そしてパツキン少女がボタノ炭鉱でネクロマンサーとガチ決戦をかます。その1
さていかにもこれから直ぐに女神波動砲が発射される様な終わり方でしたが運命の日はまだ先です。と言うかこれからの前ブリが超長いですので女神波動砲の事は一旦忘れましょう。
そして前回のハルちんの暴露も忘れろ!お願いします忘れて下さい!
さて話しを戻しまして湖に佇むパツキン少女の件が終わりセリスの中でイチャイチャしていたエミリアとエドワードの幽霊カップルもやっと選別の扉を通って何処かに転生してホッと一息入れていた頃。
「いやーーー!絶対にいやーー!!」この日のセリスは超絶絶叫していた。
いや今回に関してはセリスは悪くない。絶叫するのも当然だろう。
と言うのもかねてよりの懸案事項だった「ボタノ炭鉱ゾンビ湧き事件」に遂に王家が本格的に介入する事になり冒険者ギルドへも総動員令が発せられたのだ。
討伐隊の指揮はなんと大公爵エヴァリスト宰相。
王都に石炭を供給していたボタノ炭鉱が機能不能になったままでは冬場の燃料が不足になる事が予想されボタノ炭鉱制圧と再建を国の政策の最優先事項とする事になった。
エヴァリスト宰相が全ての指揮を執る事からも王家の本気度が伺える。
冒険者側にも通常のモンスター討伐の3倍の報酬が提示されておりSランク冒険者のジャックを筆頭にAランクの冒険者が15人、Bランク冒険者が32人の参加表明済みである。
危険度が高いのでCランク以下の冒険者は参加不可、Cランクの冒険者は手持ちスキル等の選別を行ってから参加させるか決めるのだそうな。
ギルドマスターのイノセント?無論お前は強制参加に決まってます。
しかも何故かフェナも参加表明をしている。
「アンタ何考えてるの?!お母さんなのに!」突然のフェナの参戦にセリスは激おこだ!
「いえ、私は教会から後方支援をお願いされただけですから前衛には出ませんよ?」
「そんな事言って・・・今のフェナの聖力ってどうなの?出産すると聖力は落ちるって聞いたよ?」セリスの専属侍女のミミリーもめっちゃ心配そうだ。
「そうですねー、残念ながら聖力はかなり落ちましたね。
まだギリギリ「エクサホーリー」が打てますけど1日1回が限界です」
1日20回以上もエクサホーリーを撃てる気狂いレベルだったフェナの聖力も息子のウォーレン君に大部分が譲渡された様子で現在は普通の聖女クラスに落ち着いた。
それでもまだエクサホーリーが撃てる事が凄い事なのだが。
「あーうー!!」ジタバタジタバタと「なら力を継承した俺が参戦するぜ!」と言わんばかりの赤ん坊のウォーレン君が手足をばたつかせる。いやさすがに赤ん坊にゾンビ討伐は無理だろ?
この頃から既に超ヤンチャ坊主の片鱗が出て来ている。
「だったら!」もう涙目になっているセリス。
「でもお嬢様、その1回のエクサホーリーでたくさんの人達の援護が出来るんです」
エクサホーリーは対アンデット最大の聖術だ。大聖堂所属の聖女でもフェナの他には3人しか使えない。
「うっ?」
「そうなれば犠牲者が減ります。犠牲者が減れば孤児も減らせます」
「うう~????」
「私は母親の1人として戦いに参加します!」
フェナの瞳は真っ直ぐで参戦の決意は完全固まっていた。
これ以上、引き留めるのはフェナの思いを侮辱する事になるのでセリスにはもう引き留められない。
「ううう~!絶っ対に前衛に出ないでね!約束だよ!」
「はい!絶っ対に約束します!」
それに今のフェナは剣士でもあるからゾンビ程度に遅れを取るほど弱くないのだ。
聖女と言うよりは「クルセイダー」・・・聖騎士やね。
「それよりお嬢様はどうするのですか?確かお嬢様にも霊視を使ってゾンビの動きを探知する依頼が来てますよね?」
「嫌よ・・・・・・・・・やらない絶対に・・・・絶対に・・・・」
そんで冒頭の大絶叫に戻る訳だ。
ただこの時の絶叫はフェナの参戦を聞いたセリスがいじけて駄々を捏ねてただけでセリスも既に参戦を決意している。
何で?そりゃ王家がスポンサーになって報酬が3倍増になったからに決まってるじゃないですか。
「1億5千万円「相当)・・・」
セリスの内にも銭の焔が宿る!終始一貫!決してコイツがブレる事は無し!
だがしかしセリスにとっては初の本格的な軍団戦なので霊視さんβとの作戦会議も念入りに行う。
《良い?軍団戦の鉄則は「作戦の外で余計な事を絶対にしない」よ!》
・・・・・・・いや・・・お前、過去の軍団戦の時に仲間に無断で余計な事をして龍種から散々っぱらにボコられて大怪我した事があったよな?
