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湖に佇むパツキン少女と激オコのパツキン少女。その3

湖に佇んでいた男爵令嬢の幽霊エミリアがセリスに取り憑いてから3日目の夕方。

この間のセリスは特に問題無く過ごしていた。

学校が終わったのでイノセントと幽霊エドワード君を捜索中だ。


「お前、本当に大丈夫なのか?」


「う~ん、エミリアちゃんの感情は伝わって来るんだけどね。別にそれだけかな?」


普通、幽霊に取り憑かれると体力低下や悪夢などの様々な霊障が起こるのはこの世界でも一緒なのだがセリスには何故かそれは無い。


ぶっちゃると霊視さんβがセリスに与えた「ハイ・エルフの加護」は「ユグドラシルの瞳」に由来する超絶防御的な加護なのだ。精神的な攻撃は、ほぼ無効化される。

その頼みの霊視さんβだが、まだ公務が忙しいのか念話が繋がらないのだ。ちゃんと仕事して下さい。

霊視さんαも帰って来てないので今回のセリスは自力で何とかしないといけない。


「おーいってエミリアちゃんに話しかけると「魂が抜けた仲間って言ったのにぃ」って泣くのよ」


「あー、確かにあん時のお前は魂抜けてたモンなぁ」


「誰のせいよクソ親父」


イノセント式水上ジェットコースターが恐ろし過ぎて魂が抜けてたセリスを幽霊のエミリアが無感情仲間だと勘違いして取り憑いたのだが・・・

魂が戻って来たセリスは底抜けに明るい性格だったのでエミリアは心を閉ざしてしまったのだった。


「もう・・・エドワード君を探して見るから泣かないで?エミリアちゃん」

霊障は無いが毎夜シクシク頭の中で泣かれるのは少々辛いのだ。


「んで?そのエミリアはなんて言ってんだ?」


「「エドワード君の事お願いします」だって」


「なんだかんだで結構お前に心開いてんじゃね?」


「でも「エドワード君を見つけてくれないと居座ってやるー」だってさ」


「それお前ヤバくね?」


「う~ん?実は最終手段が有るに有るんだよね・・・使いたくないけど」


「なんだ?その最終手段って?」


「この前話したワイトキングさんの話し覚えてる?

