そしてパツキン少女がボタノ炭鉱でネクロマンサーとガチ決戦をかます。その5
先兵がある区画に足を踏み入れると状況に変化が起こる。
「これ・・・居るな。姿勢を低くしろ」
緩やかな下り坂になっている一本道の本坑道からそれぞれの鉱脈に繋がる五叉路になる広場に到達するとそれぞれの坑道の暗闇から威圧感を感じるのだ。
「うーん・・・一斉に来られたら圧殺されるなぁ」
「どうする?目印のライトだけ置いて本隊に戻るか?」
制圧隊の1人1人にLEDライトとまでは言わないがかなりの光源を誇る軍用魔法ライトが二本ずつ支給されている。
長さ10cmの手持ちの懐中電灯くらいの大きさで各々の装備に合わせて頭や肩に装置している。
「そうだな。仕込んでも直ぐにゾンビに壊されそうだが・・・」
予備のライトを取り出して壁の高い位置の窪みに差し込んで一旦退却する先兵達。
現在の坑道制圧率は全体の50%弱、ネクロマンサーは建造が苦手なので現在の坑道も図面通りだろう。ヴァンパイアの様に大迷宮を作れるならわざわざ炭鉱を占拠しない。
なのでネクロマンサーの位置は大体推測出来る。
「多分ここだな」五叉路から北の通路を進み採掘最深部の手前の石炭積み込み用の広場・・・大規模な魔術行使をする為にはある程度の広さが必要だからだ。
「五叉路の広場で数を減らすぞ!」
第一陣の隊長の号令で遂にゾンビとの戦闘に突入する。
「おう!」ガシャガシャガシャと2m弱の長さの短槍とミスリル製の大盾を構えて前進を開始する重装槍兵隊。
その後ろから剣ではなく手斧とミラーシールドを持つ重装歩兵50名が続く。
狭い坑道なので長い得物は厳禁なのだね。
ウアアアアアアアアアおあああアアアアアーーー
第一陣の主力の重装槍兵30名が五叉路広場に前進すると直ぐに釣られたゾンビ達が広場に飛び出して来て戦闘が発生する。
「来たぞ!かかれーーーー!!」
「うおおおおおおおーーーーーー!!!」
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
ギィイイーーーン!!!カァーーーン!!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!オオオオオオオエオエ!!!カカーーーンン!!!
「きゃああああ??!!」
最前線からかなり離れた位置に居るセリスだが坑道の奥底から聞こえるゾンビの声と戦闘音にビビリ倒す。
「セリス。ビビり過ぎだ」
「私は普通の公爵令嬢なんですけど?!普通に怖いんですけど?!」
一方の五叉路広場では重装槍兵を圧殺せんと次々にゾンビ達が殺到している。
だがゾンビ如きの飽和攻撃など精鋭たる重装槍兵には通用しない。
「ゾンビの左右に周り込むな真正面から当たれ!!」
最新の研究からゾンビは左右の視界は広いが真正面はあんまり良く見えていない事が分かっている。
ズガガガガガガ!!!!おアアアアアああああーーー!!
「おらぁあああああ!!下がりやがれーーーー!!!」あああああアアアアアーーー!!!
重装槍兵隊がファランクス陣形でゾンビの群れを子道へと押し戻す!
「うひゃー!気持ち悪いーーー!!」ガジガジ!ガジガジガジガジ!!
突出して三体まとめて槍で串刺しにしたものの左右の通路からワラワラと出て来たゾンビに集られてめっちゃガジガジされている重装槍兵。
しかし噛み付いたゾンビの歯は重装槍兵の前身鎧は通らずに砕けて周囲に飛び散っている。
「お前、大丈夫かよ・・・突出し過ぎなんだよ」ズドン!ドスン!
おあああーーウアアアアーーーー!!!
集られている重装槍兵を救う為にゾンビ駆除を開始する仲間達。
「めっちゃ気色悪いがミスリル装甲にゾンビ歯なんて通らなねえよ!っと」
バキバキ!!バキバキバキバキ!!集られた重装槍兵は冷静にゾンビから槍を引き抜いて横撫でで集ったゾンビを薙ぎ払う。
当たり前だがゾンビはもう死んでるから心臓と言った急所を槍で突いても死なない。
一番手っ取り早くゾンビを行動不能にするには手足を根本から砕いた方が早い。
アアアアアあああああーーーーー!!!手足を捥がれて芋虫の様にビッタン!ビッタン!するゾンビ。
「だからキモいつうの!」
ズドン!!!そして脳を破壊するとようやく動きが停止するのだ。
同時刻、別の場所では・・・
「おらあ!」ドオオオオーーンン!!グチャア!!バタバタバタ!ビシャーー!