「はい!」
《それから。指揮系統順守!身分問わずに平民の上官の指示にも従う事!》
まあ確かに霊視さんβは身分とか全く気にしてない。
「はい!」
《これが1番大切な事!「敵を前にしたら迷わずイノセントを盾にしなさい!」
例えイノセントが危険になろうとも助けに行く事はしない!》
「ええーーーーーーー?!?!」
一見めちゃくちゃな指示だが実は大変理に適っている指示である。
危機に陥ったイノセントでも戦闘力の無いセリスが助けに入るより自力で窮地を脱する方が成功確率が高いからだ。
助けようとして下手にセリスも一緒になって窮地なれば二次災害で共倒れの可能性が高い。
《後は・・・・・・・・・・・・・・・・うふふふ、内緒!》
「何?!その内緒って?!何するつもりなの?!」
《大丈夫、大丈夫。良い事だから》また何かを企んでんなぁこのエルフは・・・
「何か・・・一気に不安に・・・」
《大丈夫だって。もしゾンビに囲まれて怖かったら目を瞑っててね。一瞬で終わるから。
それにしても・・・う~ん?ゾンビかぁ・・・ゾンビ湧きの原因が知りたいけど嫌な感じね。雰囲気的に死霊使い「ネクロマンサー」が絶対に居ると思うわ》
かつて霊視さんβは「リアル核攻撃」でネクロマンサーとゾンビ軍団を消し飛ばした事があるのだ。
その時は侵略して来たゴルド王国軍20000人以上が魔王バルドルの超広範囲殲滅魔法「影の支配者」により皆殺しにされ戦場が死体で溢れた。
その好機を逃さずにネクロマンサーが乱入してその死体全てがゾンビ化してラーデンブルグ公国に攻め込んで来たのだ。
それに対抗した霊視さんβが風の上位精霊シルフィーナと共に核爆弾を投下してゾンビ諸共ネクロマンサーを消し飛ばしたのだ。
その時出来た「イリスクレーター」は800年かけて地下水や雨水が溜まり「イリス湖」となっている。
その後、大量破壊兵器の使用及び拡散禁止条約に違反した為に三龍王のしばき回された霊視さんβ。
人生最大の地獄絵図になった記憶が残っているので出来ればセリスには参戦して欲しくは無い。
しかしまあ・・・こうして一度に概要を書くと魔王バルドルや霊視さんβってかなりヤベェ奴等だね。少なくとも絶対に平和主義者ではない。
「うぇ・・・ネクロマンサーかぁ・・・」
ネクロマンサーは死者の王ワイトキングと似た印象を受けるが本質が全然違う。
ネクロマンサーは悪意を持って死者を弄ぶ邪悪な魔物。
神族由来のワイトキングとは決して相容れない存在なのだ。と言うかワイトキングの本体はバリバリの神族である。
「お嬢様、これを・・・」フェナが例のフェナ印のお札をたくさんセリスに渡して来る。
「毎日少しずつ聖力を込めました。これは対アンデット戦で切り札になります。護身の為にお嬢様が持って下さい」
「ええ?!でもフェナの分は?」
「私にはこれがありますから」フェナは嬉しそうに美しい白銀の胸当てを見せる。
アンデット化防止の特殊効果が付与された大変高価な品物だ。
旦那さんと旦那さんのご両親がお金を出し合って購入してくれたのだ。
「これが有ればゾンビ如きにもう負ける気がしませんよ!」フェナは白銀の胸当てを見つめる。
「そっか・・・・・・なら!お互いに頑張ろうね!」これ以上セリスも何も言わない。
「幽霊退治屋セリス」の大一番の戦いが迫る!
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「さて・・・」ラーデンブルク公国のエルフの女王の執務室。
セリスとの念話回線を切り椅子に座る女王イリスも一つの大きな決断をしていた。
「セリスに施した緑の大精霊の封印の一部分を開封する」と・・・イリスはセリスの霊樹の封印の一部は解いたが精霊の封印はまだ解いていなかったのだ。
霊樹と精霊って違うのか?と言うと少し違う。
具体的な違いは「霊樹は自分に内包された力しか使えない」が「精霊は世界の自然の力が使える」のだ。
霊樹シルフェリアは誕生した時から精霊の力を合わせ持ったとても稀有な霊樹だったのだ。
イリスのユグドラシルの瞳に薄い緑色の光が灯る。
「うーん?開封すべき精霊の力は身体能力上昇、対魔法防御、対物理防御、耐毒、自己回復、ね・・・その全てを私の加護と同化させて最大効力へ!」
ピッカリーンっと瞳より発生した光が35000km以上も離れたセリスの元へ一瞬で送られる!
「きゃ!?」一瞬セリスの身体が薄い緑色に光り静かに消えた。
ちなみにセリス本人の魔力の色は深緑色でイリスの魔力は薄緑色のオーラを纏っている。
「えっ?えっ?!何?今の?」1人で公爵邸の廊下を歩いていたセリスは驚く。
本人は気が付いていないが今の開封でセリスの防御能力と回復力だけは凄まじい物となっている。
具体的には今の段階で龍のブレスを弾き飛ばし!即死しない限りは欠損部位を自力で再生させられる程度には凄まじいのだ!