実の所でワイトキングさんと連絡する方法あるんだよね。


「マジか・・・ああ、師匠経由か・・・」


「師匠???それでワイトキングさんと話しをしたら『強制的な輪廻転生も出来るが魂が傷付くので可能なら本人納得の上で成仏させて欲しい』だってさ」

霊視さんβをバイパスしてワイトキングと会話が出来る超チートを会得してしまったセリス。


ワイトキングは死者の霊魂に対して底抜けに優しい王様なので強行的な事をしたがらないが忌神になるくらいだったら強行手段もやぶさかで無いそうな。


「だからそうなる前に出来る限りの事はして上げたいんだよね」


「お前優しいな」


「ただの自己満足だよ」


そんな会話をしながら生前のエドワード君の行動範囲を霊視で探知して行く。


「う~ん居ないなぁ・・・ワイトキングさんの話しだとエドワード君の魂はまだ「魂の選定の扉」に来てないそうだけど」


「なんだその「魂の選定の扉」って?」


「分かり易く言うと「死者の国」から現世への扉ね。

死者の魂がこの扉に来て次の転生先の選別を受けて扉をくぐると転生完了だって」


「へえ?お前なんか専門家になって来たな」


「そりゃ仕事なんだから勉強するよ」

だんだんと「幽霊退治屋」が板に付いて来たセリス。実力不足は知識量で補うのだ。


その日は門限の時間が来てイノセントと別れて帰宅する。

これを破ると外出禁止になるので無理は厳禁である。


「ただいま!ウォーレン!!」「あーうー」「可愛い可愛い!良い子良い子!テリアとテレスもただいま!」「帰りなさいお嬢様」「おかーりー」


もうすぐ誕生から3ヶ月経つフェナの息子のウォーレン君も少し大きくなって大分感情が顔に出て来た。セリスが「ただいま」をすると嬉しそうに反応してくれるのが可愛い。

ミミリーの娘のテリアとテレスもいつの間にかだいぶ大きくなって来た。

姉のテリアは5歳とは思えない程にしっかりしている。


ちなみにフェナ母子とミミリー母子の部屋はセリスの部屋の中を強引に間仕切りをして作った。それでもセリスの私室は30畳以上有るのだが。


フェナ夫婦は結婚を機に一応は王都の住宅地にちゃんと家を建てたのだが旦那さんのクロードも含めて全然使っていない。ハッキリ言って無駄である。


そして3人目の子供の臨月が近くお腹パンパンの侍女のミミリーも子供達と一緒にセリスの部屋に住んでいる。

旦那さんは8代続く由緒正しき正真正銘の男爵閣下なので公爵邸近郊に立派な屋敷を構えているのだが屋敷の方は弟さんに任せて自分はカターニア公爵邸の執務室に住んでいる。

旦那さん曰く「通勤がめっちゃ楽で今更通勤に30分かかる屋敷に戻れないね」との事。そりゃそうだ。


こんな感じに今のカターニア公爵邸内は出産ラッシュなのだ。

そしてこれが暫くの間続いてカターニア公爵家はガキンチョ旋風が吹き荒れるのだ。

ゆくゆくこの子供達はウォーレンを筆頭にしたカターニア魔法兵団の中核になるのだが、それはまだまだ未来の話しである。


同室にしたのは新米ママのフェナと身重のミミリーに何かあった時にお互いに助け合える様にとのセリスの配慮からこうなった。

フェナの旦那さんクロードは公爵邸の執事でミミリーの旦那さんはカターニア公爵領の税政執政官で同じ公爵邸の建物内で働いているので母子に何があったら10分ほどで駆けつけて来る事が可能だ。

・・・・・・・ミミリー旦那は分かるがマジでフェナ達は何で王都に家を建てたん?


「きゃっきゃっ」「だーあーうー」「あーうー?」

テレスとウォーレンは何かフィーリングが合うのかずっとお喋りをしている。

「可愛いねー」赤ちゃん2人のお喋りにセリスもデレデレである。


こんな感じでセリスの部屋はお偉いさん達の息抜き場兼、3人の子育て場となっている。


この頃のウォーレンは天使なのだが将来的にとんでもないクソガキに成長する。

あの豪快豪胆奔放な英雄王を持ってして「誰かアイツを何とかして下さい。つーかフェナおばさんはアイツにどんな教育してんすか?」と言わしめる。

しかしまぁ、男の子は元気が1番である。


さて、話しをエドワード君の捜索に戻して、やっぱり広い王都を2人での捜索では無理があると分かった。

あまりにも手がかりが少ないのでセリスはローラー作戦に切り替える。


その事をイノセントに伝えると「何だ?ろーらーって?」と、当然ながら「ローラー」の言葉の意味が伝わらなかった。


「沢山の人を使って怪しい所を順番にしらみ潰しに捜索するって事よ。手間はかかるけど確実よ」


「ほー?それは面白い発想だな。考えた事も無かったぜ」


「ええ?!」


この世界の人間にこの手の発想は無い?!と思ったら単にイノセントの性格なだけだった。

「ローラー作戦なんざどこでも普通にやるだろ?」「ですよね?!」とのジャック談話です。


「エドワード君を見つけた人には金貨10枚(おおよそ100万円)差し上げます!」


「「「うおおおお?!?!」」めっちゃやる気の冒険者達が我先にエドワード君を探し始める。

誤解が有ると思うがセリスは超倹約家ではあるがケチではない。

必要だと思う所にはガンガン金をかけるし人にもガンガン金を落とすタイプなのだ。

むしろ金を落とす為に無駄な所に金を使うのを極端に嫌うのだ。


このローラ作戦が大当たりして開始から3日目には民家の家の屋根の上に体育座りで虚ろな目で街を眺めている幽霊エドワード君を見つけた。


「いた!うわ?!暗っ?!って明るい幽霊が居る訳ないか・・・」

いや今までも結構明るい性格の幽霊もいた気がするが・・・例えば覗き魔の死霊とか。


「ほらエミリアちゃん!エドワード君が居ましたよ」


《あんな暗い男、エドワードじゃないです》プイッとソッポを向くエミリア。


「いや、エドワード君だってば!間違いなく!