「おお?!」ジャックの一撃で複数のゾンビがぶっ飛ばされ壁に激突して粉々になる。
「いやぁあああ?!?!エグい!キモい!ジャックさん!それ何とかなりませんか?!」
ジャックの攻撃で辺り一面に腐肉と内臓と腐った血が飛び散りスプラッタゾーンが出来てしまい女性冒険者達から苦情が入る。
「お・・・おう、すまん。相棒が気合い入っててよ」
本当は軽く蹴飛ばしてゾンビを後ろに飛ばしてからトドメの攻撃をしようとしたらジャックの意に反してもの凄い威力が出て何かゾンビが爆発四散した・・・
ピ・・・ピカピカ(すみません)ピカリーン(なんかテンション上がりました)
そうですか。気持ちは分かりますが自重して下さいアイギスさん。
更に別の場所では・・・
スパン!シパン!シパバパアーーーーーン!アオアアアアアアーーーーー!!!
シパーーーン!スパーーーン!軽快な音を立てながらゾンビの首が宙を飛ぶ。
「ええええええーーーーーー?!?!」そして間抜けなフェナの悲鳴が坑道内に響く。
事前の予想通りに彼方此方に隠されていた転移魔法陣からゾンビが一斉に飛び出して来て後方の支援部隊が急襲されたので迎撃する為にフェナが飛び出した。
だがしかし先に飛び出した護衛部隊がメチャクチャ強い!
と言うよりは天龍教教会から派遣されて来たクルセイダーの3人衆が迫り来るゾンビ達を枯葉の如くに履き散らしてしまうのだ。
「ふわーー?ウチの聖騎士さんって強かったんですねー?!」
「凄ーーーい?!」
普段は警備の為に目立たない所で彫刻の様に置き物の様になっているクルセイダーが今日はバチクソに動いているのだ。
「いえ・・・あれはストレス発散・・・かな?」
バックアタックを食らい咄嗟に聖魔法を使おうとした聖女達とフェナだが、素早い動きで突貫したクルセイダー達があんまりにも強過ぎて出番が無い。と言うか危なくて間合いに入れない。
「・・・・・・・・・・あの人達は地龍さん・・・ですからね」と、小声で呟くフェナ。
名目上は彼女達と同じクルセイダーのフェナだが彼女達の邪魔になりそうなので戦いには参加せずに呆れた様子で立ちすくんでいる。
天龍教教会から派遣された護衛・・・つまりクルセイダー三人衆は人間に化けた地龍さん達である。そしてなぜかフェナには龍種を見分ける特殊能力が有るのだ。
「いや・・・・・人間の戦いには龍種は不介入じゃなかったんかよ?」
イノセントとセリスが居る指揮部隊からもクルセイダーの無○闘舞が見えている。
ペシペシペンペンと3人で優雅に剣のダンスを踊るかの様にゾンビ達をシバキ散らかす地龍達に呆れるイノセント。
結局の所で転移陣から飛び出して来た200体を超えるゾンビ達だったが3人のクルセイダーによって15分足らずで全滅してしまったのだ。
「ふぅ・・・久しぶりに暴れてスッキリしましたーー」「本当だよねー。普段あんまり動かないから窮屈だったんだよねー」「ならもう少しいっとく?何なら全滅させちゃう?」
凄え良い汗をかいたクルセイダーの三人衆さんは御満悦である。
ちなみにクルセイダー3人衆の見た目は焦茶色の髪と黒い瞳の若い女性達である。
色合い的に地龍王と同じ「土龍さん」だと思われる。
単一種族の天龍と海龍とは違い、地龍の種族は多岐に渡り基本的な「土龍」と「岩龍」を起点にして様々な種族が存在している。
「銀龍」や「金龍」に「樹龍」などの希少龍種も「土龍」の仲間になり同じ地龍でも色合いがとても華やかなである。
この3人衆についてはその内、王女シーナと一緒に再登場するので今は説明を割愛します。
「許可も無しに暴れて・・・王様に怒られても俺は知らんよ?」
まあ・・・天龍のチャーリーも参戦してんだからもう今更じゃね?
