んでしまいたいのか?!
死にたくなかったらどかんかーーーーー!!!」
視界を遮られた事に激怒する八千代。
{ひいいいいいい???お化けぇえええ?!}
八千代の鬼の形相とやべぇ気迫と大声での罵倒に慄いた幽霊はピョン!と横に飛び退いて呆然とする・・・あれ?コイツなんか可愛くね?
「誰がお化けじゃあ!!それより次は?!」
「200m先!高さ3mに続けて800m!高さ6m!!」
「了解!後ろ!ちゃんと付いて来てる?!」
「皆んな喰らい付いてきてまっせー!!」
「OKーーーー!!行くぞぉーーー!!」
ドザザザアアアーーーーンンン!!!バッシャアアーーーーンンンンン!!!
これ何してんの?と言われると、八千代の「煌々丸」が太平洋で毛蟹漁をしている時に突発的な爆弾低気圧が発生してしまい海が大時化になり煌々丸が先頭を切って漁船団の波払いをしている最中の出来事である。
八千代が操船する「二代目、煌々丸」は昭和30年代当時にしては漁船では最大クラスの排水量120トンクラスの最新鋭の鉄製大型船(現在の基準でも大型船)だったので、八戸港に向かって退避中の漁船団に先駆けて高波に正面から突っ込んで高波を強引に払って後続の小型船が波に飲まれて転覆しない様に突撃中の超緊迫している場面なのである
何か知らんがその時に八千代は女の悪霊に祟られたのだ。
{シクシクシク・・・だってぇ・・・女の漁師さんって珍しかったんだもん・・・}
とは、女幽霊の言い分である・・・・・・・やっぱりこの女幽霊可愛くね?
しかし目の前にはリアルで即死級の危機(風速25mの横風と10mクラスの高波)が迫っているのに幽霊なんぞにビビっている場合ではない。
「おい!お前!ボケ面晒しながら見てるだけならアホでも出来る!
とっとと航路上の波と天気がどうなってんのか見に行かんかーーーー!!!
良いか!ちゃんと報告に戻らんと私が死んでお前を呪う事になるぞーーー!!」
{ははははいいい??行ってきまーーーす!!怖いよーーー!うえええんん!}
こうして八千代に思い切り怒鳴られパシリに使われた大幽霊だったのだ。
大海原の中で窮地に立たされた時の漁師の口は悪霊なんぞの100倍はおっかねぇのだ。
漁船団が八戸港に到着するまで八千代に散々にこき使われた女幽霊・・・
これ以降、この女幽霊は「煌々丸」が近づくと八千代にビビって一目散に逃げる様になってしまったのでした。
そして周辺の漁師からも「なんかチョコチョコ逃げて可愛い幽霊さん」と呼ばれた女幽霊は幽霊稼業に嫌気がさして無事に成仏したらしい。
「・・・・・・・・・あの幽霊より親方の方がマジで怖かったっす」
あの時の八千代の剣幕を思い出すと幽霊なんぞにビビるのがアホらしくなった船員さん。
「何で?!」
「太平洋の祓い屋、八千代」の異名を獲得した瞬間だった。
そしてこれこそがセリスの先天的な口の悪さの原因なのだ。
そんな前世を持つセリスだが、さすがにスプラッタはマジで気色が悪い!
そんな話しをしている内に現場で事態はドンドンと悪化して行く!
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
{オオオオオオオノノノノレレレレエエエエカカカカカミミミミミ}
ヴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
ビチャビチャビチャ!!グチュグチュグチュ!!バシャバシャバシャ!!
悪霊は飛び出した内臓やら腐った血を撒き散らしながらジャックの周囲を飛び周る!
「ひええ!お前マジヤバくね?!」
「これはエグいですねぇ」さすがのフェナも眉を顰める。
それに対してジャックはスプラッタなど気にもしないで目を閉じて気圏を張り悪霊の攻撃を封殺しながら動きを追っている。
「ふぅーーーーーーー・・・・」そして魔力を拳に集中させて行く。
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
ヤケクソになった悪霊がまさにジャックに襲い掛かろうとした瞬間!
「そこだあ!」ズドオオオオンン!!!!!
モロにカウンターが決まりジャックの拳がクリーンヒットして悪霊の顔面にめり込む!
「破っ!!!」ヒットと同時にジャックの全魔力が悪霊の中にブチ込まれて
バシィイイイイインンンン!!!魔力が悪霊の中で爆ぜる!!
カウンターを食らった悪霊はフラフラとジャックから離れて行き・・・
ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ・・・・・・
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
ビッタン!ビッタン!ビッタン!ビッタン!バッシャン!バッシャン!!
悪霊は床に落ちたかと思うとそこら辺をのたうち周る!
そして内臓やら血もまた広範囲飛び散る!
実はこの血は最後を迎えるイビルスピリットが相手を道連れにしようと撒き散らす猛毒で皮膚に触れただけで毒が全身に回る極悪な攻撃なのだ。
しかしフェナの?聖力の盾の効果がジャックを包んでいるので無効化されている。
「ひえええ!だからお前マジヤバイってのーーーー!!」
「ジャック兄ちゃん!キモいから早くトドメをーーー!!」
女子達からの大ブーイングを受けて・・・
「よっしゃあああ!!!せええい!」
ジャックがトドメの魔力を込めた渾身の踵落としを悪霊の背中に叩き込む!
ズドオオオオンン!!!!
鈍い音がしてジャックの足元から倉庫の床に、ビシッ!ビシ!ビシッ!と切裂が入る!
ビキャアアアア?!?!アアア・・・・ア・・・・ア・・・・ア
おの・・・れ・・・ア・・・テ・・・・ネ・・・め・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
イビルスピリットの存在が霊視さんαの視界からも完全に消えて無くなった・・・
そして倉庫中に飛び散った内臓や血糊も見る見る消えて行く。
「お?おお?勝った・・・やったー!勝ったー!」
子供らしいバンザイをして喜ぶセリス。
「これは・・・凄かったですね!セリス様」
うんうんと頷くフェナ・・・だからお前なんでそんなに冷静なの?
《でしょう?わざわざアポを取っただけあるでしょう?》
弟子の活躍に満足して鼻高々な霊視β・・・しかし内心はヒヤヒヤ物だったのだ。
ちなみにジャック今の戦い方は師匠の霊視さんβの戦い方を忠実にトレースしたモノなのだ。
霊視さんβは、この魔闘法を使った拳闘の合間に上級魔法もガンガン速射して来るのでジャックより総合能力で強いのが分かる。
霊視さんβはいわゆる「殴り魔導士」と言うヤツだね。
こうして悪霊との戦いはジャックの圧勝に終わったのだった。
《いや!そんな訳あるかい!!!きちんと説明して貰えますよね?!》
《えー?何が?》
《惚けないで下さい!アレって悪魔由来じゃなくて「悪魔」そのものでしたよね?!
その悪魔を貴女の力で極限までボコボコにしましたよね?!》
《霊視さんβ・・・世の中にはね?知らなくて良い事もあるのですよ・・・》
《ほらぁ!またそうやって誤魔化す!いい加減に貴女の正体を教えて下さい!》
《うふふふふ♪♪・・・それは秘密です》
《もおおお!!!》
霊視さんαと霊視さんβとの間にこんなやり取りがあった事など知らず勝利を喜ぶセリス達だったのだ。