ほらほらエドワード君!エミリアちゃんだよ!ヨシヨシして上げなさい!」


《・・・僕のエミリアはもっと明るかった》プイッとソッポを向くエドワード君。


「うわ?!2人共めんどくさっ?!幽霊なんだから多少暗くもなるでしょう?」


《私のエドワードはもっと明るかった》


《僕のエミリアはもっと明るかった》


陰鬱な魔力がエミリアとエドワードを覆う。


「あれ?なんかヤバい?」


《セリス?この2人は忌神になりつつあるから説得は無理かもよ?》

ようやく仕事が終わった霊視さんβが合流する。お仕事お疲れ様でした。


更に2人の雰囲気が鬱に入り忌神化が始まって少し焦った様子の霊視さんβにそう言われて「はー」と溜め息を吐くセリス。


「そう・・・なら・・・仕方ないわ。あんた達を物理的に滅ぼすしかないわね・・・お覚悟は宜しくて?」

煮え切らない2人にムカついて来たセリスの目がギラリと物理的に緑色に光った?!


大霊樹の魔力が漏れ出た様子だ。

霊樹シルフェリア時代のセリスは結構力押しをするタイプだったのだ。

今はその力押し気質が更に悪化しているが。


《えっ?》


《えっ?》


突然雰囲気がガラリと変わったセリスに困惑する2人の幽霊。


《おお?!最近鳴りを潜めていた自走セリスが戻って来た?!》


「何よ自走って?今は関係無いでしょ?」


《まっ・・・まさか貴女様が金髪の怪物、自走セリス?!》


《自走セリスって、ひゃ・・・100mを8秒台で走ると言われる人外の・・・》


「誰が怪物に人外だぁああああ!!!おらぁあああああ!!!

そもそも金髪の怪物って・・・エミリアちゃんも私と同じハニーブロンドのパツキンなのになんて良い草だぁあああ!!

エドワード君!盛り過ぎだっての!さすがに8秒台じゃ走れんわ!最高記録は10,25秒じゃあああ!!」

エミリアとエドワードに怪物扱いに人外扱いされてブチ切れたセリス。

でも14歳女子で100mを10,25秒で走れるのは充分にヤバい奴だと思います。


《10,25秒?!ひぃいいいいい??お許しをーーー?!》


《え?セリスってまだ10秒台なの?私は「7,65秒」よ?少し練習しないと》

お前は出て来るな!人外金メダリストエルフ!つーか、エルフを基準にするな!


余談になるが100m走で7,65秒はハイエルフの中では「平均よりやや遅い」です。


意外な事にハイエルフで1番足が速いのは一見鈍臭さそうなルナで、獲物を追いながら障害物が多い森の中で弓を構えながらでもトップスピードに乗れば100mを「5,8秒」で走り、そのスピードを2km以上キープするこの事が出来ます。正しく人外である。

正確にトラックで測定をした事は無いが間違いなく5秒の壁は破って来ます。


速度に換算すると時速70~80kmくらいかな?平均的な競走馬より若干早いですね。

ルナ曰く、「狙った鹿より遅かったり持久力が無かったらダメでしょ?」との事。

世界一の狩人の異名は伊達じゃないね。


ちなみに霊視さんβの師匠のクレアは魔法専門で身体的能力は小柄な見た目通りに鈍臭いので100m走10秒の壁は破れていません。そして弓の腕前も下手っぴです。


《なななななな7,65秒ーーーーー?!》《いやぁあああああ?!》

そしてなぜか100m走の記録にビビり倒すエミリアとエドワード。

しかし足が速い=怖いって判断基準がおかしくね?もっとこう・・・漂う強者のオーラとか?攻撃魔法の腕前とか?それとも残忍な性格とか?他に・・・・・・・・まあ別に良いのか?


「7,65秒で遅いって・・・・・まぁ良いわ・・

あのね?私って一応、死者の王ワイトキングと知り合いなのね?