「お?お?お?おおーー?」何か知らんが3人衆が凄え事だけは分かるセリス。
「はあ・・・もういいや・・・じゃあセリス。仕事しようぜ」
「ふえ?仕事?」ヒョイとセリスを肩から降ろして椅子に座らせる。
この時点でイノセントは戦闘へ参加する気が失せている。
今までは指揮官らしく戦力について心配していていつでも突撃する準備をしていたのだが実際にはアホらしくなるレベルの過剰な人外戦力が集まっていたのが分かったからだ。
なのでさっさと作戦指揮に集中する事にした。
「チェスの駒?」坑道の全体地図とチェスの駒をセリスの前の机の上に出すイノセント。
「そうだ。セリスの霊視を使って敵味方の大まかな位置を調べて地図の上に駒を置いて行ってくれ。それに合わせて俺が最適な攻撃順序を割り出して各部隊に連絡をする」
「ほほう?図上演習ってヤツですな」
既に戦闘中なので図上演習とはちょっと違うが似た様なモノである。
そしてこの図上演習を通して遂にセリスの軍師としての才能が発揮・・・されなかった。
そもそもコイツには軍師の適正なんてありません。
「ほえ~?皆んなめっちゃ動いてるね~」せいやぁ!と、霊視で坑道を立体的に俯瞰して見たら皆んな巣穴で働くアリさんの様にバチクソに動き回っているのに驚いて間抜けな声を上げるセリス。
はい、コイツの指揮能力なんてこの程度です。
「ああーーーー?!いたーーーー!ネクロマンサー見っけーーー!!」
そして一瞬で敵の総大将のネクロマンサーも見つけてしまう。
《ええ?!坑道の全部が見えるのセリス?!》
「お前凄いな?!」
霊視さんβが使用している「影見」でもこの広さの坑道の全てを把握するのは無理があるのだ。ワンチャンで影見の本来の持ち主である魔王バルドルなら可能かも知れないが。
・・・と言うか早く影見はバルドル君に返してあげなさい。借りパクはいくない。
「え?普通に見えるよ?
ネクロマンサーは何か広場を行ったり来たりしてフラフラしている。何してんだろ?」
《え?妨害魔法?のせいで私にはネクロマンサーが見えないんだけど?》
そうなのです霊視さんαの霊視能力は凄いのだ。だって影見の「月の精霊眼」を超える「アテネちゃんの神眼」だからね。
ちなみに霊視さんβがネクロマンサー見えていないのは影見の「プライベート空間は見る事が出来ない」との制限によるものである。
魔物とは言えプライベートは必要なのである。
その点、神様には下々のプライベート空間など関係ない。だって神様だからね。
「こりゃ凄え・・・」想像以上にセリスの霊視がヤバくて若干引き気味のイノセント。
こうして戦いは人間側が終始有利のまま最終ステージに移行するのだった。
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予想外の先制攻撃と集団攻撃の連続で思う様に行かずに苛立っているネクロマンサー。
セリスの言う通りに広場をグルグルと歩き回っていた。
{オノレ!オノレェ!人間共メガ!!}
先ず相手の突入と同時に先制攻撃をしようとして入り口付近でゾンビを配置して待ち構えていたら、いきなりのソーラーレイ照射によって集めたゾンビの半数が潰された。
今まではこの奇襲で上手く行っていたのだ。
突入した瞬間に襲われた先陣達を救おうと突撃して来る後続の奴等を再度包囲して入れ食い状態で狩れていたのだ。
そして狩れば狩るだけ戦力は増強されてそのまま全てを圧殺する。
{大体何ナノダ!アノ魔法ハ!イヤ?!ソモソモ、アレハ魔法ナノカ?!}
魔物のネクロマンサーには物理的なソーラーレイが理解出来ないのだ。
実は制圧隊の突入に合わせてネクロマンサーはゾンビ軍団とは別にガチガチの対魔法対物理防御魔法を施した精鋭スケルトンアーマー部隊も突撃させようとしていた。
しかし謎の巨大は光魔法でスケルトンアーマーも全滅した・・・文字通りの全滅だ。
{シカシ・・アレハ正シク陽ノ光ダッタ!ヨモヤ大聖女クラスノ神聖魔法ノ使イ手ガ?}
別の異世界では「大聖女」と呼ばれる聖なる乙女が居て大層に難儀していると別のネクロマンサーから聞いた事がある。
いいえ?単純に朝日を鏡で反射させただけの自然現象なので「大聖女」とか関係ないですけど?
それから相手の裏取りしようと枝の通路から残りのゾンビを移動させたら通路が全てが物理的な鉄板で塞がれていた。
頭の悪い・・・と言うか全く物を考えず本能のまま動くゾンビ達は行き止まりで大渋滞を起こして鉄板を叩く事に御執心で今からじゃ呼び戻す事も出来ない。
{グヌヌヌ・・・}
「このままだと人間が来てしまう!」そうネクロマンサーは焦っていた。
ネクロマンサー本体の戦闘能力などせいぜいAランク魔導士ぐらいのモノだ。
1対1の戦いならそう簡単に兵士や冒険者に負けるつもりは無いが今回は軍団戦だ。
この戦力が分散した状況で人間達に乗り込まれたら複数人に囲まれボコられて絶対に負けるのだ。
{仕方ナイ・・・ココハ捨テヨウ・・・人間共ヨ・・・覚エテオクガ良イゾ}
捨てセリフを吐きながら転移陣を展開するネクロマンサー。
なかなか引き際を分かっているネクロマンサーである。
だがしかし?
{ウン?!転移陣ガ・・・作動シナイ?・・・・・・・ナゼダ?!}
転移陣がうんともすんとも動かない?
ネクロマンサーに最後の時が迫っている。