だが・・しかし・・・セリスは割と危険無く普通に生きたのでその効力は生涯発揮される事は無くてあんまし意味はなかった。
「これで色々な連中にセリスの存在がバレちゃうけど・・・もう大人だし自分でやれるよね?
頑張れセリス!」遠く離れた親友からの限界ギリギリの贈り物だ。
イリスはセリスの保護者では無く対等な「友」なので大人になったセリスに色々な事を丸投げをする様になる。
「ふふふふ・・・それからこれが本当の切り札・・・」
これからが私の時間とばかりに不気味な笑いを浮かべるイリス・・・イリスの目の前には一見すると質素なエルフの装備品達が並んでいるが?
しかしこれらのブツはマッドサイエンティストエルフが渾身の力を使い魔改造した特級呪物達である。
「よーし!・・・もしもーし?おーい?イノセント君~?」
準備が整い机の上にあるスマホの様な長距離念話機を取るエルフ。
実の所で遠く離れたイリスがセリスと円滑に念話を出来るのはこの念話機のおかげである。
構造的にはまんま電話の様なものなので周囲の雑音が入るのだね。
そして念話機関連の話しでよくよく考えて見ると一度も説明をしていなかったがセリスの髪にはカターニア公爵令嬢のトレードマークと言える金の髪飾りが常に装着されている。
これはカターニア公爵家の昔からの慣習で成人するまでカターニア公爵令嬢が付ける髪飾りでセリスの5人の姉妹達もセリスと同じ物を付けている。
本来なら個人個人でデザインが変わるのだが「おねーさまといっしょがいいー!!」と妹達がギャン泣きしたのでセリスと同じ髪飾りになった。モテるお姉様は辛いね。
実はこれ世界的な総合企業の「イリスブランド」が500年も前から子供向けに作っている誘拐対策用の防犯商品で親への通信念話装置と位置情報特定装置が内蔵されているベストセラー商品なのだ。
緊急時には子供と連絡が取れたり所在地が親に分かる仕様になっている。日本に例えると子供用スマホだね。
セリスが産まれた時に父親のコーバ公爵からイリスブランドへセリス用の髪飾りの制作依頼が来て「よし来た!」これ幸いとばかりにイリスブランドのオーナーのイリスが自ら作成したのだ。
その時にイリスへ直通の専用回線も仕込んでいるのでセリスが受信装置である髪飾りを付けている限りはイリスはセリスと念話のし放題と言う訳だね。
チートエルフのイリスと言えどさすがに自分の魔力だけで35000kmも離れているピアツェンツェア王国に居るセリスに念話は飛ばせないのだね。
ピアツェンツア王城内にも通信用の大規模な中継基地があり、そこのエネルギーを利用してセリスとの念話を行っている。まあ、一応は国王ヤニックにも使用許可を取っている。
「これ軍事用も兼ねているから他国の人間の使用は安全保障上めっちゃ困るんすけど?」
《大丈夫!だーいじょーぶだって!だって私だよ?悪用なんてしないって!》
「うーん?なら・・・その代わりにイリスブランド制作の最新機種をピアツェンツア王国に融通してくれるんすよね?・・・後、念の為に通信履歴の検閲と話しの内容は記録しますからね?」
《うっ・・・最近のヤニックちゃんって何かガメつくなったよね。
検閲は分かったけど女同士の話しとかも有るから検閲官はクルーゼちゃんにしてね》
「他国との交渉が上手くなったと言って下さいよ。ところで何でクルーゼの兄貴?俺はダメなんすか?」
《だってヤニックちゃんってスケベェじゃん?パンツの話しとかしたら興奮しそうで》
「酷え?!俺はそんな事で興奮しません!」
《本当~?》
「・・・・・・・・・・・・・・多分?」
《やっぱり検閲官はクルーゼちゃんで!》
「はい・・・」
こんな感じに今は亡きグリフォン魔王のアイディアを元に長年に渡り世界各地にコツコツと通信中継基地を作って世界の通信網をリードしているエルフなのだ。
そしてそんな念話通信システムの被害者がここに・・・嫌そうに念話機を手に取り・・・
《はああああああ・・・・・・・・・師匠か?何だよ?》
ただでさえ残業中なのに親も同然の師匠から直通念話が来てテンションだだ下がりの冒険者ギルドマスターのイノセント。
最初にこの「イリスちゃんへの直通念話機」をイリスから受け取った時のイノセントの嫌そうな顔と言ったら・・・もう「人間の年齢的で言うと青年期から中年期に突入」したのに親から子供スマホを持たされた様なものだからね。
「今からセリスの装備品を転移魔法でギルドに送るね~。輸入手続きをよろしく!」
《・・・・・・・・・また変なモン仕込んでねえだろうな?ちゃんと安全性の実証試験はしたんだろうな?》マッドサイエンティストな師匠をあんまり信用していない弟子なのである。
「大丈夫、大丈夫」
《師匠の大丈夫って大丈夫だった試しがねえんだよな~》
でも一応、今回はちゃんと装備品の効果の実証試験は行なっているし別付けの安全装置も付けている。しかしセリスのポンコツが如何無く発揮されてイリスの予想とは掛け離れた結果となるのだ。