そのワイトキングがあんた達が忌神になるくらいなら滅ぼすってさ。

でも私が一応説得して見るってお願いして滅ぼすのを待って貰ってるのよねー」

セリスも霊視さんβの100走の記録と言うかエルフの足の速さにめっちゃ驚いたが話しが進まんのでスルーした。


《えっ?ワイトキング?》


《えっ?滅ぼす?》


いきなり核心を突いて来るセリス。

門限が近いので悠長な事をしている暇は無いのだ。

残り時間、45分でございます。


「あのね?滅びる時って、もっの凄ーーーく痛いらしいよ?大変だねー。

それから口で言い表わせない精神的な苦痛が・・・・」


《精神的な苦痛って・・・ぐ・・・具体的にどの様な?》


「そうねぇ・・・例えば日勤、夜勤、日勤の3連勤の通しになって家に帰る暇もなく漫喫にすら行く時間すらなく仕方ないから牛丼一杯で牛丼屋のカウンターで仮眠を取っている時の心境かな?」


《?!?!?!なっ?!》


《なんて恐ろしい!!労働基準法とは?!》


《あー・・・それ私もパスだわー。・・・・そしてやけに具体的ね?》


「それとも、朝職場に行ったら会社の入り口のシャッターが閉まっていて『株式会社○○○○は本日0:00をもって○○○○銀行の債務下に入りました。裁判所の許可なく建物内に入るのを禁じます』なんて張り紙がしててね?

どう言う理屈か知らないけど個人の私物も裁判所に差押えられているのよ?

しかも!コッチは他社からの短期出向で株式会社○○○○の社員じゃないのによ?酷いよねー。

その時に買って1年も経ってないノートPCを意味不明に失った時の心境かな?」


《なんて酷い?!理不尽な!》


《そもそも潰れるなら潰れるで前日の退勤前に教えろ!って感じですね!》


《確かにエグい例えだけど何でそんなに具体的なの?》


「こんな感じに誰に文句を言えば分からない精神的な苦痛が一年近くも続くのよ?辛くない?あー、それでも言う事聞いてくれないならワイトキング呼んじゃうね!

そうそう忌神になると輪廻転生も出来ないらしいよ?大変だねー」


《ちょ待っ》


《ちょ待っ》


一応言っておくと全てセリスのでっち上げでワイトキングの強制執行は一瞬で苦痛は伴いません。

しかし魂に傷が入るので記憶などが無くなる可能性が高いです。


「あーあー・・・私のお話しを素直に聞けば超お得だったのになー。あー残念、ほんと残念」

タイムリミットが近くて割と本気でムカついて来ているのかセリスの魔力が膨れ上がる!


《?!?!?!》霊視さんβがめっちゃ驚いているのが分かる。

バチバチバチ!!と緑色の魔力がスパーク現象を起こして碧眼だったセリスの目がエメラルド色に光り始める!それに伴い金色の髪も深緑色に変色してしまった?!

顔は違うが1000年の時を経て大霊樹シルフェリアの復活である!


《うわ!怒ってる!貴方達?素直に言う事聞いた方が良いよ?》

しかしシルフェリアが復活して何か嬉しそうな霊視さんβ。


《聞きます!是非是非セリス様のお話しをお聞きしたいですわ!》

セリスが放つ精霊王クラスの大質量の魔力にビビり倒すエミリア。


《俺も俺も!なぁエミリア!》


《ええ!そうねエドワード!》


《あれ?エミリア?》


《あら?エドワード?》


《《会いたかったーーーー!!》》

ヒシッと抱き合う2人、ようやくお互いがお互いに認識出来た様子だ。

2人の陰気な気配が小さくなって行き陽気な気配に変わって行く。

どうやらギリギリ忌神化は回避出来た様子だね。


「ふふふ・・・・・・・どう?!私の説得は?」

あっという間に金髪碧眼のいつものセリスに戻る。どうやら「アレ」は擬似的な変身だった様子だ。


《いや・・・アレは説得と言うより脅迫・・・・》


「いいのいいの」セリス的には脅迫だろうと結果が良ければ説得成功なのだ。


《じゃあ・・・歌います》

釈然とはしないが霊界行く者を送るのもハイエルフの役目なのでエミリアちゃんとエドワード君をハイエルフの歌を歌ってサクッと霊界のワイトキングの元へ送る霊視さんβ。


こうして「湖に佇む少女の幽霊」の依頼は激オコのパツキン少女の力技で解決したのだった。

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